俺はオーバーロードの世界に主人公の鈴木悟として転生した。
前世の死因は刺殺である。
沢山の女と遊んでいたら当然の如く恨みを買って背後から刺されて死んだ。
そうして生まれ変わった先はディストピア。
おまけに名前は鈴木悟という聞き覚えのあり過ぎる名前で母子家庭。
ここまでくればここがオバロ世界だとアホでも分かるだろう。
そうして世界の摂理として小学生の頃に母親が過労で死亡して早々に働くこととなった。
しかし予想外な事に前世の知識を活かす事でトントン拍子に出世していった。
そうして口座に金が貯まっているのを眺める日々を送っていたある日のこと。
遂にDMMORPG『YGGDRASIL』がサービス開始された。
それに飛び付いて俺はゲームを始めた。
目的は一つ。異世界転移だ。
異世界行ってチート能力でモテモテハーレムする為にゲームを始めた俺だったが、次第にゲームそのものにハマっていった。
シンプルに楽しかった。
異種族狩りで襲って来る高レベルプレイヤーをPvPスキルで返り討ちにするのは爽快で気分が良かったし、クランを立ち上げてからは冒険が楽しくて仕方がなかった。
金だけは持っていたから課金も沢山した。
サービス終了と共に色んなアイテムを持って行く為にガチャを回しまくった。
そして皆とギルドを立ち上げて冒険は加速した。
ワールドの隅から隅まで探索してアイテムをゲットする喜び、千人超えのプレイヤー軍団を返り討ちにしたのも楽しい思い出だ。
偶然手に入れたワールドアイテムウロボロスでスキンの複数所持を可能にした。
俺は一つ目に原作通りの骸骨の姿を、二つ目に黒髪黒目の東洋風イケメンのスキンを作った。
ギルメンからはウロボロスで何してんねんと言われたが気にしない。
ちなみにプレイヤーネームも本名の悟にした。
これは転移先で使い易いようにと考えての事だが、ギルメンからは本名プレイとか正気なの?とか言われた。
俺は何も言い返せなかった。
そんなこんなで楽しい日々を送り、段々とギルメン達の姿が減っていった。
皆リアルを優先したんだろう。
それでも俺はギルド長としても、異世界でモテモテハーレムの為にも残り続けた。
そして一人の時は可能な限り配下達に語り掛けた。
ギルメン達との冒険の日々の楽しさやギルメン達がちゃんと皆を愛している事。
決して見捨てたり何かしていないという事を話し続けた。
これだけ見ればNPCに話し掛ける奇怪な人物に映る事だろう。
だが俺からすれば最も重要な要素である。
転移先で配下達とちゃんとした距離感を保つ為に大切な事だ。
そう言い聞かせて話し掛けた。
孤独を紛らわせる意味もあったかもしれない。
やっぱり楽しく遊んだギルメン達との別れは辛いものだ。
ただの創作物のキャラではなく、生きて動いて意思を持つのだから。
俺からすれば大切な友人達となったのだ。
◇
そうして迎えたサービス終了日。
ヘロヘロさんとの最後の会話を終えた俺は机に突っ伏した。
「誰も残ってくれなかったなぁ…」
そんな本心が漏れ出る。
誰か一人でも自分と同じく残ってくれる者はいないものか。
異世界転移の事を話せば誰かは残ってくれたんじゃないのか。
そんなもしの話が頭を巡る。
そして自分の考えに苦笑する。
異世界転移なんて眉唾な話信じられる奴なんていないだろ。
幾ら仲の良いギルメンでも無理がある。
そんなことは分かっている。
それでも想いが止まらないのは楽しかったから。
これから先の方が大変だというのに、昔に思いを馳せる。
皆で駆け巡った十二年間。
本当に心の底から楽しめた。
だからこそ、ナザリックだけは守り通すと決めていたのだ。
毎日ギルドの維持費を稼いで過ごすのは寂しかったが、それでも配下達に思い出を語れば多少は誤魔化せた。
転移後の事を考えれば寧ろやる気さえ出て来た。
例え当初の目的が異世界転移でも皆と楽しんだ時間は本物だった。
何せ生きて動いて意思を持っているのだ。
創作物のキャラだと考えても意思を持つならそれは生きている。
だからこそ俺は皆と本心から仲良くなれた。
気付けば大切な居場所となっていた。
なのでもし転移しないとしても俺は最高に楽しかったと笑って終われると思う。
そして次の為に生きるのだ。
生きていれば次がある。
次があればまた皆と会えるかもしれない。
そんな風にかつてと今に思いを馳せる。
突っ伏していた体を起き上がらせてギルド武器を手に取る。
スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。
皆と相談しながら作り上げた努力の結晶だ。
蛇が複雑に絡み合った形をしているそれを手に取り、威厳ある風に佇んでみる。
ローブ姿と相まってカッコよく決まっただろう。
見る者はいないが。
一人で寂しい時はこうして遊んでいる。
カッコいいポーズや台詞を考えて転移後の世界でどう使おうかと思案してみたり。
そんな一人遊びで孤独と戦っていた。
しかしそれも今日までである。
今日からは、正確には明日からは新たな世界へと旅立ち配下達と楽しく暮らすのだ。多分。
前世の記憶通りなら確かこの後プレアデス達を連れて玉座の間に行くんだよな。
俺は記憶を頼りに行動を開始する。
円卓と名を与えられた部屋を後にして、廊下を歩く。
向こう側から金髪のメイドが歩いて来て微笑を浮かべながら端に寄り、深くお辞儀した。
それに軽く手を挙げる事で応える。
本来この行動に意味はない。
しかし後に命を持ち、記憶を保持する彼女達を無碍にする事は憚られた。
「いつもありがとうね」
俺はそう声を掛けてその場を後にした。
そして階段を降りて第十階層に辿り着く。
そこにはセバスとプレアデス達がいた。
来る筈もない敵を待ち続けて配置された彼女達を見て哀れに思う。
時間稼ぎの為だけに配置された配下を哀れまない支配者がいたらそいつは多分屑だろう。
だから俺は原作通りに進める為にというよりは、心の底から最後になるかもしれないから仕事を与えたいと思った。
「付き従え」
その命令を聞いてセバス達は頭を下げて受諾した事を示す。
そして俺の歩みに付いて来る。
その足音に多少孤独が紛れる。
一人ではないという安息に浸りながら歩み、大きなドーム状の大広間に到着する。
重厚な扉に触れれば扉は自動的に開き、玉座の間へと導く。
その先は相当な作り込みのされた部屋が広がっており、数百人が入ってなおも余りあるだろう。
その豪華さには舌を巻く。
外装に拘る人が多かったからなぁ。
俺もその一人だけど。ユグドラシルは作り込み要素が多くて楽しいんだよな。
徹夜で玉座の間を作ったのも懐かしい思い出だ。
俺は玉座に続く階段前に来て一言「待機」と命令してセバス達をその場に留めさせた。
そして玉座に座り、隣のアルベドを見る。
「確か設定だと…」
コンソールを操作してアルベドの設定を開示する。
長々と記された最後には「ちなみにビッチである」という一文。
それを見て思わず苦笑する。
幾ら何でも守護者統括がビッチはねえだろ、タブラさん。
そして原作通りにその文章を消して文言を追加する。
「悟を愛している」と追加された文章をまじまじと見て思う。
本当に原作のモモンガはよく書けたよなこんな事。
原作通りと言い聞かせなければ俺も恥ずか死しそうなレベルである。
そして不意にとある想いが去来する。
「楽しかったなぁ…」
こうして一NPCの設定に拘るまで楽しんだ。
俺もパンドラズ・アクターも原作通りに作ったが多少性格を変更させている。
具体的には大袈裟な動きをせず、淡々とした軍人らしい性格に変えている。
その上で愉快な性格は残している。
俺的にはあの愉快さが全体的にシリアスなオバロで癒しだったからな。
そんな楽しい思い出が詰まったこの墳墓も、もしかしたらサーバーダウンと共に消えるかもしれない。
そう思うと堪えきれない想いが溢れた。
「寂しいよ…」
この世界には涙なんて機能はない。
もしあったら自分の目から止めどなく涙が流れていたことだろう。
異世界転移する。それは分かっている。
しかし、もしを考えると思いは溢れてしまう。
それだけ思い入れがあるのだ。
楽しかったのだと実感する。
「せめて最後くらい皆といたかったな…」
サーバーダウンまで残り一分。
コンソールを操作して人間体の方のスキンに切り替える。
漆黒のローブに身を包む黒髪の男に切り替わったことだろう。
そして最後になるかもしれない命令を下す。
「ひれ伏せ」
アルベド達が臣下の礼を取る。
俺は瞼を閉じてカウントダウンを始める。
三、二、一、零。
無言の時が流れる。
世界はまだ続いている。
そして歓喜の感情が濁流の如く押し寄せて来る。
異世界転移は無事に成し遂げられたのだ。
同時に安堵の息を吐く。
これでギルメン達の残していった物は保たれる。
その安心が心の底から湧き立つ。
そして命を宿した配下達を意識して口を開く。
「終わってみれば存外大した事はなかったな」
それは精一杯の強がりである。
実際は滅茶苦茶安心してる。喜び過ぎて踊り出しそうなくらいに。
人間体だから精神抑制もなく、津波となって襲い来る激情を精神力で乗り切り、平静を取り繕う。
アルベドがおずおずと疑問の声を上げた。
「悟様。一体何があったのでしょうか」
「ふむ。世界の終わりが訪れる筈だった」
それにアルベド達が驚愕の声を漏らす。
人間らしい反応に俺は口角が上がる。
これでもう一人じゃないという安心がある。
「だが実際は終わらず想定外の事態が起きている」
「至高の御方をもってして想定外、でございますか?」
アルベドは疑わしげな視線を向ける。
そこには俺に対する絶対の信頼がある。
それを受け止めて鷹揚に頷く。
「我々でさえ感知できない力が働いた。それは疑いようのない事実。故にこそワクワクして来た」
ちょっとだけ素が露わになる。
俺は今心底ワクワクしている。
それはハーレムを築く事だけではない。
新しい世界という未知に対する高揚感である。
原作知識で知ってはいる。
だがそれだけだ。
実際に見た訳でも経験した訳でもない。
それが今から既知へと変わろうとしている。
ギルメン達に会えない寂しさはあるが、それ以上のワクワク感が胸に広がっている。
その感情を努めて外に出さないように徹して俺は偉そうな口調で口を開く。
「セバス。大墳墓を出て周辺地理を確認しろ。仮に知的生命体がいた場合は友好的にここまで連れて来い。未知なる敵が相手だ。戦闘は極力避けろ」
「了解致しました、悟様。直ちに行動を開始します」
「それとプレアデスから一人連れて行け。戦闘を余儀なくされた場合は情報を持ち帰らせろ」
これで原作通りに事が進む筈。
後はデミえもん達を集めてセバスの報告を聞くだけだ。
態々第六階層に移動する必要もないだろう。
全員を玉座に集めよう。
そして始めるのだ。
俺の異世界モテモテハーレム生活を!
・オリ主
前前世で女遊びをしまくったから殺された奴。
スキンに人間体を用意した事で感情抑制のオンオフが出来るようになった。
プレイヤースキルが高くPvPが得意。
馬鹿ではないがアホである。