「殺意すごいけど、何してた人?」
「ん? 魔法少女」
元魔法少女、怪人にされちゃったらしい。
研究室と呼ばれるのがどうにもアジトで一つの区画を占拠している。
幹部っていうのは基本的に『自分の区画』を持っているもんだが(俺にはまだない)、オリガとかいううるせえ白衣チビも、扱いは知らんけど幹部の一種と思って間違いないだろう。
こないだの幹部会にいなかったのは特殊なポジションだから免除されてた可能性と、普通にこいつが招集ぶっちぎった可能性、性格的には両方考えられるんだよな。
で、研究室というのは『室』じゃなくて区画のことで、今、俺がいるのはその中でも『第七実験室』と呼ばれている場所のようだった。
そこはメタリックな壁や天井の立方体の空間で、壁沿いにいくつかの大型機械が設置され、そこから伸びたケーブルが部屋の中央に集まっていた。
部屋の中央にあるケーブルの接続先はカプセルのようなもので、そこには口枷、手枷、足枷、首枷をされた女の子が、腕をバッテンにするポーズで拘束されて、こっちをめちゃくちゃにらんでるところだった。
ちなみに全裸。
ただしその女の子には毛皮がある。前腕と足からふとももの半ばぐらいまで、真っ黒い固そうな毛があった。
そして手足は鋭い爪が生えた肉球つきのもので、頭の上には三角の耳がある。
たぶんケツの方には尻尾もあるんだろう。……全体的に──
「狼でも混ぜたのか?」
狼少女、という感じだった。
口枷のあたりをよく見たら牙もあるしな。
錬金術師オリガは、余った白衣の袖を振り回すように「いやいや!」と嬉しそうにする。たぶん説明をするつもりなんだろう。説明好きそうだからな。
「混ぜるだなんてそんな! ぼくの生み出す怪人は、混ぜ物なし! 百パーセント天然ものばかりだよ!」
「因子の注入はしてるじゃん……」
異世界のなんらかのなんらかでしょアレ。混ぜ物ってレベルじゃねーぞ。
「それはまあ仕方ないから勘定しないとして」
「景品表示法が適用されてたら違法だな……」
「そもそもこの世界の人間にはいろいろな遺伝子があって、それのパラメーターが変わることで、獣にも、鳥にも、魚にだってなるんだよ! 因子が半端に適合すると、そういう特徴が身体に表れてしまうのさ!」
「それで今までの怪人は全部動物要素が入ってたってこと?」
「そう! なんだきみ、話せるな! ぼくを惚れさせてどうするつもりだ!?」
「どうもしない。惚れさせるつもりもない。……で、元魔法少女ってことは、もともと『樹』を見る能力があったんだろ?」
これはトマリちゃんと話したり、ボスの話を聞いてたりしたところからわかったことだが、魔法少女はそもそも『樹』を見る力がある。
ただし魔法少女の『樹』は教団的にはよろしくないものらしい。
とはいえ……
「もともと『樹』を見ることのできる魔法少女が、『樹を認識するまでいかない』存在にされたんなら、それはただのデチューンなんじゃ?」
「きみねえ! 言っていいことと悪いことがあるよ!」
「なんだ? 率直な感想だが」
「魔法少女どもの『樹』と、ぼくらの『樹』を同一視するようなことを言ったら、総大主教様が怒るから。本当にやめた方がいい」
「失礼しました。ご忠告ありがとうございます」
「きみは本当に正直な男だなあ! 気に入った! おっぱいぐらい揉んでいいよ!」
「『無』を握る趣味はねえよ。あとお前風呂入ってなさそうで嫌」
「入ってないけど清潔だよ! 雑菌があると実験結果に関わるからねえ! ぼくほど清潔な女の子はこのアジトに一人もいない!」
「本当に話が進まねえやつだな。で、デチューンじゃないと」
「そうそう。君はなんかできてしまったみたいだけど、魔法少女を『樹』を認識できるまま味方にしようとするなら、連中のセフィロトをクリフォトに反転させる必要があるんだ」
「総大主教様もそんな単語出してたな」
「きみ、『魔法少女をテレポートでアジトに引き込んで、総大主教様と幹部で囲んでボコボコにする』っていう作戦がとられない理由はなんだと思う?」
「逃がした時のリスクがでけえからだろ。あと……ああ、なるほど。『汚染』を受けるのか」
「そう! 特に元気な状態の魔法少女は、ぼくらのアジトの空気を汚染する。『深海のトマリ』みたいに完全に反転していればいいんだけどね。なので、魔法少女は基本的に無力化してから連れて来ないといけないし、基本的にと言うなら、連れて来てはいけないんだ」
「じゃあ、そいつ何?」
「総大主教様に打診していた『魔法少女を使った因子注入実験』がようやく承認されたから、『消滅のフラン』にとってきてもらったんだよ! きみのお陰で承認されたんだ! 愛してる!」
「そうか。俺は愛してない。……しかしまあ……」
俺がハハキと二人で策謀を巡らせてようやく一人堕とす間に、フランは普通に捕獲しとんのか。
あの人マジで強いな。何者なんだよ。
「で、その実験の成果が、あそこで俺たちを睨んでるアレ?」
「そう! いや素晴らしいよ! 因子注入されても記憶を維持するし、適合が半端で怪人化してもあれだけの強さなんだから! これはいいサンプルになる!」
「解放した瞬間、こっちを殺しに来そうな顔つきなんだが」
「だからそれを懐柔するのがきみの役割なんだってば!」
「俺、別に洗脳とか催眠が使えるわけじゃねえぞ。どうしようもねえだろ、この状況からは」
じっくりじっくり浸透して気付かれないうちにいろいろするのが俺のスタイルなわけで。
あんな敵対的なツラしてこっちを全力警戒してる、しかも『樹』を認識できたやつには、俺の力が入らない可能性が高い。
……まあ、しかし。
「ダメでもいいならやってみるか。……元魔法少女の怪人には俺も興味あるしな」
「わかってくれるか!」
「いや、お前の心情は知らん。たぶん別な動機での興味だ」
因子。
これについて俺は何も知らない。
そして因子を注入された戦闘員は記憶を失うわけだ。
俺はこれを『どうせマリアンヌが記憶抜いてんでしょ』と思っていた。何せ、ハハキとかは因子注入されてるっぽくても普通に記憶あるしな。
しかし因子そのものに記憶を奪う働きがあるかのような口ぶりを、そこの白衣チビはしたわけだ。
……興味があるのは、因子を注入され、それでも記憶を残し、明らかに『悪の組織』の俺たちを敵視したままの、彼女の内面だ。
ヒアリングをしたい。どこまで記憶があるのか。樹を認識できなくなるとはどういう感覚なのか。
そして試してみたい。俺の部下の戦闘員どもは説明しても誰一人できなかったことを。……『樹の認識』を、生まれつきの性質ではなく、後天的に、学問的に、可能にできるかどうか。
怪人はそもそも『半端に因子に適合できる存在』だという。
仮説がこの白衣チビのお陰で確証に変わったわけだ。なら、魔法少女だったあいつが、再び樹を認識できるようになる確率は、戦闘員止まりのやつらよりも大きいのではないか。俺の手駒として、樹を認識できるやつを増やせるんじゃないか──そういうのを試してみたい。
なので……
「『影の』の力を使うことは無理そうだが、もう一つの俺の力でどうにかできるだろう」
「おお、エリザを堕とし、魔法少女を反転させたあの力……」
「情報行ってんのか。そう、俺の力……」
幹部スキルでもなく、独自スキルでもない──経験スキル。
樹を認識できる者の生きざまに応じて発現するスキル。
「……『淫行』を、する」