どうやら外はクリスマス直前らしい。
十二月の寒空に、ハハキはノーパン袴デカチチサラシの服装で行ったらしい。馬鹿なんじゃねえの。
クリスマス前の町並みというのに、俺は『いきり立ってる』という表現を使いたくなってしまう性格のようだ。
実際、いきり立ってる。まだまだ本番は先だというのに『ヤレる!』という鼻息が抑えきれていない、そういう印象だ。イルミネーションの準備、まだまだ気の早すぎるサンタクロースの人形、緑と赤と白でなんかキラキラしたお菓子。おせちの予約受付中! のポスターが視界に混じってきて、なんとも言えない混沌を感じる。
「先輩、ひねくれてるッスよ」
というあたりを面白おかしく語ってやれば、クリスマスイブに結婚を控えているという最高に頭のおめでたいスケジュールを抱えた後輩が指摘してきた。
でもお前に言われたくねえんだよな。俺の組だと俺が一番まともじゃん。
ちなみにこの後輩は『イチ』という名前であり、後輩は後輩でも悪の組織の後輩にあたる。
こいつがクリスマスイブに結婚を控えているおめでたいやつだというのもロールプレイで、その夫役が俺だ。甘すぎて吐いたゲロが砂糖味になりそうだ。
どうにも俺は、ロマンチックが嫌いらしい。
「イチ、言いたいことは色々あるんだが、一つだけにしとくな」
「なんスか?」
「シュトーレンは張り込み中の刑事よろしく牛乳で流し込むタイプのパンじゃねえんだよ。とんでもない量の砂糖とドライフルーツ入れたモンをバターでコーティングしたカロリーの爆弾なんだ。食べる効果音が『バクバク』なのはおかしい」
「でも戦闘員になってから全然太らないんスよ。好きなもんたくさん食べるチャンスじゃないッスか」
「いくら好きでも袋に一抱えはないだろ……」
ここで『戦闘員になってからってことは、お前には戦闘員になる前の記憶があるってことか?』という野暮なことは聞かない。
野暮っていうか、こいつ、めちゃくちゃ聞いて欲しそうにそういう感じの情報をチラチラさせてくるからな。
聞いたらなんか身の上話とかされそうでダルいんで、聞かない。
さて浮かれ切ったクリスマス十日前の街の中で俺たちがしているのは、シュトーレン爆食い大会ではなく、見張りであり張り込みだ。
俺の確度の低い作戦は見事に功を奏し、魔法少女のうち一人の居所を発見することに成功した。
物体の存在希薄化が役立った形だ。確か足首あたりに貼り付けたと思ったが、まだ本人の体についているらしい。
風呂とか入った時に流されるかなーと懸念していたが、まあ、ハハキのバイブスクワットから分析するに、『ある』ことはどこかでわかっているから、どけるなり、触らないようにするなり、あるいは穴に入れる道具なら穴に入れるなり、無意識の調整があるんだろう。
もしくは俺がどういう意図でその物体を置いたかが無意識に解釈され、尊重される、か?
もう少しハハキで遊んで確かめてみよう。
俺はやたらと後輩口調の後輩と、路地裏で壁ドン状態で内緒話をしながら、魔法少女のあとを追っている。
今日は日曜日ということもあって楽し気にお友達とお買い物をしている彼女が、俺の部下のイレブンと…………えー…………もう一人を殺した魔法少女一味の一人だ。
俺らがこのあいだ襲われたのは赤・青・黄色の信号機トリオの魔法少女だ。
魔法少女というのは各区画に点在している。その数は多い。『幹部よりちょっと弱い少女』が、多くいるんだ。やってられねえよマジで。
とはいえやっぱり、龍脈から離れた場所にはそんなにいないようで、龍脈が選んでる説が濃厚になってきた──これは、ボスに『どうスか』と聞いて教えてもらった情報だ。
利用できるものはケツの穴でも利用するので、ボスとのコネなんかめちゃくちゃ利用するに決まってる。
まあ教えられないことも多そうだが。
そういうわけでこのへんの区画にいる三人のうち一人、青色の魔法少女があの子、というわけだ。
近所の学園に通う一般生徒で、家族構成は両親、妹、それから犬が二匹。
住宅街にある一軒家に住んでいて、周囲からの評判は上々。
学生の間でも人気のある子らしく、特に女子からは『お姉さま♡』みたいな感じで慕われている。
男からしたら高嶺の花ってタイプだなありゃ。
魔法少女の時は青系の、氷関係の能力を使う薙刀使いだ。
武器が渋いんだが、どうにも家の方針で武術をやっているらしい。それにしても薙刀術は渋いが。
髪は長く、スレンダーで、背が高い。
同級生に囲まれていると一個か二個上の学年に見える。腰の位置が高くて脚が長くて全体的にすらりとしているせいだろう。パンツスーツでも着せたら社会人に見えるんじゃねえかな。さすがにあどけなさがあるか。
生徒会に入っているようで、役職は書記。
というのも学年がまだ最高学年じゃないからで、来年には生徒会長になるだろうとみんなに言われているらしい……
というのが三日かからず集まってきた情報なんだ。
イチの情報収集能力、怖いんだよ。忍者か?
イチの情報収集能力の八割は、その明るさと親しみやすく、どこか気を許してしまいそうなしゃべり方にある。
本人も、『子供』とまではいかないがチビだし、どこか小型犬を思わせる雰囲気があるので、こいつに話しかけられるとついつい笑顔でなんでもしゃべってしまうという、恐ろしい女だ。
俺は絶対に気を許さないようにしようと誓った。
「で、どうするんスか? そろそろ家族をさらいます?」
「やめろよお前、これから家族をさらわれる人に聞かれたらどうすんだ。かわいそうだろ」
「なんで先輩が実行犯なのに相手を憐れむようなこと言うんスか」
「俺は悪いことは『悪いことをするなあ……』と思いながらする方だ。善悪の区別がつかないサイコと一緒にしないでくれ。被害者には同情もするし、行為そのものには嫌悪感も抱くぞ」
「悪いと思いつつやる方がヤバく聞こえるッスけど……」
「あと家族はさらわない。警察沙汰になるから」
「さらうって言ってなかったッスか!?」
「『人質にする』とは言った。あと状況に合わせて計画は変更するもんだ。臨機応変って言葉を知らないのかよ。勝手に山登って軍師に首斬られた偉大な軍略家とセットで覚えておけ」
「ダメそうじゃないッスか!」
「いやあと、忘れてたけど本当に警察は怖いんだよ。思い出したから遵法で魔法少女犯す計画にした」
「警察なんか怖くないッスよ」
俺たちに近代兵器は効かない。
あと『弱い』と扱われてる戦闘員でも、鍛えた警察官より強かったりする。身体能力だけで、だ。
まあそうじゃなかったら魔法少女なんて出張る前に警察とか自衛隊が俺たちに対応するよな、という話で。
近代兵器が効かないのは『なんか効かない』以上の分析ができない。弾くとか避けるとかじゃなくて、なんか効かないんだよな。感覚的には『俺たちの周囲には俺たちも知らない分厚い空間があって、近代兵器だとそこを抜けられない』みたいな感じだ。
なのでまあ戦闘能力で言えば警察が怖くないのは本当。
たぶんどっかの国の軍が出張ってきても戦えるとは思う。とはいえナイフとかは効くので(これも基準がわからない)、軍を敵に回したらヤバそうではある。
ただ警察に目をつけられると面倒くさい。
イチは乱暴でサイコで他者が凌辱されている姿を見て元気になる変態女だから、たぶん警察に目をつけられてもこっちに来る警察全員殺せばいいじゃんとか思ってるのかもしれないが……
「地上で活動することは今後もある。そういう時に指名手配されるとやりにくいんだよ」
「じゃあどうするんスか?」
「普通におうちにお邪魔して、一緒に生活して、打ち解けるつもりだ」
「笑うところッスか?」
「なんだ、俺が『泣くところだ』って言ったらすぐに泣けるのか?」
「その返しが先輩って感じッス」
「ありがとう。……いや、わかれよ。能力を使うんだよ。能力を使って、家の中で調教する。いつものやつだ。ただし……」
俺の『淫行』には、肉体だけではなく、感情・想いの方を操作するスキルも増えて来た。
エリザ、ハハキと二人の女を堕とした時に、たぶんこの二人の心ごと堕としたんだろう。観測できないから知らんけど、そういう経験が反映された形だ。
「……家族からの好感度を上げて、家族の思考を誘導して、トマリちゃんの居場所を家から奪う。そんでもって、救いの手を差し伸べる。で、抱く」
「………………」
「家にいられなくなった女子学生をたらしこむのなんざチョロいんだよ。特にああいう育ちの良さそうなガキならなおさらだ」
「発言が『悪』ッスね」
「何言ってんだ。侵略者の尖兵が悪じゃないわけないだろ」
「ッス」
「どういう相槌? ……まあとにかく。通常なら、あの感じの女の子が『家庭内で居場所をなくす』ってのはありえないんだが、俺のスキルありきならそういうことができる」
「最初にどうやって接触するんスか?」
「そこでお前に仕事だ。トマリちゃんの両親と妹の行動パターンを調べろ。三日でやれ」
「先輩は何するんスか?」
「身分を作る」
「ッス?」
「それだけで会話できると思うなよ。……あのな、無職の男がいきなり家に転がり込めるわけねーだろ。弁護士か、教師か、医者か、そのあたりの身分を作るんだよ」
「知らない人の家に転がり込む弁護士とかありえるんスか?」
「それは弁護士以外でもありえない。だから社会的信用度の高い立場を偽造して、あとは説得と能力と演出だ。……そういうの得意そうな気がするんだよな、俺」
「あー」
「納得されるのも不服だな……とにかくこっちはこっちでやるから、お前は働け。シュトーレン代ぐらいは仕事しろ。それめちゃくちゃな値段だからな。一つ三千円ぐらいするのを袋いっぱいで、いち財産だぞ」
「え、もしかして先輩のポケットマネーッスか?」
「当たり前だろ。経費で落とせるかそんなん。そもそもあの組織に経費なんつう概念あんのか? 潜入工作とかしなさそうだぞうちの会社」
「ッス」
「だからそれだけで会話を済まそうとするんじゃねえよ」
まあとはいえ、幹部給料がはちゃめちゃな金額で、さすがに俺も『あの、桁をお間違えじゃありませんか』と問いかけてしまったぐらいではある。
どうやって金を生んでるのかまったくわからん。たぶん俺たちは土地ころがし会社の出版部門的なヤツなんだろうなーみたいな気はする。
まあ『教団』としては俺たちの活動の方が本道なのかもしれんけど。
ともあれ、活動開始だ。
魔法少女の前に、まずは家族を堕とそう。