「エロ怖」日本の怪異を訪ねて 怖くてドエロい短篇集⭐️イラスト付き 作:みなぽん
柳沢奇譚:姦姦蛇螺 ― 白骨の参道
山の匂いは、どうしてこんなにも湿っているのだろう――
南條美和は、杉林の中で一歩進むごとに、胸の奥がざわめくのを感じていた。
「先生……ほんとに、ここに“出る”んですか?」
先を歩く柳沢は、古びた懐中電灯を照らしながら短く答えた。
「噂じゃなく“事案”だ。
この山道で三人連続失踪。
しかも全員、最後に“鳥居を見た”と言っている」
「鳥居なんて、どこにも……」
美和が言いかけた瞬間――
視界の奥に、ぽつん、と赤いものが見えた。
朽ちた木の鳥居だった。
左右の柱は黒ずみ、上部には無数の貼り紙がペタペタと張られている。
すべて同じ筆跡で、墨の文字が滲んでいた。
「入ルナ」
「振リ向クナ」
「見タラ終ワリ」
「うわ……なにこれ、不吉すぎ……!」
美和は腕を抱えて震えた。
だが柳沢はゆっくり鳥居に近づき、貼り紙に触れた。
「……こりゃあ、“止め札”ですね。誰かがこれ以上入られないよう封じた。だが――」
懐中電灯が照らし出す鳥居の奥、
暗闇の中に、奇妙な“白いもの”がうずくまっていた。
「えっ……なに、あれ」
それは人のようで――しかし、あまりに細すぎた。
手足が骨だけのように痩せこけ、肌は白灰色。
何より、身体のあちこちに“蛇のようなもの”が巻きついている。
絡みつく細い腕、長い指。
むき出しの白い関節。
人形のような顔の中央に、ぎょろりとした黒い穴。
「姦姦蛇螺……!」
美和が息を呑むのと、
そいつが“カタリ”と首をこちらへ向けたのは同時だった。
ぐらり、と白骨の身体が立ち上がる。
くの字に折れた脚が、枯れ枝のようにギィィと鳴る。
「逃げるんだ美和!!
こいつは“見たら終わり”の類ですッ!!」
柳沢の叫びが森に反響する。
美和は思わず後ずさりし――
鳥居の上から、乾いた声が響いた。
「ミィ……タァ……?」
姦姦蛇螺の顔が裂けるように笑った。
その瞬間、鳥居の内側の空気が“粘つく”何かに変わり、
美和の足首に冷たい指が絡みついた。
「ひっ……!! いや、先生助け――」
「絶対振り向くなッ!!
振り向いたら、美和も姦姦蛇螺”になる!」
柳沢は美和を抱え込むようにして、一気に後退した。
白い影が鳥居をくぐり抜ける瞬間、林全体が“悲鳴”のような音を上げる。
山がざわめき、風が逆巻き、
鳥居の先から無数の“細い影”が伸びてくる――
美和は目を固く閉じ、叫んだ。
「先生!! この山、なんなの!?
あれ……あれは何なんですか!!」
柳沢は美和の手を強く握り、走りながら答えた。
「……あれは、
“山に捨てられた者”が変じた呪霊です。
でも――今回は、それだけではありません」
「え?」
「姦姦蛇螺の眷属がが増えてるいるんです。」
美和の背筋が凍った。
背後で、白い何かが地面を引きずる音がした。
森の奥から湧き出るように、白い影が次々と現れてくる。
一本、二本――いや、腕のようなものが蠢く。
それは“腕”であり、“蛇”であり、そして“子ども”でもあった。
ざらり……ざらり……
数十体の姦姦蛇螺が、半円状に美和を囲む。
その全てが、
美和一人だけを見つめていた。
「おいて、かないで……」
声は幼児のもの、青年のもの、老人のものすら混じり、
しかしすべて“母を求めて泣く子”の響きで統一されていた。
美和は震えた。
「なんで……
なんで私に……?」
柳沢は横で歯を食いしばり、低く呟いた。
「美和君、本能的に、ああいう“捨てられた子の霊”にとって、女性は
“母親の代わり”として認識されやすい。……」
「そんな!?」
だが彼女の叫びも虚しく、
姦姦蛇螺たちは、美和へじりじりと滲み寄ってくる。
白骨の肢体が伸び、
細い指が彼女の頬のすぐそばで震えていた。
ひとつの姦姦蛇螺が、美和の足元に顔を寄せた。
それは――
人間の子どものような顔をしているが、
眼は虚ろで、鼻がなく、口は横に裂けている。
そして股間には、日々のように揺れる生殖器が見えた。
美和は震え上がった。あの股間に見える歪な器官——それはまさに性的虐待の象徴だった。
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「美和、何をされても目をつぶっているんだ!奴らはぬくもりを得るためにお前を陵辱するつもりだ!」
柳沢の警告は遅かった。数本の白い手が同時に美和の制服を剥ぎ取り始めていた。
「やめて……!」
必死に抵抗しても意味がない。まるで粘土をこねるように、白骨の腕が彼女の肌を撫で回した。皮膚を這う感触は冷たくて痛くて、そして恐ろしいほど執拗だった。
「見るな!感じるな!奴らにお前の生命力を与えるな!」
柳沢の声が遠くなる。彼自身も多数の姦姦蛇螺に囲まれていた。目の前に広がるのは地獄絵図——裸体の美和を取り囲む数十体の白骨化した人型の群れ。彼らは美和の身体を貪るように弄び始めた。
恐怖に目を閉じると、神経は鋭敏になった。太ももを這う骨の冷たさ。乳房に絡みつく骨格の歪さ。耳元で聞こえるのは掠れた声の合唱——「おかあさん」「ぬくもりをちょうだい」「ひとりぼっちはいや」……。
美和は涙を堪え切れなかった。
その時、柳沢が突然叫んだ。
「目を開けろ、美和!!奴らに慈悲などない!!」
衝撃的な言葉だった。彼女がおそるおそる瞼をあげると、信じ難い光景が飛び込んできた。
姦姦蛇螺達が美和の肌に触れると——そこから彼女の“命そのもの”が吸い取られていたのだ。
「なっ……なに、これ……」
「喰われているんだ。霊的にはもちろん、物理的な生命エネルギーまでな」
柳沢は冷徹に言った。「奴らは“生きた贄”を探していた。お前みたいな若い女が最高のご馳走なんだよ」
美和は血の気の引いた顔で叫んだ。
「こんなのいや!助けて先生!」
しかし周囲にいた姦姦蛇螺達は興奮したように美和の身体に覆いかぶさってきた。
数百本もの腕が彼女の四肢を縛りつけ、数十個の顔が彼女の首筋に群がる。ある姦姦蛇螺は彼女の腹部に舌を這わせ、別の存在は大腿部を噛みつかんばかりに引き寄せた。
その凄惨な光景の中で、最も悍ましかったのは股間に潜り込もうとするもの達だった。その触手のように見える突起物は男性器を象っており、それらが競い合うように美和の秘所を狙っていた。
「やめて!お願いだからやめてえ!」
美和の叫びは虚しく消えていく。
白骨の指が滑り込んできた瞬間──
「んぁっ!!」
痛みではなく、稲妻のような衝撃が腰を貫いた。姦姦蛇螺の“指”は氷よりも冷たく、鋼のように硬質なのに、なぜか神経の芯に熱い快感を刻み込んでくる。
「違う……これは違うのに……!」
股座から湧き上がる痙攣が止まらない。生理的な反応だと頭では理解していても、それを「気持ちいい」と感じる脳が憎らしい。何体もの姦姦蛇螺が競うように侵入し、その異様な圧迫感と摩擦が理性を削り落としていく。
「やめ……っ、あぁんっ! 先生っ……みちゃいやあっ!」
柳沢は眉根を寄せたまま動かない。彼の視線は冷たく鋭いのに、その奥に微かな怒りと悲しみが灯っているのがわかる。
それがなおさら恥辱を掻き立てた。
「くっ……やめろ、美和を離せ!」
柳沢が札を構えるが、彼を取り囲む数倍の姦姦蛇螺が嘲笑うように腕を伸ばす。目の前で展開される淫靡な儀式を止められないと知りながら、彼は歯を食いしばる。
一方で美和の思考は途切れた。五本、十本、二十本──数えることができないほど多くの“異形”が彼女の体内を満たし始める。それは通常の人間の想像力を超えた圧倒的な質量でありながら、驚異的な柔軟性を帯びている。狭隘な肉壁が押し広げられる苦痛と裏腹に、内臓の隅々まで波紋のように伝わる甘美な振動──快楽神経が焼き切れそうだ。
「いやっ……! おかしくなるぅ……!」
涙が飛び散る。声が跳ねる。脊髄を通って脳天に直撃する灼熱の刺激。意識が白濁し、何も考えられなくなる瞬間──
ドクンッ!!
全身を駆け巡る解放感。
骨盤から背骨へ一直線に昇る閃光。
強制的に導かれた絶頂。
「ぁあああぁぁぁ──ッ!!」
喉を引き裂く悲鳴とともに美和の全身が仰け反った。快楽中枢が焼かれ、筋肉が痙攣し、視界が真っ白に爆ぜる。その刹那──姦姦蛇螺達が一斉に“啜った”。
ズズゥ……!
魂を直接吸い取られるような喪失感。生きる熱量が音を立てて霧散していく。絶頂の余韻は恐怖と混淆し、さらに次の挿入を誘発する。
「まだ……イケル……」
乾いた唇から漏れる呻き。自分でも聞いたことのない媚びた響き。
最初の絶頂が終息する前に次の波が襲いかかる。神経は麻痺しているはずなのに、感覚だけは冴え渡るという悪夢のような状況──それが連鎖絶頂の正体だ。
「まっ……また来るっ! 来ちゃうっ! 止まんな──!」
一拍置いて再びの頂点到達。オーガズムの残火が冷めやらぬうちに新たな炎が燃え移る。三度目。四度目。五回目──どこまで続くのかわからない果てしない悦楽地獄。
姦姦蛇螺達は獲物が最大級に弱体化した瞬間を正確に把握し、そこへ鋭利な快楽を注ぎ込み続ける。
「ふぁ……せんせぇ……たす……け…あ゛あ゛っ♡」
最後の言葉も絶頂に溶けた。絶え間なく襲ってくる絶頂の奔流に呑まれながら、美和は無意識のうちに腰を浮かせていた。本能が最大の快楽を求めて反射的に迎合している──そう気づいた瞬間、心の底で何かが砕けた。
「だめだ……わた……し…」
薄れゆく視界の端で柳沢の顔が歪む。怒りか? 助けたいけれど出来ない悔しさか? それとも失望なのか? 読み取る暇もなく七度目の絶頂が炸裂した。
「んぁ……ッ♡♡♡♡♡♡!!!!!」
もう声ではない。動物の断末魔に似た甲高い音が森に轟く。
柳沢の額から汗が滴り落ちた。美和を救いたい一心で術を紡ごうとしても、彼を拘束する白骨の腕が増え続けている。
彼女の嬌声が響くたびに姦姦蛇螺達は勝ち誇ったように身をくねらせた。
八回目。
九回目。
十回目を超えた時点で数えることを放棄した。
絶頂と絶頂が溶け合い、境界線が曖昧になる。意識は深い酩酊状態へと沈み込み、ただ快楽の波間に漂うだけの抜け殻となった。魂が少しずつ吸い尽くされていく実感と共に、美和は自分の肉体が“道具”として扱われる悦びを覚え始めていた。
(これが……“気持ちいい”ってことなの……?)
思考回路が蝕まれる中で最後に見えたのは、柳沢が必死に差し伸べようとする腕だった。だが距離は遠すぎる。彼の声は届かない。美和の身体はもう完全に姦姦蛇螺達の餌食となっており──
「ごめんね……わたし……もうダメみたい……」
自嘲的な微笑みが浮かんだ。
次の瞬間、数十体分の脈動が一点集中する。
ドブゥンッ!!
これまでとは比較にならない大規模なオーガズム。内部で爆発した快楽が全身を焼き尽くす。
神経は断裂し、血液は沸騰し、霊体の輪郭すら溶け崩れるような究極の解放──
「あぁぁぁああああアアアアァァァァ!!!!」
大地を揺るがす咆哮を上げながら美和は全身で昇り詰めた。この世のものと思えない恍惚の中で彼女の霊的自我は完全に破壊され、“入れ物”として機能するのみの人形となる。柳沢の眼前で少女の瞳孔が徐々に拡散し、焦点を失っていく。
「美和──!」
最後の絶望的な叫びが虚空へ吸い込まれたとき、
姦姦蛇螺達の哄笑が闇夜に渦巻いた。
柳沢は必死に考えをめぐらした。この事態を打開する方法は無いのか。
朽ちた鳥居の下、柳沢の脳裏に記憶の欠片が火花のように弾ける。
姦姦蛇螺――それは闇に堕ちた巫女の名だった。
「……そうか、そういうことか」
柳沢は歯を食いしばる。地面に這う白い触手は、既に膝まで絡みつき、その冷たい感触が皮膚を灼く。しかし彼の目は揺るがない。恐怖よりも、悲憤が胸を焦がす。
「お前たちの主人は……あの巫女だったな。人食い大蛇を退治しに出向き……返り討ちに遭った村の巫女だ」
暗がりに佇む姦姦蛇螺たちが一斉に動きを止めた。
その反応こそが答えだった。
柳沢は荒い息を吐きながら続けた。「お前たちの本体は……ここでまだ囚われている。お前たちを生んだのは……」
―――そしてすべては柳沢の脳内で鮮烈に蘇った。
【記憶の深淵】
遥か昔、山里に平穏があった頃。
若き巫女がいた。美しく清廉な心を持ちながらも、その純潔が故に恐れられた。村人たちからは「生娘の力こそ神降ろしに相応しい」と崇められつつ、「穢れを知らぬゆえに凶事を呼び寄せ得る」と忌避される矛盾の日々。
彼女に託された使命は壮絶だった――人喰らいの大蛇の討伐。村の若い男衆が次々と呑まれる惨禍に終止符を打つため、神刀を携えて単身峠の奥深くへ分け入った。
「来るなァッ! 退けェ!」
激しい斬り合いの中、巫女の腕は痺れ、呼吸は乱れた。それでも神刀は大蛇の鱗を裂き、血潮が飛沫く。あと一太刀――そう思った瞬間だった。
「しまった……!」
大蛇が牙を突き立てたのは巫女ではない。崖上で見守っていた村長の嫡男だった。若者は足を滑らせて転落し、喉笛を噛み千切られた。悲鳴は短く途絶えた。
「やめろーーッ!!」
巫女は怒号と共に踏み込んだ。だがそれは罠だった。大蛇の尾が鎌首をもたげ、巫女の両足首を掴み――引き裂くように上半身と下半身を捩じ切った。
「……あ……ぁ……」
天地が反転した世界で巫女は見た。愛しかったはずの若者の血溜まりに立つ村人たちが、松明を持って近づいてくるのを。
「こいつぁ丁度いい。生贄にして神を鎮めよう。蛇様は丸呑みできるほうが喜ぶだろう」
「下半身は要らんな。重いだけだ」
ザクリ。鈍い金属音が鳴った。切断された腿の断面から熱い液体が噴き出し、地面に染みていく。
(許さない……わたしだけを汚し……捨てるなど……許さない……)
恨みの焔は、死してなお魂を焦がし続けた。翌朝――大蛇の死骸とともに現れたのは、下半身を失った巫女の亡骸ではなかった。上半身だけで蠢く怪物。否、“女”の部分を奪われたからこそ、“男”の部分を奪い返す者に変じたのだ。
「それで……犠牲者は男ばかりだったんだな」
柳沢は絞り出した。「お前たちは“失われた性”の再生産のために男を捕らえていた。巫女として封印された時に引きちぎられた下半身――つまり『受け入れる部分』を求めて」
姦姦蛇螺たちは黙したまま蠢き、やがてひと塊となって膨張する。空間が軋み、洞窟の奥から石の軋む音がした。
「待て!」
柳沢は反射的に札を投げた。青白い光の網が降りかかると同時に姦姦蛇螺が悲鳴を上げて飛び退く。その隙に彼は走りだす。
「美和! 目を覚ませ!」
放心状態の彼女に駆け寄り肩を揺さぶる。
だが美和の瞳孔は開ききり、虚空を映すだけだ。まるで“器”の役割だけが遺されているようだった。
「まだ間に合う……あの巫女さえ祓えば!」
柳沢は美和を抱え上げる。脆くなった骨格が腕の中で軋んだ。そのとき気づいた――彼女の体温が急激に下がり始めている。魂を吸い取られた証だった。
「必ず助ける……だから耐えてくれ!」
洞窟の最深部へ駆け込みながら彼は思う。この呪いは暴力や恐怖だけでは終わらない。“喪失”そのものを埋めなくてはならない。ならば――。
「――この方法しかない」
奥の広間で待ち受けていたのは、巨大な白骨の岩塊だった。人間の肋骨を模した凹凸があり、中央には胎児のように屈んだ女体のシルエットがうっすら浮かんでいる。そこから伸びた白く透明な触手が幾百と垂れ下がり、地面に波紋を作っていた。
「ここか……!」
柳沢は札を構えた。が――突然、美和を抱えたまま倒れ込む。膝が笑い、手の震えが止まらない。呪力の消耗だけではない。
本能的な恐怖が四肢を縛る。
(近づけば殺される。それでも……)
歯を食いしばる彼の背後で姦姦蛇螺の軍勢が迫っていた。だがその時、
「来て……」
微かな声が耳朶を打った。美和の口から洩れるような――しかし確かに異なる女の声音。
(……巫女?)
彼は意を決し、札を外した。無防備なまま岩塊に歩み寄る。
「お前の願いは……本当に男を滅ぼすことか?」
問いかけると同時に頭上の洞窟が崩落し始めた。岩石が雨霰と降る中、柳沢は美和を守りつつ、岩塊の前に立った。
「違ウ……私は……愛ヲ……」
か細い答え。かつて彼女が守ろうとした若者の名を呼んだときと同じ声色だった。
「わかっている。お前は奪われただけだ。なら俺が与える――本当の意味での“補完”を!」
柳沢は巫女の幻影に語りかける。
「今からお前を抱く。魂を交わすことでその呪縛を解く」
空気が凍る。姦姦蛇螺たちが騒ぎ立てるが構わない。
彼は美和をそっと横たえ、岩塊に手を添えた。
「さあ――共に行こう」
岩塊がひび割れ、裂け目に白光が宿った。瞬間、世界が静寂に包まれる。
柳沢の視界は真白く変わり、やがて優しい木漏れ日の野原が広がった。そこに佇むのは、古代の巫女装束を纏った美しい女。傷ひとつない白い足で土を踏みしめている。
「私は……戻れないと思っていた」
巫女は涙を湛えながら告げた。彼女は微笑みつつも怯えていた。永年積もり積もった怨念は容易く消えない。しかし柳沢の決意を読み取り、目を閉じる。
「……試させてください」
彼は巫女の両肩に手を置き、ゆっくりと押し倒した。草の上に広がる衣は柔らかく、肌は冬の露のように冷たい。それでも鼓動が通う。命がある証拠だった。
「大丈夫だ。お前は一人じゃない」
互いの唇が重なり、触れた部分から温もりが染み渡る。
接吻の深まりと共に、巫女の肉体を覆う怨念の膜がほろほろと剥がれていった。
「ん……んっ……」
震える声が零れる。柳沢は繊細な指で巫女の首筋を辿り、胸元の帯を解いた。透き通るような乳房が露わになり、月光を映して輝く。
「綺麗だ……」
囁くと同時に指先が乳首を摘む。ぴくりと反応した巫女は背を弓なりに反らせた。拒絶ではない――むしろ久方ぶりの感触に戸惑いながらも悦びを示すように。
「これが……愛というのですね……」
巫女の瞳が潤み、涙が頬を伝う。
柳沢はそれを舐め取るように頬を擦り寄せた。腰を寄せるとお互いの熱が溶け合い、境界が曖昧になっていく。
「怖がらずに全てを受け容れろ」
耳元で囁きながら指を下腹部へ滑らせた。すでに濡れた花弁が応え、小さく震える。慎重に割り開くと、ピンク色の粘膜が剥き出しになった。
「あっ……ああっ……」
初めて味わう愛撫に巫女は腰を浮かせる。柳沢は舌先で花心を掬い、蜜を吸い取った。
官能の波が一気に押し寄せ、巫女の背がしなる。
「やぁ……熱い……下腹部が……」
「その感覚は祝福だ。お前が女に戻っていく証だ」
彼は己の肉杭を露出させた。太く張り詰めた先端が巫女の入り口にあてがわれる。ぐちゅりと水音が上がり、二人の体温が混ざり合った。
「行くぞ……」
「はい……っ」
結合部がぐうっと沈み込む。痛みよりも充溢感が勝り、巫女は背中を反らせて喘いだ。
「んあぁ……! これ……これがあなたの……」
「そうだ。全部……」
奥まで貫かれた瞬間、巫女の体が小さく痙攣した。処女膜などとうに失われていたが、初めて迎える“喜び”そのものが未知の刺激だった。
「もっと……もっと欲しい……」
甘えた声に柳沢は応え、腰を打ち付け始める。ぬちゅぬちゅと粘液が泡立ち、結合部から愛蜜が滴り落ちた。抽送のたびに巫女の膣内が吸い付き、搾り取るように収縮する。
「すごい……あなたの中……とても熱い……」
「俺も同じだ。お前の熱が心地いい……」
キスを交わしながらのピストン運動は加速し、二人の境目が融解していく錯覚を起こす。肌と肌が密着し、呼吸が重なり、同じリズムで喘ぎ合う。
「あっ……だめ……また……変になっちゃう……!」
「何度でも変わっていい。そのたびに俺が迎えに行く」
「嬉しい……幸せ……!」
絶頂の予兆が膨れ上がる。巫女の足が柳沢の腰を挟み、逃がさないように固定した。限界を迎えた瞬間、二人は同時に頂点に達した。
「んああぁぁぁっ!!」
「ぐっ……!」
白濁が胎内を満たし、その温かさが巫女の全身を駆け巡る。すると怨念で覆われていた体表が淡い桃色に染まり始めた。禍々しい角が抜け落ち、尖った爪が丸く縮んでいく。
「ありがとう……」
彼女は涙ながらに笑った。その表情は少女のようにあどけなく、邪悪な影は完全に拭い去られていた。
「お前はもう自由だ」
視界が霧に包まれ、巫女の輪郭が陽炎のように揺らめき始める。彼女の姿が淡く輝きながら透明化していく瞬間だった。
「待って……!」
叫んだのは柳沢でもない。
意識が薄れかけていたはずの美和だった。
彼女は地面から這い上がり、巫女に向かって手を伸ばした。その指先はかすかに震えていたが、力強い意志に満ちていた。
「おいで……」
巫女の瞳が大きく見開かれる。
「……ですが私は……あなたの命を……」
「償いなんていらない」
美和は微笑んだ。かつて姦姦蛇螺に弄ばれ恐怖と絶望しかなかった頃の彼女ではなかった。浄化された巫女への愛が魂の奥底から沸き上がっていた。
「あなたは一緒に生きてほしい。これから私の体の中で……」
巫女の身体がさらに透き通り、眩い光球へと変わった。
「だけど……私のような穢れた魂が……」
「穢れなんかじゃない!」
柳沢が彼女の傍らに膝をついて叫んだ。
「お前は巫女としてこの土地を守ろうとした。その気高さが失われたわけじゃない」
光球の中心で巫女の幼い顔が涙に濡れた。
「でも……私は……」
「大丈夫」
美和は手のひらで光球を受け止めながら告げる。
「私と一緒に生きていきましょう」
一瞬の沈黙の後、光球が脈動を始めた。暖かな橙色の波動が放射状に広がり、周囲の瘴気を一掃していく。
巫女の魂が震える声で答えた。
「……本当に……いいのでしょうか……」
「もちろんだよ」
美和は胸に手を当てた。
「だって私が決めたんだから」
刹那――光球が美和の胸へ吸い込まれた。
「あっ……!」
眩い閃光が洞窟を満たす。光の中で美和の身体が黄金色に染まり、姦姦蛇螺の残滓が金色の粒となって四方へ解き放たれていく。巫女の霊体もまた光に溶け、美和の魂と一体となり始めた。
「私の中に……感じる……」
美和は自分の胸に掌をあてた。
「温かい……あなたがここにいる……」
やがて光が収束し始めると共に、洞窟の天井から陽光が差し込んだ。朝日だった。
ふと美和は自分の両手を見つめ、小さく笑った。
美和の瞳が潤んだ。
「嬉しい……ちゃんといるんだね。これからは一緒だね」
遠くで朝霧をかき分ける風の音がする。洞窟の出口では姦姦蛇螺だった“モノ”たちが粒子となって空へ溶けはじめていた。
その一つ一つが星屑のように煌めきながら昇っていく。
「行こうか」
柳沢が促すと美和はうなずいた。
「うん……帰ろう」
二人は並んで歩き出した。彼女の歩調に合わせて光の粒が踊るように舞い上がり、やがて朝日に溶けていった。