「ヒナタ、大丈夫かい?」
「うん、平気……」
まだ、ふわふわしてる。
すごい力だった。……『龍』の力。
トマリちゃんとホノカちゃんと戦うことになったのは残念だったけど、あの力があれば、二人を助けることもできるはず……
助ける……うん、助けるんだ。
『大樹教団』に操られてる二人を助ける。
そのために……赤コートを、倒す。
そうしたら、二人も元に戻ってくれるはず……
それ以上、罪を重ねる前に──
戦闘員たちを殺して──
戦闘員も怪人も、もともと人間──
あたしたちは人間を──
「っ」
「ヒナタ、大丈夫かい?」
「だ、大丈夫。何か……たぶん、私も、大樹教団に何かされたのかも……」
知らない言葉が、頭に浮かんだ。
ホノカちゃんの声で、ホノカちゃんの顔で、私に何かを訴えてくる、偽りの記憶。
知らない。こんなのは、ホノカちゃんの言葉じゃない。ホノカちゃんは、こんなこと言わない。
操られてるんだ。それに、私だって、何かの影響を受けてる……
早く、赤コートを倒さないと。
龍の力は強いけど、まだまだ全然、私はそれを引き出せてない。
龍は、言ってた。『昔、力を貸したことがある。でも、その時は、力を注ぎすぎて、その人の自我が消えてしまった。君には消えて欲しくないから、すべての力は、貸せない』──
……でも、二人を助けるためなら、私は、消えちゃってもいい。
私には、トマリちゃんとホノカちゃんだけなんだよ。
大事な人はいっぱいいるし、親しい人もいっぱいいるけど、突然出会って、ありのままで心許せる間柄になったのは、二人だけなんだよ。
だから、二人のためなら、命も、『自分自身』も、惜しくなんかないよ……
戻ってきてよ。
少し前までみたいに、仲良く、遊ぼうよ。
「トマリちゃん、ホノカちゃんは……今、どこにいるんでしょう?」
「恐らく、『大樹教団』のアジトだろうね」
「そこに行くには、どうすれば……」
「……すまない。あれは、錬金術の分野だ。この世界においては『科学の原型』というような扱いもされるようだけれど、独自発展した別な技術だと思った方がいい。……君たちの魔法でも、私の『龍の力』でも、あれだけは再現できない……」
「……そう、ですか……」
龍の力は、『龍脈溜まり』に接触されれば、その場所を感知できる。
でも、能動的に、龍脈溜まりに触れてない人を探すことはできない……
アジトがあるんだから、この地球上のどこかにはいるはずで、テレポート以外でも行く手段ぐらいあると思うんだけどな。
それとも、『龍』みたいに、『次元と次元の隙間』──『時空層』にいるのかな。そうだとしたら……
やっぱり、私自身が、龍になるしか、ないのかな。
「……ヒナタ、ここに近付いている『異界の者』がいる」
「え?」
異界の者──
大樹教団の誰か、っていうことかな……
「戦意はなさそうだが、君を目指して真っ直ぐに来る。……尾行をされたのかもしれない」
私は大樹教団や……トマリちゃんとホノカちゃんと、テレビ局で戦ったあと、飛んで、ここまで戻ってきた。
『ここ』──
ここは、まだ一回も襲撃されていない『龍脈溜まり』だ。
龍は化身を出しているだけでも力を使うみたいで、あまり龍脈溜まりから遠い場所には、化身も出せないみたい。
こっちの時空層で使う力はこっちの時空層で溜めるしかない──みたいな話をされたっけ。だから魔法少女を介して力を溜めて、こっちの時空層で振るう力を溜めて……
このあいだ、神社で、私を助けるのに、ほとんどの力を使っちゃったみたい。
ここは私の神社に残ってた『龍神伝説』の舞台になった場所の一つで、深い森が伐採もされずにそのまま維持されている場所だ。
中央には御神木があるんだけれど、一般の人には公開されてない場所で、だから、あんまり知られていない。
その樹の虚が、今の私の住んでいる場所。……おうちも壊れちゃったし、それに……お父さんやお母さんにも、親戚にも、お世話になれない。だって、私のいる場所を、大樹教団は狙ってきたから。私がいたら、迷惑をかけちゃうから……
「……トマリちゃんも、ホノカちゃんも、この場所は知らないはず、ですけど」
私の住所は二人がいればわかるだろう。
でも、この場所は二人も知らない。ということはやっぱり、尾行されたんだ。
結構、速く飛んだと思ったんだけどな。
「どうするヒナタ? ……正直、君は強いが……君の強さには、『反動』がある。いくら私と相性が良くても……」
「『龍の力を人間の体で使うと、負担が重い』んですよね。……変身した姿から戻れないのも、そのせいだって」
「……そうだ」
「大丈夫です。私は、戦えます。……二人を取り戻すまで、戦い続けることができます」
「……そうか」
「それに、大樹教団の人が来てくれるんなら、倒して、アジトに入る方法を教えてもらうだけ、だから」
樹の虚から出る。
そこには……
「あら、もう変身済みなのね。……でも、そんなに敵意のある目で睨まないでくれるかしら?」
紫髪の、大人の女の人がいた。
その人は──
「『蟲毒のカミラ』?」
「あなたたちのいる地域は担当ではなかったのだけれど、よく知っていたわね?」
「……動画が出回ってますから」
「ああ、撮影してた子たちの……」
カミラはため息をついていた。
あんまり、撮影されるの好きじゃないのかな。……気持ちは、ちょっとわかる。
「とにかく、魔法少女『シャイニー・サンストーン』に話があって来たのよ」
「私も話があります。……あなたたちのアジトに入る方法を教えてください。できれば穏便に、話を聞きたいと思っています」
「あら、そうなの? だったらちょうどいいわね。あたくし、あなたを勧誘に来たの」
「……勧誘?」
「もううちの総大主教様──『聖なるマリアンヌ』にはついていけなくてね。それで、魔法少女たちに呼びかけて、総大主教様を倒してしまおうとしているのよね」
「……」
「あなたも、あたくしの集めた『魔法少女連合』に加わらない? アジトへの侵攻計画も立てているし──あたくしなら、アジトにみんなを連れて行くこともできるのよ」
……明らかに、怪しい誘いだ。
「どうやって、私の居場所がわかったんですか?」
「ふうん、慎重なのね? でも、泥臭い手段だから、あんまり言いたくないわ」
「……」
「わかったわよ。『毒』を使ったの。薄くて害がない毒を、雨水に乗せて、地上に降り注ぐような、毒──それを使って、あたり一帯をしらみつぶしに探したの。そうやって、魔法少女たちを見つけて、一人一人、説得していった。ここも、そういう手段で見つけたのよ」
「……」
「真実を話してるのよ? でも、それで信じてもらえないなら、仕方ないから、あきらめるしかないわね」
「地道な作業をするタイプには見えません」
「あたくし、見た目がゴージャスだからね。意外だとは思われるでしょう。でもね、『毒』は、地道に、裏でもがかないと、成果を出せないのよ。見えない場所での準備が、全部なの。……あたくしのそういう努力を、ママはわかってくれなかった」
「……?」
「……新参者が幅を利かせてると、やるせなくなる気持ち、わかるかしら? 総大主教様は、新しい男に夢中で、これまで支え続けた部下なんかどうでもいいと思っているのよ。……ねえ、努力に応じた愛を返してもらえない時、何もかもどうでもよくなる気持ち、わかるかしら? あたくしが今、あなたに声をかけている動機は、そんな程度のものなのよ」
そういう気持ちがわかるか、と言われれば……わかる、と思う。
積み上げてきたものがあった。
結ばれてきたものがあった。
でも、ある日、『新しい男』に、全部、根こそぎ、奪われた。
私たちが過ごしてきた時間より、あんな、急に出て来たやつの方を、トマリちゃんも、ホノカちゃんも、信じて……しかも、私の方が、間違ってるって、そんなことを言い始めた。
これが洗脳じゃなくて、なんなんだろう。
「……信じたわけじゃありません。でも、気持ちは、わかります」
「そうねえ、あなたなら、わかってくれると思っていたわ。信じて尽くしていたのに、裏切られた気持ち」
「……」
「魔法少女たちをいっぱい仲間にしてね、情報も集めやすくなったのよ。あなたと、お友達のことも、知っているわ。……取り戻したいんでしょう? あたくしが、力を貸してあげる」
「……わかりました。あなたの誘いに乗ります」
「ああ、それから……」
「?」
「別に敬語なんかいいわよ? あたくし、たぶん、あなたより年下だから」
「…………えーっと」
「見えないでしょう? ……寿命が短くて、成長が早いのよ。好きで年増みたいになってるわけじゃないの。ねえ、短い人生、好きな人に愛されて生きたいって、そんなに過ぎた望みかしら? そうは思えないわよねえ。好きな人の愛が、自分の人生の中で、ずっとそっぽを向いてるって、耐えられないわよねえ……!」
「……」
「……あたくしは、愛されたいのよ。誰よりも、愛されたいの。愛されないなら、産んで欲しくなんかなかったの」
「……」
「……あら、ごめんなさい。感情的になってしまったわね。じゃあ、集合場所と、計画の実行時間だけ教えておくわね。集合場所は魔法少女たちが普段駄弁れるようにしてあるから、好きな時に来ていいわよ」
「なんだかサービスがいいですね」
「どうせ、お互いに短い命なんですもの。楽しく生きたいじゃない? お友達をいっぱい作って」
「……お互いに?」
「あら、あなたも知らないの?」
カミラの表情は、同情的だった。
驚いても、いたようだった。
「普通にしていれば一生眠っていた才能を、無理矢理にたたき起こされているのよ? 寿命に影響しないわけがないでしょう」
「……」
「それでも、あたくしよりは長く生きるでしょうね。でも、普通の人よりはずっと短い──楽しみましょう? 短い一生を。愛されましょう? 愛してもらいたい人に。ね」
待っているわ、と言って、カミラは背中を向けた。
……寿命。
知らない。聞いてない。
「やっぱ『龍』ってクソじゃん」
「!?」
声が、聞こえた──
──気が、したんだけどな……
男の人の声? ……わからない。確かに聞こえたはずなのに、だんだん、幻だった気がしてくる……
「ヒナタ」
「…………ドラゴンさん」
「本当に、信じるのかい? 彼女は……邪悪な樹を宿したままだ。君にとっては、存在そのものが毒になる。相手にとっても、君の存在は猛毒だ。あまり、一緒に行動をするのは勧められないが……」
……たぶん、『龍』には、私に言っていないことがたくさんある。
何が正しいの?
誰を信じればいいの?
私は……
私は、誰に愛されたいの?
……わからない。わからないよ。
助けて。一緒に、考えようよ。悩みを、打ち明け合おうよ。
トマリちゃん、ホノカちゃん……
戻ってきてよ。