ヒナタ(黄色い魔法少女)とトマリ、ウルフガール&戦闘員が戦っているところです
戦場に選ばれたのは、除夜の鐘が鳴らされている最中の神社の境内だった。
初詣客でにぎわうはずのそこは、突然襲撃してきた怪人と戦闘員によって、混沌の坩堝と化した。
(なんで、こんなタイミングで、ここに……!?)
ヒナタは、悪の組織──『大樹教団』とは、何度も戦っている。
その中で、なんとなくの行動パターンみたいなものとか、襲撃場所とかを、把握していた。
まず、連中はだいたい、午後三時から六時の間ぐらいに襲撃に来る。
そしてだいたい、決まった場所を襲撃する。同じ場所に四回も五回も出るのだ。
その『決まった場所』の中に、ヒナタの家である『
……それに、連中の目的は、『人』でもなかった。
『決まった場所』で、何かをしようとしていた。龍脈の溜まり──そこをどうにかするのが連中の目的で、人を殺したり、街を襲ったりするのは『ついで』でしかないというのを、『龍』にも確認した。
「ひぃ、なっ、たちゃん! あそぼっ!」
「トマリ──」
すさまじい速度で接近してきたトマリが、ヒナタに薙刀を叩きつける。
ヒナタは自分の武器であるロングソードで、受けた。
鍔迫り合いが始まる。
「──トマリちゃん! どうしてこんなことするの!?」
「助けてあげたいんだよ、ヒナタちゃんを。気付いてよ。おかしくなってるのは、自分の方だって」
「そんなこと──そ、それに、ホノカちゃんは!? 一緒にいたんでしょ!? どうしたの!? まさか……」
「乱暴なことなんかしないよ。私はね、ヒナタちゃんと、ホノカちゃんを助けてあげたいの。セントさんは優しいから、私のお友達も助けてくれるって。だから、一緒に甘えようよ」
「ホノカちゃんは、どこ!?」
「今の私のおうちに、招待したよ。『大樹教団』のアジトだけど」
「……トマリちゃん!」
その時、ヒナタの全身が黄金に輝いた。
その光は勢いを帯びて、周囲の戦闘員、ウルフガール、それに鍔迫り合いをしていたトマリを吹き飛ばす。
光が晴れたころ……
覚醒フォームになった、ヒナタがそこにいた。
「いい加減にしてよトマリちゃん! 怒るよ!」
「怒られるのは、怖いな」
「ふざけないで! ホノカちゃんを返してよ!」
「ふざけてるのは、どっち?」
トマリの目が、真っ直ぐに、ヒナタを捉える。
あまりにも強い圧力に、ヒナタの足が、わずかに下がった。
トマリは──
「ふざけてるのは、どっちなの? 私の話、聞いてくれないじゃない。最初から、信じようともしてくれないじゃない。私はこんなに真剣なのに、どうして誰も、私の気持ちをわかってくれないの? 私は……ヒナタちゃんも、助けたいんだよ。だっていうのに、ヒナタちゃんは、取り合ってくれない」
「だ、だって、あんなことをされて……まともだと思えるわけないじゃん!」
「愛し合ってる私とセントさんが結ばれるのは、まともなことだよ」
「場所を選んでよ! 時と場合も!」
「……それは、そうかも」
「ほらあ!」
「ふふ。でも、別にいいよ、見せつけても。……ねえ、私、あなたたちのこと、別な生き物だと思って、あきらめかけたけど……でもね。セントさんが、調べてくれたの。『龍』があなたたちを洗脳して、都合のいいように操ってるって。だから私、あなたたちをあきらめないで済んだんだよ。洗脳されてるなら……話が通じなくても、仕方ないもんね」
「どっちが話通じないの!?」
「お互いに通じないのに、自分の方だけが正しいと思ってるのは、まともじゃないよ」
「そ、それは……!」
「……私、人を説得できたこと、ないんだ。私の言葉って、そんなに軽いのかな。私のお願いって、そんなに聞く価値ないのかな。妹も、お母さんも、お父さんも、私の訴えは全部『我慢しなさい』『お姉ちゃんなんだから当たり前でしょ』って聞いてもくれなくて、それでね、」
「……とにかく、戻ってきてよ。ホノカちゃんと一緒に。そして……話し合いが必要なら、話し合うから、だから……」
「ヒナタちゃんがこっちに来てよ。……ああ、でも、私の言うことは、聞いてくれないもんね」
「……」
「無理矢理引きずって連れて帰るの、心が痛むなあ」
トマリが重苦しい水球を生み出す。
それは深海の『圧力』だった。水を操るのはトマリの本質ではない。トマリの本質は『圧力』にある。
深海属性──ひたすら重く、ひたすら暗い。この地球上で最も謎の多いその場所、最も厳しい場所の一つである深海。そこを属性とする魔法少女。それが深海のトマリ。
だが……
「……わかった。私も、心苦しいけど……まともに話ができるように、してみせるから!」
ヒナタは太陽の魔法少女だ。
地上にさんさんと降り注ぐ無限の光こそ彼女の本質。
彼女の操るものはただの光であり、熱ではない。だが、光のみでも、その威力は高い。
水球と光球。
戦闘員や怪人が手を出せない領域の戦闘。選ばれし者同士のぶつかり合いが、今、始まろうと──
「ヒナタ、トマリ」
──始まろうと、したところで。
その場に現れたのは。
「ほ、ホノカちゃん!?」
ヒナタの注意がそちらに逸れる。
変身もせずに戦場に現れた彼女。
その危険性に遅れて気付いて、ヒナタは注意をトマリへ戻した。
トマリはホノカを巻き込むことなんか気にしないと思っていたからだ。
けれど……
トマリは、巨大な水球を消していた。
そしてホノカを待っている。
ホノカは……
トマリの横に立って、ヒナタに向かい合った。
「…………ホノカちゃん?」
「ヒナタ、あたしたちが間違ってたんだ」
「……ホノカちゃん?」
「洗脳を解いてもらって、すっきりした。……トマリの言うことは、正しかった。『龍』は、あたしたちを操ってる……その洗脳を解いてくれたのが、あたしたちが敵対してた『大樹教団』の、赤コートだ」
「え? な、何を言ってるの?」
「ヒナタ、おかしいだろ!? あたしだって、わかった。あたしたちは──龍のために、命を懸けたり、人の命を奪ったりする義理なんかないんだ! 目を覚ませ、ヒナタ!」
「え? え? え? ……え? え? 何、何が、え? 何……?」
言われていることは理解ができた。
でも、なんでそんなことをホノカが言うのかが、理解できなかった。
だって、さっき……少なくとも昨日まで、ホノカも、トマリが間違ってる、トマリが洗脳を受けていると言っていた。
だっていうのに、今日、急に、あんなことを言い出した。
心が追いつかない。
「あの、えっと、ふ、二人とも……どう、したの? 何かのサプライズ? ちょ、ちょっと、笑えない……笑えないよ……」
「ヒナタ! 目を覚ませって! お前はあたしと違って頭がいいから、きちんと考えられるはずだ! そしたらわかる! 『龍』はおかしい! 龍は、あたしたちを便利に使ってるだけだ! わかれよ!」
ヒナタは、戦闘員に取り囲まれている状態だというのに、混乱し、立ち尽くしてしまった。
……わけが、わからない。
(洗脳? 龍の洗脳って、何? 洗脳されてるのは、トマリちゃんで……あれ、でも、ホノカちゃんも、洗脳された? 私……私は、本当に、まともなの? 二人が、おかしいの? おかしいのは、私なの?)
「ヒナタ! 一緒に来い! あたしたちは、幸せになっていいんだ! 戦いをするなら、するなりに報われなきゃいけない。龍は報いてくれない! でも、赤コートなら、報いてくれる!」
「……何、が……?」
「一緒に行こう! 何も壊れない! 何もおかしくない! なあ! あたしは──友達を、助けたいよ……! ヒナタ、助かろうよ。それ以上、罪を重ねる前に──戦闘員たちを殺してしまう前に。怪人とかを、殺してしまう前に! ……償おうよ、あたしと一緒に」
「罪……? 罪って、何……? 殺す、って、どういうこと? 私は……私は、別に……そんなこと、してるつもりじゃ……」
「戦闘員も怪人も、もともと人間なんだよ!」
「……!?」
「なんかよくわからない化け物じゃないんだ! 人間なんだ! あたしたちの魔法で消えるけど、人間なんだ! あたしたちは──人間を殺してたんだ!」
「……………………はえ」
「ヒナタ、一緒に償おう! 方法は、あたしじゃわかんないけど……赤コートも、トマリも、一緒に考えてくれる」
「ほえ、え、は、はひ? はえ?」
ヒナタの頭はもう、あらゆる情報を処理できなくなっていた。
ただただ変な声が漏れるだけで、意味あることを何一つ考えられなくなっている。
目を大きく開いたまま、カクカク揺れて、変な声が漏れる。
何もわからなかった。何も考えられなかった。
意味がわからなかった。
動けなかった。
「ヒナタ、だから、あたしと──」
「ヒナタ」
ずしん。
目には見えない圧力が、その場にいる全員に──
──ヒナタ以外に、かかった。
ウルフガールはおろか、トマリも、ホノカも、地面に押しつぶされるように倒れている。
混乱の極みの中で、ヒナタはやはり、今、目の前で起きている現象について、考えることさえできない。
そのヒナタの手を、そっと取る、女性がいた。
角を生やし、龍の尾を生やした、白い和服姿の女性。
──龍の化身。
「ヒナタ、ここは退こう」
「あえ? あ、ホノカちゃ……トマリちゃ、いっしょ、いっしょ」
「二人は今は助けられない。体勢を整えないと」
「お友達、お友達、だよ。うん、お友達。いっしょ、うん、いっしょ」
「私の力も長くは助けられない。少し強引だけれど──こちらへ!」
龍の化身が、ヒナタの手を引き、空へと舞う。
「ヒナタぁ!」
『さらわれていく』ヒナタに、ホノカが叫んだ。
……重圧は、解けない。
たっぷり、たっぷりと、長い時間が経ったあと……
ようやく、重圧が解ける。
立ち上がったころには、もう、そこには、ヒナタはいなかった。
どこにいるのかも、わからない。ただ……
戦闘員に、ウルフガール。トマリ、ホノカ。そして……
龍の化身に押しつぶされた『ヒナタの家』だけが、残されている。
「……どうしてわかってくれないんだ」
ホノカが悔し気に、玉砂利の地面を叩いた。
トマリはそれを見て──
「私の気持ち、少しはわかってくれたみたいだね」
──冷ややかに。
友達に向けるものではない声を、向けていた。