『人殺し』
そんなつもりじゃなかった! そんなつもりじゃなかった!
だって、知らなかった!
『償えよ』
あたしはただ、面白そうだったから魔法少女をやっただけで、誰かを殺したり、誰かを傷つけるつもりなんか、全然……
『命だったんだよ』
敵を倒して、世界を守る。
程よい挑戦がそこにあると思っただけで、あたしは……
戦いの中で傷つく『敵』を『命』だなんて、思ってもいなかった。
ゲームだった。
得点だった。
敵を倒してゴールを守る。
点数を入れられないようにしながら、点数を入れる──そういう、ゲームのつもりでいた。
……意識なんかしなかった。
これが戦いだって……思ってなかった。
「むうううう……♡」
「だんだん気持ちよくなってきたかな。『人殺しの償い』の中でお尻の穴ほじられてイきそうになってるの、どんな気持ちだ? もしかして、人殺しをしてる時も気持ちよかったのか? 命を蹴散らしながらイッてたのか? 家族の顔とか浮かばなかった? お前が殺してる相手にも家族がいるとか思わなかった?」
「っ……っ……♡」
「どうだって聞いてんだよ!」
「むううううううううううう♡♡♡」
お尻……お尻、に、おもちゃ、突っ込まれて……
「派手に潮吹いてイッたな」
「むうう……♡」
「初めてのケツ穴でイけるなんて変態だよ。しかもこんな、拳ぐらい太いの突っ込まれてさ。どういう育ち方したらこうなるんだ? ケツ穴狂いのサイコキラーさん」
「むうう……!」
「何言ってんのかわかんねーよ」
「うむううううう!?♡」
「ここ知らない? クリトリスっていうんだよ。摘ままれると気持ちいいだろ? 初めてでこんだけ手加減なくやられたら痛くてたまんないぐらい敏感な部位なんだよ。でもお前は感じちゃうんだよな。変態だから」
「むうっ……むううう……!」
赤コートは、チラッとどこかを見た。
あたしのお腹のあたり、かもしれない……
何を、するんだろう。
……もう、やだ……
もう、やめて……
謝らせて……
そんなつもりじゃなかった。
ただ、楽しいことを、面白いことを、したかっただけで……
あたしは……
あたしは……
ヒナタが悩んでても、その悩みが、よくわからない。
なんか悩んでそうだな。元気になって欲しいなって思うだけで……
どれだけ苦しんでるか、わからない。
それに、トマリ……
トマリが、追い詰められてることになんか、まったく気付けなかった。
おうちの人に『いないもの』扱いされてるなんか、想像もしなかった。
お金持ちっぽくていいな、おしとやかで、背が高くていいなって、そんなことしか、思ってなかった。
頼りにしてた。細かいところに気が付いてくれるトマリを……
でも、トマリは、頼られるのが、嫌だったんだ。
そんなことにも、気付けなかった。
「処女もらうから、口枷外してやるよ。言い訳してみろ」
口枷が外されると、だらだらとヨダレが顎を伝った。
溜まったヨダレがまだあって、苦しい。
でも……
「ごめ、ん、なさい……ごめんなさい……ごめんなさい……! あたし、何も、わかってなくって……! そ、想像、してなくって……! いっつも、細かいこと考えるの面倒くさがって……! 単純に、なんとかなったらいいなって思うばっかりで……!」
「……」
「死んだ、ほうが、いいっ……! あたし、死んだ方が、いい……! で、でも、死ねない……死ねないよ……お母さんと、チビがいて……あ、あたし、バイト、して、家計を、支えないと、いけなくて……死にたいのに、死んでも、いけなくって……!」
「……」
「償いかた、わかんないっ……! ど、どうしたらいいか、わかんない……! あたし、何も、わかんなくて……ば、馬鹿で、ごめんなさい……生きてて、ごめんなさい……」
「いや、そこまで言うことはないでしょ……」
「だって……!」
「あー……そうだな、まあ、確かに、死んで償えるなんていうのは、考えの足りない考えだ。お前が死んでも、お前に殺された戦闘員は浮かばれない。それに……『死』は、償いにしてはやりすぎだよ。それじゃあ、お前の仇を討とうと……ヒナタちゃん? が、俺たちを憎む。そうなっちゃいけない。止めなきゃいけないんだ、報復の螺旋は」
「……」
「それに、お父さん、養育費も払ってないだろ? それで娘一人と幼い息子三人を面倒みてるお母さん、いいお母さんじゃないかよ。そんなお母さんから『娘』を奪うなんて、残酷なことをしちゃいけない。あと、家族が死ぬと住居に居づらくなるぞ。特に公営住宅は」
「じゃあ! どうしたらいいんだよぉ……!」
「待ってろ。ちょっと考える」
……わけのわからない人だった。
あたしを追い詰めたのに、今、なんでか、とても真剣に考えているように見える。
何がしたいんだろう。
何を、してるんだろう。
……まさか、本当に、『龍の洗脳』があって、それを解きたいだけ?
まさか、本当に──トマリは、『おかしくされた』んじゃなくて……あたしたちが、おかしい、の?
トマリは、洗脳を解かれてまともになって、あたしたちが……
あたしが勝手に、トマリのことを、怖いとか、変わったとか、おかしくなったとか、思い込んでただけ?
──笑顔が怖いのは、その笑顔を怖いと思ってる自分の心のせいだよ。
──酷いなホノカちゃん。……私が自由になれたのに、全然、私の主張を聞いてくれない。私は、今幸せだって言ってるのに、私のことを信じてくれない。
トマリの言うことは、全部、本当で……
ただ、あたしが、思い込んで、信じられなくて、トマリを突き放してた、だけだった……?
「よし、わかった。ホノカちゃん、お前は教団に入れ」
「…………え?」
「教団戦闘員を殺した償いは、教団に入って働きで償うべきだ。それに、トマリちゃんの望みでもあるだろ?」
「……そ、そう、だけど……」
「ただ、魔法少女は教団に置いておけないんだ。教団は、魔法少女と敵対してるから」
「……」
「だから、俺が、魔法少女をやめさせてあげるよ」
「え?」
「トマリちゃんにやった方法でさ。……ただまあ、君を犯す必要があるんだけど……」
犯す。
お尻の穴、クリトリスで、遊ばれて、あっという間に、気持ちよくなるようにさせられた。
でも、処女はまだある……
犯す。
あの時のトマリみたいに、あたしも……あれを、入れられて……
犯す。
犯す。
犯す──
「っ、いっ♡」
「ああ、触ってないのにイッちゃったね。……トマリちゃんが犯されてる姿をネタに、オナニーでもしてた?」
「…………っ」
「犯すって言われた時、目がとろんとしてたよ。ああ、でも──そう広くもないおうちで、弟三人のお世話までしてるんだよね。オナニーする場所なんか、ないでしょ」
「……」
「ホノカちゃん、君、もしかしたら」
「……な、なに……」
「俺がトマリちゃんを犯した日から、ずっと、誰かに──俺に、犯されたかったんじゃない?」
「………………」
否定しようと思って口を開いたはずなのに、言葉が出なかった。
いつの間にか露出していた男の人の下半身に目が奪われて、生唾を呑み込んでいた。
犯されたかった。
犯されたかった?
……犯されたかった。
本当は、そうだったのかもしれない。
トマリは本当に幸せそうで、この人は本当にトマリを愛しているように見えた。
二人が結ばれるのは、あんな場所で、あんな状況だったにもかかわらず、とっても自然なことに見えた。
あたしは本当に『龍の洗脳』を受けていたのかもしれない。
どうしてトマリの『幸せだ』っていう言葉を信じてあげられなかったんだろう。
外から押し付けて、『お前は不幸だ』って決めつけてしまったんだろう。
あたしは……
「あ、あああ、ああああ、あた、あたし、あたし、は、あたし、は……!」
「『龍の洗脳』が解けかけているのかな。つらいだろう? ……俺に『隷属する』と誓え。そうしたらその苦しみから、逃れられる」
「あたし、あたしっ、あたしは、あた、あたし、あたし、あたしいいい……!」
「何も心配いらないよ。君が望むなら、君の家にだって戻れる。それに、お母さんも、弟さんも、養える。魔法少女活動なんて、青春の貴重な時間を使って、無償でやるべきことじゃない。適切な報酬が必要だ。こっちに来れば、君に、働きに応じた報酬をあげられる」
「あたし、あたしっ……!」
「ねぇ、ホノカ。幸せになっていいんだよ」
「…………」
「龍に騙されて辛かったね。君のせいじゃない。君を騙した龍のせいだ。……でも、君はいい子だから、責任をとろうと思ってしまうんだろう? だからさ……」
「……」
「一緒に、責任の取り方を考えていこう。俺も、トマリちゃんも、寄り添うよ」
…………。
………………。
……………………。
「あ」
「あら、イッちゃってるね」
「あたし、あたし……れ、隷属、します。一緒に、寄り添って、ください……一人じゃ、なんも、わかんなくて、どうしたらいいか、わかんなくて……ふ、深い考えも、なくて、ただ、面白そうだって、そう思っただけで、大変なこと、して、どうしたらいいか、わかんないから、だから──」
「隷属を認める」
「──あ」
頭を縛り付けていた何かがほどけていくような、感覚があった。
気持ちいい。飛んでるみたい。ふわふわする。
お腹、あったかい。中に、出されてる。授業で、習った。子供、できちゃう、かも。
でも、いいや。
ずっと面白いことを求めてた。
体を動かすのは好きだったけど、でも、誰かと競争するのはそんなに好きじゃなかった。
大抵のことは……運動なら、人よりうまくできちゃって、すぐに競争相手がいなくなるし……
プロになるような人たちに混じるお金も、なかったし。
ずっとずっと、チビたちの世話をして、バイトできるようになったら、お金を稼いで家に入れようって思ってて……
お金のかからない楽しいこと、探してた。
迷惑をかけるのが、怖かったから。いつも、お金がないって、お母さんが言ってたから。あたしは、お金のかからない場所から、探してたんだ。どうしたらいいかもわからず、やみくもに……
でも、そういうの、一人で悩まなくていいんだ。
……そう、だよな。なんで、『龍』の言うことを聞いて、貴重な時間を使わなきゃいけなかったんだろう。
あたし──
「──間違ってた」
「……」
「あたし、間違ってた。トマリが、正しかった。トマリは……幸せだった。トマリは、怖い笑顔なんか、浮かべてなかった。トマリは…………トマリは…………おかしくなったあたしを、助けようとしてくれた……!」
「辛かったね」
「ごめんなさい……ごめんなさい……信じる……これからは、信じるよ……! 信じる! 信じます!」
「拘束も、外してあげよう。……少しキツめだったから、痛かっただろう? ごめんね」
「いえ、だ、大丈夫ですっ……」
「こんな手段しかなかったとはいえ、犯してごめんね」
「あ……」
彼のモノが、まだ中に入って……
いない。
でも、挟まってる感じがする……
まだ中にある、気がする。
あったかい。
あったかくて、なんか、涙が、出るぐらい……幸せ。
「……はい、拘束は解いたよ。動けるかい?」
「え、えっと、は、はい……」
「うん、良かった。……ああ、ごめん。泣かせてしまったね」
「え、あの、こ、これはそういうんじゃなくてっ」
「……ところで、何か、変化はあるかな?」
「変化?」
「樹とか」
「…………あ!?」
樹が、変わっている。
意識すればぼんやりと自分の体の中に見えた樹。
光り輝く枝が天を目指して伸びていたはずなのに……
「なんだか、暗くなって、根っこが下へ伸びてる……?」
「……よかった。これで君は、魔法少女を辞めることができた」
「……」
「この教団でも一緒にいられる。まあ、さっきも言ったように、帰っても大丈夫だけど」
「……あの、あたし、何かできること、ありますか?」
「……今は休んだ方がいい」
「でも、じっとしてるの、落ち着かないんです。動いてないと……不安なんです」
「……」
「なんか、怖くて。……何かをいっつもしてないと、怖くて。座ってじっとしてると、いろんなことを考えちゃうんです。自分の将来とか、チビたちは大学行けるのかとか、団地から追い出されないかとか……」
「それはお前ぐらいの年齢の子が考えるべきことではないだろ」
「でも、あたしの家、貧乏で……」
「わかった。そういうことは考えなくていい。……本当に外道だな、『龍』。マジで怖い」
「あ、あの……」
「まあ『考えなくていい』って言われても、いきなりそうはできないか。じゃあ、そうだな……」
男の人は何かを悩んで、
「……ヒナタちゃんの『勧誘』を手伝ってほしい。今から行けるかな?」
もちろん、あたしは……
「はい!」
ヒナタだって、助けたい。
だから、行こう。……最後の一人を、助けに。
ヒナタを、一人ぼっちにしないために。