異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
「発現したサンチュ木浪水野の異能はそれぞれ後日、たんと見させてもらうとしてぇ。予定外の小悪魔とスケルトン……ガシャドクロBLACK……うむ。────今回もご苦労だった、なにはともあれな」
いつもの校長室、お疲れのダンジョン帰りでも引率リーダーの男子生徒には、不黒高校にすむ真のリーダーに報告する義務がある。
男子生徒は此度もしっかりとノートの提出を終えた。記載された今回の冒険の記録を、校長が机上で熟読する様子を突っ立ち眺めているだけでいい。
「やはりキミはぁ……」
「幸運?」
「ふっふ、だな。それともろもろの準備も少しは役に立ったか? もっとも居合術が下駄飛ばしで発動するとは思わなかったが、激レアフレイルにも協力的サブ的な使い方があるとは面白い。榎田椎名のアイテムもふっふ……〝キミたち〟は素晴らしいな! ダンジョン初挑戦の成果としては、期待以上の上々だ。大いに今後にも活かされるべき得難き経験だな、ふふ」
「え? あぁー、なんかサンチュも木浪もサーガもみんな校長がビルドして強いみたいで、少なくとも俺が小一時間サボって寝ていても……結果モーマンタイでした!」
「ふっふ、ブク高の女子たちは優秀なだけでなく強い意志を秘め持っている者が多いからな。案外信頼に足るすごいものだろう? キミも引率、同伴してみて勉強になっただろう?」
「勉強というか? はい……色々と、ですね」
「ふふ、それでここからは本題だ。ダンジョンクエストも達成、不測のトラップにかかるも逆に皆で返り討ちにし無事生還。さてさてそんなこんなの苦難を乗り越えた────今回の褒美のほうが……まだだったな?」
机上で両肘を偉そうにつき、両手を組み合わせた。いつもの仕草で見つめるプラチナ髪の美人校長が、にこやかに彼へと微笑む。
「あぁー……あぁー……褒美ですか? あぁーはは……なんというか、ラーゴムのモーマンタイの海砂利水魚のぉー、あぁーははは……」
その妖しい笑みにターゲットされながら、黒髪を意味もなくかきつづける。男子生徒は苦笑いを浮かべつつ、少しずつ、少しずつ後ろへと一歩二歩、ドア方を目指し下がっていく。
確保した退路、ドアノブに手をつけようとしたその時、よりも一瞬早く──
「どこに行く気だね、ピネスくぅん?♡」
「!? (瞬間移動!?)」
ナゾの杖を持つ校長が、背後から彼を拘束した。
前方に横にした両手の杖と、後方の豊かな感触に挟まれてしまい、動けない。ダンジョン帰りの浦木幸は今日も今日とて、彼女が与える身勝手な褒美から逃れられない。
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安い酒場だ。だが肉はうまい。
金を払いやっと出てきた料理を目の前に、この身になってからはそれほど空かなくなった腹にも、欲している感覚がある。
悪魔のルーキーはナイフと箸をその手に取った。
「おい最近スカしてる悪魔もどきのガキってのはオマエかァ?」
げらげらとうるさく騒ぐ向こう側から、飛んできたナイフは、食そうとしていた皿の上の焼いた肉に突き刺さった。
「角もない混血のガキが調子乗ってて偉いねぇ、ロバの血飲むか? ははははは」
緑肌の手に持つ杯から、逆さに注がれた赤い汁が座る黒髪を濡らしていく。
「さてさてぇー、スカしていたさっきより断然いい男になったところでぇー……悪魔のお兄さんたちが、真の悪魔道をレクチャーしてヤ・ル•よ★」
3匹の角つきのチンピラ悪魔は、場違いな黒ブレザー黒シャツの男に群がった。
▼
▽
「どこにも馬鹿はいるものだ」
黒い刃は、みっつの首を落とした。
赤、青、黄の舐め腐っていた鬼の面は、綺麗に丸椅子の上にそれぞれ並んでいる。
そんな愉快な首だけになった悪魔もどき共と、椅子を囲んだラウンドテーブルで、酒場の店長から新しく提供された品質のいい牛の肉を食していく。
「臭いニオイは取れねえが、ゴミをこの手で直接掃除する気分はそう悪くはないな。ははは」
晒し首にゲラゲラと笑っている酒場の悪魔どものBGMさえ、今はこの男にとってくだらなくてちょうど心地いい。
安い酒場だ。だが肉はうまい。馬鹿共もあちらから勝手にやってくる。
減らない腹を満たした男は、席を立った。
▼
▽
雷鳴がグレーの空にどもり響く。
招かれた特別なエリアに、一人、うるさい雨に打たれながら────聳える黒い建造物の中へと入っていく。
────ロビーに並ぶ仰々しい大鏡の中へと入っていく。
水面のように揺らぐ銀の鏡のドアを、摩訶不思議にもすり抜ける。
鏡の中にも秘された景色はある。誘われた暗がりの場は灯り、緑の石灯篭が長い赤きカーペットの道を妖しく照らしている。
赤い道の中途に立ち止まった黒服の男は、後ろにいきなり現れ差し出されたその椅子に、ただでは座らない。
「魔界で最近取るに足らない小悪魔を狩り、名を上げているスカした悪魔もどきがいると、──キミは不良気質なのかな」
悪魔にしては澄んだ声だ。その声はとても淡く透明で悪魔らしくない。
部屋へと招かれた男は、淡々とそのクリスタルの王座に足を組む女悪魔に返事をした。
「俺は俺のためにゴミ掃除しているだけだ。不良なんかじゃない、悪魔だ」
「ふぅーん。掃除ね、ふふふ。では、そんな不良品の掃除をしてくれている悪魔のキミに、今絶賛足りていないもの、なぁんだ?」
「足りない……だと?」
「悪だよ、後輩」
「何を言うかと思えば馬鹿か? 俺は悪だ、俺に寄りかかる舐め腐った悪は全て祓う。悪を狩る悪もまた悪、そこに愉悦さえ覚える俺を悪と言わずして何を悪と定義するんだ? ただ取るに足らないアイツらは、俺より弱かった。それだけだ」
「ふふふ、強い弱い、そういう純情なところでやり繰りしているのが好き。だからこうしてキミがここにいるのかもね、──でもね。キミが悪魔に志願する時に解いてきた、いくつかの魔法のジグソーパズル、実は足りてないの。キミの大切なもの、さいごのいちピース。差し出してないよね──サンフン?」
「それを殺しでもすればいいのか、それがお前の信奉する悪の儀式とでも言いたいか」
「ふふ、違う。ピースとピースは繋ぐものでしょ。目についたらただ殺す、そんなの誰にでもできると思わない? もっとなぞって確かめたり、摘んでみてヘコませたり、共有して増やして囲ったり、するともっと強く繋がれる。もう形が分かったら、そのへこんだピースが求める最後の手を差し伸べる。その時に神にかわって、あなたはささやくの。とても愛しくて従順な者に────それがワタシの定義する悪魔。とても愉しい悪の儀式」
「…………」
白い手が今取り出した一粒のクリスタルの結晶。ゴツゴツとした武骨な手触りを削り、やがていくつかのピースが現れる。削り磨いた小さな不自然な形がパズルのように組み合わさり、宙に浮かぶ一枚の整然とした四角になっていく。
この一帯を支配する大悪魔クリアクレアは微笑う。とても見目清楚で美しく、曇りかがやく灰色の瞳を宿した者は、最後のピースを摘み合わせた。
一枚の青いパズルが完成した途端、全てが粉々に消えてゆく。ダイヤモンドダストのように、冷たく美しく煌めいている────。
グレーの空からいつまでも降りしきる雨に、悪の根城は打たれる。黒い時計台の大時計はゆっくりと逆さに回りゆく。
黒い校舎には、絶世の大悪魔に誘惑された半端な悪魔たちが集い、今日も悪を育み、悪をたくらむ────。