※この作品はR-18です。

悪の組織の戦闘員、スキルに目覚めて成り上がる   作:稲荷竜

17 / 58
氷見室トマリ(魔法少女)一人称


第17話 氷見室トマリ 3

 気付けば試用期間の一週間が迫っていた。

 それは同時に、クリスマスが迫っている、ということでもある。

 

 私の家では、私が小さいころからずっと、クリスマスイブには家族でパーティーをしている。

 今回もそのつもりで、ケーキや料理を予約していた。……プレゼントも、予約した。

 

 家族だけのパーティー。

 ……妹とは口も利いてもらえない時間が続いている。

 でも、パーティーの中でなら、打ち解けるまではいかなくっても、何か、少しだけ、関係を戻せるかもしれない。

 

 ……そう思っていたのに。

 

「……家族のパーティーに、セント先生も呼ぶの?」

 

 父が宣言し、母が手を叩いて嬉しそうにし、妹がなぜか、勝ち誇った目でこちらを見ていた。

 ……たぶん妹が父にそういうお願いをして、受け入れられたんだと思う。うちはだいたい、そういう流れで、突飛なことが決まるから。

 

 だから、私は、疑ってしまった。

 

『もしかして──

 

 ──妹が、セント先生に、何か、するんじゃないか』

 

 妹はまだ幼い。

 そんな子が、セント先生と、たとえば……『私たち、恋人同士なんです』とか、クリスマス会の場で宣言でもしたら、セント先生の人生が終わってしまう。

 両親も今はセント先生のことを気に入っているようだけれど、さすがに、妹がそんなことを言い始めたら、セント先生になんの罪もなくても、家庭教師をやめてもらわなきゃいけなくなる……

 

 私は……一週間がもうすぐ経とうとしている今、セント先生には、もっと、家庭教師を続けて欲しいと思うようになっていた。

 

 最近の私は自分の心の汚さ、人を信用できない弱さに思い悩んでばっかりで、ずっと悩んでいた……

 夜も眠れないぐらい、この先どうなるかが不安で、たまらなくて……

 もっと早くヒナタちゃんに相談できていればよかったのに、時間が経つにつれて、『こんな、自分の心の弱さと、醜さのせいで抱いている悩みで、ヒナタちゃんをわずらせて、嫌われたらどうしよう』という気持ちが大きくなってしまって、何も言えなくなるばっかりで……

 

 でも、セント先生との授業が終わると、悩みが頭から消えて、心が軽くなって、体まで、ぽかぽかしてくるような、気がする。

 

 今の私は、セント先生がいないと息苦しくてたまらない……

 

 その先生がいなくなってしまうかもしれない。

 しばらく妹と口を利いてはいなかったけれど、妹は、私が通りがかると、聞えよがしに、母に『セント先生とこんなことをしたんだ』と報告していた……

 その行動は私へのあてつけ、私に見せつけてるみたいで、なんだか苦しくって、それから……危うかった。

 

 あの子は、あの子がセント先生と『仲良くする』ことで、セント先生がどういう立場に追い込まれるかさえわかっていない、子供だ。

 ……私なら、そんなふうに、セント先生の立場を危うくしてまで、アピールするなんていうことは、しない。

 

 だから、クリスマスイブという特別な日に、家族のパーティーにセント先生を呼んだ妹が、何をするのか、怖かった。きっと、何かをやらかしてしまう……そういう予感がして、たまらなかった。

 ……だから、

 

「それは、やめた方が、いいんじゃないかな」

 

 私は反対した。

 

「そ、そもそも、家族だけのパーティーをやってきたわけだし……」

 

 ……その家族の視線がどんどん冷たくなっていくから、私はとっさに、言い訳めいたことを絞り出していた。

 

 たぶん、やってしまったんだと思う。

 

 セント先生はみんなに好かれていた。

 たった一週間で、家族のパーティーに呼ばれるぐらい──と言葉にしてしまうと異常だけれど。でも、それもわかるぐらい、優しくて、良い人なのが、伝わってくる。そういう人だった。

 

 父は一発でそれを見抜いたのかもしれない。

 私は心が汚くて、人を信じる強さがなくて、ずいぶん疑ってしまったけれど……

 

「トマリ」

 

 父の声は優しかった。

 でも、目が、怒っていた。

 

「いいじゃないか。あんな、立派な若者が、職にあぶれて、さまよっていたんだ。きっと、何か、つらい目に遭ったに違いない。……別に、毎年呼ぼうということじゃあ、ないんだ。今年だけさ。今年だけ、彼に寄り添ってあげようと、そう思う。……それは、受け入れられないことかい?」

 

 私は答えられなかった。

 妹が、口を開く。

 

「お姉ちゃんは、セント先生があたしにとられるのが嫌なんでしょ!」

「そ、そういう話じゃ……」

「あたしが誘ったんだもん。あたしの招待を受けたんだもん。それが嫌なんでしょ!」

「……え、もう、誘ったの? お返事は……」

「そ、それは、まだだけど……でも、きっと来てくれる! あたしとセント先生はね、両想いだから!」

 

 そんなわけは、ない。

 ……妹はかわいい子だ。それに、まだまだ、子供だ。

 だからセント先生も話を合わせてくれていたんだと思う。……あの人は優しいから。

 

 だから妹が勘違いしてしまった……

 

 やっぱり、勘違いした妹が、大変なことを、宣言した。

 母が、妹に呼びかける。その声は、少し、冷たい。

 

「冗談でも、そんなことを言うものじゃありませんよ。今の御時世ね、あなたみたいな子供と、セント先生みたいな人が、『両想い』だなんて。外で聞かれたら、セント先生の人生が終わってしまいます。あの人は、教師なんですよ」

「でも両想いなんだもん!」

「そもそも、あなたみたいな子供に、あの人は釣り合いません。もっと年上の良い人じゃないと」

 

 その言い方で、妹は、母から『お前より、トマリの方がセント先生に似合う』と言われていると解釈したみたいだった。

 すごい目つきで、にらまれる。

 

 ……でも、たぶん、違う。母だ。母が、『自分みたいな者にこそ、似合う』と言っている。そういう顔だと、すぐにわかった。

 

 ……わかってしまった。

 

 だって、セント先生について語ってる時、私もきっと、ああいう顔をしてるから。

 

 ……家族が、ばらばらになりかけてる。

 

 どうしたらいいんだろう。

 ヒナタちゃん……ホノカちゃん……

 だめだ。こういう話は、あの二人には、できない……あの二人を巻き込むべき問題じゃない。

 

 でも、私一人じゃ抱えきれない。

 私は背が高いせいか、見た目がちょっと……老けてるせいか、同級生たちに、年上みたいに頼られる。

 でも、私は、そういうのに向いてない……

 

 頼られると期待に応えなきゃいけないと思ってしまうけど、いつも、いっぱいいっぱいで……

 

 誰かに相談したい気持ちで、いっぱいだった。

 

 ……最初に私に手を差し伸べてくれたのは、ヒナタちゃんだった。

 私が頼れる相手は、ヒナタちゃんしか思い浮かばない。

 

 でも、今は……

 

 ……今、頼るべき人なのかどうか、自信がない、けど……

 

「あの、と、とにかく、私は……やめた方が、いい、と思う……ちょ、ちょっと出る、ね」

 

 不自然すぎる言葉を残して、急いで家を出た。

 

 そして、すぐにメッセージを……送りかけて、通話にした。

 人と通話するのは苦手だった。でも、今は、メッセージにしたら、返事が来るまでに、不安で息が詰まって死んでしまうような気がしたから……

 

 目的の相手は、すぐに出てくれた。

 

「もしもし、トマリさん?」

「ああ──セント先生……!」

 

 私は、セント先生にすぐに会えないかと聞いた。

 自分でも驚くほどの行動力だった。

 

 ……わかっていたのかもしれない。

 

 見知らぬ父がスリに財布をとられた時に、助けたように。

 きっと、あの人は、困っている誰かを放っておけない、優しい人だ。

 

 ……だから心の汚い私は、そこにつけこんだ。

 

 セント先生は、

 

「わかった。会おう。ええと……ああ、この時間だと外で会える場所はないか……その……僕の家になってしまうんだけど、いいかな……?」

 

 私はもちろん、『大丈夫』と返事をした。

 すぐにでも会いたかったから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。