「エロ怖」日本の怪異を訪ねて 怖くてドエロい短篇集⭐️イラスト付き 作:みなぽん
福島県・阿武隈山地。その麓にある「東北サファリ・センター」は、観光客の少ない梅雨前の夕暮れを迎えていた。
飼育係の白川慎一は、閉園前の巡回を終え、獣舎へ戻ろうとして足を止める。
鉄の檻の扉が、風とは思えないほど大きく揺れていた。
「……おい、まさか」
慎一が駆け寄ったとき、檻の中は静まり返っていた。
しかし、その静けさが逆に異様だった。
チンパンジーの“胸(ムネ)”――胸元にハート形のブチがあることから、そう名付けられた
サファリセンターで人気だった体重70キロ超の成獣オスが、影も形もなかった。
南京錠は引きちぎられ、檻の壁には黒い毛が引っかかっている。
床には、生肉を引きずったような赤黒い線。
その奥には、3歳のメスのメリーが血まみれでこと切れていた。
お尻のあたりに白濁した液が、飛び散り胸に凌辱の後に殺されたようだ
「逃げた……?」
いや、違う。
逃げたのではなく――自分で破壊して出ていったのだ。
胸は普段から凶暴化の傾向が指摘され、慎一も警戒していた。
チンパンジーは人間と同じように精神病にかかる、最近の彼は間違いなく病んでいた。そして想像以上の力を出した。
だがそれでも、鉄の檻を破るなど誰も想像していなかった。
もし彼が人里に降りて、人間に危害を加えたら、、、、。ー
不吉な予感が、慎一の背中をひやりと走らせた。
■山の静寂が、破られていく
夜の山は、濃い霧がゆっくりと形を変えながら地表を覆っていく。
その中を、体毛を水滴で濡らした影が、四足で駆けていた。
胸だった。
人間の建物の灯りを避けるように、山の奥深くへ。
しかし彼の鼻先をかすめたのは、
人間の匂いだった。
胸は立ち上がると、長い腕を揺らしながら斜面を登っていった。
緊急会議では、管理者が言い訳じみた声を張り上げた。
「外に出たとしても、チンパンジーですよ?人を襲ったりは――」
「このまま隠蔽して外部に発表しない気ですか!施設長は現実を知っていますか?」
慎一は机の上に、印刷していた資料を広げた。
そこには、アフリカで起きた凄惨な事件が記されていた。
〈解説:ウガンダ西部・キャマジャカ村で起きた実際の事件〉
アフリカ東部のウガンダでは、森の生息地が減少するにつれ、
腹をすかせたチンパンジーが農地を荒らし、
人間の子どもをさらう事件が発生するようになった。
2014年7月20日、キャマジャカ村で大人の雄とみられる1頭のチンパンジーが
セマタ家の2歳の男児ムジュニをさらい、致命傷を与えて殺害した。
母親が目を離した一瞬の出来事だった。
チンパンジーは人間より力が強く、粗暴で素早い。
村人が追っても止められないほどだった。
この地域では、森林伐採による生息地の破壊が進み、
食糧を求めたチンパンジーが村周辺に出没するようになっていた。
すでに少なくとも3人が死亡し、複数の子どもが襲われている。
3人ともチンパンジーに凌辱された後に食い殺されていた。
国立公園の外では保護と規制が追いつかず、
住民は常に“襲撃の恐怖”と隣り合わせの暮らしを強いられていた
会議室が凍りつく。
「日本人はチンパンジーに可愛いイメージがありますが、これが……現実なんです。チンパンジーは、肉食動物以上に危険になることがある」
慎一は窓の外を見た。
山の方から、かすかに風を切るような、奇妙なうなり声が響いた気がした。
■山の向こうの集落
阿武隈山地の中腹に、小さな集落「雫井(しずくい)」があった。
夜の九時、**佐紀(さき)**は縁側で泣く三歳の息子をあやしていた。
「ほら、大丈夫よ。狼なんていないんだから」
子供番組で出てきた狼が怖くて、息子が泣き始めた。しばらくあやしていたが泣き止まない。
そのとき、外から“バキリ”と木の枝が折れる音が響いた。
「……クマ?」最近、熊の出没が身近なものになったとは言っても、この村には出たことがなかった。
〔外国人の不審者かもしれない)
佐紀は戸を閉め、鍵をかけようとしたが、
玄関のすりガラス越しに、長い影が映った。
細長く、ありえない角度で揺れている。
人間のような形をしていながら、明らかに人間じゃないシルエット
ゴリ……ゴリ……と、指で木の枠をこすっている。
「誰……?」
影は答えない。
代わりに、ガラスに――黒い掌がべたりと貼り付いた。
縦に長い、奇妙な指。
そして、ガラス越しにのぞく“黄金色の眼”。
「ひぃいいいっ」
佐紀は悲鳴を上げて息子を抱き締めた。
影は、ドンッと扉を叩いた。
二度、三度。
家全体が揺れる。
「嫌……来ないで……!」佐紀はとっさの判断で、息子を押入れの中に隠した。「怖いものが来るからね、目をつぶって耳を塞いで、何があってもここから出ちゃだめよ。いいわね。」
最後の一撃が扉を軋ませた瞬間、外から黒いケモノが入ってきた。
福島県・阿武隈山地。その麓にある「東北サファリ・センター」は、観光客の少ない梅雨前の夕暮れを迎えていた。
飼育係の白川慎一は、閉園前の巡回を終え、獣舎へ戻ろうとして足を止める。
鉄の檻の扉が、風とは思えないほど大きく揺れていた。
「……おい、まさか」
慎一が駆け寄ったとき、檻の中は静まり返っていた。
しかし、その静けさが逆に異様だった。
チンパンジーの“胸(ムネ)”――胸元にハート形のブチがあることから、そう名付けられた
サファリセンターで人気だった体重70キロ超の成獣オスが、影も形もなかった。
南京錠は引きちぎられ、檻の壁には黒い毛が引っかかっている。
床には、生肉を引きずったような赤黒い線。
その奥には、3歳のメスのメリーが血まみれでこと切れていた。
お尻のあたりに白濁した液が、飛び散り胸に凌辱の後に殺されたようだ
「逃げた……?」
いや、違う。
逃げたのではなく――自分で破壊して出ていったのだ。
胸は普段から凶暴化の傾向が指摘され、慎一も警戒していた。
チンパンジーは人間と同じように精神病にかかる、最近の彼は間違いなく病んでいた。そして想像以上の力を出した。
だがそれでも、鉄の檻を破るなど誰も想像していなかった。
もし彼が人里に降りて、人間に危害を加えたら、、、、。ー
不吉な予感が、慎一の背中をひやりと走らせた。
■山の静寂が、破られていく
夜の山は、濃い霧がゆっくりと形を変えながら地表を覆っていく。
その中を、体毛を水滴で濡らした影が、四足で駆けていた。
胸だった。
人間の建物の灯りを避けるように、山の奥深くへ。
しかし彼の鼻先をかすめたのは、
人間の匂いだった。
胸は立ち上がると、長い腕を揺らしながら斜面を登っていった。
緊急会議では、管理者が言い訳じみた声を張り上げた。
「外に出たとしても、チンパンジーですよ?人を襲ったりは――」
「このまま隠蔽して外部に発表しない気ですか!施設長は現実を知っていますか?」
慎一は机の上に、印刷していた資料を広げた。
そこには、アフリカで起きた凄惨な事件が記されていた。
〈解説:ウガンダ西部・キャマジャカ村で起きた実際の事件〉
アフリカ東部のウガンダでは、森の生息地が減少するにつれ、
腹をすかせたチンパンジーが農地を荒らし、
人間の子どもをさらう事件が発生するようになった。
2014年7月20日、キャマジャカ村で大人の雄とみられる1頭のチンパンジーが
セマタ家の2歳の男児ムジュニをさらい、致命傷を与えて殺害した。
母親が目を離した一瞬の出来事だった。
チンパンジーは人間より力が強く、粗暴で素早い。
村人が追っても止められないほどだった。
この地域では、森林伐採による生息地の破壊が進み、
食糧を求めたチンパンジーが村周辺に出没するようになっていた。
すでに少なくとも3人が死亡し、複数の子どもが襲われている。
3人ともチンパンジーに凌辱された後に食い殺されていた。
国立公園の外では保護と規制が追いつかず、
住民は常に“襲撃の恐怖”と隣り合わせの暮らしを強いられていた
会議室が凍りつく。
「日本人はチンパンジーに可愛いイメージがありますが、これが……現実なんです。チンパンジーは、肉食動物以上に危険になることがある」
慎一は窓の外を見た。
山の方から、かすかに風を切るような、奇妙なうなり声が響いた気がした。
■山の向こうの集落
阿武隈山地の中腹に、小さな集落「雫井(しずくい)」があった。
夜の九時、**佐紀(さき)**は縁側で泣く三歳の息子をあやしていた。
「ほら、大丈夫よ。狼なんていないんだから」
子供番組で出てきた狼が怖くて、息子が泣き始めた。しばらくあやしていたが泣き止まない。
そのとき、外から“バキリ”と木の枝が折れる音が響いた。
「……クマ?」最近、熊の出没が身近なものになったとは言っても、この村には出たことがなかった。
〔外国人の不審者かもしれない)
佐紀は戸を閉め、鍵をかけようとしたが、
玄関のすりガラス越しに、長い影が映った。
細長く、ありえない角度で揺れている。
人間のような形をしていながら、明らかに人間じゃないシルエット
ゴリ……ゴリ……と、指で木の枠をこすっている。
「誰……?」
影は答えない。
代わりに、ガラスに――黒い掌がべたりと貼り付いた。
縦に長い、奇妙な指。
そして、ガラス越しにのぞく“黄金色の眼”。
「ひぃいいいっ」
佐紀は悲鳴を上げて息子を抱き締めた。
影は、ドンッと扉を叩いた。
二度、三度。
家全体が揺れる。
「嫌……来ないで……!」佐紀はとっさの判断で、息子を押入れの中に隠した。「怖いものが来るからね、目をつぶって耳を塞いで、何があってもここから出ちゃだめよ。いいわね。」
最後の一撃が扉を軋ませた瞬間、外から黒いケモノが入ってきた。
ドンッ―――
襖が叩きつけられるように開いた。
闇の中に浮かぶのは、月明かりに照らされた濡れた黒い塊だった。
四つん這いのシルエットが、獲物を見つけた狩人のように跳ねた。
「ギャッ!」
叫び声が喉まで出かけた時、太い腕が佐紀の髪をつかみ、畳へ顔面ごと叩きつけた。
ゴツンという鈍い音。
鼻血が熱く流れ落ちる。
後頭部がズキズキと疼いた。
チンパンジーは唸りながら立ち上がり、長い腕で佐紀のパジャマの胸元を掴む。
ビリビリッ!
布が千切れる鋭い音と共に、胸が露わになった。息子を守るために必死に抵抗しようとする意志とは裏腹に、体が恐怖で固まる。
目の前にあるのは理性の欠片もない獣の顔。
血走った金色の瞳。唾液にまみれた長い舌が剥き出しになった牙を舐め回す。
「……ムゥゥゥ……」
低いうなり声とともにチンパンジーの腰が動き、下半身を覆っていたボロ布がズレた。
現れたのは――人間離れした巨大な陰茎だった。
亀頭は異様に腫れ上がり、血管が網目のように浮き出ている。
それはもう生殖器というより、獲物を串刺しにするための凶器だった。
「ひ……嫌っ……」
言葉はそこで途切れた。
チンパンジーは佐紀の両肩を押さえつけ、その腰を一気に沈めた。
ズブッ!!!
「ぐあああああっ!!」
膣口が限界を超え、引き裂かれるような激痛が背骨を駆け抜ける。
異物は容赦なく奥へ突き進み、子宮頸部を叩いた。
ギィィッ……ギギギッ……
湿った肉同士が擦れ合い、泡立つような音を立てて抽送が始まった。
パンッ! パンッ! パンッ!
打ち付けるリズムは狂った時計のように一定ではなく、速すぎたり遅すぎたりと規則性がない。
獣は喘ぐように吠えながら腰を振り続ける。
佐紀の内臓が左右に揺さぶられ、吐き気が込み上げてきた。
「うぇ……っ…ぁ……」
胃液混じりの涎が唇から垂れ落ちる。
チンパンジーのペニスはさらに膨張し、膣壁をミチミチと拡げていく。
狭すぎる内部で余った部分が腹側へ押し出され、臍の下にこんもりと盛り上がる。
まるで内部から押されて妊婦のような腹部になっていた。
その瞬間、獣は一際大きな唸り声をあげた。
グチャッ!
最奥まで突き込まれた状態で腰が固定されると、灼熱の奔流が子宮内に注ぎ込まれた。
ドピュッ! ドプッ! ドクッ!
人間の比ではない量の精液が激しく脈打つように放たれる。
「あ……あぁぁ……!」
膣が火傷するかと思うほどの熱さを感じた直後、チンパンジーはすぐに動きを再開した。
射精中にも関わらず再び杭打ちのような激しい抽送が続く。
ドロドロとした液体が攪拌され、泡立ちながら膣口から溢れ出した。
白濁と血液の混合液が畳に大きな染みを作る。
「ヒッ……ヒッ……」
佐紀の呼吸は浅く切れ切れになり、視界がぼやけてきた。
チンパンジーは一度もペニスを抜かないまま何度も腰を打ち続けた。
「ウオォォッ!」
再度の射精。今度は少し柔らかくなった子宮内で直接受け止める感覚があった。
それでも構わずまた次の波が押し寄せた。
三度目。
獣の体温の高い体液が次々と流れ込むたびに子宮は満杯となり、漏れ出た分が尻まで伝って床を汚していく。
「も……やめ……て…」
か細い懇願は空虚に消えた。チンパンジーの表情には一切の情動が見えない。
ただ本能だけが行動を支配している。
股関節が外れそうな激痛の中で、佐紀は息子の隠れた押入れを見た。
苦しげな声を聞かせてはならない。あの子がそれを聞き泣いたら見つかってしまう。そう思うだけで必死に歯を食いしばった。
しかしその健気な努力も虚しく、4度目の射精と共に痛みとは別種の電流が走った。
「あぁぁっ!」
恐怖と酸欠で半ば錯乱状態の肉体が無理矢理快楽を拾い始めてしまう。
敏感な粘膜が麻痺し、痛みと快感の境界が曖昧になっていった。
チンパンジーは佐紀の反応の変化を嗅ぎ取ったのか、体勢を変え始めた。
前肢で胸を押し潰しながら、仰向けにさせると両膝裏をつかんで持ち上げる。
背面騎乗位とも呼べる格好で結合はさらに深くなる。
ゴリッ! ゴリッ!
ペニスが内臓を抉るように突き上げるたびに肺から空気が押し出された。
「カハッ……ァ…」
声にならない呻きだけが漏れる。
強烈な射精。白濁が滝のように流れ落ちる。
チンパンジーは飽きることなく同じ場所を穿ち続けた。
時間の感覚が失われていく。
膣内は焼けただれたように熱く腫れ上がり、どんな刺激にも鈍くなっていった。
しかしそれでも脳だけは研ぎ澄まされている。
全身から汗が噴き出し、視界の端がチカチカと明滅する。
これは拷問なのか、それとも――歪んだ交合なのか。
「あ……あぅ……」
6度目の射精の瞬間、佐紀の心はふっと飛んだ。
獣が腰を引くとようやく解放されたはずなのに、股間からはどろりと大量の体液が垂れ続けた。
「ウッキィ」
チンパンジーは満足げに舌なめずりすると、今度は佐紀の顔面に跨った。
先ほどまで自分自身を苛んでいた怪物が、勝利者のように唾液を滴らせながら眼前にそそり立つ。
「畜生め、、うっ……!」
吐き気と怒りが入り混じった感情がわきあがる。
チンパンジーは尚も佐紀の上に覆いかぶさってくる。
「ぁ……ぁぁ……」
意識が遠のいていく。息子の隠れた押入れが揺れた気がした。
チンパンジーが振り抜く。気づかせてはいけない。痛みと血と涙と白濁が混ざり合う中で、彼女はチンパンジーの注意を引くために自ら足を開いた。
チンパンジーは満足げにその光景を見下ろし、牙を剥き出すと新たな穴へとペニスを向けた。
「……っ!!」
もう声も出ない。
肛門を押し開きながら侵入してくる感触。
裂け目から内臓が引きずり出されるような激痛が背筋を貫く。
ブヂッ! ギシギシッ……
「ぐふっ……」
胃液が喉奥から押し戻され、自分の血と混ざり合って胸元へ垂れた。
チンパンジーは異常な興奮状態のまま尻を揺らし始める。
「オォォッ! ウワァァ!」
8度目の射精は直腸へ直接ぶちまけられた。
灼けるような熱さが内側から広がる。
膣からの白濁が外へ零れ落ちる一方で、もう一つの出口も洪水のように満たされていく。
「こぽっ……」
口から泡混じりの唾液が漏れた。
それでもチンパンジーは止まらない。
二つの穴を使い分けながら延々と搾取を続ける。
もう回数など意味をなさなかった。
佐紀の意識は断片的にしか繋がらず、ただ全身の神経が切り刻まれるような感覚だけが残る。
「……ぅ…」
掠れた嗚咽が漏れた。視界が白っぽく霞みやがて気絶した。
ぐったりした彼女を見下ろしたチンパンジーは牙をむいた。
彼女の血を擦り肉を食おうと思ったのだ。
しかし、突然、室内を車のサーチライトが照らした。
白川慎一の車だった。
胸はライトを嫌い、山の奥へ逃げ込んだ。
しかし慎一は知っていた。
逃げたのではない。獲物を諦めただけだと。
胸はすでに、人間に執着し始めている。
その事は、室内に横たわる佐紀の惨状を見て確信した。
ウガンダのチンパンジーがそうであったように――
精神を病み恐怖と怒りに支配された個体は、いつでも“次の襲撃”を始める。
村には、まだ住民がいる。小さな子どもたちも。
「ここで胸を止めなくちゃ、」慎一は暗い山道へ懐中電灯を向けた。
霧の奥――そこに立っていた。
濡れた毛を逆立て、片手にはぐちゃぐちゃに潰された柴犬を持っていた
胸の唸り声が、闇に溶けた。
それはもう、動物園で飼われていた“あの胸”ではない。
ウガンダの森で飢え、村を襲った獣と同じ、
**「人を狩るもの」**になっていた。
――山霧の中で、何かが走り出した。
胸が霧の奥へ消えたその翌朝。
白川慎一は、地元の猟友会と協力するため、麓の集落へ向かった。
川辺の小屋の前で、ひとりの老人が釣り網を修理していた。
白い髭を胸まで伸ばした、漁師の佐治(さじ)源五郎。
この山を50年以上見続けてきた男だ。
「白川の若ぇの、聞いたぞ。サファリの猿が逃げたってな」
慎一が事情を説明すると、源五郎は手を止め、じっと慎一を見た。
「……そいつ、夜に見ただろ?」
「ええ。霧の中で……。あれは普通じゃ──」
「そいつは もう猿じゃねぇ、山ワロじゃ」
源五郎の声は低く、湿った風のようだった。
慎一は眉をひそめた。
「山ワロ……?」
源五郎は釣り網を置き、焚き火に薪をくべると話し始めた。
「この辺りの古い山ん中にはな、“山ワロ”って人喰い妖怪が出るって昔から言われてんだ」
焚き火がパチリと音を立てる。
「夜になると、二足で立って歩く。毛むくじゃらで、腕がやたら長ぇ。
山道で子どもの泣き声がすると寄ってきて、さらって食っちまうんだと」
慎一は息を呑んだ。──胸の姿そのままだ。
「目はどうだった?」
源五郎は慎一の顔をまっすぐ見た。
「金色に光ってただろ?」
ゾクリと背骨に冷たいものが走る。
まさに昨夜、ガラス越しに見た胸の目と同じだった。
源五郎は続ける。
「昔、山のほうで行方不明になった子どもがいてな。村じゃみんな“山ワロに喰われた”って言ってた。死体が見つかったんだが……ほとんど原形を留めてなくてな骨までしゃぶられたようだった、そして山狩りをして捕まえたん。だが、犯人は巨大なニホンザルだった。そして、狂ったような金色の目をしていたんだよ。それが病気によるものなのか、精神状態によるものなのかわからない。しかし、金色の目になった猿は、もう猿じゃない化け物だ。」
慎一は思わず拳を握った。
「それはおそらく、チンパンジーの襲撃に似た特徴です。
ウガンダでは、飢えたチンパンジーが──」
言いかけた慎一を、源五郎が手で制した。
「若ぇの、今やるべきと言う事は山ワロをぶっ殺すことだ。理屈で片づけられねぇもんってのがある。山は人の理屈じゃ測れん“別の生き物”が棲んでるんだ。」
焚き火が揺れ、源五郎の顔に赤い影が走る。
源五郎は震える指先で焚き火をかき回した。
「お前さんの言う“胸”ってのがそれだ。そりゃもう山ワロだ。エサを求めて人間の町へ降りてくるぞ。」
夜。
霧が山肌にまとわりつき、木々の影は獣の牙のように尖っていた。
慎一は、猟友会の仲間と源五郎を含めた4人で、山の奥へ入っていた。
全員が散弾銃を背負い、慎一だけがサファリセンター時代の麻酔銃を握っていた。
「慎一、いいか」
源五郎が低く言う。
「山ワロは人の声に反応すっぞ。静かに歩け」
慎一はうなずき、耳を澄ませた。
そのとき――
ギィ……ギャアアアアア……!
人の声とも獣ともつかない叫びが、森の奥から響いた。
「来るぞ、構えろ!」
朽ち木を割るような音がしたかと思うと、
黒い影が木々の間を跳ねるように横切った。
次の瞬間――
バキッ!!
太い杉の幹が、まるで箸のように折れた。
「ひ……ひでえ力だ……!」
猟友会の一人・大槻が震える。
霧の向こうで、黄金の目が2つ、ゆっくりとこちらを向く。
「胸……なのか?」
慎一が呟いた。
かつて餌をねだって笑っていたチンパンジーの面影は、もうどこにもなかった。
毛は泥と血で固まり、腕には白い傷跡。
背は丸まり、犬歯が伸び、唇は裂けていた。
まるで――進化ではなく“変質”した妖怪そのもの。
「撃てぇ!!」
源五郎の号令で散弾銃が4発、霧の中に火を吐いた。
ズドォン!!
ズドォン!!
だが胸は、普通の獣のように逃げない。
弾を受けると、逆に怒り狂い、地を蹴って飛びかかってきた。
「うわあああっ!!」
大槻が吹き飛ばされ、胸の長い腕が彼の肩をつかむ。
人間の子どもをさらったウガンダのチンパンジーの記録が、慎一の脳裏をよぎる。
あれと同じ力で人を引き裂く。それどころか、こいつはもう“別物”だ。
「やめろッ!!」
慎一が麻酔銃を構えた刹那、
胸は大槻を木に叩きつけ、別の方向に跳躍した。
源五郎が散弾を撃つ。
しかし胸は跳ねるように避け、木の裏へ回り込む。
「動きが……速すぎる……!」
霧の中で、黄金色が跳ねる。
近い。すぐそこだ。
慎一は呼吸を整え、
麻酔銃の照準に、その目を捉えた。
「胸……戻ってこい。頼む……!」
撃った瞬間、霧が揺れた。
シュッ!
赤い点が胸の肩に刺さった──だが。胸は痛みすら意に介さず、
四肢を使い“人間以上の速度”で突進してきた。
「慎一、伏せろ!!」
源五郎が慎一を突き飛ばした瞬間、
胸の腕が風を裂き、源五郎の胸元をかすめた。
血が飛ぶ。
「源さんッ!!」
源五郎はよろめきながら銃を拾い上げる。
「若ぇの……撃て……!こいつはもう……山の妖怪だ……!」
胸が二本足で立ち上がり、咆哮した。
ギイイィアアアアアア!!
木々が震え、鳥が飛び立つ。
その声は、獣のものではなかった。
慎一は恐怖で震える手を押さえ、続けて麻酔弾を装填する。
「胸……お前をこんなものにしてしまったのは……俺たちなんだ……!」
胸が襲いかかる。巨大な影が飛ぶ。霧が裂ける。
慎一は心を決めた。
パンッ!!額に向けて撃った。
命を奪わず、しかし確実に倒す――その一射。
麻酔弾が額近くの毛皮を抉り、胸はのけぞった。
が、倒れない。よろめきながらも、慎一に手を伸ばす。
「まだ効かねぇのか……!!」
だがそのとき。ズドォンッ!!
源五郎の散弾が胸の足を直撃し、獣はバランスを失って――大地に倒れ込んだ。
地面に転がりながら、胸は低くうめき、
長い腕で土を掘るようにして、最後に慎一へと手を伸ばした。
その目は……かつて餌のリンゴをねだっていた頃の、あの優しい光を微かに宿していた。
「胸……ごめん……」
慎一が呟いた瞬間、
山の霧に、胸の呼吸が静かに溶けていった。