※この作品はR-18です。

悪の組織の戦闘員、スキルに目覚めて成り上がる   作:稲荷竜

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氷見室トマリ(魔法少女)一人称


第22話 氷見室トマリ 8

 大事な人を守りたかった。

 でも、大事な人は、ずいぶん、減ってしまった。

 

 頼られると、応えなきゃいけないと思ってしまう。

 だから、魔法少女を引き受けた。龍に頼られたから、咄嗟に、応えてしまった。

 

 つらい時もあった。たくさん、あった。

 でも、ヒナタちゃんと、ホノカちゃんに、いっぱいの勇気と元気をもらった。

 

 ……セントさんが来て、全部、変わってしまった。

 

 でも、セントさんだけは、私に頼らなかった。私に押し付けなかった。

 私は背が高くて、いつも、同世代と同じ年齢には見られなかった。いつでも、年上みたいに扱われて、我慢をさせられてきた。

 

 妹の前でも、もちろん、そう。

 お姉ちゃんなんだから──その言葉で、いったいいくつを奪われたんだろう。

 

 よくある、姉妹関係。

 

 きっと、多くの人は、こういうことに耐えていける強さがあるんだと思う。

 不満とかがあっても、なんとなく乗り越えて、あとから思い出話にできる強さが。

 ……私にはなかった。

 

 私はきっと、普通に生きていくのに、向いてなかったんだと思う。

 

 セントさんのところで生きていけるって思ったら、心が、軽くなって……

 

 力が、あふれる。

 

 ……ヒナタちゃんと、同じだ。

 

 私は、仲間のピンチとか、この世界のピンチとか……誰かのためには、覚醒できない。

 

 私はすべてのしがらみがなくなって、軽くなったら、覚醒できる。

 自分のために、覚醒できる。

 

「ヒナタちゃん。一緒に行こうよ」

「トマリちゃん! 目を覚ましてよ!」

「……覚めたんだよ、今。……ねえ、どうして、私たちは戦うのかな。どうして、私たちは、世界の守護なんて、任されたのかな。……ヒナタちゃん、言ってたよね。龍を守る──っていうのは、民間軍事会社に委託とかできないんですか、って。……そうだよね。それが、普通だったんだ。よりふさわしい誰かを頼って良かったんだ」

「そ、その話は……あの時は、そっちのが絶対いいって思ったけど! でも、私たちしかいなかったでしょ!? 異界からの侵略者に対抗するには、『神秘』が必要なんだって、言われたでしょ!」

「ねぇ、ヒナタちゃん」

「何!?」

「神秘が必要だから軍人さんができないとしてもさ。──私じゃなきゃダメな理由、あるかな」

「…………そ、れ、は……」

「ヒナタちゃんじゃなきゃいけない理由、あるのかな。ホノカちゃんが戦わなきゃいけない理由、あるのかな。……私、わかんないよ。話が大きくて、わかんない」

「て、適合する人は限られてるって、ドラゴンさんが言ってたじゃん!」

「それは向こうの理由だよね。私の理由じゃない」

「……」

「戦う理由が思いつけないなら、もう、戦う必要なんか、ないよ。……一緒に行こう。みんなで、クリスマスケーキを食べよう。お正月の初詣だって、きっと行けるよ。……私たちは、戦いなんかしないで、普通に人生を楽しめるんだよ。だから、一緒に行こう」

 

 ヒナタちゃんはこういう時、いつでも正しいことを、スパッと言う。

 

 元気ではきはきしてて、断固としていて、強い。

 正義感が強くて、世話焼きで……太陽みたいな、そういう人。

 

 でも、なかなか、答えてくれなかった。

 たっぷり時間をかけて、

 

「で、でもさ! この世界には、大事な人が──家族とかが、いるでしょ!? 侵略者の好きにさせるのは、ダメだよ」

「ハッ」

 

 今のが自分の笑い声だと、自分でもわからなかった。

 小馬鹿にしたような、冷え切ったような……

 

 そんな声、出せたんだ、私。

 

 ヒナタちゃんが、びっくりしていた。

 ホノカちゃんが……怖いものを見る目を、私に向けていた。

 

 ……今、この瞬間。

 私たちは、『別々』になった。

 

 ヒナタちゃんと、ホノカちゃんは、私にとって、理解できない、共感できない、『あちら側』の存在だと、思い知った。

 たぶん、二人も、私のことを、そう思ったかもしれない。

 

「私、二人のこと、あきらめたくないな」

「……と、トマリ、ちゃん……?」

「一緒に来てよ。前みたいなお友達にはなれないかもしれないけど……そうしたら私、二人を殺さずに済むから」

「トマリちゃん!?」

 

 頭の中に、『樹』が浮かんだ。

 光り輝く樹。私たちの力の源。生命の樹。

 

 この樹は誰にでもあるらしい。

 でも、この樹を認識できる人は、ほとんどいないらしい。

 

 龍に教えてもらった。

『だから、君たちには、世界を守る使命がある』──

 

 ──勝手に、人に使命を乗っけないで欲しいな。

 私の人生って、誰かの期待に応えるとか、誰かの決めた役割に応えるとか、そんなのばっかりだったよね。

 つまんなかったよ、本当に。

 苦しかったよ、本当に。

 

 私は、私のために生きる。

 セントさんと、一緒に、生きるんだ。だから……

 

 この才能は、私が勝手に、私のために使うよ。

 

 ──生命(セフィロト)は反転する。

 ──無限の光(アイン・ソフ・オウル)は闇へ沈む。

 ──悪(クリフォト)の目覚めを、今。

 

 ……女の人の声が、頭に響いた気がした。

 何かを言われたような、そういう、気がする。

 

 幻だったのかもしれない。

 

 ……すごく、気持ち良かったから。

 幻聴でも、聞こえたのかもしれない。

 

 光り輝いていた『樹』はもう、頭の中にはなかった。

 ただ、暗闇の中に進む根っこだけが見える。

 

 その根っここそが、私の新しい『樹』だと、確信できた。

 

「何度でも聞きたいから、抵抗してね」

「トマリちゃん!」

「ヒナタちゃん、ホノカちゃん、私と一緒に行こう?」

 

 すごい力が、あふれてくる。

 手の中に集めると、まがまがしい、真っ黒な氷がどんどん、どんどん、大きくなっていく。

 

 掲げる。

 

「ほら、抵抗してよ。何度でも聞きたいって、言ったじゃん。抵抗しないと、死んじゃうよ、ヒナタちゃんも──ホノカちゃんも」

「どうしちゃったの!?」

「目が覚めたんだよ」

 

 放つ。

 

 ヒナタちゃんも、黄金の光を手に集めて、放った。

 

 ぶつかる──

 

 でも、私が、勝つ。

 

 ほら、勝った。

 

 黒い冷たい塊が、燃えそうな黄金の光を打ち砕いた。

 ヒナタちゃんが吹き飛ばされるのを見た。

 ホノカちゃんが、爆ぜた地面に巻き込まれて舞うのも、見た。

 

 ……なんの感情もわかないな。

 死んじゃったらそれはそれで、いいか──みたいな、気持ち。

 

「セントさん♡」

「お、おう」

 

 セントさんに振り返って、その姿が見えるだけで、こんなに嬉しい気持ちになるのに……

 ヒナタちゃんと、ホノカちゃんが、怪我をして、うめいてても……あんまり、何も、思えない……

 

「お待たせしてしまってごめんなさい。……連れて行ってください。私を。あなたのところへ」

「……あの二人はいいのか? できたら倒してしまっても構わんのだが」

「興味がわかないです。……でも、生きてたら、また、誘ってみます。大事な仲間だった──気も、しますから」

「そうか。トマリがそう言うなら、その意思を尊重しよう」

 

 手を差しだされる。

 握る。

 

 ……いろんなことが、じわじわと、思い出される。

 あ、私、もしかして……

 

 人前で、セントさんと、結ばれた?

 

 ……なんで、あんなことに、気付かなかったんだろう?

 

 あんな、恥ずかしくて……

 幸せなことに、どうして、気付けなかったんだろう?

 

 ……どうでもいいか。

 

 大樹教団の人たちがよく使う撤退手段……たぶん、テレポートをする、一瞬前。

 こっちを見ているヒナタちゃんと目が合った。

 

 つらそうだな。痛そうだな。

 でも、それぐらいしか、思えなかった。

 

 私はもう──

 

『こっち側』になったみたい。完全に。

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