電撃的な作戦だけあって、テレビ局ジャック自体はすぐに済んだ。
狙ったのが地方ローカルだったのも、全国の局よりはやりやすかった理由だろう──とはいえ、俺たちは末端の戦闘員一人にしたって、おまわりさんを普通に倒せるぐらい強い上に、近代兵器が効かないわけで。
俺たちの目的が『都市部でのテロ』にあったら、たぶんとっくに目的は達成されてるだろう。
武装しないでマスク脱いじまえば誰かわからんモブ一人一人が、拳銃持ったおまわりさんより強いって、それもう現代の警備事情だと解決不可能な問題だからな。逆に戦国時代のが俺らにはやりにくかったんじゃねーかな。バスタードソードぶら下げたステゴロ上等がうろうろしてた時代だろ。よく知らんけど。
そしてジャックした電波を使って、街にヒナタを呼び出す番組を流した。
かわいい青と赤の魔法少女がお友達に呼びかけるだけの放送だが、台本では『龍』のために戦うのは間違ってるとか、戦闘員も人間で、魔法少女はこれを殺してるとか、そういう情報を交えた。もちろん、龍に洗脳されて都合よく使われてるよという話も交えて。
ぶっちゃけこれで出る実際的な影響は微々たるもんだと思うが、やらないよりは効果があるだろう。
魔法少女は『洗脳』されてるので龍側を正義と信じて疑わないだろうが、一般市民の方に影響が出るだろう。世論を使おう。所詮は多感な少女どもが相手だから。
さて、呼び出しは功を奏して、ヒナタちゃんはテレビ局屋上に呼び出されたわけだ。
その模様も撮影された。
こちらの陣容はトマリちゃんとホノカちゃん。魔法少女の『深海』と『朽壊』になる。
ホノカちゃんはファイヤー系魔法少女だったわけだが、その本質は『朽ちる・壊す』にあるらしいという説明を錬金術師オリガから興奮気味にまくしたてられた気がするんだが、詳しいところは聞いてなかった。当人がわかって利用できればそれでいいだろう。
さて悪墜ち覚醒魔法少女が二人。
テレビ局の周囲には、魔法少女連合が攻めてきてもいいように、戦闘員どもとハハキ、エリザ、ウルフガールを配置済み。
そういう万全な状況で──
「……トマリちゃん……ホノカ、ちゃん……」
俺たちは、まず、勝利した。
二人の悪堕ち覚醒魔法少女が相手だと、さすがの覚醒ヒナタちゃんも分が悪かったようだ。
それでも三分ぐらいは二人を相手に渡り合っていたが、どんどん押し込まれて、ついには倒れた。
トマリとホノカ、特にトマリの方が容赦が全然なかったのに対して、ヒナタちゃんの方には迷いとか容赦が見えたあたりも、たぶん勝利の理由だろう。
……だが。
「……二人はもう、戻らないんだね」
ヒナタちゃんがそんなことをつぶやいた時、俺は『あ、まずいな』と思った。
何か来る。すでに覚醒変身をしてるけれど、これ以上の強化が来る。『世界の主人公としての補正』による強化が来る。負けの運命を無理に覆すなんらかの因果変更が来る──そう思った。
退却の準備を整えつつ見ていれば──
それは、成った。
ヒナタちゃんの全身が光り輝き、姿が変わる。
これまでのふわふわスカートのアイドル衣装みたいなフォームから、無駄な布を取り払った姿になっていた。
どことなく和服・巫女服のニュアンスを残した、ミニスカートのような袴と、鱗の紋様が描かれた大きな袖口の格好。
持っていたロングソードは日本刀、それも祭器めいた形状になり……
額からは二本の、細長く、枝分かれした角が。
腰の後ろ、たぶん服が空いているそこから、龍の尻尾が。
龍化覚醒──とでも言うべきだろうか。
うちにも竜鱗のハハキとかいうデカパイがいるが、そいつがどことなく西洋風なのに対し、こっちは東洋風で、翼がない龍を連想させる。
そこからはもう、一方的な展開だった。
トマリちゃんとホノカちゃんが、手も足も出ない。
速すぎる。強すぎる。
しかも、目。あの縦長の瞳孔の入った黄金の瞳で見られると、動けなくなる。威圧、とかだろうか。
二人の覚醒魔法少女を蹴散らして、ヒナタちゃんが俺に迫ってきた時は、死を覚悟したものだが……
こっちも遊んでたわけではないんで、存在希薄化で一瞬見失わせることに成功。
周辺のハハキとかエリザに退却の連絡をしつつ、倒れたトマリとホノカを回収してアジトにテレポートしましたとさ。
なので結果的に、魔法少女連合との最終決戦が始まることはなかった。
なぜって、俺たちが、戦闘開始からだいたい五分ぐらいで撤退したためだ。集まる暇ねえよ。
なんかこうなる気はしてたんだけど、実際になられると『ふざけんな』って感じだ。まあ……
あとは、発信機の成功を祈りつつ、次善の策を用意して待とう。
ねぐらがわかれば、あとは俺の戦いだ。
お前も性奴隷にしてやる。
◆
「『龍』が出ましたね」
作戦はまあ失敗というリザルトにはなる。
俺としては『予想してたので今後の布石にした』わけだが、魔法少女との決戦前に『負け』がカメラに収められたこと、俺たちの組織が可能な『万全の布陣』でたった一人に負けたことなど、組織の作戦として『成功』と呼べる点がどこにもない。
なのでさすがに糾弾を覚悟して総大主教『聖なるマリアンヌ』の呼び出しに従ったわけなんだが、どうにも様子がそういう感じじゃない。
「映像は見ました。龍はまだ、自我を消していなかったようです。あの状態であれば、わたくしが出れば勝てるでしょう」
ボスは人の思い出を力に変えるとかいう主人公みたいな魔法を使うらしい。人のっていうか、自分のもか。
で、この組織は因子注入のついでに『思い出』を抜いてるわけで、ボスの思い出ストック、つまり戦闘のためのエネルギーは、結構な量が溜まってるはずだ。
しかもヒナタちゃんの状態はまだ『不完全』らしい。
マジかよ。あの強さで? ふざけてるな、パワーインフレ。俺がついていけてねえよ。
「龍と、相性のいい依り代は、消さねばなりません。あなたの望みの通り、わたくしが出陣します。……再び、あれを呼び出すことは可能ですか?」
俺がまだビビるほど強いボスが出てくれる。
さすがにたぶん、片付くだろう。
……片付いちゃうんだよなあ。
ヒナタちゃん、死んじゃうよなあ、きっと。
「……申し上げます」
「……聞きましょう」
「今しばらく、私にお任せくださいませんか?」
失敗したばっかりの新人幹部が、宗教組織の絶対的上司に言っていい言葉じゃないよな。
結構マジで命懸けだと思う。
でも、思った上で、やっぱり俺は、どんどん、『欲望』を止められなくなってるらしい。
「きたる魔法少女連合との決戦で、ヒナタを引き入れておくことは、必ず役に立ちます。私は、そのための仕込みを成功させております。確かに、情けない、責めを負うのも間違いのない戦果であったことは否定のしようもございません。しかし……どうか、今一度、機会をいただきたいのです」
「影のセント」
「……は」
「本当に『それ』が本心ですか?」
「……は?」
「あなたがやりたい。その目的は、我が組織と、カミラがまとめた魔法少女連合との決戦で役立つ仲間を引き入れておきたいなどというものですか?」
「……」
「あなたが、あなたのままに振る舞うこと。これが、大事なことです。あなたの正直な動機を語りなさい」
「…………では、申し上げます」
「どうぞ」
「三人いるうちの二人を引き入れた。一人残ったままだと、気持ち悪い」
「……」
「動機としてはせいぜい、そんなところです。そもそも『欲しい』とは思っていますが、それは、まんべんなく、ヒナタだけではなく、人生の基本方針として、欲しい。その上で、ヒナタだけにある『動機の上乗せ』は、そういう、コンプ欲程度のものです」
「死にかけたようですが、それでも再び、龍の魔法少女と相対する。その覚悟があるのですか?」
「俺は俺の欲に命を懸けても惜しくない」
「……」
「そもそも、ハハキの時だって死にかけてますからね。もっとうまいやり方はあった。でも、舐められたままなのが許せなかったから、さっさとわからせてやりたかった。しかも、屈辱的にわからせてやりたかった。だから、危険な手段をとった。最初から、俺は俺の、くだらないこだわりに命を懸けています。今回も同じです」
「ならば、あなたの意見を採りましょう。……龍の魔法少女を任せます」
「ありがとうございます」
「しかし」
……そこで、ベールの向こうのシルエットが動いた。
座っていたところから、立ち上がるような、そういう、動きだ。
……影が、大きくなる。
近付いている。ベールに。
ベールが……
ひとりでに、上へ、めくりあがった。
総大主教が、姿を現す。
それは想像していたよりずっと若い容姿の女だった。
せいぜい十代中盤にしか見えない。白地に金の糸で刺繍した服をまとった少女。
髪の色は紫に近いピンクで、瞳の色は……わからない。
彼女の両目は、プリズムのように、光が当たる角度によって、色を変えていた。
スタイルはいい。魅力的で若い女だ。
出るところが出ていて、引っ込むところが引っ込んでいる。脚にかけてマーメイドラインになるローブのお陰で、そのスタイルがよくわかった。
袖の大きな衣装だ。その袖は、床にこすりそうになっている。だが、こすられていない。彼女の身長に合わせて作られた──どう見ても、この世のものとは思えない、衣装。
……この世のものではないのだろう。
五百年前。この世界に彼女らは渡ってきたという。
その時に着ていた衣装なのだろう。……その時から、この衣装は朽ちておらず、『聖なるマリアンヌ』もまた、スタイルが一切変わっていない。
五百年、そのまま。
成長も、老化も、ない。
総大主教が目の前に立った時、俺の体が勝手に椅子から尻を降ろして、その場に跪いていた。
いわゆる『怖さ』はまったく感じない。
でも、ひれ伏してしまう。包み込むような雰囲気があった。どこにいても、何をしていても、何を思っていても、見抜かれているような気がする。そういう、雰囲気だ。
「しかし、『影のセント』よ。失敗は許されません。わたくしは、『龍』を根こそぎにしなければならないのです。あの生物を許してはいけないのです。それが、わたくしが、わたくしに残した、唯一の、『わたくしの思い出』なのですから」
「……は」
「あなたを契機に、『反転』は始まった。時代が転換したのです」
「……」
「期待しています。あなたへの期待に、これまでは責任を伴わせなかった。しかし──今回ばかりは、期待されるだけ、責任も負うものと考えなさい」
「……はい」
「理解しているならば、結構。……わたくしは、見守りましょう。そして、祈りましょう。どうか、我が血を宿した我が子らが、あの龍を滅し尽くしますように」
「……」
「行動を、開始なさい」
「……かしこまりました」
いや……
本気で怖い。
雰囲気が人間じゃなかった。
こっちを見てるのに、俺を見てなかった。
人間なら誰でもあるはずのものが、存在から感じ取れなかった──言語化は難しい。感情の揺らぎとか、相手への興味とか、ポジションへのこだわりとか……たぶん『熱』だろう。熱が、なかった。
熱がないのに、ものすごい粘度があった。
これが『聖女』か。
美人でスタイルがいい。しかし、人間を超越した何か。宗教の体現者にして復讐者。
どうしよ、おちんちん立たない。
俺の中でマリアンヌは『絵画』とかのカテゴリっぽい。犯してモノにする自分の姿が想像できない。
たぶんまだ、俺の存在の位階みたいなものが低いからだろう。
……方針は変わらないってわけだ。
鍛えてレベルを上げて、全部手に入れる。
そのためにまずは──
魔法少女を、経験値にしに行こう。