カミラの区画のポータルに大量の転移反応があったようだ。
ついに、魔法少女連合が来た。
二月の最初の日曜日の朝。
ニチアサに来るんじゃねーよと思ったが、魔法少女たちはその多くが学生だ。『日常生活をしながら』という条件付きの魔法少女活動をしている連中だし、この時間帯がちょうどよかったんだろう。
たぶん一日で終わらす気なんだろうな……
明日も学校だから。
もしかしたら内申点目当てのボランティアの可能性もある。悪の組織壊滅で内申点を稼ぐな。
幹部会が緊急招集され、戦闘員と怪人に時間を稼がせてる間に、『聖なるマリアンヌ』の前でそれぞれの役割を確認──という段になって。
うちのボスから、こんなことを言われた。
「向こう側に『龍』がいます」
あのクソ龍、うちのヒナタから離れてどこ行ったかと思ったら、魔法少女連合についてやがったか……
……いや当たり前だけどさ。この決戦であの龍が魔法少女側につかない理由はない。なもんで、最初から龍化覚醒魔法少女が、まあ、一人か二人、最悪三人から五人ぐらいいてもいいようには考えている。対応できるかどうかは、やってみないとわからんとして。準備はしてる。心と、戦力の。
……ただし、俺の想定にも、限度はある。
「全員が、『龍化』をしているようです」
「……は?」
「カミラの区画に入った途端、あの『龍』の気配が濃くなりました。全員──二十人。少なくとも半数以上は龍化をしています」
……いや、可能なの?
それが可能ならもっと早くやるべきところあっただろって感じなんだが。
「そして、カミラの気配がありません」
「……イレギュラーすぎる。盟主が不在か。いやまあ、あいつの『蟲毒』だと、正面にいられるよりも見えないところでウロチョロされた方が厄介ではありますが」
「いえ、カミラは恐らく、もういません」
「……」
「龍に乗っ取られているのでしょう」
……俺が仕掛けた監視カメラの映像には、カミラの姿はあるな。
でもマリアンヌは気配を感じないんだ。
ツリーにあるスキルじゃなくて、長年の経験からくる気配感知みたいなものっぽいから、確度がどうかはわからないが……
あ、ダメだこりゃ。
龍の角と尻尾生えてるわ。完全にやられてます。
「……カミラは魔法少女になったってこと、でしょうか?」
「いえ、あの子は…………『土』にされたのでしょう」
「……」
「『龍』はいわゆる『知的生命体』に直接根を下ろすことはできません。しかし……錬金術による産物は、あの龍の基準だと生命体ではない。……わたくしの血を宿した、錬金術の産物。魔力があり、知的生命ではない。あの龍が根を下ろす土壌としては、ぎりぎり、条件を満たしています」
「……えーっと、『龍』って、そんな派手にこの……『時空層』とか、ヒナタは言ってましたけど。時空層に干渉できないんじゃなかったでしたっけ」
どうにも俺らの認識しているこの世界は、ミルフィーユで言うと一番上のフルーツとか乗ってる部分で、その下にいくつもの層があるらしい。
その層一つ一つを『時空層』とあの龍は呼んでいるようだ。
俺らのいる時空層を『人間の層』とするなら、それより下の『誰もいない層』があの龍の本来の住処らしい。
基本的にそこから出ることはできず、また、違う時空層で得たエネルギーを、他の時空層に持ち出すことはできない。だから龍は直接戦うことができなくて、魔法少女という尖兵を甘い言葉でそそのかして、異物の排除やら、自分の敵の排除やら──『土壌の整備』をさせるのだとか。
ただ龍が干渉したがるのが『誰もいない層』じゃなくて『人間の層』なのはちょっとよくわかんねえとこなんだよな。
「あの龍がエネルギーを吸い出す場所は、『根』のある時空層です。しかし、花を実らせるのは、我々がいる時空層です」
「……ああ、地表に芽が出たあと大気汚染が進んでると枯れるから、芽が出る前に土壌を魔法少女とかの尖兵で整備させてる感じなのか」
「そういうことになります」
「カミラが『土』っていうのは? あいつはこの時空層の生き物ではありますよね?」
「理由はわかりませんが、かなりの無理をしているものと思われます」
「……」
「解釈的に可能ではあるけれど、無理は出る。しかし、そのお陰で、『この時空層』に根を張り、多くの魔法少女に龍の力を分け与えることができる──このあたりは、魔法の理論になりますので、科学文明世界のあなたたちにはわかりにくいものかと思われますが」
「あーあーいいです。物理学知らん人間がタキオンについて詳しい説明求めてる感じでしょ」
「恐らく」
「足し算わからない人間が微分積分わかるわけないんで。で、つまり『龍は無理をしている』『そのお陰で魔法少女全体的に超強化されてる』『龍の無理に巻き込まれてカミラは死んだ』。以上三つが大事なところですね」
「はい」
「そしてもう一点。……今なら、龍を直接殺せますか?」
「カミラの体が『土』としてもつうちは」
「わかりました」
さーて、思ったより大変な事態だぞ、これは。
……『龍』がなんでそんな賭けに出たのかは、まあ、わからんでもない。
ヒナタとかから龍についての話をされて、俺が抱いている印象と、ヒナタたちの話す『龍』の印象とが、全然違うことに気付かされた。
龍はやってる行為だけ見れば外道も外道のド外道なんだが、会話する印象は悪くない。
つまり悪意がないんだろう。そして、人と価値観がずれてるんだろう。だから結果的に人命を軽視したように映るだけで……
いいやつなんじゃないか、と思えた。
だからまあ、龍が無茶をした理由は、『お気に入り』のヒナタを取り返すため──なんていうことも、あるんじゃないか。そういう仮説が、俺の中にはある。
まあ相手のモチベーションを想像するのはただの娯楽だ。
どうでもいい。龍をここで終わらせる。因縁も恨みもないが、俺の物を苦しめたツケは払ってもらおう。終わりの手段が殺害か凌辱からの隷属かは、その場の流れで。