SSSS級カノジョ宝多六花が、冴えない僕と一緒にエッチをお勉強してくれた夏 作:前野へーた
夏の陽射しが、渡り廊下に長い影を落としていた。
蝉の声がうるさい。七月の終わり、夏休み直前の最終登校日。みんな浮かれた顔をしている。
私──宝多六花も、そのはずだった。
「──あはは、ユウ先輩ってほんと面白い!」
アカネの笑い声が聞こえる。
渡り廊下の向こう側。ユウを挟んで、親友のアカネと後輩の夢芽ちゃんが楽しそうに話している。
ユウも笑っている。……私の彼氏なのに。
私は足を止めて、少し離れた場所から見ていた。
アカネが身を乗り出すたび、夏服の胸元がゆさっと揺れる。ブラウスのボタンが一つ外れていて、谷間がちらちら見える。ユウの視線が、一瞬そっちに向かった。
……見てんじゃないよ。
夢芽ちゃんが髪をかき上げる。細い首筋、整った顔立ちはお人形さんみたい。スカートから伸びる脚はすらりと長くて、モデルみたいだ。
私は無意識に、自分の胸元に手を当てていた。
アカネほど大きくない。夢芽ちゃんほど細くない。太ももは太いし、お尻も大きい。自分でコンプレックスだって分かってる。でも、ユウは「好きだよ」って言ってくれるから。
……それだけで、いいはずなのに。
唇を噛む。
なんだろう、この胸のざわつき。学園祭からユウと付き合いはじめて一ヶ月。ちゃんと彼女なのに。なのに、なんで私は──
「六花!」
ユウが私に気づいて、手を振った。アカネと夢芽ちゃんもこっちを見る。
「……うん」
平静を装って、近づいていく。笑顔を作る。大丈夫、私はユウの彼女だから。
でも心のどこかで、小さな棘が刺さったままだった。
◆
放課後の教室を、夕陽がオレンジ色に染めている。
ユウと夢芽ちゃんはもう帰った。残っているのは私とアカネだけ。
「ねえ、六花」
アカネが机に腰掛けて、私を見下ろす。
「最近、ユウ先輩とどうなの?」
「……別に、普通だけど」
「ふーん」
アカネは意味ありげに笑う。この顔、嫌な予感がする。
「ちゃんとヤってる? エッチなこと」
「……っ」
いきなり何を言い出すの、この子は。顔が熱くなる。
「なんだよ急にぃ」
「だって六花、なんか満たされてない顔してるもん」
「してない」
「してるって。私には分かるの」
アカネは親友だ。中学からの付き合いで、なんでも話せる。……なんでも、とは言ったけど。
「もしかしてさ」
アカネが顔を近づけてくる。
「エッチしてもイケないとか?」
「──っ!」
心臓が跳ねた。図星だ。
ユウとは何度かした。優しくしてくれるし、気持ちよくないわけじゃない。でも──最後の最後で、いつも何かが足りない。あと少しで届きそうなのに、届かない。
「……あー、当たりか」
私の反応で全部バレたらしい。アカネはため息をついた。
「男ってさ~、下手だと女の子イかせられないよね」
「ユウのせいじゃ……」
「じゃあ六花のせい?」
「……わかんない」
本当に分からない。私の身体が鈍いのか、ユウのやり方が合わないのか。でも「気持ちよくない」なんて言えない。ユウを傷つけたくない。
「ま、どっちのせいでもいいけどさ」
「そもそもアカネ、彼氏いたことないじゃんっ」
「あ~、そういうこと言う? なになに、非処女マウント? 言っとくけどさぁ、コンピューターがあればエッチな知識なんていくらでも手に入るんだから」
アカネが立ち上がる。窓際に歩いていって、夕陽を背に振り返った。
「うかうかしてると、私か夢芽ちゃんが盗っちゃうぞ〜?」
「……冗談でも言わないで」
「半分冗談」
アカネはにっこり笑う。
「半分本気」
「……」
「新学期になったら、私がユウ先輩を『ユウ』って呼び捨てにしてるかもだよ」
「それは!」
「六花がちゃんとユウ先輩を満足させないと、ね。男って単純だから。身体の相性悪いと、他に行っちゃうよ?」
その言葉が、胸に突き刺さった。
満足させる。私が、ユウを? 私自身が満足できてないのに?
黙ったまま、帰り支度を始める。アカネの言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。
◆
夕暮れ、自分の部屋。
カーテン越しにオレンジの光が差し込んでいる。私は姿見の前に立っていた。
「……満たされてない顔」
鏡の中の自分を見ると、アカネの言葉が蘇る。
制服のブラウスに手をかけた。ボタンを外していく。一つ、二つ、三つ。脱ぎ捨てる。スカートのホックを外して、床に落とす。
下着姿で、鏡の前に立つ。
薄い水色のブラ。お揃いのショーツ。ユウに見せたことはない。いつも暗いところでしかしないから。
胸に手を当てる。ブラの上から、ぎゅっと寄せてみる。谷間が少しできるけど、アカネみたいな迫力はない。
「……Cカップじゃ、足りないのかな」
腰のラインをなぞる。くびれはある。そこは悪くないと思う。でも──
視線を下に落とす。
太もも。白い肌。でも、太い。内腿同士がくっついている。隙間がほとんどない。
振り返って、お尻を見る。大きい。丸い。
……下半身は、正直コンプレックスだ。ジーンズを履くといつもきつい。夢芽ちゃんみたいにすらっとした脚には、一生なれない。
「……私の身体って、エッチじゃないのかな」
でも、ユウは「好きだよ」って言ってくれる。お尻を触られた時、「やわらかい」って嬉しそうだった。太ももも、「ここ好き」って言ってくれた。
なら、問題は身体じゃなくて──
「……感じ方?」
どうすれば、イけるようになるんだろう。
ベッドに座って、スマホを手に取った。検索窓に指を走らせる。
『セックス 気持ちよくなる 方法』
顔が熱い。こんなこと検索してる自分が恥ずかしい。でも、知りたい。
記事をいくつか読んでいく。
『女性がオーガズムに達しない原因』
『彼氏とのセックスで満足できない時』
『Gスポットの見つけ方』
どれも「こうすればいい」と書いてあるけど、具体的なイメージが湧かない。
スクロールしていく指が、ある記事で止まった。
『セックスもPDCAで改善できる──計画的なアプローチで二人の関係を深める方法』
PDCA。
Plan、Do、Check、Action。計画して、実行して、評価して、改善する。仕事とかで使うって、お父さんが言ってたやつだ。
記事を読み進める。
『まず二人で目標を設定します。次に実践し、その結果を振り返り、改善点を見つけて次に活かす。この繰り返しで、確実にセックスは上達します』
……これだ。
私の中で、何かがカチリとはまった。
夏休みは一ヶ月以上ある。毎日会える。計画を立てて、試して、振り返って、改善して──
「ユウと……PDCAで……」
でも、こんなこと、言えるかな。
「エッチの練習しよう」なんて。引かれるかもしれない。変な子だと思われるかもしれない。
スマホを握りしめたまま、布団に潜り込んだ。
◆
深夜、二十三時。
両親はとっくに寝静まっている。私は布団の中で、スマホを握りしめていた。
ユウに電話したい。PDCAのこと、提案したい。
でも、指が動かない。
「……はぁ」
ため息が漏れる。身体が熱い。さっきから、ずっと。ユウのことを考えていたら、お腹の奥がじんじんする。
こういう時は、いつも──
布団の中で、パジャマの上から胸に手を当てた。
心臓がバクバクしている。でも、それだけじゃない。乳首が硬くなっているのが、布越しでも分かる。
「……やば」
小さく呟く。一人なのに、恥ずかしい。
でも、止められない。
パジャマの前を開ける。ブラはしていない。自分の胸が露わになる。暗くて見えないけど、触れば分かる。
指先が乳首に触れた。
「……ん」
硬い。ぴんと立っている。人差し指でくりくりと撫でると、背筋がぞわっとした。
もう片方の手が、下に伸びていく。
ショーツの上から、そっと触れた。
……濡れてる。
生地が湿っている。ユウのこと考えただけで、こんなになってる。恥ずかしい。
でも──これが「イけない」私なんだ。
ショーツの中に手を入れる。指先がぬるっとした感触に触れた。
「……っ」
熱い。自分の秘部が、熱を持っている。
指をそっと動かす。クリトリスを探す。小さな突起に触れた瞬間、びくっと身体が震えた。
「んっ……」
声を堪える。壁が薄い。隣は両親の寝室だ。
くりくりと撫でる。気持ちいい。でも──
「……もうちょっと」
足りない。いつもこうだ。気持ちいいところまでは行くのに、そこから先に進めない。
指を下にずらす。入り口に触れる。愛液で濡れている。
中に入れてみる。
「……っ」
自分の指が、中に入っていく。温かくて、きゅっと締め付けてくる。
でも──感覚がぼんやりしている。どこが気持ちいいのか、分からない。
Gスポットってどこだろう。記事には「お腹側の壁」って書いてあった。探ってみる。でも、よく分からない。
「……っ、はぁ」
指を動かす。中を擦る。気持ちよくないわけじゃない。でも、「これ」っていうポイントが見つからない。
クリトリスに戻る。こっちの方が確実に感じる。
くり、くり、くり。
波が少しずつ高くなっていく。お腹の奥が熱い。もうちょっと、もうちょっとで──
「……っ、あ……」
来る、と思った。
でも、波が引いていく。
「っ……」
また寸止め。何度目だろう。いつもこうだ。あと少しのところで、身体が緊張して、逆に遠ざかっていく。
「……なんで」
悔しい。もう一回。
同じことを繰り返す。波が来て、引いて。来て、引いて。
何度やっても、最後まで行けない。
「……っ……」
指を止めた。息が荒い。額に汗が滲んでいる。
でも、イけなかった。
布団の中で、悔しさと惨めさが込み上げてくる。一人でもダメ。ユウとでもダメ。私の身体、壊れてるのかな。
「……このままじゃ、本当にダメだ」
スマホを見る。画面が光る。時刻は二十三時半。
電話──しよう。
もう、迷ってる場合じゃない。
震える指で、ユウの名前をタップした。
コール音。一回、二回、三回──
『六花? どうしたの、こんな時間に』
ユウの声。少し眠そう。起こしちゃったかな。
「……あのさ」
声が震える。さっきまで自慰してたなんて、絶対バレたくない。
「……提案があるんだけど」
『提案?』
「夏休みの間……二人で……その……」
言葉が詰まる。顔が熱い。心臓がうるさい。
『……うん、聞いてる』
ユウが静かに待ってくれている。深呼吸する。
「……エッチの練習、しない?」
沈黙。
やば、やっぱり変だったかな。引かれた? ドン引き?
『……え?』
「だから、その……PDCAってやつ。計画立てて、試して、振り返って……」
早口になる。止まらない。
「私……ユウとのこと、もっと気持ちよくなりたいから……。だから、ちゃんと練習して、上手くなりたくて……」
『……』
「……やっぱ変だよね、ごめん、忘れ──」
『分かった』
「……え?」
『やってみよう』
ユウの声が、さっきより低くなっている。
『六花がそう言うなら。俺も……ちゃんとしたいと思ってたから』
「……っ」
涙が出そうになった。
「……ありがとう」
『夏休み、計画立てよう。六花と一緒に……ちゃんと、上手くなりたい』
「……うん」
『じゃあ、また明日な。おやすみ、六花』
「……おやすみ」
電話が切れた。
スマホを胸に抱きしめる。心臓がバクバクしている。言っちゃった。ユウがOKしてくれた。
身体が、さっきより熱い。
お腹の奥が、きゅうっと疼いている。さっきの続きがしたい。──ユウの声を聞いたら、もっとしたくなった。
手が自然と下に伸びた。
ショーツの中。さっきより、明らかに濡れている。
「やば……なんで、こんな……」
ユウがOKしてくれた。それだけで、身体が反応している。
指がクリトリスに触れた。
「ん……っ」
さっきと同じ場所。同じ触り方。なのに、感じ方が違う。
「あ……っ」
声が漏れる。さっきより敏感になってる。びりびりと快感が走る。
ユウの声を思い出す。低くて、少し興奮してた声。『やってみよう』って言ってくれた声。
「ユウ……」
口から名前が漏れた。
指を速く動かす。くりくり、くりくり。波が高くなっていく。さっきと違う。引かない。どんどん高くなる。
「っ、あ……やば……」
来る。今度は来る。
中に指を入れる。さっきより、奥の方が熱い。何かがある気がする。まだよく分からないけど、方向性だけは見えた気がした。
「ユウと……これから……っ」
想像する。ユウと一緒に練習する夏休み。PDCAで、少しずつ上手くなっていく。ユウに触られて、ユウに教えてもらって──
「あ、っ、やば、来る……っ」
波が止まらない。お腹の奥から、全身に広がっていく。
「んっ──!」
枕に顔を押し付けた。声が漏れる。身体がびくびくと震える。頭が真っ白になる。
──イけた。
初めてじゃない。一人では、たまにイける。でも今日は、さっきまで全然ダメだったのに。
ユウのこと考えたら、イけた。
「……はぁ……っ、はぁ……」
息が荒い。余韻で身体がまだ震えている。指を引き抜くと、愛液が糸を引いた。
「……すご……」
涙が、少しだけ頬を伝った。
嬉しいからだと思う。ユウが受け入れてくれたこと。一緒に頑張ろうって言ってくれたこと。
そして──ユウのことを考えたら、イけたこと。
「……夏休み」
布団の中で、小さく呟く。
「楽しみ……かも」
幸せな気持ちで、目を閉じた。
(続く)