「……すごくアウェー感のある街だ」
私服──
本当に、久々に、私服を着た。
基本的にアジト内では戦闘員服……黒の全身タイツっぽいやつしか着ることを許されていない。
幹部付きになるとタイツの色が白くなるけど、黒より恥ずかしいっていうね。
そしてマスクを外すことができない。
これもたぶん悪の組織──『教団』の支配術の一つなんだと思う。顔がわからないと、個人を識別できない。すると教団内で戦闘員同士が連携をとることがしにくい。結果として反乱が起きにくい……
いや、待てよ。
どうしてそんなふうに『普通の支配術』をとる必要がある?
俺たちはそもそも、幹部スキルツリーのスキルによって支配されていて、命令には逆らえない状態のはずだ。
……もしかしたらたまに『出る』のか。スキルツリーの支配術を無効にするやつが。
それか、なんか、戦闘員に黒い全身タイツ着せるのがボスの趣味かだな……
「セントさん、こんな顔してたんですね」
ここは日本有数のファッションの街だ。
通りは外国人観光客を含む人でごった返し、ミニブタやらサモエドやら虹色の綿あめやらの店が乱舞し、クレープ屋が十メートルおきぐらいにある。そういう街。
服装や髪の色が『田舎だったら超ジロジロ見られそう』みたいな人も多いので、エリザがそのままで行ってもまあまあ『個性だね』で済ませられるかなと思ったが……
甘かった。
エリザが美少女過ぎて超見られている……
真っ赤な髪に真っ赤な瞳。角はなんらかの力によって隠しているけれど、悪魔のような尻尾がスカートの下からのぞいている。
そう、スカートなんだ。いつもは露出癖があるとしか思えないエナメルっぽい素材の赤いボンデージ姿なのに、今日はうってかわって、底の高いブーツに、フリルが段々になったウェディングケーキみたいな甘ロリ姿。
この街にはよくいるんだが、素材がよすぎて目立つ。
あとなんだそのリュック。薄っぺらすぎだろ。しかもぬいぐるみが住んでるじゃん。荷物入らないでしょ絶対。
ちなみに俺は治験バイトの時に着ていった地味なパーカーにジーンズという姿で、横にいるのが申し訳ない気持ちになってくる。エリザなんかクリトリス引っ張られるとすぐに漏らすやつの癖に……
底が厚いブーツでも埋まらない身長差が俺たちにはある。
俺がでかいんじゃなくて、エリザが小さいから。
でもブーツのせいで腕を組むには適切な差になってしまっており、エリザは当たり前のように腕を組んでくる……
服の布が分厚いのと、エリザの胸が平なので『胸が当たっちゃった』みたいなのは全然わからないが、なんだろう、この……
好き好きオーラ。
鈍感な俺でもわかる。こいつ、完全に俺のこと好きだ。これが演技だとしたらすげえ女優だ。
童貞の妄想であってほしい。こいつに好かれる理由が思いつかなさすぎて怖い。
「セントさん?」
セントさんというのは、俺の仮の名前。戦闘員のセントさん。
こうして外に出るまで意識さえしてなかったんだが、俺、自分に関する記憶が一切ない。
たぶん『因子』を注入された時に失うようになってるか、あるいは、より上位の存在……たとえばボスの幹部スキルで記憶を奪われでもしてんじゃねえかな。
正直、失われた自分の記憶についてはさほど興味がないんだが、ボスをわからせるモチベーションが増えたのは嬉しい。相手が俺に被害を与えているほど、そいつを屈服させた時に楽しいからな。
「ああ、聞いてる。……で、どこ行くんだ? このあたりの街には近寄ったことないから、案内はできないぞ」
「大丈夫です、エリザがいっぱい来てます」
「『だろうな』って感じの服装だ」
「えっと、この通りをあっちまで抜けて、それから右側に進んでいくと、ブランド店が並んだ通りになってて、それで……」
「じゃあ、行くぞ」
「あの、ま、待ってください」
「なんだよ」
「……ちょっと、この通りで、遊んでいきませんか?」
「…………」
どうしよう。この子、すごい俺のこと好きだな……
「言っておくが、いくら媚びても篭絡されないぞ」
こう言ってる時点で結構揺らいでるのが自分でもわかって、鼻で嗤ってしまった。
関係性を整理しよう。
お前は初対面の俺を無言で一時間も鞭打ちしたやべぇサドのメスガキで、俺はこのままじゃ死ぬなと思ったから、お前をさんざん調教して戦闘員たちの前で恥辱アナル犯しをして、クリトリスもケツ穴も乳首もまんこも後戻りできないぐらいの性感帯に開発したあげく、人権とか認めないでしゃぶらせたりしてる男だよな。
どうしてそんな恋人みたいな距離感で来るのかが本当にわかんねえよ。
「そういうのじゃ、なくて、あの……と、とにかく、えっと……あ、アタシに、従いなさいよ」
「……」
「ひっ、あ、い、『いつも通り』に、アタシに、従って、お前は、文句なんか言わず、連れ回されればいいのよ。口答えとか、許さないから。いいわね?」
まあ人前では『いつも通り』にしろと言ったのは俺だけどさ……
それは幹部会で他の幹部に怪しまれないようにという意味であって、っていうか……
言いながら発情してるじゃん、こいつ。
体が熱くなってるの、分厚い布越しでもわかる。
……なるほど。
こいつがなんで俺にこんなに好意的なのかは、まあストックホルム症候群だとして……
こうやって『報復待ち』で偉そうにされるの……
嫌いじゃねえな。
「わかりました、エリザ様。御命令に従います」
「あ、う、わ、わかればぁ……いいのよぉ……」
「好きなだけ、連れ回してください。すべて、エリザ様の望むように」
「そっ、そうね。殊勝な態度じゃない。まあ、それでお前がアタシにした無礼が許されるわけじゃないけど……」
エリザの耳に口を寄せて、
「そうだな。お前の偉そうな態度を、俺も許さない。だから、安心していいぞ。きっちりあとでやり返すからな」
「~~~~~!」
イッたなこいつ。
なんだか知らないが、やべぇサドガキが、やべぇマゾガキに進化している。
「い、行くわよ……ほら、こっち」
腕に抱き着いたまま引っ張るので、従うことにする。
今日の買い物を終えるまでは、『わがままなお嬢さんに振り回される下僕』のロールをしてやろう。
アジトに帰ったら、俺がご主人様で、お前が奴隷だ。