空成り代わりオリ主 作:アスモデウス
エルキア王国首都エルキア、西部区画三番地。
マスターを脅すようにして獲得した連泊を一泊もすることなくチェックアウトし、俺達は翌日の朝をステフの屋敷の浴室で迎えていた。
俺は白を洗いながらステフを見る。
ステフは体にバスタオルを巻いた姿で湯船に浸かっていた。
俺も腰にバスタオルを巻いている。
これはステフの要望である。
流石に出会って間もない男に裸を見せるのは嫌だったらしい。
「何で私達は当然のように三人でお風呂に入ってるんですの…?」
「そりゃあ裸の付き合いって奴だ。一緒に風呂に入れば親交も深まるだろ。多分」
「多分って言いましたわね。ただの性欲じゃないですの」
「そうだが何か?」
俺の開き直りにステフは呆れたように溜め息を吐いた。
この状況を受け入れざるを得ないと判断したのか湯船の心地良さに身を任せたようである。
◇
風呂を終えてステフに新しい服を用意して貰った俺達はそれに着替えて書斎へと来ていた。
俺は異世界の本を手に取って表紙を一瞥し、そして全く知らない言語に溜め息を溢した。
原作では言語の説明なんてなかったから一から覚えるしかない。
頭を抱える俺にステフが疑問を溢した。
「何を調べるんですの?」
「この世界に関することだ。俺達は異世界人でな。この世界のことなんてさっぱりなんだわ」
「成程。通りで見知らぬ服を着ている訳ですわ」
「疑わねえのな」
「
そういやそんな話が原作にもあった気がする。
ステフは何の疑問も抱くことなく俺達が異世界人であることを受け入れたようだった。
俺は本を開いて文字を読む。
相変わらず全く未知の言語だが、法則性はある。
そこから逆算して言語を解読していく。
脳をフル回転させて行う異常な速度の言語学習は当然負担が掛かる。
休憩を挟みながら解読を進めていると白が口を開いた。
「にぃ…覚えた」
「お!流石は白。俺の自慢の妹よ」
「え?何を覚えたんですの?」
「言語」
俺の端的な返答を聞いたステフは理解が追い付かないようである。
そして一応の確認を口にした。
「この短時間で言語を一つ覚えたんですの…?」
「おう。早いよなぁ。俺はもうちょい時間が掛かりそうだわ」
俺の言葉にステフは意味深な視線を向ける。
その意味が分からず、俺は疑問を口にしていた。
「ん?どした?」
「え、あ、いえ、その…ちょっとお茶を淹れて来ますわね」
「何だありゃ」
「にぃ…乙女心、分かってない」
「えぇー…今のやり取りに関係あった?」
俺は原作知識で何か思い当たる節はなかったか探す。
細かい部分までは覚えていないので流石に無理がある。
俺は早々に諦めて解読作業に戻る。
そして一冊読み終えたところで白に声を掛ける。
「さて、白」
「……ん」
「もう気付いてるよな?」
「……うん」
「どう思う?」
俺達にしか分からない問いに白はただ瞼を閉じて答えた。
「白は……にぃに、ついてく。約束通り、何処へ、でも」
「そっか。まぁ、あっちの世界よりは楽しいところに連れてってやれる」
「にぃ…こっち、来てから、楽しそう」
「そうか?……そうかもな」
少なくとも白と一緒に前の世界よりは遥かに楽しい世界に来れた。
原作通りに進むなら俺達はこの先苦戦する。
それが堪らなく嬉しい。
いつか
俺は白の頭を撫でながらタスクスケジューラーを起動させた。
◇
「街、盛り上がってるな」
ステフが戻って来たのを確認してそう問い掛ける。
「そう、ですわね。まだ国王選定のギャンブル大会は、続いてますもの」
ステフはベランダのテーブルにトレイを置き、お茶を淹れる。
「……その……お茶、ですわ」
「ありがとな」
「妹さんも」
「……ん」
お茶を一口含んで街を眺める。
街はローマ建築、古典建築、バロック建築と似た建物が混在している。
街路は舗装されているものの、走るのは馬車で、遠く港には三本マストの帆船。
蒸気機関すら発明されていないと見える。
戦争が起きない反動がここに出ているのだろう。
戦争は皮肉にも化学を加速させ、肥料や燃料に依存する技術を躍進させる。
盟約の制定から六千年経っても活版印刷すら発明されていないのか、普及していないのか、どちらにせよ文明は遅れていると言わざるを得ない。
「ルネサンス中期のヨーロッパか。工業革命で空が汚れる前の綺麗な街だ」
「……ストラテジーゲーム……丸引用……乙」
白の発言をサラリと流してステフに問う。
「なぁステフ。お前、何故王になりたかった?」
「……この国、エルキアもそこそこ大きい国だったんですのよ?昔、
それは俺が読んでいた本にも書いてあった内容だ。
ステフは言葉を続ける。
「十の盟約以後、負け続きの人類種の最後の国になれる程度には、ね。盛り上がってるように見えまして?でも……もうエルキアは破綻してるんですの」
狭い領土に過大な人口。
それが行き着く先は目に見えている。
十の盟約で治安だけは保証されるが、それでも盗賊なんてのも生まれる。
「前国王─私の御爺様が国盗りギャンブルで負け、今の首都を残すのみまで追いやらせたのは事実ですわ。でも元々人類種は負け込んでジリ貧だったんですの……」
ステフは手摺りを握り締める。
そこには悔しさが詰まっていた。
「愚王と罵られ、それでも国を救おうとした御爺様は間違ってなかったですわっ。私はこのエルキアを救いたかったっ……そして御爺様が間違ってなかったと証明したかった。人類種が生きていくには……攻勢に出てでも領土を取り返さなきゃ、近い内に本当に滅びますわ」
無関心そうな顔で白がステフに問う。
「ステフ……この国、世界……好き?」
「ええっ。勿論ですわ!」
「そう言い切れるのは本当に羨ましいよ。だがこのままじゃこの国は滅びる」
「クラミー、ですわよね?」
「ああ。クラミーが即位すればこの国は他国の好き放題にできる。そうなりゃジリ貧どころかすぐにでも滅び去る。だから俺達が王になる」
「勝算はあるんですの……?」
「当然」
俺は不敵に笑って答えた。
「俺達は前の世界じゃ負けなしだったんだわ。安心して任せておけよ。ちゃんと勝つからさ」
「っ……!」
「ステフ、このギャンブル大会はいつまで続く?」
「今日が最終日ですわ。夕刻、王の広間で最後の対戦が行われて、勝ち残った人に誰も異議を唱えなければその方が新しい王になりますわ」
「うっし!じゃあお前の爺さんが正しかったと証明しに行くぞ」
「え?」
白と共に歩き出し始める。
タスクスケジューラーに入力した内容を確認する。
『取り敢えず王様になってみる』
スマホをポケットにしまって苦笑する。
「折角生まれ直した世界、いきなり住む場所なくなったら困るしな。ちょいと王様になって領土取り戻して来るか」
そこで俺はステフがお茶菓子を用意してくれていたことを思い出す。
一口食べてステフに笑顔を向けて口を開く。
「ん、美味い。お茶もお菓子も美味かったぞ。ありがとな」
「っ……どういたしまして!」
ステフは頰を真っ赤に染めて答えたのだった。
◇
夕刻、エルキア王城・大広間。
大勢の人が埋め尽くすそこに俺達は足を運んでいた。
「し、白!しっかり手を繋ぐんだぞ!」
「……うんっ」
白と両手を繋ぎながら歩き、人混みを掻き分けていく。
そうしてテーブル付近まで辿り着いた。
「では前国王の遺言に従いクラミー様を─エルキア新国王としてたいかんする。異議のある者は申し立てよ。さもなくば沈黙をもってこれを─」
「あ、はい!はいはーい!異議あり!」
俺の言葉にクラミーが目を開く。
ざわつく広間の視線が一斉に此方を向いた。
「はいはい。異議あるの俺らでーす」
「……ん」
「……誰?」
「他国の間者をぶっ潰しに来たゲーマー兄妹でっす!」
「何のこと?」
広間のざわつきは一層大きくなった。
俺はざわつきを無視して続ける。
「例えば、森精種と結託して魔法で優勝した奴を王にしたら、この国は終わりだろ?」
「ねぇ、貴方。私が魔法でイカサマしてるって言いたいの?」
「やだなぁ。例えばって聞こえなかった?それとも心当たりでも?」
俺の悪意の籠った笑みを受けて、しかし尚もクラミーは余裕を崩さない。
「良いわ。異議があるなら、ご希望通り勝負しましょ?」
「ああ。でもその前にそこの協力者さんは追い出した方が良いよ?」
俺はフードで耳を隠した人物の方を指さす。
「何のことかしら?」
「あっそ。なら誰か、そいつのフード取ってくれる?」
観衆が指差した人物のフードを外す。
飛び出す二つの耳。
ファンタジーもので良く見るエルフのような長い耳。
観衆のざわつきは最高潮に達する。
「ねぇねぇクールビューティ気取りのペテン師さん。友達助けなくて良いの?」
「何度も言わせないで。何のことか分からないわ」
「じゃあ追い出しても文句はないよなぁ?」
俺はしっしっと森精種を追い払う。
そして改めてクラミーに向き直った。
「じゃ、早速ポーカーやろっか?」
クラミーは数秒の沈黙を持って答えた。
「成程。適当な森精種と結託して私を魔法を使ってた人類の敵に仕立てあげようって算段かしら」
「悪くない言い訳だ。で、それをする俺のメリットは?」
「………」
クラミーは沈黙する。
今度は上手い言い訳は思い付かなかったらしい。
「まあ良いや。ほら早速勝負しようぜ?」
「こっちにもプライドがあるわ。イカサマなど介入する余地のない、実力を証明するのに最適なゲームで勝負しましょ?」
「まあ、ここで何故ポーカーを辞退したのか敢えて追求しないであげる」
そう言ってカメラをクラミーに向けてパシャリと撮影する。
「うーん。中々の美人さん。でももっと表情豊かな方が良いよ?」
そう言って撮った写真をクラミーに見せる。
クラミーの射殺すような視線を逆に覗き込む。
クラミーは冷や汗を流したようだった。
・オリ主
脳をフル活用することで圧倒的な速度で言語を学習できる。
裸の付き合いという言い訳でステフと一緒に風呂に入ろうとする。
・白
オリ主との約束通り何処へでもついて行く。
オリ主が他の女へ性欲を向けているのに嫉妬している。
・ステフ
オリ主への好感度急上昇中。
一緒に風呂に入ると言われた時はとても動揺した。
・クラミー
森精種との結託を見抜かれて動揺している。