とりあえず、トマリとホノカを迎えに来させて、ヒナタちゃんをアジトに送った。
俺は彼女らぐらいの子が戦いなんてさせられるのには反対だし、戦いを強いるやつは外道だと思っている。
そして俺は悪の組織の幹部なので、魔法少女連合との戦いには役立ってもらおうと思っている。
俺のために役に立て。
で、目下の問題は……
「えーっと……フランさん……フラン様……」
「呼び捨てでいい」
「……一応、総大主教様には、お任せいただけるように話を通してありました。通達とかする組織ではないと思うので、別にその件で物言いがあるわけではありませんが。だからその、獲物の横取り的なことを思わないでいただけるとありがたいです」
「別にいい。セントの無事のためにやったこと」
「……戦闘中の会話を聞いていたんですが」
「……」
「文脈的に、もしかして、俺は、フランさんの家族なんですか?」
──魔法少女。フランの家族を奪った連中。セントまでやらせない。
明らかに、『家族』かそれに類する関係性の相手に向ける表現だ。
まあ、フランが俺を気にかけすぎていたので、単純にフランがめちゃくちゃ世話焼きで優しいか、それとも記憶を失う前の俺と何かの関係があったか──というあたりは、想像していた。
忙しくて探る時間が普通になかったのと、そもそも俺は、俺の過去に全然興味がなかったので、スルーしてた疑問ではあったが……
さすがに今、このタイミングで『そういうことで。じゃ、また』と立ち去るのは、なあ……
妹か、あるいは娘なんてこともあるのかもしれない。
娘だとしたら妻がいる……この機会に聞けそうなことは、まあ、聞いておくか。フランが渋らない限り。
フランは相変わらず無表情で、何を考えているかわからない。
沈黙も、ただの『答えない』という意思表明なのか、答え方を考えているのか、それもわからない。
なんならこのまま黙ったまま見つめ合う時間が永遠に続く可能性もある。本当に何を考えているかわからないのだ、『消滅のフラン』は。
まあ、怒らせたら、死ぬだろう。
それこそ『消滅』する。
さっきのバトル、まったくついていけなかったからな。
俺のスキルが直接戦闘向けではないとはいえ、明らかにレベルが違い過ぎた。
総大主教様クラスの能力がある。……いや、総大主教マリアンヌは『これ以上』の可能性もあるのか。困るなー。
やっぱりこっそり忍び寄って調教する方法以外で俺に『勝ち目』はないな。
影の薄いセント、略して『影のセント』は、間違ってもガチバトルをしようとしちゃいけない。事前に仕込みを終えて相手がガチバトルのルールでやってる中、こっちだけバトルファックをして、有利なルールを押し付けていかないと、パワーインフレから振り落とされて死ぬ。
……さて、さすがに沈黙が長くて考えが一段落ついてしまったぞ。
ごめんなさい、それじゃ! ってした方がいいか、そろそろ?
「フランは」
帰るギリギリのタイミングで、フランが口を開いた。
本当に綺麗な顔をした女の子だ。口元を見ているだけで、ほっぺたをむにむにしたくなる。
その綺麗な女の子は、
「セントの、姉」
「………………………………あね?」
つい全身をじろじろ見てしまう。
こいつどう見てもエリザとかチビ白衣錬金術師オリガとかそんぐらいの学年やぞ。ランドセル似合いそう。
で、俺は、えー……わかんないけど二十代ぐらい? 童顔な三十代もまあまああるんじゃねえかなって勝手に自分では思ってる。そんぐらい。
「姉?」
「そう、姉」
「…………年下の姉?」
「年上の姉」
「姉を名乗る不審者?」
「姉」
「姉……」
俺の感覚が食い下がりたがっているのだが、あまり食い下がってキレられても面倒くさいなと思った。
しかし、姉……にわかに信じがたい体格差だ。なんならお前のこと娘かもな……とか思ってたんだぞ、俺。
「……あーそうか。総大主教様とか、オリガとか……そっち方面か」
「セントは記憶がいらないと言っていたらしい」
「…………あ、名前の返却を拒んだ話ね。えーとですね、別に信念とかじゃなくて、ただ単に俺が、欲しくないタイミングで与えられるご褒美に燃えない性格なだけで、今はそのへんの関係のこと知りたいと思ってるので、教えてくれるとありがたいです」
「記憶の返却を迫った方がいい」
「それはそれ、これはこれ」
「…………子供の時から性格が変わってない」
「本当? ひねくれたガキだな……」
「うん」
フランはちょっとだけ笑った。
表情を変えることができたらしい。
「しかし、弟か……姉が幹部で、弟が戦闘員スタートだったのは、そのへんの縁故関係での採用はやっぱない組織なんだなって……」
「……どこから話せばいいか、困っている」
「そうだな、俺もどこから聞けばいいか困ってる。……まずは、その肉体について教えて欲しいかな。どうして明らかに子供なんだろう」
「セントに反転させられた時がこのぐらいだった。それから成長が止まっている」
「…………ん? 反転?」
「元魔法少女」
「……ん!? そうなの!?」
「そう」
どうしよう、嘘をついてる感じもしないが、本当のことを言ってるかと問われても困る感じだな。
声に抑揚がない。表情も動かない。……感情が薄いのか?
「その反転っていうのはどうやって? まさか、その年齢のころのあなた……君……」
「お姉ちゃんでいい」
「…………恥ずかしいな! この体格差で! 怪しいプレイだと思われそうだ! ……まあいいや。お姉ちゃん……」
「……」
「……フランさんは、その、あー……俺に、襲われたんでしょうか」
今までの魔法少女反転実績、全部中出しキメて隷属させてる。
フランの体格から判断すると、当時、弟の俺は年齢二桁いってないと思うんだが、その年齢で姉に中出しはちょっと才能ありすぎるぞ。
「違う。重要なのは、そこじゃない。……言葉」
「……言葉?」
「フランのパパとママは、魔法少女に殺された」
「……戦闘員、ってこと?」
「違う。戦いに巻き込まれた」
まあ当然、街で戦ってりゃそういう事例もあるよな。
ホノカもヒナタも『お前たちが人命を奪ってる』っていう事実を突きつけられてめちゃくちゃ動揺してたけど、市街戦をやったことあれば、一般市民に怪我させた可能性ぐらいはどっかで覚悟しておくべきだろう。
でもそういうのがなかった。……人間には心に負荷がかかるほどの責任を感じないために都合よく記憶や認識をいじる機能がデフォルトで備わっていて、酷い時になると、『お前のせいだ』という結論に結び付く会話を全部忘れたりもする。
けどまあ、そういう現象は過度に他責思考とか、あとは老化とかで、普段の言動にも表れるものだ。
ホノカもヒナタもそういう様子じゃなかった。
ということはやっぱり『龍の洗脳』で、そのへん意識しないように思考にロックかけられてんだな……
「魔法少女はおかしいと思った。でも、おかしくないとも、思ってた。……今考えると、なんでか、わからない。でも、おかしくないと、思ってた」
「……そこらへんの迷い? を俺が解いた?」
「そう。そして……魔法少女であることに、絶望した。そこには、なんにもないと、わかった」
「もう一度聞きますね。あなたが姉で?」
「セントが弟」
「体の成長は反転した時から止まっている?」
「そう」
「そんな年齢のあなたの弟が、魔法少女であることに絶望させた?」
「そう」
「そのガキ怖いよ」
俺のことらしいんだが、怖いよ。
「……別に、今やってるみたいな感じじゃない」
「今やってるみたいな感じ、どこまで知ってます?」
「さっきのだけ。酷いおためごかしだった……」
へへっ。ぐうの音も出ねえや。
おぶさりながら中出ししつつ言っていいセリフ一個もなかったからな。
勢いと快楽と、あとはスキルによって『気持ちよくされるほど俺のことを信じてしまう』という要素を使って押し切った感じだからな。冷静に思い返したら怒り狂うだろう。
なので冷静にさせないためにトマリとホノカを合流させたわけだが。
「……ただ一言、『どうして魔法少女を続けるの?』って聞かれた。それで……反転した」
「それで反転したなら、それは俺の手柄じゃなくて、フランの中に最初から疑問があって、自分で突き詰めて考えただけ──フランの力による反転だったんじゃないかな」
「でも、言葉が……刺さった」
「……」
「セントの言葉は、刺さる。たぶん、マリアンヌと似た力があるんだと思う」
「マリアンヌと似た力……記憶関連じゃないな。……ああ、ツリーにないスキルによる読心術かな?」
うちの総大主教様、何を言っても内心を見透かされそうな雰囲気がある。
実際にいくらかは見透かしているんだろう。
あと雰囲気。声とか、立ち振る舞いとか、しゃべり方とか、そういうのが総合的に作用して生まれる雰囲気。
あれは見事な宗教指導者だと感心した──
「……もしかして、うちって、新興宗教とかやってたり?」
「やってた」
「……俺、結構、説法みたいなこと……」
「してた」
「……………………」
なるほどねって感じだ。
君は詐欺がうまい。
「実名がわかったら調べるといい」
「フランで調べたら出て来るんじゃ」
「フランも別に、フランの本名じゃない。それに、フランは『いない子』だったから。パパとママは、セントだけいればいいって言ってた」
「うちも闇深い家庭なのか」
「大樹教団の下部組織」
「……深淵なる闇じゃん」
「フランは魔法少女『ブライト・フランベルジュ』からとった」
本名はまあ……おあずけされとくか。
過去がわかってしまって、名前までわかってしまったら、モチベーションに差し障る。
ただでさえ自分の過去には興味ないんだ。少しでも興味を抱く仕掛けはしていこう。
「……それでも、パパとママのことは、好きだった。死んだら、悲しい」
「まあ、はい」
「セントがフランの居場所になってくれてたから、あんまり恨まずに済んだのかも。……セントだけが、フランのことわかって、応援してくれた。だから……」
「……本当に俺たちは一線を越えてないんですよね?」
「あの時は幼かったから」
今も幼いよ。
まあ見た目だけ、なんだろう。年齢で言えばもしかすると、組織内最年長(※五百年前から生きてる連中は除く)みたいな感じの可能性もあるよな、今の話とカミラの話を加味すると。
「……あーでも、そうなんだ。そうか……魔法少女が反転すると不老不死になるんだ」
「不死かは知らない」
「まあそうですね。……俺が特別扱いされてた理由とかって、わかります? フランが『いない子』だった理由でもいいですけど」
「昔から、心を読んでるみたいにものを言う子だったから?」
「なるほど、具体的な理由はないのか……」
「フランの反転も、フランの資質か、偶然だと思われてた。だから、おうちが壊れて、フランが反転したあと、セントは教団の養護施設に入って……しばらく、行方がわからなかった」
「ああ、モブ扱いされたのね」
「しばらくして、セントが戦闘員になってて驚いた。……探してたけど見つからなかった弟が、大きくなって、戦闘員になってる……組織を潰す動機になった。マリアンヌに勝てたら、やってた」
「フランでも勝てない?」
「戦うって言うなら、付き合う」
「いやそれはいい。別に今は困ってねーし。……それにまあ、戦闘員で死にかけたりもしたけど、『過去、やらかされて酷い目に遭った。でも、今は幸せ』の状態に俺が文句つけたらさ、エリザとかハハキとか魔法少女信号機の三人とかにぶっ殺されなきゃいけなくなる。そいつは筋が通らないよ」
「……」
「だから俺のために組織に復讐とかする必要はない。だって今、幸せだから」
まあ俺の過去はわかった。
名前はわからないけど、フランとの関係もわかった。
聞きたいことはたぶん、あとからいくつか思いつくだろうが、今は……
あと一つかな。
「じゃあとりあえず最後の一つ」
「好きだよ」
「そうじゃねえよ。わかってるわ。っていうかもう、改めて見るとすごいよ、オーラが。突き刺さるよ、好意が」
「うん……」
「だから好きかどうかはいいとして、フラン……フランさん」
「何?」
「……強くね?」
反転魔法少女は覚醒相当のパワーを手に入れる感じがする。
だがその覚醒相当のパワーを手に入れた悪墜ち魔法少女二人を、たった一人で、ヒナタは圧倒した。龍化覚醒はそのぐらいマジで強い。
で、そのヒナタとタイマンでフランは勝ちかけた。
俺が背中にすがりついて意識されない状態で犯してたのが重りになってたっていうのはあるだろうが、それにしても互角ぐらいの力は普通にあった。
「なんか強さの秘訣とか、魔法少女のパワーアップ条件とか知ってたり?」
「……経験?」
「……」
「動きに無駄が多くて、力に振り回されてる感じがあった。たぶん腕相撲だとフランが負けた」
「あーね」
経験。
……まあそうだよね。フラン、結構な戦歴の魔法少女だもんな。
なんで腕相撲をチョイスしたかはわからんけど、純粋なパワーの比べ合いだと勝てなかったって話だろう。
「えーっとフランさん」
「何?」
「なんでこっそりちょっとずつ距離を詰めて来てるんでしょう」
「……」
「はい黙秘権ですね。わかりました。……あのさ、これから、組織が魔法少女連合に襲撃を受けるだろ?」
「うん」
「俺はこの組織が欲しいんだよ。だから、力が欲しい」
「いいよ」
「……うちの魔法少女たちをさ、鍛えてやってくんねーかな」
「………………」
「これは即答しないんだ」
「……小姑として嫁をいびれということ?」
「きっとたぶんおそらく違う。強化だよ。強い手駒が欲しいの」
「いいよ。でも条件がある」
「俺にできることなら」
「フランも抱いて」
「お姉ちゃん?」
「なあに?」
「……」
まあ、そういう気はしてた。
魔法少女はこじれているし、飢えている。あるいは、そういうメンタルの持ち主しか、魔法少女というものになれない可能性もあるのかなーなんていうふうにさえ、思う。
サンプルが増えればまた違った見解になるんだろうが、魔法少女には『穴』がある。まんこじゃなくてね。心に穴があるんだ。
だから俺の説得は効いた。……トマリも、たぶん、俺が手を下さなくても、『穴』がいずれ決壊していた気はする。今ならそう思う。
フランもまた、『穴』がある。
そしてたぶん、そこを埋められるのは、俺なんだろう。
「わかったわかった。抱いてやる。もう今さら近親とか気にならないしな。それに記憶がないからお姉ちゃんって言われてもそういうプレイにしか思えないところもある」
「うん」
「そこで『うん』と言われると『あれ、マジでプレイ?』ってなるのでやめようね」
「わかった」
「俺の抱いた女の平均サイズがどんどん縮んでいくけど、マリアンヌとカミラで平均を上げていこうということで、お前を抱きます」
「うん」
「……再反転とかしたらどうしような」
「そしたら一緒に大樹教団を滅ぼせばいい」
「いやー女たちがさ……わかったよ、わかった。圧が強いんだよお前も。じゃあおうち帰ろうか。ここでヤるの、普通にそろそろおまわりさんとか来そうだし」
「わかった」
フランがしっかりと俺の手を握る。
……特に意味のある動作というわけでもないんだろうが。
少しだけ、記憶を刺激されたせいだろうか。
……覚えがある。
懐かしい。
そういえばこんなふうに、手をつながれていたことがあったな、なんて。
そんなことを、思ってしまう。
あー。
やりにくくなっちゃったぞ。困るな。
まあ……
抱くけどさ。