※この作品はR-18です。

悪の組織の戦闘員、スキルに目覚めて成り上がる   作:稲荷竜

25 / 58
影のセント(主人公)一人称


第25話 悪の組織の部署事情

 なんかボスと茶飲み友達になってないか?

 

 クリスマスの闇墜ちを経て年の瀬。迫りくる『今年』の終わりに街中が浮足立つ雰囲気がなんとも言えず『馬鹿なんじゃねえの』って感じでとても楽しいよね。

 たとえば時計を見た時にたまたま『11:11』とかのぞろ目だとなんだかワクッと来るという人もいるみたいだが、俺はそういうのをあまり嬉しく感じない方だ。

 一日が二十四時間なので、『11:11』も『12:34』も『15:24』も同じ確率で見ることのできる数字なのは、誰もがわかってる。俺もわかってるし、ぞろ目を嬉しがるやつもわかってる。俺は同じ確率で起こることを嬉しがる気持ちがわからない。互いに互いを尊重して仲良く疎遠でいようぜ、という話だ。

 

 同じ理由で大晦日だろうが元日だろうが、俺にとっては『一年の中の一日』にしかすぎない。なので盛り上がる気持ちにちょっと乗り切れないところがある。

 だいたい、ちょっとばかし盛り上がりすぎなんじゃねえの? 気持ちはわからんでもないけど、過剰っていうか……みたいな気持ちになってしまうのだ。

 

 ちなみに15:24というのはさっき時計を見た時の時刻で、今、幹部招集部屋でボスとお茶をしている俺が『なんなんだこの時間』と思いながら腕時計を見た回数は、もう十回ぐらいになってる。

 

 この腕時計、ボスからのクリスマスプレゼントだ。

 

 なんかいろいろ機能があるらしい。居所把握とか、盗聴とか、下手すると録画機能もついてると思う。

 つまり監視用というわけだ。外せねー。いやまあ、便利などこでも連絡機能とか、アジトにあるポータルより限定的とはいえテレポート機能もあるみたいなんで、ただの監視装置でもないんだけど。電池とか何使ってんだろ。

 

 さてボスとお茶会というわけだが、ボス──総大主教『聖なるマリアンヌ』は相変わらず薄布の向こうにいてシルエットしかわからない。

 そのシルエットも、実はよくわからない。なんとなーく『ベールをかぶった女性』っぽいな? という雰囲気だが、何せシルエットなんで、向こう側にいるのがただのハリボテでも俺には気付けない。

 ただまあ、相変わらず『俺が何してもダメそう』な空気はあるので、ハリボテだとしたらよほどすげー威圧機能のあるハリボテだとは思う。つまり本人がそこにいるんだろうな。

 

 で、俺は相変わらず茶を飲んでるわけなんだが……

 

「……あの、総大主教様、よろしいでしょうか」

「何か?」

「……何を待ってらっしゃるんでしょう?」

 

 ……もう一時間ぐらい、有益な話題もなく茶を飲まされている。

 どうだろう、三時のお茶なんだからまあ、一時間はだべっててもそういうもんかと思うんだが、サシで会話もほぼなく茶だけ飲むには、三十分でも長い。

 

 明らかに『何か』を待っている様子だ。

 

 しかしまあ、それはそれで疑問がある。

 俺が待たされるんならわかるけど、総大主教様に待ちぼうけを喰らわす度胸の持ち主がこの組織にいるか? というところだ。

 

 聖なるマリアンヌ。俺がハハキを犯したり魔法少女を闇堕ちさせたりして経験値を稼いだから余計にわかるんだが、マジでヤバいぞこの人。

 穏やかで人を緊張させない空気の持ち主だから、まあ馬鹿は調子に乗って待たせたりするのかもしれないが、そういう馬鹿が翌日、人知れず消えてそうな、そういうタイプの迫力がある。

 

 少なくとも俺が『おいこの時間なんなんだよ。コンセプトを言えよ』と詰められないぐらいの迫力だ。

 

 今やっとあまりの緊張感で『このまま無言でお茶をする』『聞く』の天秤が『聞く』の側に傾いただけで、俺がここまで思ったことを言えない相手もそんなに多くないぞ。本当に。

 

 聖なるマリアンヌは、注意して聞いていなければわからないぐらいかすかな音で、カップをソーサーの上に置いた。

 

「影のセント──功績華々しいあなたに、次なる『経験値稼ぎ』の機会を与えようと思っています」

「光栄です」

「そして、あなたに直属の『怪人』を与えるつもりでもいます」

「!」

 

 怪人。

 

 この組織は『幹部』『戦闘員』『怪人』の三種類の生き物が勤務している。

 

 幹部は俺たちのような指揮官であり、この『大樹教団』において重要な役割を果たす、『聖者』だ。

 なる条件は『樹を見ることができること』。スキルツリーだな。これが見える者を、マリアンヌは幹部に任命する。

 見えることがマリアンヌに認知されると、どんな新参でも一足飛びで幹部になれる。俺がこないだ堕としたトマリちゃんみたいに。

 逆にどんだけ功績を挙げても、スキルツリーが見えなきゃ幹部にはなれないようだ。

 

 そして戦闘員が俺の前職というか、前部署なわけだ。

 これは人間並みの知能と、鍛えたおまわりさん以上の戦闘能力を持つ『雑用係』になる。

 魔法少女の討伐と『龍脈溜まりの隷属化』がこの組織の目的なわけだが、その魔法少女戦において戦闘員はマジで肉壁にしかなれない。

 なので、戦闘能力に期待していっぱい集めているわけではなく、何かの実験をする──スキルツリー閲覧資格を持つ者を探すために因子注入実験をするついでに、それで底上げされた戦闘能力と『近代兵器が効かない』という謎の力を活かして肉壁をしつつ、数が必要な場合に投入されたり、幹部が全然やらん事務仕事とかをさせたりという、そういう要員だ。

 

 そして、怪人。

 

 なんか俺も魔法少女から『怪人赤コート』呼ばわりされてるみたいなんだが、幹部と怪人とは明確に異なる存在だ。

 怪人は、『諸事情によってあまり前線に立つことを許されない幹部』の代わりに、現場で戦闘員を率いて魔法少女と戦うポジションだ。

 裏方をすることの多い幹部の代わりに前線で力を振るうのが仕事の部署なわけだが、こいつらには『人間並みの知能』がない。

 なので雑用とか知的労働、作戦立案などはできず、基本的には『幹部が配置してとにかく突っ込ませる』という運用になる。

 

 つまり俺に頭の悪い部下を一人つけてくださるというご配慮だ。

 嬉しくてどう断ろうか考えちゃうよな。

 

 ……俺は経験値を稼ぎたいわけで、そのためにはどうにも、自分で力を使い、命を懸ける必要がある。

 しかも俺は『戦闘』をしない。まあしないっていうか、『それを魔法少女を倒す主な手段と位置付けていない』ぐらいか。

 

 なのでまともに意思疎通ができるかも怪しい戦闘以外に使えない人材はいらんのだわ。

 どうすっかなー。

 

「あなたの心配はわかります。しかし、そうはなりません」

 

 なんだボス、俺の心読んでます?

 

 しかし俺の内心の問いかけが聞こえてるんだか聞こえていないんだか、ボスは言葉を普通に続けた。

 

「あなたという存在は『始まり』なのです。……我ら教団は、これまでも『進歩をする瞬間』というのがありました。それまで不可能と思われていたことが、可能になり始める契機──と言いましょうか」

「……」

「これまで、我が教団には、『男で樹を認識できる者』がいなかった。……この世界には、と言い換えましょうか。この世界には、『樹』を認識できる男は、いなかったのです。しかし、あなたが出て来た」

「……」

「これは歴史の転換点だと言いましたね? ……あなたの存在が、事態を二歩も三歩も進め、あらゆる『上限』が破られ始めています。怪人についても、そうです」

 

 俺というサンプルからとったデータを活かした……っていう話じゃねえんだろうな。

 もっと抽象的なものだ。あるいは、宗教的なものだ。

 

 なんかで見たけど、シンクロニシティってやつだろう。

『なぜかはわからない』が、それまでできなかったことが、世界中でできるようになる瞬間──世界そのもののアップデートが知らないところでなされて、世界のバージョンが変わる瞬間。

 それをマリアンヌは『歴史の転換点』と呼んでいる。

 

 ……つまり。

 

「……知性のある怪人ができた、ということでしょうか」

「ええ。あなたの満足を得られるほどの知性かはわかりませんが」

 

 その時。

 

 部屋の扉が開いて、誰かが入って来る。

 

「やあやあ総大主教様! と、おおおおおおおおおお!!! 影のセント! 影のセントかきみ!」

 

 入ってきた瞬間にクソうるせえので思わず顔をしかめてしまった。

 

 そいつは袖の余った白衣を着たチビだった。

 俺は見たことがない。こないだの幹部招集会にもいなかった。

 

 だがこの態度はたぶん幹部に類する何かなんだろう──と、いうか。

 

「錬金術師オリガ」

 

 マリアンヌが呼びかけると、袖の余ったぶかぶか白衣の女は「お」と何かに気付いた声を発した。

 色とりどりのボサボサ髪の、エリザよりちょっと小さいぐらいの体格のこの女──錬金術師。

 なるほど、その役割と、今の流れだとやっぱり……

 

「オリガ、『怪人』は完成したのですか?」

「ああ、はいはい。そうでしたそうでした。いやあ、ぼくとしたことが! 影のセントを生で見て思わずはしゃいでしまったよ! あっはっはっは! あ、セント、その腕時計、ぼくからのプレゼントなんだよ。いやあ、そのサイズにこれだけの機能を詰め込むのは、いくら天才錬金術師のぼくでも苦労をしたよ! あとここを三回ひねって四回押したあと五秒放置すると自爆──」

「オリガ」

「──おっとそうだった。いや天才だからね。いろいろなものに対する好奇心を抑えきれないのさ。というわけで、君に卸す怪人だったね」

 

 ……こいつだ。

 

 こいつが、この組織の技術的なところを担っている。

 幹部会にも出てなかったが、間違いなくこいつもスキルツリーを閲覧できる存在なんだろう。

 

「さて影のセント、きみの存在が様々な技術革新を起こすのは本当のようで、ぼくはきみが好きだ」

「なんだ急に」

 

 総大主教様の前だっていうのに素が出てしまった。

 なんだこの会話全部が奇襲みたいな女は。

 

「停滞していたあらゆる技術が、きみの発見以降、進んだんだよ! その腕時計もそう! テレポーターの小型化には破るべき技術の壁があって──」

 

「オリガ」

 

 総大主教がこんなに何度もたしなめるの、本当に珍しい。

 オリガ、怖いものなしか? なんともまあ『マッド』って感じのチビだな……

 

「──はいはい、まったくもってうちの総大主教様は茶飲み話が苦手らしい。きみも沈黙に耐えかねていたところじゃないか? 彼女は無口で──おっと。これ以上は本気で怒らせそうだ。まあというわけでね、怪人だよ。きみ用の怪人を作り上げた」

「……そうか」

 

 敬語で接するのが馬鹿々々しい相手というのを理解した。

 あと疲れてきた。

 ので、さっさと、こっちから話を進めにかかろう。

 

「それで? その怪人っていうのはどこに?」

「そうなんだ! 聞いてくれたまえよ!」

「手短なら」

「研究室で拘束してる」

「ゼロか百しかないのか? 手短にも限度があるだろ」

「多くの自我を残したまま『準幹部』と呼べる力を持つ怪人が完成したんだよ! おかげで樹の認識はできないまでも、認識者並みの力を持ち、さらには知性も戦闘員並みにある! ……でも、自我が残りすぎて、暴れるんだ」

「……」

 

 たぶん闇バイトで騙して連れて来てそのまま実験で怪人にされたんだろうな……

 

「そういうわけで拘束してるので、まずは彼女の懐柔がきみの役目になるわけだ」

「『なるわけだ』じゃねえよ。薬とかでなんとかしてくれ」

「ええ!? そんなことして貴重な完成品一号が壊れたらどうするんだい!? きみは錬金術の進歩をなんだと思っているんだ!?」

「お前は教団のために戦闘をする幹部の苦労をなんだと思ってるんだ。人材の調教は幹部の仕事じゃねえよ」

 

 他の組織ならともかく、この組織では『記憶を失った戦闘員』『ほぼ知性のない命令に服従する怪人』が構成員なので、幹部は人材育成・調教の仕事をしなくていい。

 たいがいブラックな組織だが、幹部給料と人材育成とかいう無意味なことをしなくていいのだけが救いだったのに、なんだって俺がそんな苦労をせにゃならんのだ。

 

 第一、俺は戦闘要員いらねえんだよ。

 

「そんなに貴重な完成品なら、そっちで面倒みてくれていいぞ。俺は怪人いらねえし」

「しかしきみにこの怪人を運用させるのが総大主教様の望みだからなあ」

「貴重な完成品をこの俺に任せてくださってありがとうございます。さっそく行きましょうかオリガさん。くだんの怪人の懐柔、俺にお任せください」

「わかりやすくていいなきみは! 気に入った!」

 

 俺は気に入らない。

 かくしてなんか知らんけど、部下の調教という仕事が始まってしまった。

 

 まあ女らしいから、なんとかなるでしょ。

 男でもなんとかはなりそうだけど、嫌だからな、男に淫行するの。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。