「総大主教様からの御神託だ。貴様と組むことに否はない。だが──」
木刀を一本、投げ渡される。
そうして、
「──実力も知らん者とは、協力できん。貴様の力を見せてみろ」
俺は、『竜鱗のハハキ』を可能な限り無様に堕とすことを決めた。
◆
実力を見せてみろ、と言って剣術で挑んでくる。
この行為は『自分の得意なフィールドに相手を誘い込んで優位をとり、勝敗を決することで相手を支配しよう』というものだ。
まして、ハハキは明らかに剣術に自信を持っている。
その得意分野に、『まずは、仲良く、名刺交換でも』という感じで接した俺を引き込んで、ボッコボコに叩きのめす、ということをしたわけだ。
これはもう、初手で交渉決裂と言っていいだろう。
こっちはさ、ハハキは絶対こっちのことを舐めてるし嫌ってるから……という前提で『魔法少女との戦いの前にハハキを堕とそう』と計画したわけだが、『いや、待てよ』と思ったわけだよ。
話せば案外、わかるヤツかもしれない。俺の予想は全部イメージにしかすぎないわけで、最初から交渉を手放すのは、さすがに、同じ組織に勤める人間として、いけないことではないか──こういう、社会性のある判断をしたわけだ。
その結果が『名前を名乗る暇もなく、いきなり実力を見せてみろとか言って、自分の得意分野で打ちのめす』というものだった。
これは大義名分が立ったと言える。もう、ハハキとは『まともな手段で距離を詰めて……』とかは、しない。
だいたい、『落とし穴を掘る』とか、『人質をとる』とかの『自分を優位に立たせる努力』は否定的に見る連中が多いが、『自分が長年修めてきた武術分野で決着をつけなければいけない空気に追い込んで、そのフィールドでの戦いを強制する』というのも、立派な罠であり、『落とし穴を掘る』のと同列の卑怯な行為だと、俺は思う。
まあようするに、戦闘員たちの前でボコボコにされたのにクソムカついたから、犯すということだ。
どうにも俺は、案外、世間体というものに関心が強いらしい。
あるいは、舐められるのが嫌いのようだ。
舐められ、理不尽に叩きのめされるのが好きなマゾは世の中にそんなにいないとは思う。
でも、舐められ、理不尽に叩きのめされたあとに反撃を成功させるのが好きなヤツは、世の中に結構多いんじゃないだろうか。
つまりは俺は一般的な感性に従ってハハキを犯す。
自己弁護終了。
さて、あのデカチチ剣士巫女女をどういうプランで犯そうか。
そう考えた時に役立つのは、ハハキの地区に来る時に連れて来た戦闘員たちだ。
俺も幹部なのでいよいよ『お付き』と、『お付きではないが俺の命令に従うようになっている専属』ができた。
戦闘員は全身タイツとマスクで『個性』を消さないといけない決まりがあるが、俺の部下はそのルールから外れている。
これはボスに直談判して、許可を得たことだ。
いや全身タイツは確かにダサいんだけども……ダサいことが理由ではなく……いやダサくないというのが『仲間になりたい』と思わせるために重要な要素だというのはわかっているのだけれど……それがメインではなく……
スパイ対策だ。
『誰が誰だかわからん』というのは、下の者の顔や名前を覚えず、ずっと組織に貸してもらっている状態でやっていくなら別にそれでもかまわんのだけれど、『組織の目的』が『自分の目的』と違う場合には大変困る。
同じような服装で顔も隠さないといけないままだと、組織からのスパイがうっかり入り込んでてもなかなか気づけない。
まあ顔が見えているからスパイが入り込まないというわけではないだろうけれど、『知らん人が当たり前のように仲間内にいて、話を全部聞いていました』という間抜けな事態は避けやすい、というわけだ。
ボスはなんだか俺の提案は全部『OK』しか言わんので、俺の組だけダサい全身タイツを着なくていいことにしてもらえた。
デザインはなんかエリザがやってくれた。
そういう感じで発注され完成したのは、コート状の軍服の腕に腕章を巻いたデザインで、『あ、これ……』みたいに思ったものの、まあ俺たちは悪の組織なのでいいか、という感じで採用した。
色は俺が赤で、『お付き』が白。そして一般戦闘員が黒となっている。
俺の色が赤なのはエリザにデザインさせたせいだと思う。『灼熱のエリザ』は髪も目も赤いし、服装も赤系を好む。なんか独占欲みたいなものを感じるが、まあ説得前だったので見逃してやるとしよう。
そうして作り上げられた俺たちの組織は、今のところ……
見掛け倒しの集団だった。
弱いことが露呈してしまったから。
そう、俺たちは弱い。
というか、俺が弱い。
言い訳はある。俺の『存在希薄化』はどう考えても直接戦闘に向いたスキルじゃない。
これを育てて育つ方向は『暗殺者』とかそっちの方面だ。実際には、気付かれないように体を開発しまくってみんなの前で犯す、ということにしか使っていないわけだが。
しかし幹部連中はどれも直接戦闘で役立つ能力を持っている。
エリザの『灼熱』も平たく言えば炎を操る──正しくは温度を操る能力らしい。武器に高温をまとわせたり、あとファイアボールとか撃ったりする。
『蟲毒のカミラ』の能力がまあ、他の三人の幹部よりは裏方寄りっぽいが、毒関係を幅広く精製するらしいので、戦闘で役立たないこともないだろう。
『消滅のフラン』とか、もう聞くだに強そうだ。
エリザ視点だとどういう能力かわからないらしいし、俺も同行した時に何をしていたか見てたはずなのに何もわからん能力だったので、とにかく強そうという印象しかないが……
そして『竜鱗のハハキ』が、幹部の中でも一番、一対一に向いている。
あのサムライ女、単純に硬いのだ。
身体能力にも多めのブーストがかかっているようで、とにかく殴り合い・斬り合いにおいては幹部随一という様子だ。
そういうヤツが人前で得意分野で弱い俺をボコボコにするのはさぞ楽しかっただろうと思う。今のうちに楽しんでおいて欲しい。今が、お前の人生の絶頂だから。
そんでもって、俺も幹部になったので、ボスから名前を授かった。
『影のセント』。
めちゃくちゃ影を操りそうだが、俺にそういう能力はない。
俺の能力名は『灼熱』とかみたいにアピールすると弱いので、『影が薄いから影とかどうスか』みたいに提案したらOKした。あの人、マジでなんでもOKするな、俺の提案。
名前の方だけ『セントでいいのか』と言われた。
……たぶん、俺の記憶を抜いてるのはボスで、ボスは俺の本当の名前を知ってるんだろうなと思う。
だけど『セントでいいです』と答えた。
名前は俺の実力で取り戻すまであずけておく。
まあ今は、幹部の一人のハハキにさえボコボコにされた状態なわけで、ボスを隷属させるのはいつになるやら、という感じだが。
で。
「セント様! あの乳デカ女にどうやってやり返すッスか!」
俺の部下はエリザの戦闘員から引っこ抜いてきたわけで、俺がエリザを隷属させたシーンを見せつけた観客でもある。
そしてエリザは戦闘員からの評判がすこぶる悪い。何せ、初対面の相手を一時間も無言で鞭打つ頭のおかしいサドガキだからだ。
そのエリザを倒して、エリザ組の職場環境を改善した立役者ということで、『おいおい、メスガキを人前でケツ穴まで犯してイかせる変質者だぞ、俺は……』と申し訳なくなってしまうぐらい、俺の評価が高い。
冷静に考えて欲しいんだけど、俺がエリザにしてることはだいぶ酷い。
それを目の当たりにして俺を慕う連中は、ぶっちゃけ怖い。人格が相当歪んでいるとしか思えない。価値観もきっと、まともではないだろう。
とはいえ今、俺が手駒として使えるのは、この変質者どもだけ……
ハハキの地区というアウェーでは、こいつらをうまく使って、ハハキを酷い目に遭わせなければならない──
当然、俺がハハキをぐちゃぐちゃに凌辱しようとしていることを知って、喜んで協力をしているわけだ。なんなら、勢いだけなら、俺より乗り気まである。人格破綻者しかいないのか、ここには?
エリザのところから連れて来たのは、お付き、つまり俺の秘書みたいなモンが一人と、一般戦闘員が十人。
こいつらも例によって自分自身が何者か、何をして生きてきたのかという記憶がないらしい。
あと、半数が女性で、中にはどう見ても十代の女までいる。
治験のバイト、そのほかのバイトで集められたのが半分、もう半分、特に若い連中は『教団』の養護施設で育ったらしい。
その記憶もどこまで信用していいのかっていう問題はあるが、エリザなんかも養護施設ルートだったっぽいから、全部を全部疑う必要もないかなってところだ。
そして例によって例のごとく、自分が何者かがわからない、名前のない連中なので、なぜか俺が名付けを任される流れになって、クソ面倒だった。
名前がないの、一度意識すると気になるんだよな。わかったわかった、ということで、俺の愉快な仲間たちは、こういう名前になった。
まずはお付き、俺の秘書役の女。
その名は『イチ』。
以下、『ニイ』『サン』『シイ』『ゴオ』『ロク』『ナナ』『ハチ』『キュウ』『トオ』『イレブン』。
わかりやすくていい名前だな。
ジュウイチにしてもよかったんだが、ジュウイチというのが咄嗟の時に呼びにくいので一人だけ英語になった。
語尾に『ッス!』をつける、やけに元気のいい若い女がイチだ。
あとはまあ……おいおい特徴とかつかむんで。雌雄はわかる。あと大まかな年齢も。
「まずは、調査だ。ハハキの一日の行動スケジュールは、俺が尾行して掴む。お前らは戦闘員に混じって、ハハキの評判とか、噂とか……とにかくなんでもいいから、ハハキに関する情報を集めて、まとめて俺に教えてくれ」
「わかりましたッス!」
「ってことはセント様、オレらはまたあのクソダセェ全身タイツ着ないとですか」
四十代ぐらいのがっしりした男が冗談めかして言う。
俺も冗談めかした調子で返す。
「ああ。目立つ服はな、その服を着てない時に目立たなくする効果があるんだよ。クソダセェタイツで頑張ってくれ。その服着てりゃ俺の部下だって気付かれないだろう。……で、『見つけた』か?」
「いえ」
二十代なりたてぐらいの女が、静かに首を左右に振った。
『見つけた』か。
何を?
それは、俺たちの話を聞いているやつをだ。
俺たちは今──
一般戦闘員がすし詰めにされている、大部屋のど真ん中にいる。
ここで車座を組んで座り、ハハキ様ボッコボコにしようぜ! の密談をしているわけだ。
こんな話をしていたら──こんな話をしていると聞こえたなら、必ず、なんらかの反応がある。
だが、反応をしているヤツは、見当たらなかったらしい。
つまり……
俺の『存在希薄化』の派生能力でやった密談──『希薄化空間』は、俺と部下どものセキュリティを、少なくとも戦闘員からは十全に守れる効果があるらしい。
ハハキに効くかはわからんけどな。
「じゃ、各自行動を開始してくれ。……タイムリミットは、長くない。三日以内に行動を起こしたい。準備期間は二日を見てくれ」
俺たちは悪の組織なわけで、定期的に表に出てみなさんのお住まいの街を襲撃しなければいけない。
ノルマ制だ。
だいたい週に一回も出撃すればノルマは達成されるわけだが、ハハキは協力者である俺に『実力を認めるまでは協力者と認めん』とか言いくさりやがって、スケジュールを教えようともしない。
普通に考えてスケジュールぐらいは共有すべきいだろうが。脳味噌が全部あのデカいおっぱいにいってんのか? サラシだけで『隠してます』みたいな顔すんのはどう考えても無理があるだろ、あのデカパイ。
なのでまあ、次の襲撃までだいたい四日ぐらいだろう、ということで行動している。
襲撃活動が終わったあとの疲労感とか、次の襲撃に向けて準備をしている様子とかを見た感じ、前の襲撃は二、三日前っぽいからな。
楽しいね、本当に。
締め切りがあるとやる気が出るよ。さて……
どうしてくれようかな。