※この作品はR-18です。

SSSS級カノジョ宝多六花が、冴えない僕と一緒にエッチをお勉強してくれた夏   作:前野へーた

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プロローグ 六花のひとりエッチ

 

 夏の陽射しが、渡り廊下に長い影を落としていた。

 蝉の声がうるさい。七月の終わり、夏休み直前の最終登校日。みんな浮かれた顔をしている。

 私──宝多六花も、そのはずだった。

 

「──あはは、ユウ先輩ってほんと面白い!」

 

 アカネの笑い声が聞こえる。

 渡り廊下の向こう側。ユウを挟んで、親友のアカネと後輩の夢芽ちゃんが楽しそうに話している。

 ユウも笑っている。……私の彼氏なのに。

 

 私は足を止めて、少し離れた場所から見ていた。

 アカネが身を乗り出すたび、夏服の胸元がゆさっと揺れる。ブラウスのボタンが一つ外れていて、谷間がちらちら見える。ユウの視線が、一瞬そっちに向かった。

 ……見てんじゃないよ。

 

 夢芽ちゃんが髪をかき上げる。細い首筋、整った顔立ちはお人形さんみたい。スカートから伸びる脚はすらりと長くて、モデルみたいだ。

 

 私は無意識に、自分の胸元に手を当てていた。

 アカネほど大きくない。夢芽ちゃんほど細くない。太ももは太いし、お尻も大きい。自分でコンプレックスだって分かってる。でも、ユウは「好きだよ」って言ってくれるから。

 ……それだけで、いいはずなのに。

 

 唇を噛む。

 なんだろう、この胸のざわつき。学園祭からユウと付き合いはじめて一ヶ月。ちゃんと彼女なのに。なのに、なんで私は──

 

「六花!」

 

 ユウが私に気づいて、手を振った。アカネと夢芽ちゃんもこっちを見る。

 

「……うん」

 

 平静を装って、近づいていく。笑顔を作る。大丈夫、私はユウの彼女だから。

 でも心のどこかで、小さな棘が刺さったままだった。

 

 ◆

 

 放課後の教室を、夕陽がオレンジ色に染めている。

 ユウと夢芽ちゃんはもう帰った。残っているのは私とアカネだけ。

 

「ねえ、六花」

 

 アカネが机に腰掛けて、私を見下ろす。

 

「最近、ユウ先輩とどうなの?」

「……別に、普通だけど」

「ふーん」

 

 アカネは意味ありげに笑う。この顔、嫌な予感がする。

 

「ちゃんとヤってる? エッチなこと」

「……っ」

 

 いきなり何を言い出すの、この子は。顔が熱くなる。

 

「なんだよ急にぃ」

「だって六花、なんか満たされてない顔してるもん」

「してない」

「してるって。私には分かるの」

 

 アカネは親友だ。中学からの付き合いで、なんでも話せる。……なんでも、とは言ったけど。

 

「もしかしてさ」

 

 アカネが顔を近づけてくる。

 

「エッチしてもイケないとか?」

「──っ!」

 

 心臓が跳ねた。図星だ。

 ユウとは何度かした。優しくしてくれるし、気持ちよくないわけじゃない。でも──最後の最後で、いつも何かが足りない。あと少しで届きそうなのに、届かない。

 

「……あー、当たりか」

 

 私の反応で全部バレたらしい。アカネはため息をついた。

 

「男ってさ~、下手だと女の子イかせられないよね」

「ユウのせいじゃ……」

「じゃあ六花のせい?」

「……わかんない」

 

 本当に分からない。私の身体が鈍いのか、ユウのやり方が合わないのか。でも「気持ちよくない」なんて言えない。ユウを傷つけたくない。

 

「ま、どっちのせいでもいいけどさ」

「そもそもアカネ、彼氏いたことないじゃんっ」

「あ~、そういうこと言う? なになに、非処女マウント? 言っとくけどさぁ、コンピューターがあればエッチな知識なんていくらでも手に入るんだから」

 

 アカネが立ち上がる。窓際に歩いていって、夕陽を背に振り返った。

 

「うかうかしてると、私か夢芽ちゃんが盗っちゃうぞ〜?」

「……冗談でも言わないで」

「半分冗談」

 

 アカネはにっこり笑う。

 

「半分本気」

「……」

「新学期になったら、私がユウ先輩を『ユウ』って呼び捨てにしてるかもだよ」

「それは!」

「六花がちゃんとユウ先輩を満足させないと、ね。男って単純だから。身体の相性悪いと、他に行っちゃうよ?」

 

 その言葉が、胸に突き刺さった。

 満足させる。私が、ユウを? 私自身が満足できてないのに? 

 黙ったまま、帰り支度を始める。アカネの言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。

 

 ◆

 

 夕暮れ、自分の部屋。

 カーテン越しにオレンジの光が差し込んでいる。私は姿見の前に立っていた。

 

「……満たされてない顔」

 

 鏡の中の自分を見ると、アカネの言葉が蘇る。

 制服のブラウスに手をかけた。ボタンを外していく。一つ、二つ、三つ。脱ぎ捨てる。スカートのホックを外して、床に落とす。

 

 下着姿で、鏡の前に立つ。

 薄い水色のブラ。お揃いのショーツ。ユウに見せたことはない。いつも暗いところでしかしないから。

 胸に手を当てる。ブラの上から、ぎゅっと寄せてみる。谷間が少しできるけど、アカネみたいな迫力はない。

 

「……Cカップじゃ、足りないのかな」

 

 腰のラインをなぞる。くびれはある。そこは悪くないと思う。でも──

 視線を下に落とす。

 太もも。白い肌。でも、太い。内腿同士がくっついている。隙間がほとんどない。

 振り返って、お尻を見る。大きい。丸い。

 

 ……下半身は、正直コンプレックスだ。ジーンズを履くといつもきつい。夢芽ちゃんみたいにすらっとした脚には、一生なれない。

 

「……私の身体って、エッチじゃないのかな」

 

 でも、ユウは「好きだよ」って言ってくれる。お尻を触られた時、「やわらかい」って嬉しそうだった。太ももも、「ここ好き」って言ってくれた。

 なら、問題は身体じゃなくて──

 

「……感じ方?」

 

 どうすれば、イけるようになるんだろう。

 ベッドに座って、スマホを手に取った。検索窓に指を走らせる。

 

『セックス 気持ちよくなる 方法』

 

 顔が熱い。こんなこと検索してる自分が恥ずかしい。でも、知りたい。

 記事をいくつか読んでいく。

 

『女性がオーガズムに達しない原因』

『彼氏とのセックスで満足できない時』

『Gスポットの見つけ方』

 

 どれも「こうすればいい」と書いてあるけど、具体的なイメージが湧かない。

 スクロールしていく指が、ある記事で止まった。

 

『セックスもPDCAで改善できる──計画的なアプローチで二人の関係を深める方法』

 

 PDCA。

 Plan、Do、Check、Action。計画して、実行して、評価して、改善する。仕事とかで使うって、お父さんが言ってたやつだ。

 記事を読み進める。

 

『まず二人で目標を設定します。次に実践し、その結果を振り返り、改善点を見つけて次に活かす。この繰り返しで、確実にセックスは上達します』

 

 ……これだ。

 私の中で、何かがカチリとはまった。

 夏休みは一ヶ月以上ある。毎日会える。計画を立てて、試して、振り返って、改善して──

 

「ユウと……PDCAで……」

 

 でも、こんなこと、言えるかな。

 

「エッチの練習しよう」なんて。引かれるかもしれない。変な子だと思われるかもしれない。

 スマホを握りしめたまま、布団に潜り込んだ。

 

 ◆

 

 深夜、二十三時。

 両親はとっくに寝静まっている。私は布団の中で、スマホを握りしめていた。

 ユウに電話したい。PDCAのこと、提案したい。

 でも、指が動かない。

 

「……はぁ」

 

 ため息が漏れる。身体が熱い。さっきから、ずっと。ユウのことを考えていたら、お腹の奥がじんじんする。

 こういう時は、いつも──

 布団の中で、パジャマの上から胸に手を当てた。

 心臓がバクバクしている。でも、それだけじゃない。乳首が硬くなっているのが、布越しでも分かる。

 

「……やば」

 

 小さく呟く。一人なのに、恥ずかしい。

 でも、止められない。

 パジャマの前を開ける。ブラはしていない。自分の胸が露わになる。暗くて見えないけど、触れば分かる。

 指先が乳首に触れた。

 

「……ん」

 

 硬い。ぴんと立っている。人差し指でくりくりと撫でると、背筋がぞわっとした。

 もう片方の手が、下に伸びていく。

 ショーツの上から、そっと触れた。

 ……濡れてる。

 生地が湿っている。ユウのこと考えただけで、こんなになってる。恥ずかしい。

 でも──これが「イけない」私なんだ。

 ショーツの中に手を入れる。指先がぬるっとした感触に触れた。

 

「……っ」

 

 熱い。自分の秘部が、熱を持っている。

 指をそっと動かす。クリトリスを探す。小さな突起に触れた瞬間、びくっと身体が震えた。

 

「んっ……」

 

 声を堪える。壁が薄い。隣は両親の寝室だ。

 くりくりと撫でる。気持ちいい。でも──

 

「……もうちょっと」

 

 足りない。いつもこうだ。気持ちいいところまでは行くのに、そこから先に進めない。

 指を下にずらす。入り口に触れる。愛液で濡れている。

 中に入れてみる。

 

「……っ」

 

 自分の指が、中に入っていく。温かくて、きゅっと締め付けてくる。

 でも──感覚がぼんやりしている。どこが気持ちいいのか、分からない。

 Gスポットってどこだろう。記事には「お腹側の壁」って書いてあった。探ってみる。でも、よく分からない。

 

「……っ、はぁ」

 

 指を動かす。中を擦る。気持ちよくないわけじゃない。でも、「これ」っていうポイントが見つからない。

 クリトリスに戻る。こっちの方が確実に感じる。

 くり、くり、くり。

 波が少しずつ高くなっていく。お腹の奥が熱い。もうちょっと、もうちょっとで──

 

「……っ、あ……」

 

 来る、と思った。

 でも、波が引いていく。

 

「っ……」

 

 また寸止め。何度目だろう。いつもこうだ。あと少しのところで、身体が緊張して、逆に遠ざかっていく。

 

「……なんで」

 

 悔しい。もう一回。

 同じことを繰り返す。波が来て、引いて。来て、引いて。

 何度やっても、最後まで行けない。

 

「……っ……」

 

 指を止めた。息が荒い。額に汗が滲んでいる。

 でも、イけなかった。

 布団の中で、悔しさと惨めさが込み上げてくる。一人でもダメ。ユウとでもダメ。私の身体、壊れてるのかな。

 

「……このままじゃ、本当にダメだ」

 

 スマホを見る。画面が光る。時刻は二十三時半。

 電話──しよう。

 もう、迷ってる場合じゃない。

 震える指で、ユウの名前をタップした。

 コール音。一回、二回、三回──

 

『六花? どうしたの、こんな時間に』

 

 ユウの声。少し眠そう。起こしちゃったかな。

 

「……あのさ」

 

 声が震える。さっきまで自慰してたなんて、絶対バレたくない。

 

「……提案があるんだけど」

 

『提案?』

 

「夏休みの間……二人で……その……」

 

 言葉が詰まる。顔が熱い。心臓がうるさい。

 

『……うん、聞いてる』

 

 ユウが静かに待ってくれている。深呼吸する。

 

「……エッチの練習、しない?」

 

 沈黙。

 やば、やっぱり変だったかな。引かれた? ドン引き? 

 

『……え?』

 

「だから、その……PDCAってやつ。計画立てて、試して、振り返って……」

 

 早口になる。止まらない。

 

「私……ユウとのこと、もっと気持ちよくなりたいから……。だから、ちゃんと練習して、上手くなりたくて……」

 

『……』

 

「……やっぱ変だよね、ごめん、忘れ──」

 

『分かった』

 

「……え?」

 

『やってみよう』

 

 ユウの声が、さっきより低くなっている。

 

『六花がそう言うなら。俺も……ちゃんとしたいと思ってたから』

 

「……っ」

 

 涙が出そうになった。

 

「……ありがとう」

 

『夏休み、計画立てよう。六花と一緒に……ちゃんと、上手くなりたい』

 

「……うん」

 

『じゃあ、また明日な。おやすみ、六花』

 

「……おやすみ」

 

 電話が切れた。

 スマホを胸に抱きしめる。心臓がバクバクしている。言っちゃった。ユウがOKしてくれた。

 身体が、さっきより熱い。

 お腹の奥が、きゅうっと疼いている。さっきの続きがしたい。──ユウの声を聞いたら、もっとしたくなった。

 手が自然と下に伸びた。

 ショーツの中。さっきより、明らかに濡れている。

 

「やば……なんで、こんな……」

 

 ユウがOKしてくれた。それだけで、身体が反応している。

 指がクリトリスに触れた。

 

「ん……っ」

 

 さっきと同じ場所。同じ触り方。なのに、感じ方が違う。

 

「あ……っ」

 

 声が漏れる。さっきより敏感になってる。びりびりと快感が走る。

 ユウの声を思い出す。低くて、少し興奮してた声。『やってみよう』って言ってくれた声。

 

「ユウ……」

 

 口から名前が漏れた。

 指を速く動かす。くりくり、くりくり。波が高くなっていく。さっきと違う。引かない。どんどん高くなる。

 

「っ、あ……やば……」

 

 来る。今度は来る。

 中に指を入れる。さっきより、奥の方が熱い。何かがある気がする。まだよく分からないけど、方向性だけは見えた気がした。

 

「ユウと……これから……っ」

 

 想像する。ユウと一緒に練習する夏休み。PDCAで、少しずつ上手くなっていく。ユウに触られて、ユウに教えてもらって──

 

「あ、っ、やば、来る……っ」

 

 波が止まらない。お腹の奥から、全身に広がっていく。

 

「んっ──!」

 

 枕に顔を押し付けた。声が漏れる。身体がびくびくと震える。頭が真っ白になる。

 ──イけた。

 初めてじゃない。一人では、たまにイける。でも今日は、さっきまで全然ダメだったのに。

 

 ユウのこと考えたら、イけた。

 

「……はぁ……っ、はぁ……」

 

 息が荒い。余韻で身体がまだ震えている。指を引き抜くと、愛液が糸を引いた。

 

「……すご……」

 

 涙が、少しだけ頬を伝った。

 嬉しいからだと思う。ユウが受け入れてくれたこと。一緒に頑張ろうって言ってくれたこと。

 そして──ユウのことを考えたら、イけたこと。

 

「……夏休み」

 

 布団の中で、小さく呟く。

 

「楽しみ……かも」

 

 幸せな気持ちで、目を閉じた。

 

(続く)

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