ハハキの一日のスケジュールはこうだ。
朝。四時に起きてトレーニング。
主に走り込みなどの有酸素運動を行っているようだ。すげー距離をすげー速度で走るもんだから途中で尾行をあきらめざるを得なかった。走った先で何かしてたら知らんけど、たぶん普通にずっと走ってる。
帰ってきたら道場(ハハキの区画には道場スペースがある)で剣の型稽古みたいなことをしている。
俺が剣術に詳しくないので詳しいことはわからないが、きっとなんかの流派の型だと思う。
その後、戦闘員たちを集めて集会を行う。
集会には木刀を持って集合するようで、その場で乱取りが始まった。
普通の会社で『朝礼に木刀持って集合!』とか言われたら『なんだ、上司を殴っていいのか? そんなわけないか……』という感じになりそうなものだが、ハハキの集会は違う。
上司を殴っていい。
殴れるもんなら。
乱取りの中で指名されるとハハキに挑む権利が得られる。
そこのお前、ちょっと私と立ち会え、という感じだ。そして当たり前のようにボコボコにされて終わる。
スキルツリーを認識できるようになってハッキリわかったことだが、ツリーを認識できる者とできない者の差というのは本当にすさまじい。
俺も認識できるようになるまでは戦闘員並みしか力がなかったが、今は曲がりなりにも幹部に混じれるぐらいにはなっている……
まあ、幹部の中ではたぶん最弱だし、並みの怪人にも劣る戦闘能力っぽいが。
で、このスキルツリーというもの、俺は生存本能が極限まで刺激されて目覚めた感じだが、よく考えるとこの組織では命の危機は日常茶飯事なので、それだけが理由だとすると、もっとポコポコツリー認識者がいてもおかしくない。
だが、いない。基本的には因子注入一発目で認識できてればだいたいできるって感じで、成長して途中からというパターンは俺以外にいないっぽい。『ボスの口ぶりから推測すると』だが。
なのでハハキ組はボコボコにされても誰もツリーを認識できている気配がない。
俺の組も、ツリーの存在まで明かして教えているんだが、誰も目覚めない。存在を教えてからまだ命の危機に陥ってないからかもしれないが、『途中で目覚める』存在はもしかしたら俺だけかもしれん。男で目覚めた存在が俺だけであるのと、同様に。
朝の集会の話に戻ろう。
上司がうろついていると思ったら急に声かけてきて『立ち会い』という名目で木刀でボコボコにしてきて終わるパワハラ集会はだいたい二時間ほど続く。
なお戦闘員同士でも戦っているので、俺の部下もボコボコにされた。ハハキの戦闘員、ツリーは認識できていないものの、毎日こんなことやってりゃ嫌でも強くなるわ。
おかげで『ハハキ組、絶対に支配下に置いてやる』という連帯感が生まれたのだけ、良いことだ。
集会が終わるとハハキはトレーニングルーム(ハハキの区画にはある。エリザの区画にはない)にこもって、ウェイトトレーニングを行う。
冗談みたいな重りをつけた器具で行われるウェイトトレーニングだ。この最中、ハハキはいつもの巫女装束と侍衣装の合いの子みたいな服ではなく、ぴっちりしたタイプのトレーニングウェアに着替える。
三時間ほどトレーニングをしたあと、シャワーを浴びて衣装を換えると、夕食の時間になる。
ここまで一切食事などの栄養補給がなかったのは、何もハハキ組だけの特徴ではなく、エリザ組もだいたいこんな感じだ。
どうにも『因子』を注入されてからというもの腹が減りにくい感じがある。実際、栄養が足りてないということもないようだ。
なので基本的に『食事』というのは嗜好品でしかない。それでも一日に一回は摂るというのは、ハハキ組にも、エリザ組にもある習慣のようだった。
そこで食事をしたあと、希望者だけで夜のトレーニングを行う。
この夜のトレーニングはハハキからのシゴきがメインの項目となるようで、大変参加者が少ない。
シゴきというのはエッチな意味じゃなく、『木刀でめためたにする』という意味だ。
参加者もストイックに己を鍛えようという連中はほとんどおらず、『誰も行かないとハハキ様がキレて大変なことになるから、ローテーションで生贄を出す』という感じのようだ。
このシゴきで参加者を全員気絶するまで打ち据えたあと、ハハキは一人で型稽古を行い、倒れた戦闘員は放置して風呂に行く。
そうして、就寝。時間にして夜の十時には寝ている。まあ、朝が四時、支度まで含めたら三時には起きてるからな……
で、このスケジュールがだいたい毎日続く。
少なくとも二日間続いた。
戦闘員側の調査でも、だいたいハハキの毎日はこんな感じらしい。
俺は思ったね。
……お前、仕事とかしてないな?
事務仕事とか、次の襲撃計画の戦術とか、どのぐらいの戦闘員を連れて行くとか、魔法少女対策とか、そういうのをまるでしている様子がない。
っていうかエリザ組のエリザもまるでしている様子がなかった。たぶん『お付き』がそのへんはしてるんだろう。俺もなんだかんだ、書類仕事はしてたしな……(エリザをオナホにしながら)
っていうかこんだけトレーニングに時間を使えるやつが、近接戦系のスキルまで駆使して、『実力を見せてみろ』とか言いながら真っ先に俺に勝負を挑んだの?
準備期間がまったく違うんだが……いやまあ相手にマウントをとるための戦術としては正しいんだけどさ。やっぱ協力者に向ける態度としては全然違うよな。
そしてハハキに、俺の『存在希薄化』は入る。
風呂場などの油断しているところでは、真後ろに近付いても気付かれなかった。
肩に触れる程度なら、できた。攻撃の意思さえなければ、気付かれずにいろいろできるだろう。
一方で道場スペースでは少しでも近づくと反応を見せた。
目視しても俺の姿を認識はできてないようだが、あそこじゃあ触ることもできそうにない。
ランニング中は論外。速い上に長い距離を走りすぎる。ついてけない。
ウェイトトレーニング中も、トレーニングの方に集中してるのか、かなり接近できた。まあ、バカデカイ重りが激しく動くので、近寄ると危ないというのはあるが……
で。
「ハハキの評判は悪いッスね!」
戦闘員たちがスパイ行為を働いた結果、そういうことがわかった。
側近のイチは見た目だけなら子犬系後輩女子って感じなのだが、俺からエリザへの凌辱行為を見た上で俺に心服してる感じなので、その性根は大変曲がっている。
今も『ハハキの評判が悪い』ということを、とても嬉しそうに報告してくれている。
「毎日あんなことしてりゃ当然ッスけど、とにかく暴力系パワハラ女として評判ッス」
「そうは言うけどさ、戦闘員が百もいりゃあ、一人ぐらいはなんかこう、武術系っていうか……あのやりかたへの賛同者がいても不思議じゃない気もするんだけどな」
「際限がないからッスね」
「ああ……」
際限そのものはたぶんあるんだが、幹部の基準を戦闘員にも求めるんじゃあ、仕方ないか。
それなりにストイックな武術系戦闘員がいたとして、スキルツリーを認識できないんじゃあ、そもそものスペック差がある。
いつまでもいつまでも差が縮まらないまま、とにかくボコボコにされまくるだけの毎日じゃあ、やさぐれるか、腐るか、心が折れる。
ストイックで自分を鍛えることに夢中になれるヤツ、下手すると訓練中に死んでたり、自殺してたりするんじゃないかな。
ハハキは戦闘者としての才能はあるかもしれないけど、指導者としての才能はないな。
因子を注入されると、たとえば戦闘員であろうとも、心のどこかが壊れる感じがある。
エリザとハハキを見ての感想だが、幹部はそれが酷いのかもしれない。理性のある幹部はもしかすると俺だけだ。大丈夫かこの組織?
「ハハキを見世物にしてやれば心は掴めそうッスね。ただ……」
「ここの戦闘員も、ハハキを弱くしただけで、『強さ』を至上の価値観にしてはいるな。だから全員が自分より弱いやつには厳しい」
「そッス!」
「弱者淘汰は俺の理念に反する。俺の下につけるんなら、その価値基準もぶち壊すか、しっかり『俺が上だ。俺に逆らうな』っていうのを叩き込まないとだな……」
弱者淘汰で淘汰するのが真実の弱者ならばそれでもまあ仕方ないんだが、多くの『弱者淘汰』は選民思想の言い換えにしかすぎない。
たとえば俺は弱いが、ハハキには勝てる。ただし、一対一、木刀を持っての戦いでは勝てない。
ここの連中が『弱者』と定めるのは、『木刀の殴り合いに弱いやつ』だけなのだ。他の強みが一切合切無視されている。無視して、自分が得意な分野でだけ比べて、それで強弱を定めるというのは──
──まあ、宗教組織として評価軸の一本化は正しい。が、弱者側に立たされる身にはたまったもんじゃないし、評価軸の一本化は組織の脆弱化を招く。外部の連中……魔法少女どもと戦う組織であるならば、なおさらだ。
俺はこの組織も欲しいが、この組織を手に入れられれば死んでもいいとは思っていない。
魔法少女にも勝ちたい。って言うか、魔法少女も犯したい。
なので俺が支配する組織が木刀での殴り合いですべてを決める脳筋馬鹿集団では困るんだよ。
「じゃ、ハハキは……明後日の朝の集会で、全員の前で、無様に倒す。そのつもりで動くぞ」
「実行時間一日ッスけど、大丈夫なんスか?」
「ダメならそれまでだ」
「……」
「でもまあ、勝てるだろう。……お前らにも『スキルツリー』の存在は説明したな? このスキルツリーには、『幹部ツリー』と、『オリジナルスキルのツリー』があったんだが……他にも一つ、存在が判明したんだよ」
ハハキの尾行をしている最中、スキルをフルに使っていた。
だから成長し、気付けた。
たぶん、ハハキには、『剣術ツリー』みたいなものがある。
これは『組織の幹部としての力』、つまり『立場』のスキルでもなく、『竜鱗』のような、『オリジナル能力の力』でもない。
『行為』。
その人物が何をしてきたか。何を以て生きてきたか。何をして戦うか。
そういうものが反映されたツリーが、ある。
「そ、そのツリーは、なんッスか……?」
イチがゴクリという感じで生唾を呑み込んだ。
他の部下どもも緊張と期待、それから恐怖のこもった目でこちらを見ている。
……なんだろう。
そこまでシリアスにされると発表しにくいんだが。
「えーと……『淫行』……」
「…………はえ?」
「淫行スキルのツリーが、俺にはある」
俺の成り上がりの手段は、淫行なので。
エリザをさんざん開発し、弄び、堕とした。この組織で成り上がりたい理由も、生意気な女どもを屈服させたいからというのが大きい。
そしてハハキを尾行中も、ずっと、この女をどう犯してやろうかを考えていたし、それは、魔法少女を犯すための準備でもあった。
俺の行動はすべて、『エッチなことをしたい』というモチベーションによるものだ。
だから、我が……技能ツリーは、『淫行』。
えっちなスキルで、俺はこの組織で成り上がる。
この宗教団体はもうおしまいかもしれないな。