※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

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27 viewtuberに憧れて

 バッチリと動画に収まっていた。帽子のツバの裏に仕込んでいたアイテム、くろまねき商店が開発した高性能小型カメラは、戦いの模様を彼女視点で映し出していた。その映像を見ながら昨日のダンジョンのことを振り返る。

 

 水色の作業着は小部屋で集中するには暑い。半脱ぎにし、黒のノースリーブと肩の肌が露わになる。

 

 茶髪の彼女は有害な光をカットするおしゃれなメガネをかけた。お菓子を片手にむさぼりながら、片手はマウスへと、パソコンモニターに流す映像を巻き戻し繰り返す。

 

「しかし、この子はなんなんだろうねー」

 

「夢幻流的に、魔力をさらにわけると陰気と陽気だ」

 

「おもうにこの子はその陽気がずば抜けてんのよ」

 

「だからクリティカル、つまり内側の気を利用した破壊のイチゲキを陽に偏りがあるぶん、あまり整理整頓しなくても簡単に必要条件を満たし出せちゃうわけだ。そんな陽気に対抗できる存在がなかなかいねぇーんだからね。その特別な陽気に釣られて不思議な現象がポンポン起こっちまうのよ、きっとね。ま、あたしは慣れてるから相手するときは簡単にはクリティカル出させないし喰らわないんだけど、今度ヤるときは絶対!何もさせずに完封する自信もあるし、にゃはは。あのー、そーだそーだメタル化したキノコ星人とかよっぽど特殊でよっぽど強くない限りは、クリティカルは敵の硬さを理解すれば出ちゃうだろうね。相手の状態を把握する──素人ゆえにまだそこが甘いね、あたしの勝ってる部分はそこかな?」

 

「でも普通の人間、チカラのバランスを取ろうとするから陽気だけ異様に高いとかそんなことってまずありえねーんだよねー。例えばこのもぐもぐ……カントリーパームは16個入りで、バニラとココアが同数ずつあんのが伝統なの。袋も開けてない状態のそん中でもし、バニラだけが15個入ってたらはにゅはにゅ……ずずーーっ……ほっ……ブチ切れるよね?(あたしはどっち派でもないけど)」

 

「ま、ここダンジョンだから、むしろありえねーのが普通であって、普通のヤツが異常なんだよね。校長にしろ生徒にしろ、みんなよさげな一芸もってるわ。不思議とそういう子が集まってる」

 

「なるほどねー……陽気が多いから異能【幸運】、──本当にそれだけかな? なーんかずるくさい気がすんのよねぇー、あたしの感覚的には運の神様にでも祈ってるかんじだわ」

 

「ま、動きとか強さ的には観たところ、持ってるものはそれだけじゃないんだけど。アレはダンジョンって新作ゲームの中で育った、そんなダンジョンっこってわけだ」

 

「チカラを持っていてもできない子はできない。できるって思い込める方が上手くいく場合もありってさ。これはあたしにも経験はあることだ、できないって思ってることって実は練習が圧倒的に足りてないだけなんだよ。で、この子は少なくともダンジョンで自分なりにモンスターと戦って色々どう斬るかどう倒すかどうクリティカルを出すか、なんてことを自分の体と向き合い遊びながら試行錯誤してきたわけだー。校長があたしに預ける前に余計な手を加えていなけりゃそうだよね。──ん、それでクリティカルって出せるものなの? 敵と自分の陰気と陽気のながれの見極めと調整ができるもんなの? ただの男子生徒の素人に? 山ん中こもって岩運び100回岩砕き100回、滝修行朝晩、小やりの上でコサックダンス踊って熊と仙人とのタイマン勝負やらなくてもって?」

 

「……もし、あたしが同じラッキーな異能をもっていて、同じ肉体をもっていて、同じように馬鹿でまっすぐな性格で、そしてなんだかんだ腐らず師範や先生の言うことをきけるなら────できるんじゃない? ははは」

 

「はぁ……時代は変わったのさ池原叉鬼。これからはモダンなやり方でいきましょーよ。あー今日のダンジョン、あたしもまだまだ進化の余地、なんだかありそうな気がしてきたわ。いい練習環境にいい練習相手そしていい上司……いい上司? ──ははは、強くなれるって最高じゃん?」

 

 午後11時22分、女は尽きぬ独り言を唱え続ける。

 

 池原叉鬼、27歳。彼女は不黒高校の用務員兼、戦闘術デザインアドバイザー。

 

 時に映像を振り返り武を研究し、時にパソコンを操りタメになる資料をつくり、時に一日の内に現れた新たな成長の兆しにささやかな喜びを見出す。

 

 カタカタとキーボードを小気味よく打ち鳴らす音が聞こえる。

 

 浦木幸とクリティカル、陰気と陽気と魔力に関する資料その①は、狭い用務員室で密かに体系立ててまとめあげられた。

 

 

 

 

 

 

 

 ある日のブク高の昼間、美しき女神石像のシンボルがたたずみ見守る正門前、その憩いの広場で。

 

 女子生徒たちが熱心に華を咲かせるそのトークの内容といえば──もっぱらviewtubeの再生回数の話。今や大手動画サイトviewtubeの再生回数の多寡は、投稿主が素人であっても、世間の皆から一目置かれる立派な社会ステータスのひとつなのだ。

 

 個人情報のつまったスマホを各々取り出しながらわいわいと騒ぎ、各自開設した己のチャンネルで過去1番view数の稼げた自慢の動画を見せ合っていた。

 

 

⚫︎サンチュちゃんねる⚫︎

★学校の廊下でみんなでハイキック選手権やってみた!!!

20万view

 

 

「ハイキックやっただけで!? おっ、よく足上がってんね! なんかやってた? ──えテコンドー? あー、いいね! どおりで迫るキレがあると思った、よっ!」

 

 

⚫︎お料理当番Zukinちゃんねる⚫︎

★巨大焼きおにぎり焼いてみた。

17万view

★巨大焼きおにぎり裏返してみた。

27万view

 

 

「まぁグルメ系は見ちゃうよねー。まぁグルメは、ねっ! 別腹なとこあるから、あー焼きおにぎりマジうまいよねぇー(裏返した方が高い!? お焦げか、お焦げなのかいっ!?)」

 

 

⚫︎ぱーぷるバトラーちゃんねる⚫︎

★バトラーバトラーの新ガチャお祈り配信も

3.2万view

 

 

「おーすごいねっ!? ゲーム配信あーあーはいはい……いいよねー! バトラーバトラーかー、もちろん知ってる知ってる。ふむふむ、目の付け所が今時って感じでいいね!」

 

 サンチュに緒方に木浪にタガヤ、そして用務員。このところ打ち解け仲良くなった女子生徒たちと、何かと表立ってよく絡むようになった用務員兼戦闘アドバイザーの池原は、池原自身も兼viewtuberとして活動しているという共通の事項もあり、自然な流れでviewtubeの話をし盛り上がっていた。

 

 いつもの水色作業着姿の彼女は両腕を前に組みながら、リアクション豊富に頷いている。予想外の高度なレベルでの学生たちのview数発表にも、大人の余裕からか、用務員の池原は相手を褒め称えるコメントを添えるのを忘れない。

 

「あっ、ビーナスせんぱーい!! ちょっと今みんなでviewtubeのview数バトルやってるんですけど。せんぱいって当然なんかやってそーですよねっ!!!」

 

 女子たちが集い井戸端会議をする緑の広場へと現れた、目立つ金髪の先輩に、サンチュは元気に手を振った。

 

 その普通の生徒より一際目立つ存在は、歳よりも優れた女子力、大人力、自信溢れるオーラを自然に振りまく。やがて誘う女子集団へと近づいた3-C上級生のVenus先輩は、美しくセットした前髪をかきあげながらいつもの自然体で後輩へと答えた。

 

「viewtubeそんなものやってないわ。インヅダの投稿なら、1番見られたのはこれね。あなたたち、さっきから騒がしいようだけど、再生回数なんていくらでもいいじゃない? 動画投稿なんて各々の過ごすただの日常の延長ですもの、たくさん見られたからって偉くもなんともないのよ。人は気になった見たいものを見るのだから、こっちも自分の見せたいものを見せるのでしょ。勝手におし。でも、あえて一つアドバイスをするなら──自然体が1番いいんじゃないのかしら?」

 

 

⚫︎Venuskamiso5⚫︎

★着こなして救済するわこの春のゴージャスダサファッションそのⅢ

307万view

 

 

「うわーさんびゃくまーん!! あはははこれおもしろーい!!! ビーナス先輩がこんなの着てるーあははは!!!」

「イケてる人があえてダサファッション、動画としてもギャップあってしかもぎゅっとかわるがわる惜しみなく凝縮されてて面白いじゃん。どーみても自然体じゃなくて計算してるのはアレだけど、結局やる人がやるとそこも鼻につかないかんじよね?」

「ほんとだ、すごい! 編集も音楽もプロみたい! これリピートもするとおもう!」

「なるほど、これは楽しいですね! 視聴者の考えたものも採用するのは盛り上がりますよ! それに女性だけでなく男性の方も楽しんで見ますね、これは!」

「大袈裟だわね。フフフフ、日常の延長よ」

「日常延長しすぎでしょ」

「あははは木浪先輩」

「しかしこれ、服の方はどうやって集めたのですか? これだけ沢山のものを……費用もばかになりませんが?」

「その日のデートで失恋したり、街中で指差されて笑われたり、じぶんの子どもにダサいって言われたり、そういう着なくなったいわくつきの洋服を、シリーズのファンからファンの友人にまで頼んでダンボールで送ってもらったわ。ワタシが着こなして〝いわくつき〟を救済できれば、すこしは面白いことでしょ?」

「すごーーーい!!!」

「完全にやってるじゃん、狙ってるじゃん、でもそれエコじゃん」

「そうよエコよ、エコ&エゴ。ワタシが着こなせば地球も人の心も救われるのよフフフフ」

 

 ガヤガヤといっそう騒がしくなった──。

 

 突然のview数トリプルミリオン達成者の到来で、形成された騒ぐ輪の外に…………大の字になり、天を見上げ、芝生の上でべったりと寝そべる者がいる。

 

 脱ぎ捨てられた帽子が、吹く寒風にちいさな緑の野の上を転がっていく。その魂までノックアウトされた水色作業着の女の姿を振り返り見た女子生徒たちは、おぞましい負のオーラが漂い出したことに気づいてしまった。

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 女子生徒たちはぐったりと溶けたようにダウンする用務員の彼女のことを一旦捨て置き、例の問題の〝ちゃんねる〟を手持ちのスマホで検索し調べた。

 

「鬼叉ちゃんねる……あった!!!」

 

「あー、グルメにゲームに猫にキャンプにコスメにラーメンにダイエットに手品ネタバラシに怪談に都市伝説語りに今週のワンチャンパラダイスの考察にレトロゲームの裏技に早食いチャレンジにきのこ狩りに…………要するに、わけわかんないのに色々手をつけてどれも伸び悩んでる感じの人じゃん。平均view数はー、ざっと」

 

「しーーっ!!! 何ヘンなこと言ってるんですかー木浪先輩!!!」

 

「ヘン? だって事実じゃん? 本命の武術っぽいのがそのせいか伸びなくなってるし。あ、きっと2本目、3本目から思ったように伸びてないから他に目移りしたんじゃない? もうなんかさ、そういうの逆に好んでよく見るわたしだから分かるし。これけっこーな〝北風〟ってやつぅ、あ北風ってのはね、びゅーびゅーview数伸ばすためにとにかく必死にあちこちのジャンルをフカしてアピールしてる泡沫viewtuberのこ──」

 

「てててて的確っぽい分析を!! じゃなくて先輩ッ、やけに詳しくてうるさいですよ!! 北風なんてワード私っ、はじめて知りましたよ!!」

 

「はいはーい。もうだまるしぃー」

 

 淡々とその青いジト目でスマホ画面を眺めながら、いきなり爆弾を投下していく容赦の欠片もない木浪を、サンチュ後輩は必死の大声で遮り諭した。

 

「でッ! でも! バトラーバトラーのキャラクターの戦闘モーションの監修をしているなんて、これっ、すごいですよ!! あ、そのことを小さく書かれたプロフィールだけではなく、もっと全面に押し出して動画として再現し上げれば、今よりもっと!」

 

「あー……あたしゃそういうのしないの。色んな巡り合わせの末に、頂いたありがたい仕事として区別してるタイプだから、たとえ架空であれキャラより前には出ないのよ。このちゃんねるのファンもそういうの望んでないと思うしね。今の執事の小鬼ちゃんみたいに『ん?』って気づいてもらうぐらいが面白いの、よっ」

 

 ソーシャルゲームの【バトラーバトラー】の熱心なプレイヤーであり、鬼叉ちゃんねるの実績を知ったタガヤは、興奮気味に彼女のことをフォローし実のある提案をするが、そうともいかず。

 

 だらけた感じの元気のない声でそれに答えるviewtuberの池原は、自らの持つ意外なこだわりを語り明かした。請け負った仕事のことは仕事のことで区別をしているらしい。自らのちゃんねるで、大々的にアピールするつもりはないのだと言う。ちゃんねるの古参のファンに対しての一応の配慮も兼ねていた。

 

「なるほどそのような矜持が……かっこ」

「もしかしてそのこだわりが、〝アレ〟じゃない?」

「なにがですか木浪先輩……!? アレってなんなんですか!! またヘンなことじゃないですよねッ」

「なにがもなにも、別にヘンなこと言うつもりなんかないし。ただ──結局この配信界隈ってさ、ガツると思ったことは積極的にやる方がえらいしね。そういう人が失敗しても最後には勝ってるって印象。北風でもなりふり構わず、見ても振り返ってもくれない人の帽子ぐらいは飛ばす気概がないとview数って結局みんなの目につかなくて伸びないから、追い風あるなら吹いてるうちに利用しないと────腐る」

 

 ────腐る。オレンジ髪のギャルが眼光鋭くサンチュ後輩の驚く顔面を睨んだ。毒の多い木浪先輩の発言に謎の説得力をつい感じてしまった擁護側のサンチュは、ダメージを負いすぎた鬼叉ちゃんねるのために、もはや言い返す言葉を失くしてしまい────。

 

「そーだよそーだよ、武道でもゲームでもなんでも強い行動を恥じなく擦る方が偉いに決まってる!! 徹しきれない中途半端なあたしの負け負け完敗だ、よっJK!!!」

 

 あぐらを組んでいた作業着の女が、また水色の大の字へと戻った。そして寝っ転がる緑の草を意味もなくむしりながら、だだをこねる子供のようなモーションを披露し、やがて完全に指の一本の動きまで停止した。

 

 大の字というよりは、〝犬〟。また投げ捨てられた作業帽子を拾い上げ、オレンジ髪はその用務員の表情を見下し微笑った。

 

「フッ」

 

「フッてなんで笑ってるんですか木浪先輩……ガチすぎて鬼叉ちゃんねるのガチなの引き出してますっ!?」

 

「(こういう反応がviewtubeやってて1番おもしろいし)ただのイチビュアーの意見、効いてる方が悪いんじゃん」

 

「イチビュアー!? き、きいてる!?」

 

 もはやイチビュアーの木浪の分析行動を止められるものはいない。結局この世はもっともらしい反論をするにも〝view数〟がないと言い分も苦しくなるのだ。なにがなんでも、己の平穏を保つためにも、とにかく他を凌駕するview数が必要なのだ。

 

 もはやこれ以上の底も恥も敗北もない……。そんな心境にたどりついた大の字の鬼叉ちゃんねるの元に────ふと、ひとつの妙案が後光を帯びながら降りてきた。

 

 それは甘い甘い蜜であり、ボロボロの状況から見えてきた発想の転換。

 

 うちのめされた窮地の今ほど、見上げたその先にひらひらと、救いの手が無限に広がっているように視える。

 

 自分を完膚なきまでにうちのめしたオレンジでさえ、これまでのview数を競い合った敵や、ライバルや、イチビュアーまでもが、味方に様変わりするそんなとっておきの妙案が。

 

「そーだッ、ここはひとつコラボ配信といこーよ! 君たち! それがあたしもあなたも罪悪感のないウィンウィンで唯一の〝view数♡〟かせぎ方法!!!」

 

 ひょいと横たわる身を飛び跳ね、何度も転んでいた水色の大の字は立ち上がった。オレンジ髪のギャルに握手をして、拾ってくれたその帽子を被り直し──viewtuber池原叉鬼は笑う。

 

 批判を真摯に受け止め手を取り合う。ブク高を巻き込んだ壮大なコラボ配信のはじまりである。

 

 

 

 

 

 

「タイトルは【現役女子高生たちにちょっくら武術を教えてみたー!】様子見でまずは、これにするよ」

 

「ブク高の公式ちゃんねるってあったんですね!!!」

「タイトルはソレで分かりやすいしいんじゃなーい。てかこれ私たちってヘンなとこにいるけど、アッチでどういう風に認知されてんのかな、てかなんでviewtube使えんのだっけ?」

「さぁ??? 神様が運営してたり、そういうことじゃないですか先輩? わたし細かいことは気にしてませんでした?」

「まぁわたしもだけどー、逆に気になってきたし。配信してたらそれも分かるかもね」

 

「ささ、始める、よっ!!」

 

 女子生徒たちと鬼叉ちゃんねるのコラボ配信は、不黒高等学校の公式ちゃんねるを活用し、その拝借した錆びついたちゃんねるから生配信をする案が採用された。

 viewtubeで配信するにあたって色々な疑問点が今頃になって湧いてきた生徒たちであるが、配信の指揮を取るベテラン池原の配信開始の合図を聞くやいなや、話し声をやめ集中した。

 

 各々──その可憐で若々しい制服姿には珍しい武器をその手に取った。

 

 

 

 

 三脚に立てた定点カメラを遠方に回し、帽子のツバに仕込んだ小型カメラで視点を切り替えながら臨場感のある生配信でお届けしている。

 

 池原は杖と剣と斧、それぞれの基礎的な武器の扱いを丁寧に各々に指導した。

 

 華の女子高生たち、ブク高の黒の制服ブレザーとスカートに武器を握らせ稽古をつける。そんな誰も企画したことのない物珍しげな光景は、確実にその成果を数字へと変え伸ばしていく……かに思われたが。

 

「ありゃー……思ったよりあまり増えない? よっ?」

 

「なんでですか木浪先輩!? わたし楽しかったのに!?」

「はぁ? んーー、うちら有名じゃないからね初めはこんなもんで当然。それに内容の方もちょっと分かりづらかったんじゃない。こっちが当然のように『魔力を練り上げる』とかいっても、アッチじゃそれ見えてないんじゃない? そんな感じの反応、少ないけどきてたし」

「なるほどなるほどー、そりゃまずった鬼叉ちゃん側のミスねー。確かに魔力は普通に見えてねー可能性あるわ、オレンジJKちゃん。お、コメントにもあったわ。はははツッコマれてんね『急にふざけだした』って」

「でもでも配信待機中でもviewer80人こえてますよ!!! ガツーン!って〝ガツる〟のも、もうひと伸びじゃないですかーこれ??」

「んー、企画自体は悪くはないと思うんだけど。やっぱそもそもブク高のちゃんねるジャックしてやってんのがダメなんじゃない。作戦的にはここでいきなり変わったことやったら良いんじゃないかって思ったけど……なんかこの寂れたちゃんねるの過去の動画のview数ざっと見てみたら、異様に少ないし、てか元から変わってるみたいだし」

 

 

ブク高ちゃんねる

★はないちもんめのルールを解説 87view

★わたしの眼帯コレクション 187view

★おはじきに追加ルールを加えてみたわ 63view

★お手玉に追加ルールを加えてみたわ 73view

★竹馬、乗り方のコツを説明するわ 1578view

 

 

「な、なんかおじいちゃんみたいなちゃんねるだねっ……!」

「うわーこりゃいいねー。おじいちゃんねるの竹馬だけ妙に伸びてん、ねー」

「ふーん竹馬とかこういうの意外と……ありではあるよね。すんごいコマ作ってぶつけて勝負させて100万viewとか見たことあるし、真剣なのが逆にウケたり」

「そうなのそうなのよねー、そういうのガチでやると面白いのよねー、だーから何がヒットしていつ下駄や竹馬がシンデレラに化けるかわかんないのよ! だからびゅ──その顔そのジト目はナニ? 大丈夫、鬼叉ちゃんねるは死んでないよ?」

「ま、下には下がいるし」

「きっ、木浪先輩……」

「おっ? あたしゃ戦闘もメンタルの保ち方もプロだ、よっ? この程度弱火弱火ぬるいぬるいぃぃ、鬼叉ちゃんねるはここからの粘りが強いなりぃーははは」

 

 ここでやめたら何にもならない。ブク高ちゃんねるのジャックを継続し、気合いを入れ直した女子高生たちと不屈の鬼叉ちゃんねるのコラボ生配信は、また少数のファンの期待に答えて再開された。

 

 

▽

▽

 

 

「くしゅっ……」

 

「どしたのです登別さん?」

 

「なんでもないわ部長、すこし冷えたみたい」

 

「風邪ひくとダメなのですよ! お手玉をつくるのをやめて、このブランケットを使うのです!」

 

「ええ、そうね。あっ」

 

「!? こら朱文金いきなり待つのです!!! 何度もいってるのっっ廊下を燃えながら泳いだらいけないの!!!」

 

 登別部員がくしゃみをすると、ランタンの灯まで飛び出した。小角部長は生きたように泳ぎ出したランタンの灯を追いかけていく。急に慌ただしく駆け出した風紀委員部の部室に、手作りのお手玉が床に落ちる音が寂しく鳴った。

 

 

 

 

 男は燃える赤いお魚と廊下ですれ違い、今落ちていった見覚えのある探偵帽子をその手に拾いあげた。

 

「あぁー、またなんかやってんなー」

 

「こらエッチアイ! こんな昼間から徘徊ほっつきするなら」

 

「んなことよりシュブンキン、追いかけなくていいのか?」

 

「ナッ、なっ!? そうでした!!!」

 

「んし、こっちだぜ!」

「わかってるのです!! あ、廊下を走っちゃいけないのっ!!」

「それもまとめて後でいいだろー! よっと、──ははは!」

 

 落とした帽子は持ち主へと、ピネスはその女子のピンクの髪を抑えながら強引に被せ返した。

 

「わぷっ!? こらっエッチアイ! あっ!! 靴はちゃんと履きなさいっっ風紀違反なのですっ!!!」

「え────ってちがうちがうちがう!? こ・れ、そういうファッションのヤツだからーー!!!」

「嘘ですっっそんな左右バラバラのだらしないファッションはないのです!!!」

「あるんだってぇーー!!! くわしい執事のお墨付きでぇっ!! おっ、よしチャンスだ。俺あっちから挟み込む!」

「わ、わかったのです! 靴と服装のチェックは保留なのです!! こらっ朱文金!! もういいかげん風紀の納めどきなのですっっ!!!」

 

 廊下でばったりと出会った徘徊中の浦木幸と仕事中の小角灯は、今、黒い尾ひれの見えたターゲットの走路を挟み込むべく頷き合った。

 

 部長が携える元のイニシエランタンの棲家へと燃え泳ぐお魚の朱文金を連れ戻すべく、2人は手分けして廊下を走っていく。

 

 遊ぶように自由に泳ぐ朱文金と生徒2人の真昼間の追いかけっこはつづく。

 

 

 

 

 

 

 viewtube界隈に詳しい木浪の提案していた作戦であり切り札。ブク高で1番の美人と名高いヴィーナス先輩を途中投入したことが功を奏し、生配信に訪れたviewer数は飛躍的に伸びた。

 

 生配信にも関わらず視聴者数が始めた当初の10倍の800viewerまで到達した。しかしまだまだ上には上がある。ブク高ちゃんねるをジャックして開始したこの『現役女子高生たちにちょっくら武術を教えてみたー!』配信の勢いに可能性を感じた者たちは、この程度の盛り上がりでは満足しなかった。

 

「すっごーーい!!! これガツってますね!!!」

 

「は? 気が早いし。ちょっとはガツってはいるけど、ここからが大変なんだから。このもうひと伸び、いけそうでいけない感じがね(かと言って成功してる武術以外のコンテンツに切り替えるのはまだ早いし)」

 

「なっなんか厳しくないですか木浪先輩!??」

 

「は? 普通だし。──なにかガツーンとガツる……」

 

 他の生徒の皆が鬼叉ちゃんねるに各々武術の基礎を学ぶなか、一度配信カメラ外へとフレームアウトし、小休憩をしながら話し込んでいた木浪とサンチュ。

 

 勝手に戻ったり勝手に休憩したり、こうしたゆるさと真剣さを合わせて垂れ流していくブク高ちゃんねるの生配信は、初期より生徒個別に搭載する特別な小型カメラを増やした。

 

 そして臨場感のある友達目線を視聴者も体験するように、生徒各々の持つ複数の視点カメラを切り替えながら見どころや起こるハプニングをありのままお届けしている。

 

 今またひとつ面白そうなハプニングが起こり、サンチュが勝手に運動場を走り戻る中。広いグラウンドの端っこに立ち状況を1人静観する木浪は、何かもっと〝ガツーンとガツる〟ためのアイディアを、思考しながらあやふやに練り上げていく。

 

 そう簡単に思いつけばviewtuberは苦労はしない。だが、その時木浪は見つけてしまった。

 

 木陰のベンチにぽつんと座る、その明らかに常人とは違うオーラ、ブク高の黒の制服を纏いながらも肌は絹のように白く輝き、その緑の黒髪はただの黒髪ではない、尋常でない艶めきを宿している。

 

 遠目からもわかる肌艶、髪艶。パーフェクトを超えた神にも等しい前髪パッツンな容姿の女子が、木陰に憩いとまっている。

 

 華のある女子生徒を大発見────。

 

 ものすごいスピードで一本木の元へと駆けつけた木浪は、佇み座るそのお方の手を引いた。

 

 

▼

▽

 

 

 『そのまま見てるだけでいいから』そんな誘い文句を木陰に潜むようにいた彼女に告げる。木浪は彼女があまり知らない様子であったviewtubeや生配信のことをざっくりと説明しながら、戸惑う彼女に頷かせ、撮影の許可を得た。

 

「じゃーギャラリーも増えたことだし、今日のまとめとしてそろそろ演舞でもやろうか執事の小鬼ちゃん、いけそう?」

 

「ハイっ! 拳剣流でも師範とときどきやらせてもらっていたので、たぶん! 未熟ながら……いけます!」

 

「未熟じゃないさ、そのケンケンなんとかの技ってのはちゃんと血が通ってるから、ねっ!」

 

 タガヤと池原、2人で披露することになった演舞。お互いに脚技を使いまるで鏡合わせの動きをし息を合わせる、興が乗りやがてささやかなアドリブをまじえて────。練度の高い若者とベテラン、2人の見せる脚技の演舞はカメラ前で披露する見せ物としても十分な質と武を踊り演じることができた。

 

 タガヤと池原がしっかりと場を温めたところで、つづいては弓の実演。クレー射撃で用いるようなディスクが横から投げ入れられた。エンターテイメント性を持たせるため、弓矢を放ちそのディスクを幾つ撃ち落とせるかを女子生徒たちに競わせていた。

 

「おー、キレイじゃん。なんかやってた?」

 

「やらずともお芝居でも舞踊でもスポーツでも、美しい所作は一度見ればだいたい私には分かるわ。その深みも努力までも一度に凝視する。手を合わせて感心するより見なきゃいけないの、なぜなら──美しいから」

 

 模倣した美しい所作から矢は放たれた。

 

「……ひゅー。あたしの美学がわかるとはブク高のマドンナ、いやヴィーナス、やるねー」

 

 左右から投げ入れられちょうど重なった2枚のディスクを同時に射抜き、クリティカルヒットした心地よい音が割れて空に響く。

 

 黄金の髪をかきあげながら、弓を次の者へと預けた。その自信に満ちた女子生徒ヴィーナスの背は、拍手を送るギャラリーの方へと向かい、列をなし元気にねだるハイタッチを次々に重ねていった。

 

「なっすぅーいえーい」

 

「フフフ、いえーい」

 

 ノリのいい木浪と意外とノレるヴィーナスは、ハイタッチをした。

 

「あなたは? いえーい」

 

 ヴィーナスはオレンジ髪の隣にいた黒髪の生徒へとハイタッチを待つ構えをしながら、微笑んだ。

 

「い、いえーい?」

 

 そんなじっと待つ手の所作に促されるがままに、美人と美人が今手と手を合わせる。そんな中々お目にかかれない貴重な瞬間を、木浪視点の小型カメラは生配信でバッチリ視聴者へとお送りしている。

 

「ワタシはヴィーナス、ピーナッツいかが?」

 

「私は……」

 

「パッツン」

 

 木浪が怒涛のごとく流れてくる配信のコメント欄から採用した。

 

「ぬえ!? ぱっ!? ぱっ!? ぱっ……そ、そー私はパッツン!! そちらをいっ、いただきましょう」

 

 黒髪パッツン髪、前髪の綺麗にそろった美人生徒は、木浪と視聴者たちが勝手に決めた愛称〝パッツン〟を驚きつつも受け入れた。

 

 そしてヴィーナスの手渡したピーナッツのお菓子を大きな一袋ごと受け取る。ヴィーナスは一粒どころではない、初対面のパッツン生徒にそれ程の価値を見出していたようだ。そんななんら他愛のないやり取りをカメラに収めて、流れる生配信のコメント欄は笑い加速していく。

 

 

 

 

 

 

 

 Fika &Lagomその異国の茶人の精神を受け継ぐ茶室は、学校のグラウンドへと特別出張──

 

 一本木の木陰の下で茶会は開かれた。

 

 いい風景のなか外でも茶を飲めるようにと、これまで稼いだDPを支払いくろまねき商店の開発部に頼み込み。サーガが手に入れたのは、二面だけ壁をした外の風景にとけあう簡易茶室であった。

 

 そのお披露目は今日が最も相応しい日であるのは、言わずもがな。

 

 畳の上、木陰に憩い、茶人の淹れる特別な茶をいただく。

 

 あのパッツン生徒もお気に召したようだ。おいしいお茶と和の雰囲気を嗜み、開放感のある茶の部屋から賑やかな声の聞こえる外をその美しき黒い瞳で、パッツン生徒は眺めてみる────

 

 みんなで握った巨大焼きおにぎりを巨大鉄板で焼く。大きな2つの特別なコテを持ち、鉄板の上下にまわった緒方と木浪、店主ちひろと池原の計4人でそのおにぎりを息を合わせ返していく。

 

 裏返って露わになった香ばしい焼き目はやはりエンタメ。その瞬間に2800もの同時視聴するビュアーたちのコメントは焼き弾ける。もはやなりふり構わない。過去流行った緒方の動画を再現するだけはなく、さらに巨大化、さらなる資金力をもってしてパワーアップさせて焼き上げていく。

 

 ブク高ちゃんねるの生配信『現役女子高生たちにちょっくら武術を教えてみたー!』は、タイトルをそのままに第二部へと突入。武術で汗を垂れ流し、巨大な焼きおにぎりを焼き汗を垂れ流す。『もはや武術どこ』と冷静になった視聴者にツッコまれても、勢いと火力で押し切るだけのパワーがこの……ジャックした今の〝ブク高ちゃんねる〟には確かにあった。

 

 

 

▼▼

▽▽

 

 

 

 昼間の井戸端会議からはじまった3時間を超える長尺のコラボ生配信は、それでもなお新規でお越しになったviewerは最後まで増え続けた。無名のブク高ちゃんねるはその配信がガツーンとガツった度合いを表す、〝本日のTOP100ガッツ配信〟入りを果たすなど、無名らしからぬ成果を存分にあげた。

 

 またあまりにも長尺になったため配信内で起こったハプニングや、珍場面、名場面、名言、見どころは全て、ぎゅっと凝縮しつつ、生配信の終わりとほぼ同時に何本かの動画にわけて編集された。

 

 その機を逃さず手際良く編集し分割した動画集の中でも、群を抜いてview数をあげた──3分にも満たない長さの一本のショート動画があった。

 

「木浪せんぱい、これって結局ぅー……」

 

「は? 結局誰が出ていてだれがやるか、当たり前じゃん。viewtube」

 

「あははは……たしかに! それがviewtubeっですね!! すっごーーい、こんなにみんなでガツってるのわたしはじめてぇー!!」

 

 1日も経たず総view数、37万viewを記録。動画タイトル『現役女子高生がっ、ちょっくら竹馬してみたー!』が、ブク高ちゃんねるが投稿したものの中でイチバンの伸びを示していた。

 

 その内容は……ミントグリーンの髪をした生徒がグラウンドの中央にぽつりと突っ立ち、やけに細いそよ風のような声で竹馬の乗り方のコツを教えるという、ブク高ちゃんねるに元よりあった過去作のオマージュで始まり。

 

 次々とそのミントグリーンの生徒が竹馬で学校敷地内を移動しながら竹馬仲間をスカウトし集め、最後にコツを知りレベルの上がったみんなで、もう一度グラウンドに戻り竹馬競争をするというものであった。

 

 その競争で優勝したのは、なんとパッツン生徒。やっと視聴者待望のパッツン生徒が本格参加し、ついにその未知の実力のベールを脱いだと思えば、ぶっち切りの1位────まるで竹馬が空を飛んでいたと見紛うほどの速さで、彼女は満面の笑顔で目の前の白いゴールテープを切った。

 

 

「でもそれだけじゃ、つまんないっしょ」

 

 

 竹馬がガラスの靴に化ける、いや竹馬にシンデレラたちが乗っている。みんなで撮った一本の動画が〝ガツる〟。そんな光景を目の当たりにした木浪智火瑠は、『フッ』とひとり、映像を繰り返すスマホ画面に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは白く彩られたトレーニングルーム。何の縁か誘われた静寂のこの空間で、はじめましての2人ぽっち。

 

 作業着の女はいつものルーティンでいつもより入念に準備運動を済ませ、銀色の相棒をその手に取り──お相手に振り返った。

 

「じゃ、ここからは番外編。かるぅくバトルしようよ。竹馬のシンデレラ、パッツン様」

 

「どうしてこの私に、ソレを向けるのですか?」

 

 一振りの剣を持たされたパッツンは、ただ構えずに手を下げ突っ立つ。銀色の武器を自分へと向けたその者の理由を、余裕のある平然な様子で尋ねた。

 

「さっきから魔力疼かせてんの知ってる、よっ。おかげで配信中もずっと冷や汗、──こんなにトマラナイことある?? はは」

 

 銀色の刺股の先端に汗染みた作業帽子をひっかけくるくると回しながら、既に汗ばんだ肌、汗染みた作業着を着た池原は不敵に微笑っている。

 

「本日はとても楽しいものでした。できればこのまま楽しいまま終わり、一日を終える。そうはいかないものでしょうか。この先はきっと────楽しくはないようです」

 

 パッツン生徒は笑わない。池原とは対照的に汗粒一つ肌に纏わず非常に重々しい貫禄を見せつけている。この先を渡るべからず。危うい橋だと相手にわざわざ示すように、水色作業着に身を包み武器を手にした彼女に静かな警告をする。

 

 戦闘のプロである池原は今空気を重く圧されて感じた肌触りに、勝算を試算し立てていく。池原が離れたこの身を持って感じた彼女の魔力量は…………。

 

「カメラを回しとく。楽しめる範囲でたのむよ」

 

 刺股にかけ、回していた作業帽子を再び被った。ツバをじっくりとおさえながら、帽子に仕込まれた小さなカメラを指差しアピールする。

 

 池原は試すように提示する。今の自分の実力と目の前の美しき相手の実力の両方を冷静に天秤にかけて──池原の頭が空っぽではないことをお相手に暗に示した。

 

「なるほど……今の私には理解できます。あなたたちの言うなまはいしん、そして、びゅーちゅーぶ! いいでしょう────。今度は私が、もてなしてくれた子らをこの手で楽しませてあげましょうっっ!!」

 

 借りた剣を虚空にびゅびゅんと振り踊らせて、パッツン生徒はどこか物足りない感触をその剣柄に掴んだ。再度、先程のものがただの無謀な提案ではなかったことを悟る。

 

 切先を向けた美しき存在は、微笑み──かかってくるように水色の子に挑発した。

 

「ははは、そのゼンゼン楽しめない前提…………ぶち壊すぅー……よッ!!!!」

 

 出し惜しみはしない。水色の作業着がそのカラーを頭頂の帽子から塗り替えるように染め上げ、変えてみせた。

 

 まだ魅せぬ【異能発動】。

 

 赤い赤い特別な魔力に染まった衣を纏う池原叉鬼は、その身に宿した全身全霊と練り上げた技をもって、美しき強者の向ける誘う刃へと────イマ、銀色の顎で噛みついた。

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