空成り代わりオリ主 作:アスモデウス
クラミーが家からゲームを持って来るというので俺達は城の中庭で待機することにした。
ベンチに座って白と二人でスマホを弄る。
「相手がどんな魔法を使ったか分かるんですの?」
「さあ?さっぱりだ」
余りにもサッパリ答えたからかステフは呆気に取られたようだった。
俺は言葉を続ける。
「イカサマしてんのは確実ってだけだ。酒場でステフを相手にしてたあいつを見たが、手札の揃え方が作為的だった。いやぁ凄えな。記憶改竄とか伏せ札書き換えだったら証明のしようがない」
「ちょ、ちょっと待ちなさいな。そんなのどうやって勝つんですのよ!」
「勝てる訳ねえだろ。だからそれを避けたんだ」
ステフに向かって姿勢を正して説明する。
この国王選定ギャンブル大会は外交戦であること。
森精種のみならず、様々な国家の介入が想定される選定戦であり、俺もその一人であると相手に思わせたこと、そうすることで相手の分かり易いイカサマを避けたこと。
ここまで説明するとステフは顔を明るくさせて口を開いた。
「じゃ、じゃあイカサマなしの対戦に持ち込めるということですのね!」
「いいや。言ったろ?他国の介入なんて想定済みなんだよ。だから敵は用意してる筈だ。この状況でも有利に運べるイカサマを」
「そんな…それじゃあ結局勝ち目はないんですのっ?」
「いや、原理的に勝てないゲームじゃないなら空白に敗北はない。直接的な記憶改竄とかの方がよっぽど脅威だ」
ステフは俺の言葉に安心したように息を吐いた。
と、そこで白が何かに気付いて振り返る。
俺も白と同じ方向に視線を向ければそこにはクラミーがいた。
クラミーは俺達の目前まで来ると冷たい声色で質問する。
「単刀直入に聞くわ。貴方達、何処の間者?」
「それを聞かれてはいはいって素直に答える奴はいねえだろ」
「…この国は渡さないわ」
「知ってる知ってる。森精種に明け渡すんだもんな」
「違う。誰にも渡さない。人類種の国は人類種のものよ」
「ふーん?」
クラミーの顔には決意が浮かんでいた。
原作知識で知ってはいるが本当に他国に売り渡す気はないらしい。
「森精種の力を借りるのは人類の生存圏の確保の為……その為にどれだけ複雑な契約を交わしたか貴方には想像も付かないでしょうけど……最低限必要な領土を手にしたら森精種とは手を切るわ」
「…うーわ」
「口に出てるぞ、妹よ」
まあ俺も言いたくなる気持ちは分かるが。
「他国の間者かもしれない奴にそんなことバラしてどうすんの?」
「貴方が何処の国の間者であろうと私に勝つのは不可能よ」
「へー!大した自身ですこと」
「ただの事実よ。世界最大国エルヴンガルド…森精種達の有する魔法はどの種族にも破れやしない。だからこその最大国、正面からやり合えば必敗、例外はないわ」
例外はない、か。
随分と卑屈なものだ。
「貴方に人類種としてこの国を、人類種を想う気持ちが残っているなら間者なんてやめて勝負を降りて欲しい。けして森精種の傀儡になんてさせないと誓うわ」
「ふーむ。悪くはない計略だ。よく分かった」
安心するようにクラミーが表情を柔らかくした。
しかし俺と白は拒否する言葉を口にした。
「「だが断る」」
「……理由を、聞かせて貰えるかしら?」
「「この空白が最も好きなことの一つは自分が絶対的有利にあると思ってる奴にNOと断ってやることだ…!」」
クラミーとステフは俺達の台詞に絶句する。
対して俺達は手を合わせて喜んだ。
「一度は言ってみたい台詞・第四位、リアルに使わせて貰えたな!」
「……にぃ、ちょー、ぐっじょぶ」
煽られたと受け取ったらしいクラミーは肩を震わせた。
「時間の無駄だったわね。ご希望通り力で捩じ伏せてあげる……広間で待ってるわ」
そうしてクラミーは去っていった。
ステフは慌てて口を開く。
「い、いいんですの?クラミーの言うこと一理あると思いましたけど…」
「クラミーの発言を信用する根拠が何処にある。もっと他人を疑え」
流石に恥ずかしかったらしいステフが顔を伏せるのに構わず話を続ける。
「そんで必勝の手があるならなんでこっちに降りるよう取引を持ち掛けて来た?」
「……あっ!」
「更に全て本当だとして他国の間者と思われる奴にそんな情報明かす馬鹿に人類は任せられない。最後にこっちの手の内を探られたらオシマイです!オーケー?」
「そ、そこまで考えた上での発言だったんですのね……」
ステフは元ネタがあるとも知らずにこくこく頷いている。
そして俺は広間へ続く道を見遣って一言溢す。
「ステフもクラミーも人類舐めすぎ」
その言葉は白にしか聞こえていないようであった。
◇
広間を埋め尽くす大観衆を掻き分けて、広間の中央へと向かう。
そこには椅子とテーブル、そしてチェス盤が置かれていた。
クラミーは向こうの椅子に座り感情のない声で説明する。
「これはただのチェスじゃないわ。」
そう言って小箱を取り出すと盤の上に駒をぶちまける。
すると三十二個、白黒十六個ずつの駒が盤の上を滑るようにして勝手に定位置に付く。
「そう、これは駒が意思を持っているチェス……駒は自動的に動く。ただ命じれば、命令のままに駒は動く」
「白、どうだ」
「……大丈夫、チェスなら……負けない」
白は強気に前に出る。
俺は確認を口にした。
「なぁ、これ途中で交代しても良いか?こっちは二人で一人のプレイヤーなんだわ。それにこのゲームはそっちが一方的に熟知しているようですし?内部の隅々まで、だろ?」
「……どうぞご自由に」
態とスマホを見せびらかしてそう口にすればクラミーは警戒する様子を見せた。
エルヴンガルドは東部連合に敗れている。
当然、東部連合と関連する最新機器は警戒する。
クラミーは俺達を東部連合の間者だと思い込むことだろう。
これで下手な手は打てなくなる。
「にぃ、白が……負けると?」
「普通のチェスなら万が一にも敗北はない。だがこれは普通のチェスじゃない。クラミーが言っている以上に、な。忘れるな。俺達は二人で一人だ」
「……ごめん、なさい。気を、付ける」
「よっし!じゃーいっちょ暴れて来なさい!」
そう言って白の頭を撫でて、耳元で囁く。
「俺がイカサマを看破するまで勝ち抜けてくれ」
白は頷いてテーブルについた。
「話は終わった?では始めましょう。先手はそちらで結構」
明らかな挑発に白が眉を顰めた。
チェスを丸バツゲームと変わらないと言ってのける白にそれは勝ちを譲ると言っているに等しかった。
「……b2ポーン。b4へ」
的確な指示を出す白に対し、クラミーは一言。
「ポーン7番、前へ」
駒は三マス前に進んだ。
想定通りの動きをしてくれている。
有り得ない駒の動きに観衆がどよめいた。
「これは意思を持った駒、そう言ったでしょ?駒はプレイヤーのカリスマ、指揮力、指導力……王としての資質に反映されて動く。王者を決めるに相応しいゲームだと思わない?」
「成程、確かに相応しいゲームだ。でもさぁ……魔法で自分の駒だけ強化してんのは相応しいとは思えないな」
「……何のことかしら」
クラミーはあくまでもしらを切る。
俺はスマホで写真を撮る。
その動きをクラミーは警戒する。
「ま、楽しくやろう。どうせその程度じゃ白が勝つ」
「随分な自信ね」
「ただの事実だ」
俺と白は数え切れない程のゲームをして来た。
その中でも最高の対戦相手だったのはいつも互いだ。
互いに手の内を探り、暴き、騙し合う。
白は俺のやり方を、俺は白のやり方を学んで来た。
原作よりもより濃密に。
原作通りの手じゃ今の白には通用しない。
事実反則的な駒運びを続けるクラミーに対し、白は動揺することも危なげもなく駒運びを続け、追い詰め始める。
ステフもこれには感嘆の声を上げている。
「ポーン5、前へ」
白の指示に対し、駒は動かない。
それでも白はすぐに捨て駒が使えないことを悟り、手を変える。
捨て駒なしでも有利に盤面を運び、終始クラミーを圧倒する。
それにクラミーが焦る。
「何でっ……!」
「何でも何も、それだけアンタと白には圧倒的な差があるってだけだ。残念だったな?」
「そんな馬鹿なっ。有り得ないわっ」
「実際に有り得てる。これが人類の強さだ。よぉく噛み締めとけ」
「……チェックメイト」
白がクラミーに対しそう宣言した。
審判が手を挙げ、決着を告げる。
「勝者、白!」
「俺が出る幕もなかったな」
観衆からは歓声が上がった。
そりゃあイカサマしてる相手を正攻法で捩じ伏せたんだから興奮もするだろう。
案外、呆気ない決着になったな。
俺はクラミーに向かって笑顔で真実を告げる。
「いやぁ最後まで俺達を他国の間者だって勘違いしてくれてありがとな。お陰で危なげなく勝てたわ」
「何を、言ってるの……?」
「だから、クラミーが俺達を疑ってくれたおかげで分かり易いイカサマされずに勝てたって言ってんの。お分かり?」
「……どういうこと?貴方達何者なの!?」
「空白。異世界から召喚された最強のゲーマーだ」
俺の言葉にクラミーは絶句して俯いた。
対して俺と白はハイタッチして勝利を喜んだのだった。
◇
無事に勝利を勝ち取った俺達はステフの元へ歩く。
そして気楽に声を掛けた。
「これでステフの爺さんが正しかったと証明されたな」
「あ……」
「何の後ろ盾もない。人類最強の空白が王になれば賢王だったことになる」
「これで、エルキア滅びない……良かったね、ステフ」
「ありがとう……本当に感謝しますわっ」
ステフは涙を溢してそう口にする。
白は若干背伸びしてステフの頭をぽんぽんと撫でた。
と、そこでクラミーが口を開いた。
「そんな……筈ない……ただの人間が魔法に対抗できる筈ない」
「そう思うなら結構。それがアンタの限界だ。相手が森精種だろうが神だろうが空白に敗北の二文字はない」
「ぅ」
「う?」
「うわああああああああん!!馬鹿あああ阿保おおおお!森精種の力、取り付けて……反故にするのにどんな面倒な契約したと……それを!それをおおお!」
大声で泣き始めたクラミーに俺は一瞬動揺する。
そしてすぐに切り替えてクラミーを慰めに入る。
「全部本当なんだったら悪くない計略だったぞ?だからほら、泣くな」
「びええええ〜ん!馬鹿ああああ!」
俺はクラミーにポカポカ殴られながら背を摩る。
そうして泣き止むまで慰め続けるのだった。
◇
「落ち着いたか?」
「……ええ。もう大丈夫だから離れて」
俺は観衆がいなくなった広間の中央で泣き止んだクラミーの背を摩るのをやめて離れる。
クラミーは平静を装って話し始めた。
「貴方達がどんなペテンを使ったのか。絶対に暴いてみせるわ」
「今更クールキャラは無理があると思うぞ?」
「キャラじゃないわよ!」
「あんな可愛く泣いたんだから、お互い腹割って話そうぜ」
俺の言葉を受けてもクラミーは警戒心を解かない。
野良猫みたいだ。
「泣いてないわよ!泣いたことすらないわ!」
「無理あるって」
クラミーはどうしても泣いてなかったことにしたいらしい。
俺は諦めてはいはいと受け入れることにした。
「じゃ、お仲間の森精種に宜しく伝えといてくれ」
「敵に対して何を言ってるの?」
「人類種を想う者同士、仲良くしようぜって歩み寄りなんだけどなぁ」
「ふん。どうかしら」
「ま、暇になったら遊びに来いよ。王座を賭けてゲームしようぜ」
「遊びになんて来ないわ。でも必ず奪いに行くわ」
クラミーはツンツンしている。
泣き喚いた後だから若干見苦しいが、まあ何も言わないでおこう。
「首を洗って待ってなさい」
「おう。じゃあ元気でな」
クラミーは返事せずにさっさと帰っていった。
頃合いを見計らって王冠を持った高官が近付いて来た。
「では、白様でしたな。貴方様をエルキア新国王として宜しいですかな」
「いいや。さっきも言ったが俺達は二人で一人。二人で王だ」
「それはできません。盟約によって全権代理者を立てるよう決められております」
「何処にも一人って書いてない。以上!平定!」
そうして俺達は新たな王となり戴冠式を行う。
城のベランダを出るとヴェネチアのサンマルコ広場を彷彿とさせる大広場がある。
今、広場を埋め尽くすように人々が並んでいた。
その前に出て、俺と白は演説をする。
人類種が負け続けて来た現実を改めて突き付ける。
それでも尚、依然変わりなく我々は弱者であることを語る。
そして第205代エルキア国王として戴冠したことを宣言する。
歓声が広場を、天をも震わせる。
最後に俺は宣戦布告を口にする。
「今この瞬間!我がエルキアは全世界の全ての国に対して宣戦布告するっ!反撃の狼煙を上げろ!我らの国境線、返して貰うぞ!」
ステフの絶叫を聞きながら、俺と白はベランダを後にしたのだった。
・オリ主
原作よりも白との対戦回数が多い。
しかし勝ち越しはない。
・白
オリ主の戦術・戦略を取り込んで日々成長中。
・ステフ
オリ主の宣戦布告に絶叫した。
・クラミー
負けて超悔しい。
泣いてないことにしている。