異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
「地に堕ちた
引率リーダーの男子生徒含む五人の生徒たちは、校長の少しポエムじみたありがたいお話を傾聴する。
内容はいつものように生徒それぞれの反省点や褒める点を軽くまとめ上げ、それほど毒のないジャブにとどめる。いつもの悠然とした大人の余裕をかんじる、そんな校長のスタイルで進行していった。
風紀委員部の登別や小角を中心に、ダンジョンから学校帰りまで溜め込んでいた質問などが飛び交う。ピネスはぼーっと校長室中央の定められたポジションに突っ立ち、出しゃばらず、お偉い方のなるがままに任せていた。
「あーそーーだ。不黒ダンジョン40階、そしてみどりのダンジョン50階踏破記念……ということで!!! そろそろキミたちに渡しておきたいとっておきのアイテムがあるのだった」
堪えきれず含み笑いを深めている。不黒文校長は突然、話に区切りをつけてそう宣った。今までにそのようなプレゼントイベントなどはあまりなかったので、五人の生徒たちは各々首を傾げて顔を見合わせた。
誰か校長の見せるその意味深な微笑みに心当たりがないかをそわそわと探っているが、──皆さっぱり分からず。
『成績表か何かか?』ピネスはそう思い軽く緊張しつつも、今校長に言われた通りの順の五人一列に並んだ。やがて最後尾に並んだピネスは、最後にちいさな黒いそのプレゼントを受け取った。
「わわっ?? エッ!? なんなのですっ?!」
「これは? ただの装備ではなさそうね」
「ちょっとしんぷるー? みんな同じですかぁ、せんぱいも?」
「5人見たところ見た目は同じもの……想像がつきませんね?」
「黒い……指輪? なんなんだ……そんな強い装備なのか? あぁー、校長これってもう装備していいすか?」
「あぁ、構わんぞ。さっそく自由に装備したまえ、ふっふ」
「かっ、かしてくださいなの!! みんなこれでネックレスにするのです!! こっ、効果は変わらず問題ないのですよ!!!」
金の指輪に細長いチェーンが通っている。いつぞやのゴールデンゴーレムコンディショナーの指輪を既に首にぶら下げ自身に装備していたトモル部長は、声を張り上げた。今受け取った黒い指輪も自分と同じようにするように皆に提案したのだった。
「あっそれもオシャレかもぉー! トモリーさん!」
「うん、ここには剣を扱う生徒が4人。部長の言うその携帯方法が、たぶんダンジョンでも邪魔にならなくていいわ。普段使いもその方が楽ね?」
「私もそれに賛成です。私の武器は主に足といえど、拳に物をつけては拳剣流道場の師範にきっと怒られてしまいます! ネックレスならば……懐中時計とともに内ポッケなどに……」
「あぁー、いいなそれ。そうだな。いつもはそんなの指に装備して剣は振ってないし俺もそうするか。ん────なっ、なんだ……?」
団子になっていた女子の集団が、全員一人の男子のことをじっと見て固まっている。群れに見られて困惑する彼を蚊帳の外に、またひそひそと彼女たちは話し始めた。
「ふっふ、そう言うと思ってここにネックレス用のチェーンを用意した好きな色を選びたまえ。指輪は今はその色しか完成品がないからな。私からのせめてものスペシャルサービスだ」
色とりどりのネックレスチェーンを摘み校長は微笑んだ。さっそく机上に置かれたカラフルな装飾オプションに飛びつき、女子たちは何色にするか楽しそうに話しあっている。
「それはいんすけど、結局これってぇどんなバフが?」
チェーンの色は余った何色でもいいが、結局この指輪の効果はなんなのか、ピネスはいつの間にか隣に来ていた校長に尋ねた。
「ふっふピネスくん、その指輪はop効果付きだがただのop効果付きの装備ではないぞ。覚えているか? キミにいずれ貯金していたDPを還元することをこの前話しただろう? そして今がその時、キミたち各々の活躍に見合った分のDPを、ちゃんとこれまでの冒険ログを振り返り精算しそこに振り込んでおいた」
「なるほど…………どういうことすか?」
「キミはそう言うと思ったぞ……。まぁ、それひとつ持っていれば色々役立つ万能指輪型アクセサリーということだ。自分のダンジョン冒険ポイントすなわちDPは、連動するスマホのタコイカアプリ版で見ることができるから後で各々確認するといい」
「あぁー……なんとなく、分かってきました? DPの事はわかったけど、結局それで何がぁー……できるんすか?」
「あーそれはだな。色々できるのだが、【くろまねき商店】で買い物をするときにそのDPを使えるようにしておいた」
「黒マネキン……商店?」
「ンはいらんっ! きいてるで、あんたらのせいでこのところ物資も豊かになって商売あがったりや、んでこれからはDPキャッシュレス決済の時代の到来や! ソレ貸してみ」
「お? おぅ?」
ピネスが手のひらに乗せていた黒い指輪は、現れた謎の小さな手に摘まれた。一体いつの間に現れたのか、知らない背丈の低い子がスマホを片手に何かを手早く打ち込んでいる。
「ちゃりーん、毎度ありー!」
「は? え? なにやってんだ」
毎度ありと言いながら、黒い指輪はピネスの手のひらに返還された。何をされたかは詳しくは分からないが、彼の眼下で白い歯をみせて笑っている黒髪おさげの彼女が自分に何かをした事は分かる。
「ナニってその剣鞘ホルダー代は20,000DPや?」
「ん? 剣鞘ホルダー……ってこれか? なんで? 俺のモノでとるのか? んーー、変わった商売だな??」
黒髪おさげの女の子は、腰にさげたピネスのショートソードの二つの鞘を指差し指摘する。『毎度あり』とはその剣鞘ホルダー代のことであるという。しかしそれで何故DPを取られてしまったのか、ピネスはあまり納得いかないようだ、おさげの子を見下げながらそんな不思議そうな顔をしていた。
「ってアホかぁーー!!! どこの世界に入店した客の服装持ちもんから金取る商売があんねんっ!!! はぁー……ちがうでじぶん、その鞘の裏確認してみ、黒い小判のマークや、あるはずやで」
首を傾げ不満げな顔をしたお客に強くツッコミ、かるくため息を吐く。黒髪おさげの小さな子は、ピネスにその特殊構造の鞘ホルダーの裏を見るように言った。
「おっおぅ? あ、──あったな! たしかに!?」
「そのマークがあるっちゅぅことは、くろまねき商店の特注商品なんやで! せやから20,000DP、じぶん腑に落ちたか?」
少女は腰に巻き装備していた前掛けをひっぱり見せつける。その剣鞘ホルダーにもあった黒小判のマークは、彼女の前掛けに描かれた千客万来の黒猫の持つ黒小判と一致するものであった。
「へぇー、これってそうだったのか。すごいなクロマネキン」
「くろまねきや! どつくで」
「いてっ? ってもうどつかれてね?」
何故かボディーを踏み込み殴られている。『じぶん反応うっすいな?』ぼそりとそう言い、少女はピネスに歯を見せて笑った。
「せやせやせっかくや、あんたらどうせ暇やろついてき! 【くろまねき商店DP!】堂々のオープン記念日や! 今日はとくべつ全商品、──……DP安くしとくで!(これ逃したらあほやで?じぶんら)」
「ふっふ、それは逃すわけにはいかないな。学生諸君、さっそく行ってくるといい」
ピネスが顎に手をやりぼーっと考えていると、何故かもう一発腹筋を殴られた。そんな活発なちんまい店主に強引に、突っ立っていた男子生徒は手を引かれていく。初対面とは思えないパワーと引率力だ。
明るい商人の声とペースに誘われるままに、校長室にたむろしていた五人の生徒たちは、本日新装オープンする【くろまねき商店DP!】へと向かい、校舎の階段を下っていった。
『営業許可もろてんのは地下やで』ピネスの手を引く店主はそう言った。先導する店主の案内で階段を最後まで下り、揺れる2つのおさげを見ながら、やがて秘密の黒扉は開かれ目的のくろまねき商店へと────
見える景色はクラスルーム、授業を受けるように等間隔に整列された机の上には商品がひとつずつ置かれていた。
黒板には〝新装くろまねき商店DP!オープン記念〟とカラフルなチョークでお店のポップがわりに誇張した文字が書かれている。
教壇の位置には、かわりに大きな黒い招き猫がひとつ置かれている。ちんまい店主の説明では購入予定の商品をその黒猫のお腹からせり出した台座におき、さっき校長から授かった例の指輪で、招く手をタッチする。それだけの手順で簡単決済できるという、ハイテクな黒猫型のレジらしい。
「ブク高の地下にこんな店あったんだな」
見たことあるお菓子の商品をべたべたと手に取りながら、ピネスは今までくろまねき商店の存在を知らなかったことをのほほんとつぶやいた。
そんな呑気な男におさげの店主のちひろは、かるい溜息を吐きながら答えた。
「じぶんなんもしらんのやな……? まぁそれもウチらが独自にやってたせいもあるわな。こっちも今までやってきたやり方があるから、あの会長のやり方に折れるわけにはいかんかってん。まぁ今までもその鞘とかの制作は、裏から請け負って協力はしてたんやけどな。でもさすがにもう根負けや。薄々気付いてたわウチの大好きな現金は通貨としての役割果たさん、時代は夢のポイントDPや、せやから潮流をよんで会長の提案飲んだんや。これ以上商機のがすのは、商い人としてできんっちゅぅこっちゃ」
「──怪鳥?(コカトリスのことかな?)」
「あほっ、ニワトリ、怪鳥やないッ会長言うんはプラチナ髪のトップさんのことや。(イントネーションちゃうわ)」
「おっおぅ?(────同じじゃね?)」
関西弁との小気味良い雑談もほどほどに。店主と話している内にも、既に好き勝手に目を光らせて散っていった女子たち。すっかり皆の姿が見えなくなってしまったようだ。遅ればせながらさっそく、ピネスは教室内を徘徊しだした。
最初の教室を粗方探索し終えると──見つけたドアから次のドアへ、廊下を渡りまた次の部屋へとたどり着く。そうして広かったり狭かったり表情のころころ変わる店内を徘徊していると、ピネスは直感で気付いた。この道程が何かにすごく似ていることに。
「って……これなんで全部ダンジョンみたいに?」
「あーそれなぁ、せっかくやから店内も拡張工事と模様替えしてみたんや。あんたらもこっちの方が慣れてるやろ? 面白いおもてな、おもろいおもたことは色々試すんが商売の基本や。ボツなることも多いけどな」
確かに店内がダンジョンのような構造になっているのは人によっては面白い。ダンジョンに通い詰めるピネスにとってそれは、奇抜というよりはスムーズに受け入れられるものであった。
部屋から部屋へ、またも机に置かれたアイテムをじっくりピネスが物色していると。ついて来ていた店主ちひろはピネスの頭頂からつま先までを、じっと眺めだした。
「じぶん、そのスニーカーはいいんか?」
「すにーかぁー? あぁー、いんじゃね?」
いきなり靴の話になるとは思わず。普通のグレーのスニーカーを履いているピネスは、両の靴先をトントンと床にリズム立てて、特に問題はないとアピールした。
「よくないやろ! だっさい!」
「え? ださい!?」
「こっちきぃ!」
ピネスは自分の足元のファッションを即辛口に評したちひろに強く手を引かれ、ドアを開き、また別の部屋へと誘われ向かっていった。
▼
▽
『足元ださいと全部ださいってことわざ知らんのか、じぶん? ウチはさいきんその道のプロのviewtuberとコラボ監修してもろたりで、お靴の方も力入れてておしゃれで強くていいのんあんでぇー』
そう言われて誘われた空間は、これまでのベーシックな教室のイメージと打って変わって、靴屋の雰囲気だった。
ピネスが自分の背丈より高い靴棚の迷路を歩いていると、ばったり────タキシード服に身を包む女子生徒、紫紫刀に偶然出くわした。
「あっ」
「おっ、タガヤさんここにいたのか?」
「えぇ靴屋の匂いが好きで、ついつい長居を」
「あぁー、たしかにな。靴屋って言われてみれば独特だよな」
靴屋のニオイ、革やゴムや接着剤のニオイがこの部屋にはほどよく充満している。鼻をくすぐり、購買意欲もくすぐる靴好きには不可欠な要素も当然完備。お客様目線での外せない商売戦略のひとつであった。
「ん、その靴は?」
「あ、これブーツタイプで変わっていて。くるぶし辺りの突起が何を想定して作られたのか興味深く……手に取ってしまいました」
「あぁー、なんだろな。とりあえず押してみたらいんじゃね?」
「そうですね。──では」
タガヤが興味本位で手に取ったその靴の突起のデザインを指で押してみると──なんと、あろうことか、ブーツのつま先から銀色の何かが勢いよく飛んでいった。
いきなり飛び出た銀色はピネスの顔横を掠めて、後ろの靴棚に刺さった。
汗を一筋たらしながら、ピネスは後ろを振り返り見てみた。『び~ん……』と、しなりながら振動音を鳴らしている銀色の鋭利なナイフがそこに……。
まるで見なかったものにするように、ピネスは後ろを向かせていた首をゆっくりと前へと戻した。そしてもう一度ブーツを抱え持つタガヤと顔を見合わせ、お互い唖然とするしかなかった。
「…………たしかサバット……つま先に仕込みナイフをする靴を想定した格闘技があった……ハズです……」
「……物騒じゃねそれ……」
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▽
『あ、これとかっ、今履いているスニーカータイプにちかく良さそうです! 履いてみてください』
銀色の仕込みナイフの事件は、タガヤが驚かせたお詫びにピネスに新しいスニーカーをプレゼントするということで落着した。
自分より数段靴に詳しいタガヤにプレゼントされるのは断る理由もなく、ピネスは今回はありがたく彼女のその気遣いに甘えることにした。
彼が新しいスニーカーを試し履きしている間に、タガヤは新たな靴を求めてまた靴棚の迷宮に消えていった。
「じぶん、もらっておわりか?」
「あぁー?」
「心配せんとも靴のサイズはしっかり確認済みやで」
「あぁー、26.5だな」
ピネスは履いていたスニーカーの靴底を覗き、寄って来た店主に淡々とそのサイズを答えた。しかし答えるやいなや、椅子に腰掛けていたピネスの腹筋に女子店主のパンチが良い踏み込みでめり込んだ。
「どあほ! ぽんこつぅー! 誰がじぶんのくっさい靴のサイズや! こういうときは〝持ちつ持たれつ〟プレゼントされたらサプライズでお返しするもんやろ?(靴はもうそれにし前よりイケてんで)」
「いてっ? んーー? ──あぁっなるほどっ」
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「そうそうそこの台座に置いて指輪を黒猫の肉球にかざすんや、それで購入完了や。──ちなみに商品ひとつひとつに識別番号あるからこっちのアプリでぜんぶ管理してて盗ったらバレるからな! 腹筋100発、ちひろちゃんが地獄の果てまで追うでぇ?」
「それは盗るやついねぇな……」
無事2人分、合わせて4足のスニーカーを各々で購入。最後に丁寧に箱に梱包した同種でサイズ違いのそれらを、浦木幸と紫紫刀はお互いにプレゼントし合った。
商品名は【スーパースニーカー】あらゆる運動とステップに汎用性を誇り、使うほどに持ち主に合わせて馴染んでくるスーパーなスニーカーであった。
ピネスは店主が行動を先読みし持ってきたシリーズのカタログから彼女に合う色を選んだ。最終的に彼は彼女に両足紫色のスーパースニーカーをプレゼントすることに決めたようだ。
「さすがに履けないですね……」
「ん? かえてもらうか?」
「いえ、そうではなく……ごにょごにょ────」
ピネスの右耳を借り、タガヤはひそひそとこのスニーカーを履けない理由を打ち明けた。
というのも、一大企業ぱーぷるまーくぐるーぷの紫家に仕えるタガヤは、そのトレードマークでもある紫色を自身の足元にするのを昔からよく思っていなかった。故に、彼女の所持する靴下や靴や絨毯に紫色の物はまったくないのであった。恩義、恩人をなんとなく足蹴にしているように思えて、憚られる──そんな彼女の信条的な理由であった。
「あぁー、なるほど……それはたしかに。ならやっぱりかえて」
「いえ、ありがとうございます! 使いますっ、インテリアとして!」
「おっおぅ? そうか、そりゃよかった?(靴のインテリア、履く以外のその発想はなかった)」
彼女がそう言うと少し戸惑っていたピネスの顔は、また、にこやかに笑っていた。
購入した手荷物のスニーカーは気の利く店主に一旦預かってもらい、訪れたのは韓国製品のコーナー。
途中出くわしたサンチュ後輩と浦木先輩は、二人で迷宮構造の店内を探索しお目当てのこの場所にやって来たのだが……。
二人は足を止め目にする。目の前に広がる驚愕の光景というのはこのことだろう。
戸棚には数多の韓国海苔のパック、よく食べる乾麺の数々、欠かせない調味料コチュジャンやごま油、伝統的な薬菓、viewtubeで今流行りのフレーバーアーモンドなどなど────至れり尽くせりだった。
「あのぉー、サンチュ後輩さん……ラジオ体操ってぇ、たしかスタンプ全部でこれ一枚……だったよな」
「でへへ……せんぱいこれ、反則ぅ……ですね……」
試しに買った1パックの韓国海苔を開封しいただく。口に挟んでせーので『パリッ』といい音を一枚、二枚と鳴らした二人は、苦笑いから──やがて笑い合った。
その音、その風味、その香ばしさ、その内容量が証拠。どうやら二人が足を踏み入れたこの光景は夢ではなく中身もぎっしりと詰まった本物だったようだ。歯に海苔をつけながら、お互いの顔に指を差している。
浦木先輩はサンチュ後輩と共に見て回ったいくつかの商品を購入した。
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淡い緑髪の彼女はここがホームセンターみたいで楽しいのだと言う。今手に取った通常より角の多い消しゴム製品に関する聞き齧ったという
「登別さんってけっきょく何が好きなのかな?」
消しゴムの歴史を遡る蘊蓄の壁打ち相手にされていたピネスは、集中力が切れたのか、今目の前にいる彼女の顔を見ながら、ふと、そんな心の声が漏れていた。
「たい焼き、好きよ」
「おっ? おぉ、たい焼きかぁー」
「──あるで?」
登別海が手に取った最新の消しゴムから古きキャラクター消しゴムを並べていた机席に、地獄耳のちひろちゃん店主は現れた。
二人は店主が持って来た【電動天然らくらくたい焼きメーカー】を流れのままレンタル。ちひろちゃん店主の親切なチュートリアル付きで、消しゴムの歴史は一旦忘れ、ピネスは登別海とたい焼き作りに初挑戦することになった。
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チェックシートの項目はバツだらけ。風紀委員部部長の小角灯は熱心だ。店内をくまなく部屋から部屋に移動し、報告用の風紀違反の数々をチェックしていく。
そんな巡回点検中の彼女にばったりと出くわしてしまったピネスは『みだりに徘徊してはいけないの!』という旨の、いつもの如く理不尽な指摘を受けてしまう。
それから制止した彼のつま先から頭頂まで、トモル部長はチェックしていく。ピネスは長々と始まる彼女の説教と風紀の乱れの事細かな指摘に、いつものように苦笑いと多少の気の抜けた反論をし付き合った。
そしてようやく、彼女が目を凝らせど指摘する部分もそれほど見当たらなくなり──。ピネスはそんな仕事熱心な彼女のことを見下げながら、ふと思った。風紀委員部、登別海とセットのような存在であるピンク髪探偵帽子の彼女の好きなものは、いったいなんなのかと。
説教を耳に流し、メジャーでズボンの丈を測られたりしながらも、何故か無性にそんな些細なことが気になってしまった。ピネスはおそるおそる頃合いをみてトモル部長に尋ねていた。
「好きなもの……くぬぬぅー……たい焼きですか? ってなんでそんなこと聞くのですか!! さてはまたエッチなことを!」
「え?」
「なんです? くぬ? ちがうのですか?」
「あぁー……いる?(焼きすぎた)」
手荷物にあった、まだあたたかな紙袋をかかげ、ピネスはトモルに提案した。
▼
▽
風紀委員部部長とて、好物の甘いニオイには抗えない。
合わせた四角い学校規格の学習机に向かい合い座り、男女はそれぞれ紙袋からごそごそと取り出した〝たい焼き〟を、その即席のフードコートでいただいていく。
「くぬっ!? 尻尾まであんこなのは風紀違反ですよ!」
(たい焼きに風紀違反とかある……たしか尻尾までのはアレだな、クロマネキがチュートリアルでしっかり作ってくれたヤツだな。なるほど、性格ってヤツか?)
「うん、こっちはあんこの量が丁度いいのです! 尻尾もさっぱり!」
(登別さんが作ったやつだろうか。やたらぶつぶつ謎の数字を言いながらこだわってたからな。やはり性格か? 風紀委員部、案外似てたり?)
「はむっ、──カスタードなのです!?」
「あぁー、ごめんそれ俺だ。(さては風紀違反だろうな。尻尾まで詰めてるし邪道だし。そもそもたい焼きじゃなくてヒトデ焼きだし────ヒトデに尻尾はねぇな)」
黄色いクリームのつまった星型のたい焼きもどきは、ぱくり──食い尽くされた。特に何も言われることはなく、自分が焼いた甘い星が、彼女の口の中にひとつ丸々消えたのをピネスは見届けた。
(どうやら風紀違反ではなかったようだ。味は良かった……か?)
甘い癒しのじかん────
腹の調子を考えずに風紀を正すため、せっせと熱心に店内を歩いていたからか、トモルはまたひとつ、星を見つけて平らげた。
女子がいっぱい食べるところを見るのも悪い気はしない。向かい合わせた男はそんな彼女の食いっぷりに自分も釣られてか、ひとつ、手に取ってみたまだ余るたい焼きに齧り付いた。
「ってカラぁぁーーーーーーぁ!??」
「ふぬっ──!? ごほっごほっ! ──ンンっ! なっ、なんです!?? 食べてるときにいきなり奇声を上げないのエッチアイ!!!」
「ちっ、ちがっ……みっ、みじゅ……」
天使のイタズラか店主のイタズラか登別のイタズラか。ぬくもる紙袋から手に取られたワサビ味のたい焼きは、微笑みながら齧り付いた男子生徒に悶絶リアクションするほどのダメージを与えた。