私は、セント先生と恋人同士になったことを、家族に打ち明けた。
……もちろん、隣にはセントさんを連れて。
だから、妹も、母も、もちろん父も、セントさんとは恋人になれない。
私が……恋人、だから。
これで納得してくれるはずだった。
妹の間違いも正されて、私たちは、祝福される……
はず、だったのに。
「そんなわけないでしょ!!!」
妹が金切り声で叫ぶ。
母も、すごい形相で私をにらみつけて、何か、聞き取れないほどの早口で……たぶん、とても酷い言葉を投げつけて来た、気がする。
そんな中で、唯一冷静な父が──
「まだ学生の娘に手を出すだなんて、どうかしている。それに、トマリ、お前もだ。どうせ、お前がセントさんを誘って、既成事実を作ったんだろう? 昔からお前には、少し、ずるいところがあるからな」
──表面上は冷静に見えた父さえ、私を責めた。
………………どうして?
妹が『両想いだ』って言ったら、みんな、優しく笑ってたでしょ?
どうして、私はだめなの?
私だから、だめなの?
いつも、私がもらうものは、妹に譲ってきたでしょ。
妹は、私だけが何かをもらうのをいつも嫌って、自分も自分もってせがんできたじゃない。
それで私は、『お姉ちゃんなんだから』って、与えてきたでしょ。
なんで、私だけ認められないの?
……もしかして、みんな、私のこと、すごく強くて、なんでも分け与えられる人だとか、思ってるの?
あなたたちも、クラスのみんなも。
私に頼って、私から奪って……
私の気持ちを考えてくれる人は、いないの?
「トマリさん、少し、冷静になってくれるまで、時間をとった方が……」
「冷静になる!?」妹が叫んだ。「冷静になるのはお姉ちゃんの方でしょ! あたしが好きって言ったじゃん! なんでそれが、お姉ちゃんのものになってるの!? おかしいでしょ!?」
聞こえない。
妹の言葉がうまく聞こえない。母の言葉も、もっと、聞こえない。
何か私を責めてるのはわかる。でも、言語として認識できない。
「トマリさん、少し出た方が良さそうだ」
セントさんが手をとって連れ出してくれる。
妹が立ちふさがった。
セントさんが軽く妹の肩に手を添えて、優しくどかした。
妹は信じられないものを見る目をセントさんに向けて、固まった。
……家を、出て行く。
「きっと、少し経てば、冷静になってくれるよ」
……そうは思えなかった。
だって、私は……
クリスマスパーティーで、妹と仲直りをする予定だった。
その機会はもう二度とないことを、私はなんだか、確信してしまっていた。
◆
「貧乏だから、ささやかでごめんね」
セントさんの家に転がり込んだ私は、身の回りのものを揃えるのと一緒に、ケーキを買ってもらっていた。
制服のまま移動したから、財布もスマホもある。
でも、他のものは……もう二度と、取りに戻れないような気がする。
あの家はもう、私を受け入れてくれない。……私を許してくれない。そういう、確信があった。
「……」
コンビニのケーキには、かわいいクリスマスの装飾がしてあった。
二つ入りの小さなショートケーキ。
私は……
「……家でね、六号の、大きなホールケーキを、予約していたんです」
「……ごめんね、トマリ」
「いえ。……妹が甘い物が好きで、たくさん食べるから……私はいつも、余った部分を、少し、食べるだけでした。……いいお店のケーキで、美味しい、ケーキで……」
「……」
「……でも、なんだか、このケーキのほうが、ずっと、ずっと、美味しそうに見えるんです」
悲しみはあったし、つらい気持ちもあった。
でも、この先の人生が、家にいたころよりも、明るくなったような……そういう、気がした。
「あの、私、まだ学生で、えっと、学校も……続けられるか、わからないんですけど。そ、それでも、一生懸命に、やります、から、あの、だから……セントさんと、この先もずっと、一緒にいても、いい、ですか?」
セントさんは、笑った。
……なんで、だろう。その笑顔は……
少しだけ、悲しそうな、ものに、見えた。
「……ああ。一緒にいよう。この先も、ずっと」
でも、抱き寄せてくれた。
……いろいろあって、日付が変わる時間になったみたい。
どこかから聞こえてくるテレビの音で、それがわかった。
クリスマスイブの、始まった夜……
私たちは、ちゃぶ台に小さなケーキを乗せて、畳の上でキスをした。
人生で一番幸せなクリスマスイブが、始まった気がした。