異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
銀色と黒緑の卵を冷蔵庫に回収。70階階層ボス部屋の宝はスベテ回収された。そんな制圧され危険のなくなったエリアで、ブク高パーティー一同は、校長の指示のもと小休憩を取ることになった────。
「ふむ、ダンジョンを知りダンジョンに慣れる。己の異能を知りあらたな己に成れる。連携も、魔法と異能の練度も洗練されよくなってきたな。どうだピネスくん、敵は物足りないか?」
校長は珍しい銀色豹柄のマントを手に取り眺めながら、落ち着いた様子でそのようなことを言っている。
絶賛おにぎりを食べながら小休憩中だったピネスは、お茶でそれを流し込む。今耳に入れた受け答えに若干困るような質問にも、先程の戦闘シーンを思い返しながら彼はさらっと答えた。
「え、んーー……いつも通り殺気だらけで、モンスターはモンスターっすけど? ってなんでサボってたんすか……校長?」
「私はブク高のスペシャルな校長だぞ? その校長に訳のわからん猫やサイと戦わせる気か?」
「えぇ……いやぁ……」
「ふっふ、冗談だ。キミたちが強くなりすぎたのだよ、こうして私のアシストがいらないほどにな。私の目にはこの勝利の光景も始まる前から見えていたさ(やはりピネスくんも魔力の方が上がっている。クリティカルの方も、以前より切れ味が増したというのか……効率の良い鍛え方を何か見つけたか? 前衛タイプの彼には魔法教師のわたしから指導することは──ない。かろうじて側転ぐらいか、ふっふ)」
「あのぉーてことはやばくなったら、ちゃんとするんですよねぇ?」
「あぁもちろんっ。ヤバくならないように手と気を抜かず頑張りたまえー、冒険らしく男の子らしくな、ふっふ」
「まじ……すか、──はい」
そろそろだらけリラックスしたこの小休憩も終わり。生徒各員の残りの体力・シールド値・魔力量を鑑みて次の方針も決まった。みどりのダンジョン70階、石像のチェックポイントは浄化され向かうは────
▼▼
▽▽
攻略は順調。階層ボスの待ち受ける区切りにはまだ遠い道半ば、迎えた78階。冒険のページは次へと捲られた。先へと恐れず進む勇気ある冒険者たちに、未だ見ぬ展開を添えて────
⬜︎タコイカ学習帳
【ブク高パーティー】は、【きのこパーティー】に出くわした。
およそ6分間の交戦状態に入り、各員奮闘したものの────
榎田椎名、緒方、木浪、サンチュ、タガヤは、敵ボス【きのこぐりーん】の散布した胞子(ドピンク茸)に魅了された。
サイ兵士×4:
サイ・人型
重装気味のサイの兵士である。
角に魔力を集める特性があるので、角が壊れれば魔法は使えなくなる。
不意の突進に注意
サイキックラゲ×5:
きのこ・海月型
ぷかぷかと浮遊しつつ念弾を吐き出す。
射程は短いが毒魔法に注意
きのこせくしーえりーと×2:
きのこ・人型
すらりと背の高いエリンギの戦士。
剣や槍を持つ前衛タイプ
きのこぐりーん:
きのこ・蜥蜴・人型
武装はしていないが体術を用いる。
尻尾にはアイテム茸がついており何をしでかすか分からない。
尻尾攻撃に注意
きのこを用いた魅了攻撃に注意
マッシュルームルーム:
不明
戦闘中きのこぐりーんが中からさっそうと現れた。
外観はきのこ型の家のようである。
中からモンスターが召喚されるマジナイが施されているようだ。
榎田椎名(魅了):
ふふふ……おきのこ様ぁー! きのこばたけぇー!
緒方結美(魅了):
すんすん……おにぎり……
木浪智火瑠(魅了):
きのこ……きのこ……きのすけ……えへへ……
サンチュ(魅了):
あはははははは……!!
紫紫刀(魅了):
素晴らしい! 天然かろりぃ……!
⬜︎
赤い学習帳から状況を再度確認した校長は、擦り合わせた現状に納得がいったように頷いた。
「採用機会の少ない耐性装備を疎かにしたのが仇となったか……。しかし一つ分かった、やはりピネスくんは素である程度の状態異常耐性持ちと判明か。luck値がレジストに関係するタイプのダンジョンものか? ふむ、でもまさかなんでもない道端戦でこんな搦手を用いるヤツが出てくるとはな……完全に油断だ、ふっふ……」
「んなこと言ってる場合じゃぁ……ないんじゃね……!」
冷静に分析し口角をあげる。そんな余裕綽々の校長に男子生徒は振り返りツッコんだ。
比較的慌てる事の少ない、なんとなく道を信条とするピネス生徒が、校長の長話に付き合わない程に今、目に入る状況はカオスの未知に溢れていた。
その手に剣を構えてはいるものの、剣を向けるべき相手と、シてはいけない相手がいる状況は彼にとって初めての事だった。
「うむ、ピネスくんソレを一発あの〝みどりのきのこ〟へ、ぶちかまして来い。もちろんクリティカル、イチゲキでな!」
「やっぱそう言ってくれますかっ、クリティカル……できればそうしてますけど……! でもアレをくぐるのは」
再度前を向き緋色の剣を構える。
前衛に重装のサイ兵士が四体、その後ろにサイキックラゲが五体横一列にぷかぷかと魔力を透明なボディに溜め込み浮かび。
後方、ドピンク茸の効果で魅了された女子が五人。
さらに後方、二体のきのこせくしーえりーとを左右等間隔に護衛のように侍らせる……その最後に控えるは、みどりの人型きのこモンスター、ボス級だ。
モンスターを次々と補充し呼ぶおしゃれに聳える【マッシュルームルーム】謎の拠点を背に、敵、きのこパーティーは堂々の鉄壁布陣を敷いていた。
ピネスはそれを困難と感じた。仮にサイ兵士とサイキックラゲの壁を食い破っても、魅了され敵となった女子たち相手にお茶を濁しながら、最終的に後ろのボス級、あのみどりのきのこの元へと辿り着く事は……。
「私も全力でキミを援護しよう。ヤバくなった、こういうときの私の異能だろ? ふっふふーー、ブク高の校長たる私はまだまだ本気ではないーー!!! ここからだ! 出席確認といこうかぁ!!」
⬜︎タコイカ学習帳
不黒文は膨大な魔力と己の影を薄めてそれらを供物として消費し、影の軍団とアンデッド族の使いを召喚した。
シャドーゴブリン❶❷❸❹❺❻❼
蝙蝠猿❶❷❸❹
ブク高生徒×4
⬜︎
「ってソエジマぁ!? たちぃ!? ──……そっか、なんか今まで使ってなかったっすよね? ソエジマたち」
「しょうしょう大人の事情があってなァ、ふっふ……! こういう場面だからこそ使える策や術もあるということを知りたまえー!」
「あぁー……なんとなく想像はできるけどッ」
「ふふふ、おっと喋ってる暇は──なさそうだピネスくん。3、2、1、────!!! 出席番号22【波動ガン!】」
校長は出席番号22のボロ背に、銀の刺股の武器をブッ刺した。あんぐりと開けた一体のアンデッドの口から異能技【波動ガン!】は照射された。
「でぇ!? なにうってんだ!?」
「道は開けたっ! つづけい!!!」
青白いマナレーザーは敵モンスターを貫き、敵パーティーの陣形が少し崩れた。
視界の果てを横切り過ぎ去った派手な先制射撃に驚いている暇はない。檄を入れられたツギハギの背は、校長の喚び出したシャドーゴブリンたちにつづき前へと駆け出した。
校長の影の軍団と4人のアンデッド族が、ピネスを護衛し目標までの露払い役を受け持つ。
前衛のサイ兵士とシャドーゴブリンたちがぶつかり合い、壁となり。異能で敵を浮遊させた出席番号18は木浪と緒方を一時的に宙にとどめて無力化、ピネスのやりにくい相手を搦手で封じ道をつくる。
それでもまだピネスへと向かいやって来る敵対した女子たちには、異能【カリスマ】を発動。陥った魅了には魅力的なアンデッドの男子を、出席番号23番の取ったクールな挑発ポーズに女子たちは方向を変え群がり始めた。
「三河がボコボコに!?(助かったが……)」
三河(アンデッドの姿)の物言わぬ勇姿を見届けている暇はない、きっと彼の抜け殻も女子に集られて本望だ。
ピネスは前を向いて走る、気づけば上手く敵の防衛陣をくぐり抜けていた。敵陣深く視界に見えてきた本丸への残る障壁は、武装を固めて強そうな〝きのこせくしーえりーと〟2体。
さっそく左右から駆けてきたエリートきのこ兵士、それらの手元から伸びるふたつの槍捌きに、足止めをくらってしまう。ピネスは、突く二つの槍をかわしながらもどうにか隙を見出そうと剣を握りしめる。
そんな様子でピネスが攻めあぐねていると、不意に飛んできた赤いブーメランの角が兵士のエリンギ頭に突き刺さった。
赤いのはブーメランではなく、学習帳。痛く刺さったエリンギ頭からぱたぱたと蝶のようにページをひらき舞いながら──メガネをかけた出席番号14の手元へと綺麗に帰った。
「ソエジマぁ!? ナラっ!」
思わぬ友の抜け殻からの援護で隙が出来た、些細で大きな隙が。
槍を小刻みなステップでかわしながら臆せず前へ出るピネスは、頭に刺さったノートに気が散った〝きのこせくしーえりーと〟の1匹を──
走り遠のいていくツギハギ背に慌てて追撃を加えようとしたもう一体のエリンギは、されど追いつけず。──デリケートなきのこ笠に突き刺さる、またも学習帳のブーメラン。1匹のアンデッドが勝負を名乗り出た。
校長の宣言通りに『キミを全力で援護』。あのみどりのターゲットまでの障害は無くなった。
近づく、近づいていく、もうこんなに近い。
接近し詳細になっていく敵の姿、蜥蜴のような手足と尻尾、茸のような頭と腹。そんな冒険者の圧にびびるみどりの珍獣へと、容赦はしない。彼の使命はソイツにぶち込むこと、ただ一つ。緋色の刃は敵大将の喉元まで一気に迫った。
金縛りにあったように気圧されて動かない茸頭へと、イマ──
「ここまでのこっとやるこたァッ──【バーンファイア】!!!」
頭部必中クリティカル陽術【バーンファイア】。校長命令をうけたピネスの放った魂の赤いイチゲキは────
そこに広がるはずの緋色の手ごたえはなく────イマ、手首に痺れ返るのはなぞの鉄色の手ごたえ。
モンスターきのこぐりーんは、尻尾の【メタル茸】を使用した。
「んなっ!? こいつ!?」
いきなり硬質化した笠、全体の肉質まで。確実にクリティカルするつもりでぶち込んだ緋色のショートソードは鈍い音をたて、跳ね返された。
してやったり……芳しい緑の体色から性能性質が豹変。メタル化したきのこのモンスターは一転、一気呵成に、剣を阻まれうろたえるピネスを逆に攻めた。
恐竜蜥蜴由来のその爪で、引っ掻き引っ掻き引っ掻き回す。
思わぬミス、痛恨のミスショットをしてしまったピネスは一時も悔やんでいる暇はない。防御に転じたピネスは剣とフットワークで豹変し襲いかかってきたメタルきのこモンスターの猛攻に堪えるも──ここでさらにとんでもない誤算が、ひび割れながら現実に現れてしまった。
疲労困憊、それはピネスの身体の状態を表したものではない。緋色の刃が、硬質の打撃と引っ掻きについに耐えきれず────今ぽきりと折れた。
目の前で起こる愛用する武器の破損。それははじめての経験、ラッキーボーイの経験する特大のアンラッキーが、もっとも大事な時と場面で起こってしまった。
いつも世話になっていた緋色が折れた。いや、いつも世話になっていたから折れた。ピネスの頭には別の理由がよぎるが、考えない。
積み重なる悪運にも嘆いている暇はない、ただ今ある装備と魔力で目の前の敵を討たねばならない。
やがてメタル化が解けてみどりの体色を取り戻したモンスターは、いきなり尻尾を振り回した。
「やっべ!?」
体の回転を使ったみどりの尾はハイキックのようにピネスの頭を掠めた。音速を超える紙一重、ギリギリの回避を披露する。ほぼ反射で避けた結果、だが相手の体勢はそんな大振りの直後になった。メタル化も失せている。アンラッキーの後に目まぐるしく訪れた幸運はチャンス。
「まだあるだろ! 【ピネスサンダー】!!!」
右の剣鞘ホルダーから素速く抜き出した雷剣は、みどりの腹を貫いた。『これで終わらせる』そんなありったけの雷撃を込める勢いで、刺突したきのこ体へと流れつづける痺れるダメージ。
「うおおおおお──へっ?」
しかしその手応えはどこかおかしい。ピネスは敵を貫きながら目を凝らした。緑の尾の先には、なにやら石色の茸がある。そして激しい雷撃を受けた末、石色の茸はみるみるとおおきく膨らみ育っていた。
ピネスはとてつもなくイヤな予感を察し──その場からバックステップで離れた。
小ジャンプで叩きつける【回転尻尾石茸爆砕】。尻尾を激しく打ちつけ、同時に地に落ち破砕されていく大きな石のきのこ。凄まじい衝撃と広範囲にショットガンのように飛ぶ礫、ダイナミックな大技が大地を揺るがす。
巻き起こる暴威暴風────理不尽なイチゲキの余波に巻き込まれたピネスは、まるで綿毛のように、どっと流れた強風にその身を吹き飛ばされた。
「くっそなんで今の手ごたえで俺がヤられてんだっ! ナラもういっ──ぐふっ!?」
うまく着地し受け身をとり、また前へと向かおうとしたピネスに、いきなりスピードに乗り現れた白い冷蔵庫の突進が決まる。
パカパカと狂ったように扉の開け閉めを繰り返すその冷蔵庫の中には、溢れるほどの賄賂の茸が詰め込まれていた。
「冷蔵庫までかよ、まさかの敵ってのは! いてて……」
すってんころりん。冷蔵庫の体当たりに鼻先を弾かれたピネスは、校長命令で走り出した元のスタート位置まで戻ってしまっていた。
「ふむ、一部属性耐性をもち、さらに尻尾のきのこを変えながらトリッキーに戦う珍モンスターか。……ご苦労だピネスくん、またひとつヤツの習性が分かったぞ!」
「ご苦労って……やばいんだってェ、そんなのわかっても!」
「あぁ、──ヤバい……!」
召喚した影の軍団は己の影内へと戻し撤退させた。容赦なしの女子生徒にヤられたアンデッド生徒たちは役目を果たし土に還る。
決行された大作戦は見るからに大失敗、それでも不黒文校長は微笑う。
吹き飛ばされ転んだ地から見上げる、その女性の浮かべる微笑い顔の意味がなんなのかはっきりとは分かりやしない。まだ残る気力と体力で起き上がったピネスは、故障のない翠の刃で、並ぶ壮観の敵陣を遠くから刺すように構えてみるが、分からない。
ただ、きのこの家から続々と〝こんにちは〟する更なるモンスターの補充兵に、彼はため息混じりの苦笑いを浮かべつぶやいた。
「あぁー……うそだろ、これってぇ終わりある……?」
「万一にも終わらないように注意だな、ふっふ!(やけに長いな? よもや魅了の重ねがけなぞ……していないか、ふふっ?)」
ボスモンスターのみどりの尻尾の先には【ドピンク茸】が掲げられ、小刻みに誘うように揺れ動いている。ピンク色のパフューム胞子は風にふわふわ流され散布される。そろそろ魅了の薄れた女子たちの鼻奥を、ぽわぽわと心地よくくすぐっていく。
後方に控えるみどりのきのこには、未だ致命の刃は届かず────
スペシャルな校長先生は生徒を応援しなければならない。だが時に、物事を推しはかるものさしは夢や希望や期待、熱意の度合いを勘定し盛り込んでいいものではない。
現在陥ったこの状況を鑑みて冷静に判断を下す。指導者教育者、学校のトップに君臨する者には必要なバランス感覚と万事を見据える外せないセンスというものがある。
なにごとにも、たとえダンジョンであっても。
「想定していない状況に陥る……ここはダンジョンだったな。そしてこれはもはや十分、得られるものはない、潮時だな。DPをかなり使ってしまうが仕方ない。念には念をだ、そろそろ働いてもらおう。不気味なダンジョンも〝備えあれば憂いなし〟────」
校長は今指にはめた黒い指輪にイメージし願いを込めた。情報の塊である赤い本は呼応するように光り、登録された名簿の中から探し出す。そしてDPだけではない様々な代償と引き換えに、ひとつ、願いは叶えられ、──砕けた。
▼
▽
突進する厄介な冷蔵庫を魔力を込めたチェーンでぐるりと縛り付けた。開閉不可になった冷蔵庫は暴れながらコントロールを失い横倒れた。すると同時に魅了状態であった異能冷蔵庫の持ち主である緒方も気絶、その場に力なく倒れ込んだ。
「たたかわずにたたかうって! こんなに難いってのか!」
敵は魅了された冷蔵庫や緒方だけではない。四足で走り魔法の角を向け突進してきたサイ兵士を──
ピネスは雷撃のマジックを剣先から放つ。放ったマジックは一点を目掛けた。サイの角に蓄えていた魔力に引き寄せられるように宙を這う雷線はビリビリと集束し、ご自慢の角は瞬く間に焼き尽くされ、破砕。
デリケートな部分を焼き砕かれ悶絶したそのサイ顔に、至近に駆けた翠の雷刃がクリティカルでお見舞いされた。
次々に襲い来るモンスターをまた1匹始末。
しかしサイ兵士を倒した直後、その倒れたモンスターの背から現れた……魅了状態のサンチュ後輩の手から輝く光がピネスを襲った。
「ぅがっ!? ────」
咄嗟に目を背けるも視界を真っ白に奪われてしまった。油断からか、いつもは使わない慎重な神経をすり減らすバトルの疲れからか、ピネスは直伝したサンチュ後輩の目潰しが効いてしまった。
白い視界が晴れない中、風切る剣、風切る斧の音と殺気を頼りにピネスの体は反応。2人がかりで襲ってきた榎田椎名の斧とサンチュの剣が、目の調子がまだもどらないピネスを追い詰めてゆく。
「ちょっ!? たんまたんま!? やばっ!?」
びゅん、びゅん、と切る危険な風音の中をどうにかやりすごす。
頼りにならないぼんやりとした視界に神経を研ぎ澄ませていると……。流れてやまない汗が伝う戦いの最中の突然に、混じり込んできた低い笛の音がピネスの集中を削いだ────
それはなんだ、遺伝子を呼び覚ますような古風な音だ。
ソレは不意に後ろから現れた。木の鈍器で次々と頸部を殴打されたサンチュと榎田椎名はどさり……その場に倒れた。
まだ耳に揺れる和の残響と、ようやく戻ってきた彼の霞む視界には、
水色のコスチューム、水色帽子、茶色いポニーテール、帽のツバを右手で下げ、十手ほどの長さの尺八を左手に携える。そんな姿をした見知らぬ誰かがいた。
「笛の音……? おわっ?」
「──よっ!」
目が合った──赤い目をしたそんなシルエットをピネスは知らない。
「なん……だ……って挟まれてる!!」
「んっ?」
忽然と現れた水色服の者を目掛けて、左右から駆けてきたエリンギ兵士がその両脇腹を狙い槍をブッ刺した。
──しかし貫いた手応えはない。
嘲笑うように2本の槍の上に、金と黒のスニーカーの両つま先が乗っていた。
おどろいた2体のエリンギ戦士は槍を破茶滅茶に振り回す。振り回される槍の梯子、その上で慌てたようなステップを踏み踊る水色作業着。
『かんたたかんかんかん』槍と槍がその不審者を貫かんと躍起に交わる。幾度も弾かれて奏でられる軽妙な木の槍音のやり取りに、
「あそれ!」
気付けばブッ刺さった。槍と槍は正面同士のエリンギ同士、その互いのボディへと穂先を操られたように。
急いでお互いに刺さった槍を引き抜こうとするエリンギ頭を見てニヤリ、女は笛を吹いた。
水色作業着の女はその魔力震える尺八を上から強く叩きつけた。長い柄の中央を叩かれしなる2本の槍は、それが弦のようになり音を奏でた。やがて槍同士で繋がっていた2体のエリンギを──内側から魔力爆砕。
「尺八娘──きのこづくしのB級映画に迷い込んで」
横一列で横切った浮遊するサイキックラゲが、念弾を順々発射する。
「よっ! はっ! はっひっほっへっ!」
目にも止まらぬ尺八捌き、握る笛をバットのように扱い、次々と弾いた念弾はスベテお返し。サイキックラゲの集団は威力・魔力・速度、倍以上になり返ってきた己の念弾をくらい破裂、綺麗に残さず壊滅した。
隙あり──サイ兵士ははしゃぐ新参水色の後ろから大剣を叩きつけた。
と、おもったら投げ捨てられていた。
作業着の女は一瞬にてくるり、反転しながら敵の横へと回り込む。そして尺八をサイ兵士の脇にぐいと挟み込み、持ち上げながらそこを支柱とし、さらに足をかけ崩しそのまま巨体ごとを崩し投げる。
モンスターは投げ技など知らない。追撃で天から地へと叩きつけられた硬い木の鈍器で、ノックダウン──瞬く間にお陀仏。敵を討つ愉快な笛の音が響いた。
「てんサイってね?」
だが、そんな彼女が息つく間もなくさらなる挑戦者が現れる。
不意に襲った回し蹴りをしゃがみ回避。つづけたハイキックは調子に乗っていた作業着女の握っていた尺八の武器を、高く天へと弾き飛ばした。
風にはげしく靡く茶色いポニーテールを、鋭く蹴り上げ掠める。不意打ちを仕掛けた執事はその前ま逃げ躱すターゲットを追い続ける。
身軽な作業着女もつづく連戦でバテてしまったのか、油断ならない執事の足さばきに注意がいっていたところを、ついにお留守な腕を掴まれてしまった。
「を、グラッピング……?」
「【
上中下段、乱れ咲く脚技の危険な部屋。相手の腕や手を掴みはじまる危険な脚技は、爽快な打撃音を打ち鳴らす。
打ち鳴らす、そう、脚と脚の動き、足裏と足裏つま先とつま先までがなんと完璧に、
レシピ手順通りに事前に示し合わせたかのように、黒い執事女と水色作業着の女の繰り出した脚が、ぴったりと重なり合っていた。
「おーおー完璧、アドバイスゼロ!」
「かろっ???」
「オッケー!!! 最高にクール!!! いいねぇ小鬼ちゃんまた後で回してやろう、よっ!」
まるで鏡合わせ。お互いに至近で放つ連打を受け止め合い、止まっていた伸ばした脚の足裏と足裏。そんな互角の状態で、不意に水色の足が相手の片足を反時計回りに巻き取るように動いた。
そして一瞬の間に、地に踵で痛く叩き落とされたタガヤの右足。それで体勢を崩したタガヤはすぐさま左足で回し蹴りを放つが──隙あり、今、空からキャッチした尺八が強襲する。
首筋にかろやかな回転打ちは決まり、紫紫刀は見事な尺八の打撃音に一本取られ倒れた。
一息、作業着の女が尺八に口をつけ武器に魔力を補充しようとしたその時、石の壁が地を滑り左右真横から押し寄せた。
まるで危険な合掌、2枚の石壁がものすごい衝撃音で合わさったところを前転しながら作業着の女は避けた。
「うひょキタっ弾持ちの魔法使い! そーそーダンジョンこれがあるの、よっ!」
さらに土をこね、壁がせりあがり、オレンジ髪の魔法使いの姿を隠す。そして真正面から前方へと向かい風を切る。どういうからくりかスピードを上げ放たれた石壁の四角を、作業着の女は飛び越えて避けた。
今飛んだ作業着の女へと石弾の3way魔法がすかさず杖から発射される。しかし空中にいながら手に取った尺八で、その対空で放たれた石弾を砕いた。
再び地へ戻り、作業着の女の吹く尺八は低い唸りから高い独特の音色を立てながら、前へ前へと疾走する。
「遠距離タイプは近づけば! どぅするぅ!」
近づけば────オレンジ髪の魔法使い、木浪は練り上げた3枚のストーンウォールで自身がいる場を囲った。
急遽築かれた石の籠城に目掛けて、作業着の女は跳躍し──着地した。
「ソレ大正解ッ──【
一瞬早く、既に石の三角城へと投げ込まれていた尺八武器は、狭い城内の足元でその音色を遅れ咲かせる。弾けるポップで和風な魔力と音色で、崩れ去る石の三角城と膝から崩れ落ちるオレンジ髪のお姫様。
「日ノ本一ぃ! よっ!」
くるくると空を舞った尺八は、水色の背を追いかけるように彼女の手元へと戻った。
「ここで恒例の検証結果。尺八はこのように打・音・魔・投混合のダンジョン武器向きィィ! 握り心地は案外良くその辺の棍棒より使いやすい、よっと! ただ、縦じゃなく横で吹ければもうまんてんっ、最高にクール言う事なし! はいでは次、奥にいるあのみどりの変なの、このままいってみよーっ!」
「なっ、なんだこれ……!」
突如現れた謎の作業着の女は尺八一本で、モンスターを倒し魅了状態の女子生徒たちを無力化した。
側からそれを見ていたピネスは、乾いた口をあんぐりと開けたまま今やっと瞬きをした。
次々と挑戦者を無力化し尺八一本で制圧していく水色の武。突如乱入したその女は、また見つけた次のターゲットへと駆け出した。
1番後ろで控えていたお偉いみどりきのこのモンスターは、真っ直ぐ突っ込んできた輩に対して、密かに練り上げつづけていた魔力を無茶苦茶に解き放った。
不思議にも数多のきのこが盛り盛りと育ち地から湧き上がっていく。やがて大きなきのこの森が形成され、その場に迷い込んだ水色作業着を呑み込んだ。
そして柄を齧り、眼前に広がる茸の森へと投げ込んだ【起爆茸】は、爆発。
多大なる誘爆を引き起こし、様々な効果を持つ茸が燃えて広がっていく。色鮮やかに爆音を奏でる、きのこ大爆発の大魔法が発動された。
そんな最中、蜥蜴足の足元に投げはれた一本の尺八は最後の抵抗か、届いていない。
目の前に燃え広がる壮観な光景に勝ち誇ったキノコグリーンは、勝利の茸を一株、今優雅にいただこうとあんぐりその口を開け────後ろからエルボー。
おたのしみの食事の最中、突如背を痛打されたキノコグリーン。さらに打ち付け打ち鳴らす、尺八鈍器の痛打が止まらない。
いったいどういった脱出マジックか。迷い込んだ燃える茸森から一瞬の内に敵へと距離を詰め、インファイトに持ち込んだ作業着の女はここぞと連打を叩き込む。
奇妙な武器で殴られながらもキノコグリーンは自由の利いた尻尾を振り回し抵抗する、だが当たらない。逆に尻尾を掴まれ、すってんころりん、紐のように利用され多彩な投げ技へと移行される始末。
「よっ!」
そのまま猛攻の勢いを落とさずダウンした緑珍獣へと、叩きつけた尺八鈍器。完全にきのこっ腹へと叩きつけたが、何か打撃音がおかしい。武器にしていた尺八かはいつの間にか付着していた菌糸が育ち、そこにきのこが生え、音色を詰まらせ出さなかったのだ。
「ほっ? 尺八しゃっくりそんなきのこ!?」
楽器としても武器としても使われた尺八がキノコになるのは前代未聞。そんな作業着の女が驚いたところに下から強襲。キノコグリーンは尻尾を操り、鋭い突きを女の顎下に繰り出した。
【剣茸】急に尻尾の茸から育ち伸びた危ない刃のギミックを、寸前のところで反応。しかし、相手の武器を茸に変え、自身の茸を武器にしたキノコグリーンは勢いを取り戻し反撃の猛追を仕掛けた。
ビュンビュンと風を切り振り回す危ない尻尾のソードと、地に自生していたカラフル茸をもぎ取り食し放った毒のブレス。
作業着の女が隙をつき攻め込んだものの逆に反撃を貰いつづけていたところに、──突然。空から銀色の何かが降り注ぎ、やがて地に突き刺さった。
それを確認すると後ろへと退がった彼女は、バク転をつづけながら、両脚で棒状のものを器用に挟み込みその銀色の武器をスムーズに拾い上げた。
そしてさっそく迷う事なく銀色の刺股を前方に回転させ、凄まじい旋風音が鳴り、迫る毒霧を寄せ付けない。
「わたしの銀狼こんな姿にされちゃってぇー! 【
返却された愛武器の銀狼はその顎を大きく開き、真っ直ぐに突っ込んだ。
毒霧を構わず駆け抜けたあまりのスピードに、対応の遅れたキノコグリーンはその茸首ごと、強靭な銀色の顎に挟まれ運ばれ────壁際までもろとも刺さった。
そして相手を壁際に拘束し連打する怒涛の蹴りが炸裂する。
【深緑弓嵐】のアレンジバージョン【疾風弓嵐】は決まっていく。刺股の拘束力と脚技を合わせた、相手を壁際へと運ぶ派手な技。もはや壁際に設置された緑茸は、彼女のそれほどお気に入りでないサンドバッグ状態である。
なんとかこの拘束状態から抜け出そうとキノコグリーンはまたよく分からない尻尾の茸を生成し使おうとした。しかしそうはさせない。壁際の危険エリア、魔力を擦り上げたスーパースニーカーで蹴り放つ鋭い一閃が、緑の蜥蜴の尾先をちょん切った。
「まだ私の攻めなんだけ──なるほど、ねっ!」
ちょん切られた尻尾の先端に付いていたのは【ワープ茸】。その効果を発動し、拘束状態にあったキノコグリーン本体は、ちょん切られ飛んでいった尻先の茸のある場へと、脱出のマジックを披露することに成功した。
切られた痛い尻尾をふーふーと息を吹きかけ冷ます。キノコグリーンは辛くも危険な壁際のエリアから逃げおおせた。
だが──
「あたしは、戦闘術デザインアドバイザー」
銀の刺股は一度捉えた獲物を逃さない。緑に光る細いエネルギーの糸が、さっきまで挟んでいた茸の首と連なっていた。そして糸を手繰り寄せながらポニーテールは踊る、作業着の女はまたインファイトを持ちかけた。
赤い瞳がギロリと獲物を笑い睨む。逃げようとしたキノコの珍獣を逃がしはしない。
「じゃ、そろそろ撮れ高のためっ、今日はこいつでシメのほうやりますかっっ【
斜め射る弓脚、更に2度射る弓両足、つづけて射る射る三連弓。流れるような6連撃の脚技で天へと運ばれたキノコグリーンは、くいっと……繋がる解けないエネルギー糸にまたその身を操られるように引き寄せられた。
「【
そしてここから巧みに繰り出す、銀色刺股による空中棒術の連打が止まらない。全てが当然のように繋がり、相手には何があったのか分からない。脚技・棒術の鮮やかな連撃が考える隙を与えない。
刺股は魔力の糸を切らさぬまま、銀の旋風を頭上に起こし、糸に絡めて捕らえたモンスターを目眩のするほどの回転へと巻き込んだ。
「よしよしよーし、いただきぃ、【
そして天から地へと叩きつける、流れるようなコンボのシメは大胆な刺股を用いた投げ技で。
【楽隕】、隕石の落っこちたような激しい衝撃がダンジョン78階の中部屋を伝った。
「ご馳走様はいらないよっと──おっ?」
作業着の女は今爽快に投げ捨てた上空から、異変に気付いた。どこか金属のような衝撃音がした。作業着の女はもう一度目視確認する──落っこちたのは隕石でも緑の茸でもなく──なんとメタル化した茸であった。
「ありゃそれはダンジョン? ないない、よよよぉ? やっちまってんなー? これあたしが悪いの? 戦闘のプロ、詰めが甘いっての?」
地に打ち付けられる直前にモンスターが再生した尻尾にランダム生成した茸は【メタル茸】。
モンスターのキノコグリーンは、実は尻尾を切られて生えた最初の茸は必ずレアなメタル茸になる隠れ特性をもつ。結果、メタル茸を危機寸前で使用したモンスターはギリギリのところで、受けた落下の衝撃を大幅に緩和することに成功したのだ。
運もこのモンスターの方に味方した。この日一番ツいているメタルモンスターは、見上げた浮かぶ水色作業着の女へとご丁寧に手を振り、さようなら。
なんと一目散に逃げ出した。
そして全力疾走で辿り着いたマッシュルームルーム。モンスターを召喚していたそのきのこ型の家へと、『コンコンコン』三度、扉をコミカルかつ優雅にノックした。
『コン……コン……』
かえってきた返事に上機嫌に頷いたメタルモンスターは、ドアノブ代わりのちいさなキノコ笠を手に取り、家の扉を開いた。
しかし、いつもより香ばしくきのこの香るドアの先、メタルモンスターが見た光景は──
部屋中壁まで散らかる……モンスターたちのへばった姿と、バチバチと怒る翠の剣を構え、息を切らし不敵に笑う黒髪のニンゲン。
「ハァハァ……お邪魔しました……たっぷり充電できたゼェゼェ……てことでお返しするぞ【ピネス……ッサンダー】!!!──【サクイチゲキィィ】!!!」
オシャレなドアが吹き飛んだ。
鉄色の茸を貫いた突進の雷剣は、チャージした全ての魔力を込め、貫く剣と貫いた鉄茸に繋がる全ての魔力を利用した。
やがて刺突から天へ切り払った刃は、鉄茸の超硬度をものともせず、縦真っ二つに切り裂いた緑の雷刃。
カウンターで使おうとした尻尾の石茸も意味を成さずに、膨張しつづけ受け取った雷の威力を逃がせず砕け散った。
スベテを裂くような雷は玄関先で派手に披露された。浦木幸は魔力を十分に蓄え増した二度目の正直で、珍モンスター【きのこぐりーん】をやっつけた。
「思い出したそういえば2人──私のささやき吹いた挑発を感じ取れた、そんな生意気なヤツがいたんだわ。……ふーん、これが噂のクリティカルボーイ。あたしのお株を鉄塊相手に咲かせるなんて、夢幻流……ムカつくじゃん? ははっ」
みどりのダンジョン78階、カオスと不測の渦巻いた、ものものしい有様の中部屋の戦いの結末は……。
助っ人でお越しになった寝起きの用務員、彼女の活躍をも掻っ攫う、噂の男。浦木幸がクリティカルで放った魂の雷撃で、その長く苦しい戦いの終わりをようやく迎えた。