異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
その後、魔力と体力、腹ん中のカロリーを使い過ぎたピネスは最後には充電が切れたようにふらふらと気絶した。
不思議なきのこの魅了にかかっていた女子生徒たちは、全員、校長のあやつる影の軍団に安全地帯へとひそかに回収され無事を得た。
敵モンスターの殲滅された拠点マッシュルームルーム、その焼け焦げた部屋の中にあった【緑の本】を校長は回収し、冒険者たちは《みどりのダンジョン》から《不黒高校》へと帰還を果たした。
「あらら、手柄よこどりして眠っちゃって? ふぅん、そんなにバチバチがシナシナになるまで全力出せちゃうんだー。──あ、まだあたしは稼働できます、よっ」
「いや、ありがたいがその必要はなくなった。区切りの悪い階層でおもわず出くわした強固な敵軍だったが……私の目で読み調べたところどうやら【コレ】で戻れるようだ。──なるほど。我々は今日、思いがけない鍵を一つ手に入れたようだな。ふっふ」
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不黒高等学校5階SP校長室にて……
満足気に椅子にかける校長の元へと一番最初に呼ばれたのは──
礼儀正しく帽子をとった茶髪、水色作業着。此度みどりのダンジョン78階で、ブク高パーティーの救援に一人駆けつけた彼女であった。
「ふっふ、ご苦労だ池原。ちゃんと保険の新システムを試すために待機していてくれたようだな? こんな事もあろうかと、キミをここに雇っていてよかったというものだ」
「あいっ。(くそこわいシステムをお持ちで)ボーナス期待してます」
背筋よく立つ彼女は右手で敬礼などをする。この学校の校長という存在を、えらく彼女なりにリスペクトしているようだ。
「ふっふっふ、それは困ったな? わかった善処しておこう。──ところで、どうだったかな?」
ずいと、体を前のめりにし机上に両肘を置く。そして手を組み合わせるあのお気に入りの三角のポーズを披露。校長は合わせた自分の手を揉みながら意味深に笑い、用務員の池原へとそんな主語のぬけた質問をした。
「はい、まぁまぁモンスターは強かったですよ。あのみどりのキノコ星人とか、見た目に反して知恵が回るから結構やりにくい部類かと。仮にあれが通常種並みに出てきたら対策が急務ってやつですわな、さすがに三体同時だとちょっときついかなぁ?」
「あーあーそれも大事だが、今はそういう細かい話のことじゃない。確かに恐ろしく厄介な強敵ではあったがな、しかしこちら側のレベルが足りていない訳でもなかった。ふっふ、それより──キミの目から見て気になる生徒は誰かいたかな?」
「あー、はいはいそっちか。たしかキックやってる黒服の小鬼ちゃんとか才能ありますね、とくに足運びとか目のつけどころが最高、オシャレ、センスある、さすが戦闘のプロの技、うん。それと、んー、他にも地属性の弾持ちの子かな。やっぱダンジョン、魔法使い相手にもばちばち練習したいからそう言う意味ではけっこう目ェ付けてますよっ」
「そうかそうか、うちの女子生徒は皆なにかしら優秀だからな。私もその2人には将来の大きな戦力として期待しているところだ──で?」
「──で? とくに以上です、よっ」
校長は机上に置いていた肘をガタッと崩した。ニヤニヤと期待していたその顔もコミカルに散る。姿勢を机に崩した校長は一旦、わざとらしい咳払いをし仕切り直した。
「待て待て、ごほんえほんっ! ────浦木幸、最後にあの逃げるキノコの珍獣を討った彼の名だ。キミの目にはどう映ったかな? ふっふ、きかせたまえ」
またニヤニヤと、同じように両肘を置き直しあのポーズを形づくる。それは校長にとってよほど外せない、池原に言及してほしかった本題のようだ。校長のするあからさまな表情がそう物語っていた。
「あー、はいはいはいっ……校長様の言っていたクリティカルシンデレラボーイくん」
「そうだ! 同じよーーなっ、キミにも何かビビッとくるものがあったんじゃないか? んー?? どうだ、どうなんだ!」
「──いや、ぜんぜん」
「そうかそうか……なに?」
「ほわぁー……あたしはあーいうのなしかな。なんか素人くさいの思い出したらネムたくなるわー」
まさかの態度に、欠伸までしだした池原の態度に。
自分のことのように嬉しそうに問うていた校長のその形相は眉間にシワを寄せ、変貌した。
「なんだと!? おいっ! そんなはずはない! ピネスくんは私の自由に育てあげた最高天然傑作だぞ! そしてキミにこれから鍛えてもらうことで! よりっ」
悠然と肘をついている校長の姿はもうない。まるで癇癪を起こした子供のように眼前の机を両手で叩きつけながら、校長は必死で彼の素晴らしさを誇り、目の前の分からず屋に伝えるも──
「あー、ダメ。てんでダメ。お話になりません。あー、アレはダメだな。ダメだ、よっ! そんな慈善活動じゃないんだから。顔もぬぼーって感じであたしのタイプじゃないね。三枚目とかそういうのいいから素直にイケメンよこして、ノレない。イヤ、無理。絶望。河童。きのこ。他人の孫自慢。一銭にもなりはしない。あー、だる、寝よ」
「ナッなっ、なななななななななっ……なんだとおおおおおお!!!」
思いついたありとあらゆる罵詈雑言を羅列していく。そして、茶髪をかきながら再度の欠伸で締められた──。
用務員池原は、椅子から飛ぶように立ち上がる校長の絶叫をバックに、平然とした様子で水色の帽子を被る。結局池原は言いたい放題を告げ、長話でつかれたその部屋からふらふらと退室していった。
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「くしゅんっ!」
「どした風邪薬あんでぇ? 飴ちゃんいる? はちみつドリンクはどや? お湯沸いてんでぇー?(試飲は無料やで)」
「いやいい、(クシャミしただけでそんなにススメられるか?)あぁー、それよりこれ────なおる?」
やってきた地下のくろまねき商店。ピネスが持ち込んだのは緋色のショートソード、いつも使っていた愛武器の無惨に刃の折れた姿であった。
なおしてほしいのは、ひいてもいない風邪などではなく、そのぽっきりと折れてしまった一振りの剣。
丁重に包んでいた風呂敷から現れたそれを皮のグローブをつけて拝借した店主のちひろは、自分がその剣のかわりに折られたかのように痛そうなリアクションと顔をしている。
「あちゃこりゃぁ!? ポッキリ逝っとる! なんや今日はこいつさんの修理依頼かー、うちの誇る開発部も天才であって神様やないからな……ここまでカッチン折れてると……」
「まじか……やっぱ無理なかんじのぉー……」
「ざっと──20万DPや」
「ってとんのか! って直るのか!!」
ダメそうな悲しげな雰囲気から一転、手元のスマホの計算機で弾き出した数字を、ちんまい店主は眼上のピネスへと掲げ見せつけた。
「はぁ労力に見合うDPとんのは当たり前やろ? じぶん直るだけ感謝感動やで?」
「……そ、そうだな? じゃッ……お願いします」
「おーえらい今日は物分かりええな。せや、これはちゃんと預かって開発部に修理するよう投げとくから、ウチの開発した試作の武器とかついでに見てくか? 暇やろ、安くしとくで! こっちやついてき!」
「あぁー、っと、いや今日は……いい! あぁー、ていうのもさ。壊れたからってすぐ乗り換えたらアレ、無くなっちゃうから。えーっと……そ、〝ゲン担ぎ〟ってヤツーーー! 直ったら寝ててもすぐ教えてくれーーじゃなーっクロマネキ!!」
「おーいっっ、なんやそない急いで? ────んー験担ぎ……えらい物大事にする子やってんな? へぇー、人は見かけによらんなー。ひょっとして商人向きやな──ってなんでやねん、あんなぬぼーっとしたのん。ちひろちゃんがツッコまんと死んだようなもんやで?」
くろまねき商店店主ちひろの誘いを断り、ピネスは緋色のショートソードの修理依頼だけを取り付けた。そして、今ひらり耳元に現れた赤い学習帳とともに店内から走り消えていった。
校舎本館5階のSP校長室にて、呼び出されたピネスはその特別な部屋に入った瞬間に、何かイヤな空気と魔力が漂っているのを感じた。
いつもの渋い執務机の席に座りながら、校長はいつもの両肘をついた三角のポーズをしている。しかし視線を感じない。校長はそのポーズのまま俯いて目を閉じたままだ。
ピネスは黙りゆっくりと机の前まで歩いた。すると校長はそのときを待っていたように開眼し、その面を上げた。
「ピネスくん……これを持ってこれから1階の用務員室に向かいたまえ。中身は決して見ないように、それをヤツに渡してこい」
「よ、ようむいんしつ?」
静かに面を上げた校長はいつものように笑ったり冗談めかしたりしない。
ピネスは、そんな神妙な顔の校長から直接手渡された──軽いが重みのある小さな荷物を受け取った。
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指示通りにやってきた1階の用務員室。お邪魔した中の明かりは薄暗い。吊られていた下着の暖簾をくぐっていく。女子らしき生活感がとっ散らかる空間をイチマイ、イチマイ、どけながら、おそるおそるピネスは奥へと抜けていく。
布団が床に敷かれたままだ。ここには誰かがいる。
誰かが寝ている。寝息は聞こえない。
「あのー」
「はぁ? はふ」
「これなんですけど」
ピネスはヤツへと、校長に頼まれていた〝それ〟を手渡した。
寝ながら手を伸ばし彼女はそれを受け取る。そして薄暗い明かりのなか、受け取った封筒の中身をぶつぶつと読み出した。
「とんだあいのぼむえんど……」
ぶつぶつと読みあげる声を途中で詰まらせたように止め、彼女はそう意味のわからないことを呟いた。やがて、取り出した封筒の中身を丁重に元の折り目のとおりに折り直し、元へと仕舞う。
あたためられていた布団から彼女の頭の横に、忍ばせていた銀色の枝が今ゆっくりと突き出し、妖しく煌めいた。
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用務員室を出て肩に担いだ銀色の枝の行く末を追った。そして、最近どこかで見たことのある真っ白いトレーニングルームへとピネスは連れて行かれた。
部屋を掃除していたゴーレムたちへと会釈をし、ピネスは体を念入りにほぐす水色作業着の姿を見つめながら、その時をただ待った。
「準備運動かんりょー。さぁて、どうする帰る?」
「え? 帰るって帰れるの?」
「当たり前じゃん? だって強制じゃないんだからこれは、言うことなんて聞かなくていいんだよ」
部屋に来てから行われた念入りな準備運動と、それだけでどこか溢れて伝わってきた闘志そして魔力。ピネスは今まで眺めていた彼女の行動と雰囲気、それとチグハグなことを言われていると感じた。
「まじ……てっきりなにか……ヤッちゃうのかと? そんな雰囲気を感じたっつぅか……ただならぬ殺気というか」
「君がぁー、あたしと? 殺気ぃ? 子供にむけて? ははっ笑わせるじゃん。──ってことは自信あるんだぁ」
「いや自信とかそういうわけじゃ……ただなんか、こういう時、避けられないのかなぁーって、ちょっとこっちが思っちゃっただけで」
ピネスは首をかしげながら誤魔化した。この先己の意思だけでは避けられないイベントが起こると彼のセンスは感じ取っていたが、読み違えていたようだ。しかし何事もなく終わるのであれば、浦木幸はそれでもいいのだ。
ただ……。
用務員の池原は、彼のグーに閉じられていたお手手をちらりと見た。
「いいよ、やろ! かかってきな」
「あぁー、え? ──まじ……すかっ」
やはり結局、避けられない。
池原とピネスの戦いの時は、突然に訪れた。
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刺股がざくりと床へ、突き刺さる。
突き刺さるU字になった銀の顎の間に、すっぽりと首が収まりある。背からダウンしたピネスは、完全に彼女の扱う刺股一本で制圧されてしまった。
「あれぇ? あれれー? なーんかあたしと戦うとか余裕とか言ってたっけ」
「いや……人と戦うなんてやったこと!? 俺、さっきのダンジョンぐらいで……」
「ははーん、言い訳しちゃうんだ」
「いや、ほんとで」
「だからさ……本気で来いっつってんの」
ピネスを見下ろす池原の赤い眼は、急に凄んだ。
「ありゃ、もしかして本気の出し方しらない?」
と思えばまた砕けた余裕のある感じへと、彼女はもどった。
さっき見せた二面の池原、果たしてどちらが本心かをピネスは知る由もない。それでも誤魔化すような苦笑いさえ今は浮かべるのは危険に感じる。ピネスはその窮屈な銀の顎の内で、天から見下す彼女と目を合わせながらゆっくりと答えた。
「えーっと……それってぇ、ダンジョンのモンスターと戦うってかんじすか?」
「ははっはははっそうねそうね……それでいい! あたし今日ヤったモンスターより弱く見える?」
「いや、ぜんぜん」
そうピネスが首を左右に振ると、地に突き立てていた銀色の拘束は解かれた。そしてピネスが立ち上がるやいなや、離れた向こう側に突き刺さっていた剣を今引き抜いた池原の手から投げ返された。
「なら来なよ! いつも君がやってるように殺す気でね! あぁー……そーそーそっか? こっちも殺す気でいくわ。これならきっと簡単か」
「えぇ!? まっ、まじか!?」
ピネスが返却された翠の剣を手に収めたときには、用務員の彼女から物騒なことを平然と告げられていた。しかし殺す気でやることとモンスターと戦うことはある意味ピネスの中でもイコール。本気を出すこともあながちイコールに近い位置であろうと、結論づけなければならないのかもしれない。
「──大マジ。だいたいさぁ、あたしviewtubeなんて新規開設して始めたこのところ思うんだよねぇ。この道の先輩なんだから教えて当然、知らないんだから教えられて当然、この子は伸びるからぜひとも鍛えてくれたまえーーだとか、そういう類のこと言うヤツよくいるじゃん? いんやいたよいた、最近でもマジでいたよそういう
「ぅー……ん?」
それはそれは長い長い語りであった。刺股を後頭部をもたれる手すり棒にしながら、作業着の女は一人でずっとと語っていた。そんなすらすらと声に出しするすると耳を通り抜けた彼女の語りに、緊張感を削がれてしまったピネスは、突っ立ちながらまだ続くその年上の念仏を聞くしかなく──。
「でもさぁそういう苦労、例えば上まで身ひとつ全国各地自力で探してようやく辿り着くまでが結局楽しいんじゃん? わかるぅ……? そういう自分の中のドアをひとつひとつ確認して、どっちかなぁーって開いていく、そんな自分だけの楽しさ。あぁーこっちのドアはあたしより上手いヤツがいる……やめとこっ、やったことないけどできそうなこっちにしとこっ──とか。戦闘術デザインアドバイザーなんて名乗ってるけど、ほんとはそうなのよ。ま、今はその辺の動画みりゃさっき言ったそんな見つけにくいドアも、見た気やった気になって引き返せば効率いいのかもしれないねぇ」
「わかる……かも?」
まだ続きのあった語りを聞き、ピネスは考えた末に眉間に皺をよせた表情で、もっともらしい相槌を吐いた。
「わかるかもかぁー……わかっちゃダメに決まってんじゃん。あ、そーそーだからこう無駄にしんみり自分語りの遠回りをして長くなったけど。あたしはクリティカルシンデレラボーイ、──君にこれだけ言いたいの」
「クリティカル……なっなんて?」
「ムカつくんだよねぇ……自分より若くてわかった気でいる馬鹿なヤツううううううう!!!」
「え、そんな理不尽!? ──きた!! 来るのかよっ!! 今っ!!!」
不意に襲い噛みついた銀の刺股と、前に向かい吹いた殺気に自動反応した翠のショートソードが、かち合った。
「へぇーわかるんだぁ!」
「!! (結局なに言ってたかさっぱりわかんねぇ……あ、逆にそれを見抜かれて!?)」
理不尽な銀色の仕掛けに対してしっかりと正解の太刀筋で反応。一太刀交えただけで分かる、戦いの肌触りが違うことに。
本気にちかい池原とピネスの第2ラウンドの戦いは始まった。
(見たことねぇありえねぇことどんどん積極的にやってくる、なんだこの人。そうだあの黒騎士……とやった時みたいな、いや、何故だかその時よりこの人は待ってくれない、厳しく殺しにきてる気がする──本気だ、本気なのか? それにこれって……さっきから俺の魔力とか乱されてね? 運すら? クリティカルが全然でねぇ!)
「うおぁ!?」
「足元ぼーっとしてんのー? 君ってきっと考えても馬鹿なんだからやめた方がいいよー」
「クソっ、!!」
銀の刺股と繋がる不思議な魔力の糸でつくった輪に、足を取られて転けたピネスは、翠の刃をあえて断ち切らずその糸へ当て電撃を伝わせた。縄に捕らえた獲物からの機転の利いた激しい反撃を──
「なるほど! 考えれるじゃん、──効かないけど!」
糸ごしに高速で伝った青雷のマジックをもらい痺れた全身は、銀の棒をくるくる頭上で回しながら元通り。伝い帯電した魔力を外へ逃したのか、ニヤリと笑うソイツがいる。
「どなってんだこの人ぉ!!」
ボロボロになった魔力の糸を剣で切り、ピネスは意表をついた攻撃と同時に捕らえられていた状況を脱出。
剣を止めるな、かかって来いと言わんばかりに回りつづける銀の旋風。効いていないアピールをし空いた片手で挑発した作業着の女に、彼は冷や汗を拭いならばと挑んだ。
「どしたどしたぁー! 殺気読んでばかりなのが特技なのぉー! 与えられて逃げるだけそれって特技っていえるかなぁ? お得意のクリティカルってのわたしに見せてみなよ! ま、無理だけどねーー!」
銀色の刺股の連撃、激しい攻めを見せながら今度は口で挑発をする。
ピネスは鋭く変幻自在に唸る彼女の銀色の刺股捌きをいなすのが精一杯。次々と湧く殺気へとぶつける翠の刃の感触は、やはりクリティカルどころではない。
逆に、〝クリティカル〟。スイングする重い銀色の一撃が、ピネスを後ろへとおおきく、蓄えた魔力を爆発させるように弾き飛ばした。
(やっぱりこの人クリティカル打ってきてる。じゃぁやっぱり直後のここしかないだろぉ!)
疑いの余地はないピネスはもう確信する。この人も自分と同じことをし、自分の練った魔力を奪うように邪魔をしている。そう──。
「なんとなくサァっ! 【ピネス……サンダー】!!!」
「ありゃまた弾っ──!?」
遠くから足を踏ん張り放った雷撃のマジック。遠距離からの攻撃に対し旋回する銀色のプロペラシールドがソレを阻む。
だが、スベテの魔力を圧縮して使ったかのような今まで見せたものより数段鋭い魔法威力は、刺股を回す盾だけで受け切れるものではない。
痺れはガードを貫き池原の全身を伝った。垂れ流し作った電撃の綱で相手を縛りつけ繋ぐ。若い若い強引さがその用務員の女を離さまいと迸る雷刃で襲い続ける。
そして────
「わかったかもー!!!」
「わかったなんて言わせないっ!!!」
強情にも教えてくれないならば、強引に繋がり相手のことを理解すればいい。
布石となる雷を切先から打ち尽くし、閃いたピネスは仕掛けた。雷音唸らせ突進する翠の刃を、魔力を込めた銀色の刺股は待っていたとばかりに真正面から受け止めた。
鍔迫り合わせて、ぶつかり合ったチカラ勝負。
しかし今、致命の期待感が湧き上がるのはどこからか。その痺れる冷たい期待感が、いつの日からか錆びついた池原のカラダの中を伝っている。
それは警鐘であり、脅威。背筋が凍るどころではない、凍ったまま吹っ飛んでいきそうな〝ヤバいヤツ〟。特殊な修行を重ねた戦闘のプロ、そう自負する彼女の器には、自分ではない誰かのモノが勝手に迸り満たされていくのが分かる。
「──やばっ!? これかァァ、アレをヤったの!?」
剣を振り切り放たれた魔滾り光る青緑の三日月は、噛みついていた銀色の顎を切り裂いた。
相手と己を強引に繋げて絞り出す本気以上の本気、そしてただならぬその魔力を受け止める本気。どちらもなければその技は成されない。
「あっ、やべ……あぁー……」
それがクリティカル陽術。池原の迷い目指した武の真髄。
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「はぁははぁ……なんだこの陽気のかたまり、若っかーーーー……」
白いトレーニングルームの壁には、痛々しく刻まれた落雷が通ったような跡がある。
床には転がる真っ二つに折れた銀色の棒切れと、大の字になり息を吐き天を見上げる茶髪の水色作業着さん。ポニーテールに結っていた髪がまだ熱い床に広がり解けた。胴体はちゃんと繋がっている。
「……大丈夫すか?」
「はは、お手を拝借」
心配したピネスはまだ生きていた彼女の姿に安堵し、伸ばし求めてきた彼女の手に助けの手を貸した。
「よかっ…うがっ!? いててててて!??」
「はいあたしの勝ちー!」
「痛いいいいいいい────────!!!」
心優しき少年の貸したその手は、隙あり──。何故か関節技をかけられ、天地は逆転。
ピネスを押さえ付けて乗り掛かり、堂々たるマウントポジションへ。笑い飛ばし勝ち誇る負けず嫌いの用務員の女がそこにいた。
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緑の糸で両手はあやとり遊びをし、考え耽る──。さっきやった咄嗟の防御行動その感覚と手順をもう一度確認し直し、池原はひとり頷いた。
「いいよ、毎週ここで〝一、二回〟は相手してあげる。それ以外はムリ。暇じゃないし金取るから、ってことでね。あと校長様怒ってた? なんとかそっちから上手いこと言っといて、じゃね!」
「え、あ、はい??」
片手でごめんのジェスチャー、なんだかチャーミングな仕草で彼女はウインクまでしている。
浦木幸は毎週、用務員の
勝利か敗北かわからない。だが、手に汗にぎる充実感を手にした。ピネスは一人残されたトレーニングルームで、もう一度──熱宿る己の剣を構えてみた。