大事な人を守りたかった。
でも、大事な人は、ずいぶん、減ってしまった。
頼られると、応えなきゃいけないと思ってしまう。
だから、魔法少女を引き受けた。龍に頼られたから、咄嗟に、応えてしまった。
つらい時もあった。たくさん、あった。
でも、ヒナタちゃんと、ホノカちゃんに、いっぱいの勇気と元気をもらった。
……セントさんが来て、全部、変わってしまった。
でも、セントさんだけは、私に頼らなかった。私に押し付けなかった。
私は背が高くて、いつも、同世代と同じ年齢には見られなかった。いつでも、年上みたいに扱われて、我慢をさせられてきた。
妹の前でも、もちろん、そう。
お姉ちゃんなんだから──その言葉で、いったいいくつを奪われたんだろう。
よくある、姉妹関係。
きっと、多くの人は、こういうことに耐えていける強さがあるんだと思う。
不満とかがあっても、なんとなく乗り越えて、あとから思い出話にできる強さが。
……私にはなかった。
私はきっと、普通に生きていくのに、向いてなかったんだと思う。
セントさんのところで生きていけるって思ったら、心が、軽くなって……
力が、あふれる。
……ヒナタちゃんと、同じだ。
私は、仲間のピンチとか、この世界のピンチとか……誰かのためには、覚醒できない。
私はすべてのしがらみがなくなって、軽くなったら、覚醒できる。
自分のために、覚醒できる。
「ヒナタちゃん。一緒に行こうよ」
「トマリちゃん! 目を覚ましてよ!」
「……覚めたんだよ、今。……ねえ、どうして、私たちは戦うのかな。どうして、私たちは、世界の守護なんて、任されたのかな。……ヒナタちゃん、言ってたよね。龍を守る──っていうのは、民間軍事会社に委託とかできないんですか、って。……そうだよね。それが、普通だったんだ。よりふさわしい誰かを頼って良かったんだ」
「そ、その話は……あの時は、そっちのが絶対いいって思ったけど! でも、私たちしかいなかったでしょ!? 異界からの侵略者に対抗するには、『神秘』が必要なんだって、言われたでしょ!」
「ねぇ、ヒナタちゃん」
「何!?」
「神秘が必要だから軍人さんができないとしてもさ。──私じゃなきゃダメな理由、あるかな」
「…………そ、れ、は……」
「ヒナタちゃんじゃなきゃいけない理由、あるのかな。ホノカちゃんが戦わなきゃいけない理由、あるのかな。……私、わかんないよ。話が大きくて、わかんない」
「て、適合する人は限られてるって、ドラゴンさんが言ってたじゃん!」
「それは向こうの理由だよね。私の理由じゃない」
「……」
「戦う理由が思いつけないなら、もう、戦う必要なんか、ないよ。……一緒に行こう。みんなで、クリスマスケーキを食べよう。お正月の初詣だって、きっと行けるよ。……私たちは、戦いなんかしないで、普通に人生を楽しめるんだよ。だから、一緒に行こう」
ヒナタちゃんはこういう時、いつでも正しいことを、スパッと言う。
元気ではきはきしてて、断固としていて、強い。
正義感が強くて、世話焼きで……太陽みたいな、そういう人。
でも、なかなか、答えてくれなかった。
たっぷり時間をかけて、
「で、でもさ! この世界には、大事な人が──家族とかが、いるでしょ!? 侵略者の好きにさせるのは、ダメだよ」
「ハッ」
今のが自分の笑い声だと、自分でもわからなかった。
小馬鹿にしたような、冷え切ったような……
そんな声、出せたんだ、私。
ヒナタちゃんが、びっくりしていた。
ホノカちゃんが……怖いものを見る目を、私に向けていた。
……今、この瞬間。
私たちは、『別々』になった。
ヒナタちゃんと、ホノカちゃんは、私にとって、理解できない、共感できない、『あちら側』の存在だと、思い知った。
たぶん、二人も、私のことを、そう思ったかもしれない。
「私、二人のこと、あきらめたくないな」
「……と、トマリ、ちゃん……?」
「一緒に来てよ。前みたいなお友達にはなれないかもしれないけど……そうしたら私、二人を殺さずに済むから」
「トマリちゃん!?」
頭の中に、『樹』が浮かんだ。
光り輝く樹。私たちの力の源。生命の樹。
この樹は誰にでもあるらしい。
でも、この樹を認識できる人は、ほとんどいないらしい。
龍に教えてもらった。
『だから、君たちには、世界を守る使命がある』──
──勝手に、人に使命を乗っけないで欲しいな。
私の人生って、誰かの期待に応えるとか、誰かの決めた役割に応えるとか、そんなのばっかりだったよね。
つまんなかったよ、本当に。
苦しかったよ、本当に。
私は、私のために生きる。
セントさんと、一緒に、生きるんだ。だから……
この才能は、私が勝手に、私のために使うよ。
──
──
──
……女の人の声が、頭に響いた気がした。
何かを言われたような、そういう、気がする。
幻だったのかもしれない。
……すごく、気持ち良かったから。
幻聴でも、聞こえたのかもしれない。
光り輝いていた『樹』はもう、頭の中にはなかった。
ただ、暗闇の中に進む根っこだけが見える。
その根っここそが、私の新しい『樹』だと、確信できた。
「何度でも聞きたいから、抵抗してね」
「トマリちゃん!」
「ヒナタちゃん、ホノカちゃん、私と一緒に行こう?」
すごい力が、あふれてくる。
手の中に集めると、まがまがしい、真っ黒な氷がどんどん、どんどん、大きくなっていく。
掲げる。
「ほら、抵抗してよ。何度でも聞きたいって、言ったじゃん。抵抗しないと、死んじゃうよ、ヒナタちゃんも──ホノカちゃんも」
「どうしちゃったの!?」
「目が覚めたんだよ」
放つ。
ヒナタちゃんも、黄金の光を手に集めて、放った。
ぶつかる──
でも、私が、勝つ。
ほら、勝った。
黒い冷たい塊が、燃えそうな黄金の光を打ち砕いた。
ヒナタちゃんが吹き飛ばされるのを見た。
ホノカちゃんが、爆ぜた地面に巻き込まれて舞うのも、見た。
……なんの感情もわかないな。
死んじゃったらそれはそれで、いいか──みたいな、気持ち。
「セントさん♡」
「お、おう」
セントさんに振り返って、その姿が見えるだけで、こんなに嬉しい気持ちになるのに……
ヒナタちゃんと、ホノカちゃんが、怪我をして、うめいてても……あんまり、何も、思えない……
「お待たせしてしまってごめんなさい。……連れて行ってください。私を。あなたのところへ」
「……あの二人はいいのか? できたら倒してしまっても構わんのだが」
「興味がわかないです。……でも、生きてたら、また、誘ってみます。大事な仲間だった──気も、しますから」
「そうか。トマリがそう言うなら、その意思を尊重しよう」
手を差しだされる。
握る。
……いろんなことが、じわじわと、思い出される。
あ、私、もしかして……
人前で、セントさんと、結ばれた?
……なんで、あんなことに、気付かなかったんだろう?
あんな、恥ずかしくて……
幸せなことに、どうして、気付けなかったんだろう?
……どうでもいいか。
大樹教団の人たちがよく使う撤退手段……たぶん、テレポートをする、一瞬前。
こっちを見ているヒナタちゃんと目が合った。
つらそうだな。痛そうだな。
でも、それぐらいしか、思えなかった。
私はもう──
『こっち側』になったみたい。完全に。