ハイスクールD×D 動き始める暗雲 作:ラー
グレイフィアに続いてレイヴェルもノアの手に堕ちた。
初めての性行為が24時間というぶっ通しで行われ、快感で脳が焼き切れて仕方ないレベルで刻み込まれた。初めてでこれだけの快感を覚えてしまえば、きっとレイヴェルは他の満足することが出来ないかもしれない。
二人が力尽き、ベッドに崩れ落ちてしまった。
ノアは二人の額にキスをすると微笑んで自室のお風呂へと向かってシャワーで汗を流した。
「ふぅ、これで二人」
魔王の妻、フェニックス家の長女の身も心も手に入れたノア。
無尽蔵のスタミナと絶倫と呼ばれるレベルの精力を併せ持つことで性行為においては圧倒的なアドバンテージを持っている。
ここに性魔術が加わることで夜の戦いにおける優位性は揺るがない。力を示して相手を降伏させるのも好きだが、愛し合って心を自分へと向けさせることも好きだった。
「まさか、24時間も攻め続けるなんて不死鳥の回復力も叶わなかったかにゃ~?」
「見ていたんですか? 黒歌」
「見ていなくても聞こえたにゃん。それに部屋に入った瞬間に匂いと状態を見れば一目瞭然だにゃ」
お風呂から上がったノアにソファーで寝転がっていた黒歌がそう告げる。
隣に座って魔法で髪を乾かし、腕を横に振って複数のモニターを目の前に展開するノア。そこに映るのは三大勢力の悪魔、堕天使、天使陣営の現在の様子だった。
やはり一番忙しなく動いているのは悪魔陣営だ。グレイフィアに続いてレイヴェルまで姿を晦ましている状態であり、未だに行方を掴むことが出来ていないからだ。
堕天使、天使陣営はそれほど忙しくなさそうだが、協力体制が続いているため二人の捜索にも力が注がれている。
結果としては著しくなく、無駄な努力に終わっているのだが……。
「今はゆっくりするにゃん」
「膝枕?」
「にゅふふ……ここに頭を置くにゃ」
「ではお言葉に甘えて」
ソファーに座り直した黒歌がポンポンと自分の太ももを叩く。
彼女の言葉に甘えるノアはそのまま身体を倒して黒歌の太ももに頭を置いた。心地の良い柔らかさと体温を感じ、ゆっくりと瞼が落ちていく。
無尽蔵のスタミナがあると言っても疲れないわけではない。見えない疲れは蓄積し、時には完全に力を抜くときも必要なのだ。
「すぅ……」
「寝ちゃったか」
「……」
しばらくすると寝息が聞こえ、ノアは黒歌の前で無防備な姿を見せていた。
眠っているノアの頭を手で撫でながら目の前に展開されているモニターに目を向けている。特にグレモリー眷属が映し出されているモニターだ
「若手のホープと言われても本質は変わらないのにゃ。赤龍帝? 思いもよらない方法で禁手化をして英雄派の人間を驚かせていたけど……甘すぎるにゃん」
グレモリー眷属をはじめとする若手の悪魔達は今や冥界を背負う立場にもなりつつあった。
グレモリー、シトリー、バアルなど冥界で起こった事件と関わり解決へと導いた者達。その中で一番注目されたのが赤龍帝であるイッセーなのだ。
今までの赤龍帝達とは違った軌跡を歩み、赤龍帝の籠手の中に潜む歴代の担い手達の負の感情すらも解放し、今までにはない赤龍帝だと言われていた。
黒歌から言わせれば、満足に人を手に掛ける事ができない甘ちゃんだ。
そういった判断の甘さが時には足を引っ張ることになるのをわかっていないと。
「大切な人を守るためには手を血に染める時がくる。確かに赤龍帝の成長スピードには目を見張るものがあるにゃん。でも本来到達するべき未来にはたどり着けない」
ここは閉ざされた牢獄、あらゆる可能性を観測できる場所でもある。
兵藤一誠が本来到達したであろう未来にはたどり着けないと黒歌は告げた。それは赤龍帝と赤龍神帝との接点がここではないためである。
とある事件にてイッセーは身体を失い、赤龍神帝と無限龍オーフィスの手助けにより人型ドラゴンとなるのだが、この世界線においてはその事件は発生していないのだ。
今のイッセーと到達点のイッセーとでは肉体の基礎能力が違うのだ。
それでも赤龍帝の籠手を十二分に使いこなせているため、三大勢力内でもかなり上位の実力を現時点で持っている事には変わりないのである。
――
レイヴェルの定期的な血液の提供によりフェニックスの血の解析は順調に進んでいた。
確かに彼女が言っていた通り、フェニックスの涙は特殊な儀式を行い、その時に流した涙がフェニックスの涙という回復アイテムとなるものだ。
フェニックスの血だけを摂取した程度では回復もせず、なんの効果も得られない。
しかし、ノアはそういった方面に関しても秀でており、別方面のからアプローチを試みている。
「普通の悪魔とフェニックスの血とでは確かに性質が異なっている」
二つの試験管を机の上に配置し、ある液体を一滴ずつ垂らす。
すると試験管内の液体の色が異なり、一つは水色、もう一つは桃色へと変化していた。それらを解析すると異なった結果を示している。
「……媚薬?」
水色に変化したものは回復効果が確認されるが欠損部位を修復させるほど強力なものではなく魔力と体力を回復させる効果があった。
桃色に変化した液体を確認するとノアは首を傾げている。自身が想定していたものとは異なり、かなり強力な効果を持つ媚薬が完成してしまったのだ。
「まぁ、使い道はいずれ出て来るかな」
どちらも装飾が施された小瓶へと移し、異空間へと収納して片づけていた。
いずれどこかで使う時が来るような気がしたノアはいつでも取り出せるようにだけはしているようだ。解析が終わると首を鳴らしてノアは立ち上がって研究室から出ていった。
「ノア様、何処かへお出かけですか?」
「少し外へ気分転換に行こうかと思ってね」
「私もお供します。ご主人様のお手伝いをいたします」
通路を歩いているとメイド服を着ているグレイフィアと遭遇する。
外へと向かうと言うと彼女はお供するとノアの傍へと近寄って来た。グレイフィア、レイヴェルは今なお三大勢力において捜索が行われている者達だ。
一緒に外へ出て見つかるとまた騒ぎになるかと思う一方で何かが起こるような気がしていたノアは同行の許可を出していた。
「冥界の森の深部へと向かいます」
「冥界の森でしたら私も土地勘がありますのでお役に立てます」
ゲートが開き、外へと道が開かれるとノアとグレイフィアはそこを通って外へと出た。
本来、冥界の生態環境では人間が生存できることは難しいと言われているがノアは別だった。冥界の環境に適応し、何の問題なく過ごすことが可能なのだ。
「冥界の森の深部はこの道を真っすぐと進めば、到達することが可能です」
「ふむ、案外何もないんだね」
「深部にはその森の生態系のトップの生物が生息する場所です。わざわざそんな危険地帯に行く目的とはいったい……?」
「行けばわかるよ」
冥界の森と言っても一カ所ではない。
東西南北にそれぞれ森は存在し、場所によって環境がかなり異なっている。今回、ノアが向かっているのは西にある森だった。
その場所もグレイフィアは地理をある程度把握しており、すぐに深部へ向かうためのルートを的確に案内することが出来ていた。
彼女の言う通り、森の深部には生態系の頂点に君臨する生物が生息する区域。
ノアがそんな危険地帯に向かう理由とはいったい何だと尋ねるも答えは到着すればわかると一点張りだった。しばらく深部へと向かって歩くも極端に生物が少ないことに気付く。
「(スライムやトレントと言った生物が生息しているはず? どうして遭遇しないのかしら?)」
「……」
グレイフィアが知る以前の森とは生態系が変化していると気付く。
何かに隠れるかのように生物たちが目の前に姿を現さず、二人は本来ここに生息するはずの魔物に遭遇せずに深部まで到達する。
そこは清らかな湖があり、水の妖精達の遊び場と呼ばれる場所のはずだった。しかし、目の前にあるのは黒く染まった湖で明らかに猛毒だと言わんばかりの色をしている。
かなり力を持った大妖精が支配する区域だったのだが、その肝心の妖精の姿が何処にもないことにグレイフィアは首を傾げていた。
「ご主人様、何かがおかしいです。ここは以前より大妖精が支配する領域でした。その妖精たちの姿が何処にも――」
「へぇ、ここは大妖精が居たんだ。僕は来たことがないから知らないけど、以前から変わった気配は感じていたんだ」
「変わった気配ですか?」
『ここから立ち去れ』
その時、黒く染まった湖の中央部が盛り上がり何かが姿を現した。
それは身体の至る所に生々しい傷があり、黒い血を流している頭部に一対の黒い角を生やした3mほどの身長をした龍人だった。
手には大妖精だったと思われる身体の一部が握られており、食料としていたと推測される。
グレイフィアは悍ましい気配に警戒をするがノアに至っては特に警戒する様子を見せていない。むしろ、自分から話しかけていく。
「僕達は別に君をどうこうするつもりじゃないんだ。ただ、この湖の水をもらいたい」
『なに? 断る。ここは私の支配領域、おいそれとやるつもりもない』
「それは困ったなぁ。僕としては本当に水だけ欲しいんだ」
『断る。それ以上、近づくなら排除する』
「! ご主人様、あれは妖精です」
ノアはただ黒く染まった水を分けてほしいと言うが、龍人は断る。
それ以上近づくなら排除するとその龍人の背後から黒く染まった妖精たちが姿を現した。それを見たグレイフィアがあれが本来の主である妖精であると告げる。
『殺れ、お前たちの仲間にしてやれ』
「一緒に逝こうよ?」
「まだまだ仲間が欲しいの?」
「こっちは楽しいよ?」
「黙りなさい!!」
生気のない妖精たちは死へと誘うようにノア達へと語りかける。
グレイフィアは前に立ち塞がり、魔力を高め目の前の存在を殲滅するために魔力爆撃を実行する。膨大な魔力の閃光により巨大な衝撃と共に地響きが起こった。
その衝撃によって森の木々は激しく揺れ動き、爆風によってなぎ倒されていく。
巻きあがった土煙によって湖の中央部は見えなくなっているがノアの視線はそこから外れず、何かをジッと見ている。
『……魔力爆撃か』
「痛いよぉ?」
「早くこっちにおいでよ?」
「受け入れよ?」
「っ効いてない? ご主人様、これはいったい……!」
「……なるほどね」
土煙が晴れるとそこには無傷の状態で佇んでいる妖精たちと龍人。
その様子にグレイフィアは目を見開いて驚きを隠せずにいた。間違いなく上級悪魔、最上級悪魔クラスでも無傷ではいられないだろう一撃を撃ち込んだのに効いていないのだ。
さすがの彼女も少し動揺しており、瞳が揺らいでいた。何かを観察していたノアは今の光景を見て何かに気付いたようだ。
「だったらこれはどうかな?」
手を翳すと球体状の魔力が急激に収縮し、より小さな球体へと圧縮されていく。
ビー玉くらいの大きさまでに圧縮されるとノアはそれを黒い湖の中央へと向けて放った。グレイフィアは圧縮される球体を見ていた時から最大限の危険信号を脳内が発している。
悪魔である自分に対しては危険であり、少しでも離れなければならないと。ノアがグレイフィアの前に立ってそれを遮る。
『っっ!! まずいっ!? 術式てんかっ……!?』
「「「きゃぁぁぁ!!」」」
ノアによって放たれた圧縮された魔力が中央へと到達した瞬間に球体から激しく光が溢れだした。
その瞬間、龍人は目を見開き、守りの術式を展開しようとしたが間に合わない。溢れ出した光によって周囲が激しい爆発と光に包まれる。
先ほどのグレイフィアの一撃に匹敵する威力を持つが性質が真逆だった。
悪魔である彼女には光の属性を扱う事が出来ない。ノアはほぼ無傷だった彼らの様子を見て同系統の属性であると判断し、聖なる力の属性を宿した魔力を圧縮して広範囲に爆発させたのだ。
「聖なる力……。魔なる存在を打ち払う光……悪魔では扱えない力ですね」
「えぇ、グレイフィアの魔力爆発をしてほぼ無傷だったので正反対の属性をぎりぎりまで隠蔽して爆発させました」
『……けほっ……やってくれるな』
「消し飛ばすつもりだったんですけど、込める魔力が足りませんでしたか。グレイフィア、純粋物理なら効くよ」
生気を無くした妖精たちを消し飛ばす事には成功するが龍人は重傷を負っているが倒しきれていなかった。
それでも相手の片腕を消し飛ばしており、黒い血が溢れだすように湖に流れ落ちている。口からも吐血しており、かなり深刻なダメージは追っているようだ。
ノアの言葉にグレイフィアの姿が龍人の視界から消えると次の瞬間には龍人の真後ろに佇んでいた。
『は?……』
「ご主人様の指示は絶対ですので」
龍人の頭部はグレイフィアの手刀によって斬り飛ばされた。
いつ首を斬られたのかを理解できぬままに龍人はこの世を去った。残った身体は湖へと沈み、黒い血によって更に水は黒く染まっていく。
「この龍人の血が特別なのかな。幾つか採取しておこう」
「こちらの遺体はどうしますか?」
「回収しておいて」
黒く染まっている湖の水を採取し、龍人の血液も試験管に何本か採取するノア。
採取した血液に対して解析魔法を施すとある事実が判明する。この龍人の血液は悪魔が使う魔力を無力化する性質を持っていることが判明したのだ。
ただ、純粋魔力に対して無力化するため、火、水、雷、風、氷などの属性が付与されると無力化されない。今回の場合はグレイフィアが純粋魔力による爆発を使用したために無力化された現象が確認されたのだ。
「思わぬ拾い物だったね。これは色々と使い道がありそうだよ」
「目的は達成でしょうか?」
「そうだね。これでここには用はないかな」
この龍人の血液は悪魔に対する非常に有効な使い道があると判断したノアは希少なサンプルとして龍人の遺体を回収させ、閉ざされた牢獄内へと転送させた。
悪魔限定とはいえ、純粋魔力を無効化できる効果を持っているのはとても貴重なのだ。派生させることに成功すれば、絶大な威力を誇ることは間違いないだろう。
ここに用はないとノアが告げ、この場から去ろうとした時だった。
「まさかこんな所に居るなんて思いもしなかったわ――グレイフィア」
「! ヴェネラナ様……」
「……」
自分達に向けられる鋭い視線に後ろを振り向いた。
そこには亜麻色の髪を靡かせた美女が私兵を率いてこちらを警戒した様子で見ていたのだ。今のやり取りからグレイフィアとこの美女が知り合いであるとわかる。
ノアはヴェネラナと呼ばれた女性を見て、リアス・グレモリーとよく見ている女性であると思った。
グレイフィアの反応もここに加えると母親ではないかと推測する。仮に本当に母親だとすれば、こんな所に居る理由に疑問を覚えるところだが……。
「あなたがグレイフィアを奪ったのね! 息子のサーゼクスは心を病んで心身ともに弱っているのよ?」
「息子?」
「はい。リアス、サーゼクスの母親であるヴェネラナ・グレモリー様です」
グレイフィアの説明でなるほどと納得するノア。
リアスと顔が似ているのは血が繋がった母親であるのだから当然だったのだ。息子の嫁を奪い取ったノアを視線で殺せそうなほど睨みつけている。
「わざわざ母親が僕に何の用でしょう?」
「待っていても事態は好転しません。ならば昔のように行動に移して己の手ですべてを解決するのも一つの方法だと思いつきました」
「ご主人様、ヴェネラナ様はかつてバアル家最強の女性と謳われた女傑です。バアルの血筋にある消滅魔力の使い手であり、亜麻髪の滅殺姫と呼ばれたこともあります」
「なるほど。では彼女の目的は僕を殺すことかな?」
「そうですわ。あなたの存在は我ら悪魔を初め、他の勢力においても危険だと私は判断したのです。グレイフィアを攫い、フェニックス家の長女も連れ去り、はぐれ悪魔の黒歌を従える者。捨ておくことなど無理な話です」
ヴェネラナの目的はやはりすべての元凶たるノアの殺害にあった。
これ以上、被害を広げないためには今ここで始末するべきだと自らこの場所へとやってきたのだ。正確には周辺を調査していた時に冥界の森一帯を吹き飛ばすほどの威力の魔力爆発が二度も起こったことでここへ来たと言うのが正解だろう。
消滅魔力の使い手という言葉にノアがピクリと反応を示していた。
その様子を見ていたグレイフィアは彼が次なる標的を定めたのだと理解する。そうなれば自分のすることは決まったとヴェネラナ率いる私兵団を見やる。
「僕が素直に殺されるとでも?」
「グレイフィアが破れるほどの相手です。並みの実力者でないことは理解してますわ。だからグレモリーの精鋭の私兵を率いた来たのよ?」
「ここに来る途中に悪魔の弱点でもある聖属性の爆発を見たのでしょう?」
「えぇ、ですから手段は選んでいる余裕はありませんわ」
「(殺った)」
ここに来る途中に悪魔の苦手とする聖属性の爆発を見たはずだという問いかけにヴェネラナは頷く。
だからこそ、手段を選んでいる場合ではないと口にした時、ノアの視線が足元へと向けられる。影から心臓へ向けて鋭い突きが放たれていた。
グレイフィアがノアの前に出ているため、彼女もその不意打ちとも言える一撃に気付くことが出来なかったのだ。
「がっ!?」
「まぁ、それもそうでしょうね」
「! まぁ、よく気付きましたわね」
ノアが身体を半回転させるとその不意打ちは失敗に終わり、逆に得物を抜いたノアが暗殺者の頭を貫いて絶命させていた。
その光景にヴェネラナは僅かに目を見開き、驚いた表情を見せていたがすぐに余裕ある笑みを浮かべて取り繕っている。
「ご主人様!? 申し訳ございません」
「いいよ。攻撃される前に気付いていたからね。それよりもやることはわかっているよね?」
「はい。私はご主人様の忠実なる下僕です。ノア様の敵は私の敵です」
「っそう。グレイフィア、それがあなたの選択なのね。皆、見ての通り我らの敵になったわ! 油断は死を招く。ヴェネラナ・グレモリーの名において命じる――殲滅せよ!!」
"はっ!!"
ヴェネラナの宣言により私兵団は数の優位を活かすような陣形を取ってグレイフィアとノアを囲むように動き始める。
火、水、氷、雷、風、闇と各属性を得意とする悪魔の実力者で構成された私兵団。グレイフィアは自らの失態を取り戻すために己の中の魔力を高め始める。
そうさせまいと火属性と氷属性の魔法が放たれぶつかり合う事で水蒸気が発生し、周囲を真っ白に染めて視界が遮られた。
「やれやれかな」
「はっ!」
「せいっ!」
視界が悪い中で鋭い攻撃を向けられるノアは得意とする刀を持ち、攻撃を逸らし側面を叩くことで軌道をずらしている。
一人、二人、三人と次々と攻撃を躱し、反撃の一撃を入れるも魔力障壁を展開されて防がれていた。攻防一体の陣形で連携の取れた動きをする者達にうんうんと頷いて見せている。
「一人」
「なっ……?!」
「二人」
「お前達!?」
グレイフィアを守るように立ち回り、彼女の準備が整うのを待っていたノアはその時が来たことを理解する。
氷のような冷たい冷徹な視線を向け、圧縮した魔力を手に纏わせ手刀で首を切り飛ばしていくグレイフィアの姿があった。
視界を奪うのは戦いにおいて有効な手段の一つだ。
こちらの視界を奪い、相手は高所や視界を確保できる場所から冷静に指示を出し的確に動かす。しかし、それが必ずしも有利に働くとは限らないのが戦いである。
「ノア様を傷づけることは許されません」
「ぐ、グレイフィアぁぁぁ!!!!」
「死になさい」
「ごほっ……」
次々とグレイフィアに殺されていく私兵団の悪魔達。
その中にはグレモリーで一緒に過ごしていた仲の良かった者達も居たはずだ。それでも今の彼女にとっての絶対はノアであり、それ以上に優先されることは存在しなかった。
様々な魔法や戦術を用いて殲滅を図ったがグレイフィアもかつては銀髪の殲滅女王と呼ばれており、魔王クラスの実力者でもあった。
精鋭と言えど、彼女を殺せるほどの実力はなかった。
「ノア様、私兵団は殲滅完……っ」
「油断したわね、グレイフィア!!」
その刹那、動いていなかったはずのヴェネラナがグレイフィアの懐に入っており、その手にも消滅魔力を宿していた。
私兵団を殲滅したという一瞬の油断を突いた彼女の作戦だった。その消滅魔力はかなり圧縮されている事が見て分かり、グレイフィアを以てしても直撃を受ければ無事では済まない。
「それは許されないな」
「なんですって!?」
消滅魔力を高濃度に纏わせた手をノアが掴み取って自身の持つ圧倒的な魔力を持って対消滅させてしまった。
その光景にヴェネラナはあり得ないと目を見開いて驚きを隠せずに声をあげてしまっていた。バアルの血が為せる消滅魔力は文字通り触れたものを消滅させてしまうほどの力を持つ。
絶対の力とは言えないがそれでも強力な力には変わりないものだ。
それを極限までに高めたものを目の前でいとも簡単に無力化されてしまったことに動揺を隠せないヴェネラナである。
「残念でしたね、ヴェネラナ・グレモリー」
「嘘……何をしたの?」
「僕の持つ魔力量はおそらくあなたよりも遥かに多い。だから圧倒的な魔力を持って強引に消滅魔力をねじ伏せました」
「こ、これじゃあ、まるで……うっ」
ヴェネラナが何かを言う前にグレイフィアが彼女の首に手刀を打ち込んで意識を失わせた。
周囲にはグレイフィアの手によって首を切り飛ばされた遺体や心臓を貫かれて穴が開いている遺体などが横たわっている。
ノアがヴェネラナを肩に担ぐとグレイフィアが転移魔法を使用し、この場から姿を消した。
残るのは無惨な遺体と黒い湖だけだった。