※この作品はR-18です。

悪の組織の戦闘員、スキルに目覚めて成り上がる   作:稲荷竜

29 / 58
火猫ホノカ(赤い魔法少女)寄り三人称


第29話 火猫ホノカ 1

「なんだかなー。ヒナタも落ち込んでるしなー」

 

 八重歯、袖めくり、絆創膏。

 火猫(ひねこ)ホノカの特徴は、だいたいそういったものが目立つ。

 ポニーテール。冬でも生足。活動的で、擦り傷が多い。やんちゃそうな顔立ちをしていて、頭が悪そうだとよく言われる。小柄で、妹的というよりは、猫か何かのように扱われることが多い。

 

 ホノカはサッカーをやっていた女の子だ。

 他にもスポーツはだいたいどれも得意だし、好き。見るより、やる方が好き。

 

 体を動かすというのが好きなのだった。じっとしてたり、ぼーっとしてたりするのが苦手で、常に動いていないと落ち着かない。移動はダッシュが基本だし、暇なら筋トレとかする。

 勉強は落ち着いて教科書を読んでるのが苦手だけれど、聞いた話はわかるので、成績は実は悪くない。

 

 魔法少女になったのは、スポーツの延長だった。

 

 龍に見いだされ声をかけられた。適性があるらしい。

 魔法少女が何をするのか聞いたら、この世界に攻めてきている侵略者と戦い、世界を守るお仕事だという。

 

 スポーツは好きだが、特定の部活に入るほどではなかった。

 サッカーは小学校のころまでは真剣にやっていたけれど、中学に上がってからは、なんだかそこまで夢中になれなくて、一人でリフティングなどはするが、真剣にトレーニングはしていない。

 現代は別に『男子だけのスポーツ』というわけではないのだが……

 

 はっきり言ってしまうと、ホノカにとって、普通の『サッカーをしている女の子』は、足手まといだった。

 男子に混じってちょうどいい。けれど中学からはそういうわけにもいかない。だからつまらない。

 面白いことには適度な難易度が必要だ。ホノカは挑戦が好きだ。

 そういう性質が、魔法少女活動はきっと面白いぞ、と思った。だから、引き受けた。

 

 引き受けるうちに出会ったヒナタとトマリもいいやつらだった。

 ヒナタは頭がいいしはきはきしてるし、勇気があって行動力がある。尊敬できる。

 トマリだってもっと頭がいい。難しいことをいつもいっぱい考えていて、よく気が付いて、ヒナタやホノカが意識していない細かいところをフォローしてくれる。頼りになる。

 

 ……でも、トマリは、敵について行ってしまった。

 

 あの時のことは忘れようと思っても忘れられない。

 ……そんなこと思い出している場合じゃないが、初めて、男の人の……を、見た。それに、女の子が……されている、ところも。

 

 怖かった。

 でも、頭に焼き付いて、離れない。

 

「……違う!」

 

 そうじゃない。

 ホノカは頭を振って邪念を振り払う。

 

 大事なのは、トマリだ。

 

 トマリが覚醒したあと、怖くて動けなかった。

 ヒナタみたいに対応もできなかった。立ち向かうことも、できなかった。

 

 戦闘員たちにやられていたというのもあるけれど……

 たとえ、体力が万全でも、あの時のトマリを相手に、自分は何かできただろうか?

 

 ホノカは元気に振る舞っている。

 でも、『何もできなかった』ことが、ホノカを追い詰めてもいた。

 

「……トマリを取り戻すんだ。そしたらきっと……全部、元通りになる」

 

 ヒナタも元気を取り戻すだろうし、ホノカ自身も、嬉しい。

 

 ……考えているうちに、ホノカは家に着いた。

 公営の団地。三階建ての建物。

 その一室が、ホノカの家だ。

 

 父はいない。母がホノカを一人で育てた。

 弟が三人いる。……たぶん、女子サッカーのクラブチームに行けば、もう少しサッカーを楽しく続けられたのだろう。でも、そんなことは言えなかった。

 

 アルバイトができるようになったら、するつもりでいる。

 ……だから、魔法少女は、それまでだと、思っている。そう思って、始めた。でも……

 

「ヒナタもトマリも、ほっとけないよなー……」

 

 魔法少女の活動をする中でできた、大事な友達を、放っておけない。

 だからこそ、助けないといけない。トマリを助けないと、魔法少女を続けることも、やめることも、できないような気がするから。

 

 団地の階段を上る。

 

 エレベーターはない。

 

 すでに景色は夜だった。

 

 十二月三十一日の夜。

 

 今年が終わるその時に、ホノカと、ヒナタ、トマリの三人で初詣に行こうとなんとなく言っていた。

 でも、たぶん、行くことはないだろう。……ヒナタがきっと、行かない。トマリが戻って来るまで、行かない──

 

「ホノカちゃん」

 

 ──団地の建物の暗がり。

 照明なんかない階段の踊り場で、突然、声をかけられた。

 

 ホノカは、固まってしまう。

 そこにいたのは……

 

「と、とまり……?」

 

 晴れ着姿の、トマリ。

 

 真っ黒い髪を長く伸ばしたトマリは、綺麗な微笑を浮かべて、ホノカを見ていた。

 ……あの時、敵対して、魔法を撃ってきた時のような、つまらなさそうな顔じゃない。

 いつものトマリの、優しい笑顔だった。

 

「え、トマリ……トマリだよな? ど、どうしたんだ? あ、逃げてきたのか!? そうだろ!」

 

 トマリは答えない。

 ……その微笑は穏やかだった。

 けれど、どこかの家から漏れる明かりを背負った彼女の笑顔を見ていると……

 

 裸になって。

 お股から、何か、よくわからないものをひり出して。

 イッて……

 犯されていた。

 

 その光景が、ホノカの頭の中によぎる。

 

「っあ、そ、そうだ、トマリ、あの、初詣、だろ!? その格好は完全に初詣だな?」

「そうだよ」

「待ってて! ヒナタも呼ぶ! 行こう! あ、でも、チビどもとお母さんにも連絡……えっと、えっと」

 

 トマリが穏やかに笑う。

 

「大丈夫だよ、ゆっくりで。まだ、時間はあるから。……冬は夜が長いから。こんなに暗くても、日付が変わるまで、時間は、あるんだよ。だから、ゆっくりで、いいよ。……みんなで、行こう。ヒナタちゃんと、ホノカちゃんと、私で」

「お、おう!」

「いっぱい、お話をしよう。ね」

「……おう」

 

 ホノカは、嫌な予感を覚えていた。

 

 ……でも。

 

(トマリが戻ってきたら、元通りになれる)

 

 その想いが、彼女を突き動かした。

 

 ……もちろんそれが。

 

 彼女の破滅の、始まりだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。