※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

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29 クールダウン

 復活したホワイトゴーレムたちは、いそいそと駆動音を響かせて忙しい。DPを賢くせがみに来たゴーレムたちに人間たち3人は各々の黒い指輪をかざし、必要経費を充填。充填されたDPを資材へと変換し、生成した特殊セメントを胸部から吐き出しながら、ホワイトゴーレムたちはトレーニングルームに空いていたクレーターとひび割れをまた白く補修していった。

 

 

 そこにあった闘いの熱量もすっかりと別の騒がしさに埋まり冷めてきた。

 

 もう黒く美しいあの大きな存在は、この部屋には居ない。

 

 その存在が去った後も部屋に居残っていたピネスは今一度、緋色と緑の刃を交差させながら眺めてみた。やはりその手触りや重量に何も問題はなく、戦闘で粉々になったはずのものがすっかり元通りの形へと戻っていた。

 

「ほんとうに剣、直してもらった……」

 

「よかったねぇー。ま、君にしちゃ見上げた賢い選択だ感心感心。粉々の剣じゃ今日の反省点もろくに振り返り振れないから、ねっ? あたしもきっとそうしたよ」

 

「いや、俺はそこまでは……。あの、ところでソレって何ですか? ビー玉? さっきからチラチラ気になってたんすけど?」

 

 白壁にもたれ座りながら小さなビー玉のような透明を片手に乗せた池原は、手のひらの上に置かれたとても澄んだその一粒を、凝らした片目で眺めている。

 

「あー。この玉は筒になってるここに入れんのよ。あたしがこの子で戦うためのアイテムをさらにグレードアップしてもらったってこと。今までダンジョンじゃ、この筒の中に内臓したビー玉が壊れたりしてたんだけど……ほら君も剣を直してもらったさっきの健闘賞、それであたしはもっと良いビー玉をせがんだわけさ」

 

 池原は銀の刺股棒の石突にあたる部分を、かぽっと空気音を鳴らしながら開いた。そして棒の中に仕込まれていた色とりどりのビー玉を三粒取り出して、既に特別透明な一粒の置かれてある手の平の上に足し並べた。

 

「へぇー……ってだからこれ、なんすか?」

 

 軽く説明するように言うが、ピネスにはまだよく分からず。特段からかうつもりはないのか、池原は素直にビー玉のアイテムと刺股に関する説明をそのまま淡々とつづけた。

 

「あたしももったいぶるのももったいないぐらい疲れてるから簡潔に言うよ。これを作ってくれた開発部のヒラメキちゃんが言うには、おたくのいらないレア武器を分解し溶かしてこうしてビー玉状に生成し直してんの。うん、そーそー。その復活した赤緑の剣にもあるランダムで固定された効果ってあるじゃん? 攻撃力あげるーとか魔力あげるーとかの、いわば恩恵。そーそー、正直いらない変なのも中には運悪いとあるじゃん。だから言ってしまえば拾ってきたレア武器のいいとこだけ煮詰めてまぁーるく固めて取り出したってこと。で、それらの効果恩恵付きのビー玉ちゃんたちをその日の気分でここに詰め入れて、あたしに相応しい武器を自作してるってわけよぉー」

 

 ビー玉をのせていた片手をぎゅっと閉じ、今パッと開いた指と指の間にはぎっしり4つある。それぞれ色と雰囲気の違うカラフルなビー玉が、指の間に詰め込まれ、池原は自慢げにニヤリと笑みをつくった。

 

「ぅーー……なるほど……? てことは……まじかッ、そんなことできんの??」

 

「できんよ。ま、うまい話には何事も裏があって。この3つの玉は上出来な方、失敗の山の中のひとつまみの成功例らしいよっ」

 

「あぁー……つまり、なんか知らないけどドロップ武器みたいに煮詰めて固めたビー玉にもハズレがあるっとことか? ──アレ、でも? 銀色の……ソレってぇ…………【刺股ダブル改】だよな? そのままレア武器テープでぐるぐるに巻いて使えたけど??」

 

「なんだぁ? 刺股陀仏スカイ?? ……あ、あたしの【銀狼】に変な牙つけてたのは君かぁーっ!! ははーん、本当の命知らずのようだねぇーーーー」

 

「え? いやいやじゃなくて違っ……俺だぁ! あぁー……最初10F辺りのゴブリンとかミノタを倒すときに、かなり魔法のガトリング砲として重宝しててぇ……。──そのあと校長に【ふぅーちゃん棒スペシャル改】とか言ってぶん取られました!!! んで、その代わりに貰えたのがコイツで……」

 

「はははは!! あははは!!! あっ、あたしの銀狼が借りパクの借りパクされてたってわけだ。ふふふはは──ま、名前は油性で書かれてないみたいだし結果オーライ。あー、察するところ、それも結果的には巡り巡って君のヒントになった感じだねぇー。ふふふっ……それはさておき、まぁまぁでもあたしは用務員、暴漢退治の雑務で雇われた用務員が刃物はちょっとプロとして不味いでしょ。ってことで、よっ!」

 

 向けられた銀の刺股棒の先端でほっぺをぷすり。ピネスは池原にお茶目にからかわれるように、刺股で小突かれていく。

 

「いてっ……俺は思いっきしいてっ……使ってるの刃物だけど。って暴漢退治はいてっ用務員のいててっ……雑務なのか? 痛てっ!!!」

 

 

 男子生徒を刺股で突く用務員を注意しない。現場の補修作業にあたるホワイトゴーレムたちへの指示監督をすることもなく。

 

 風紀委員部部長の小角灯は、両手に受け皿のようにし持っていた逆さの探偵帽の中をじっと覗いている。

 

『古いランタンですか。……ランタンの灯はいつも迷える子たちに正しい道を教え、その行く末までを安全に照らしだします────しかし、ときに危険な道へと自ら勇み駆け出さねばならないこともあります。あなたの言うように、わたしはカムリ村の不良なのかもしれません。火は大きければ大きいほど、良きものだと考えていました。いざという時は、あなたが〝これ〟を焚べてください──その正しき灯に』

 

 そんな分からない言葉をのこして、見慣れない黒髪の女生徒は静かに去っていった。

 

 風紀を違反したボロついた黒の制服と浮かぶ羽衣の背姿が白い部屋から霞むように消えていった。小角は、ただ歩み寄ってきた彼女の話を聞き、彼女の何を取り締まることもできなかった。言葉を交わすことさえ。

 

 今、残された気まぐれなプレゼントの一端を見つめながら、そんな直近の過去のシーンを小角灯は忘れまいとあやふやに思い出しては反芻していく。

 

「不良……納得いかないのです……? くぬぬ……」

 

 イニシエランタンの灯は豪豪と激しく盛り出し、何かに反応している。

 

 ベージュの探偵帽の裏にひらひらと浮かぶ。黒い布切れのミステリーはそこに────。

 

 

 

 

 

 

 ここはブク高の校舎に新しく増設された部屋、その名も撮影室③。viewtubeの撮影機材を取り揃え、防音機能や反響軽減など撮影環境を整えた特別な部屋の一つだ。

 

 物資運搬と食材の冷凍保存に協力してくれた異能冷蔵庫はドアから去っていった。そして部屋の中にいた2人の学生が中央の円卓の元へと移動し、椅子に腰掛けていく。

 

 2人の学生は、今机上に置かれたその冷菓を不思議そうな目で覗き込む。放たれるものすごい冷気を顔肌に浴びながら──。

 

「さぁ食べろーー! お姉さんのおごり、よーー!」

 

「これ、食べる……のか?」

 

「お、どうした? 『食べる』のは初めてかいでっかい赤ちゃん? せっかく作ったってのに出鼻から失礼だねぇ。ははは、あたしの女子力舐めんな、よっ?」

 

 鬼叉ちゃんねる@ブク高ちゃんねるとコラボ中、題名『★巨大パフェカントリーキャッスルパームⅡをつくって食べてみた!』その配信のカメラは既に回っている。

 

 いつもの水色作業着の上から桜色の甘いエプロンを重ね着している。ふざけているようにしか見えない用務員かviewtuberか戦闘のプロなのか、肩書きがよく分からない人が堂々とそこに立っている。

 

 被る作業帽子もいつもと違う。13とピンクで書かれたその黒帽子には角が2本生えており、【13悪魔ドルチェ】という店名のちょっと高めのアイスチェーン店で池原がアルバイトしていた時にそのまま頂いた帽子だと、さほど要らない説明もされた。

 

 椅子に座るピネスと小角は、改めて円卓の上のブツを見てみる。確かに悪魔的な見た目の巨大アイスパフェがそこにあった。

 

 焼き菓子のカントリーパームを31個使ったというそのクッキーアイス。ココア色と、バニラ色と、チョコ色が、透明な巨大ボウルの中に規則なく混在している。

 

 そして底まで甘く満たされたボウルの表面は、毒々しい色合いのカラフルな角が、地から突き出るように飛び出ていた。アイスに満たされたボウル自体がまるで巨大半球。その荒廃した平面な大地に数多の角が突き刺さり聳え立っており、形成された見る者を威嚇するその鋭くて禍々しい見た目は、とても一筋縄で食べれるアイスには見えなかった。

 

 女子力というよりは攻撃力。アイスにまで強さを求めるその姿勢は、突っ立つ製作者の性格に似ているのかもしれない。白い冷気を放ち円卓を支配する攻撃力の高そうなアイスパフェを目の前に、食べ方さえ全然分からない。そもそもこれが食べれる物なのかも分からない。

 

「巨大なんとかなっするぱーむつー……な、なんだそひぇッ冷たっ!?」

 

 後ろから不意の冷やしスプーン攻撃。間抜け顔を形成していたピネスの疲れた両目が、後ろから忍び寄った用務員に2本のおおきなスプーンで覆われ冷やされた。

 

 そしてぼーっとしていたピネスと小角、学生の2人に用務員から手渡されたのは、冷えたそのスプーン。

 

 どうやらこれを『食べる』いや『食べろ』ということらしい。自信ありげに笑うエプロン姿のお姉さんの顔に、2人は巨大パフェの試食を促されていく。

 

 

 

「よーし小鬼ちゃんたち祝勝会だーー!!!」

 

「あぁー、なんか勝ったのかなぁ……いや清々しいほど負けたような……」

「このパフェ、どこから見ても風紀違反なのです……」

「まぁ風紀は良さそうにはみえねぇな。はは。なんかダンジョンみてぇなパフェ……そしてでけぇ……とんがってるし」

 

 女が1人意気揚々と掲げるスプーンに、若者たちの反応は薄い。1人だけカメラ意識とテンションの高いviewtuber用務員とは違い、風紀の悪そうなパフェに生えた角をスプーンで小突き調べたりと、いまだにピネスと小角、学生たちの方は警戒を深める。

 

「こらこら大丈夫、あたしのパフェは襲ってこないよ。それにどちかというと建築法違反、よっー。つべこべ言わずー、よっ! よっ!」

 

 viewtuber用務員の池原は、突如飴でコーティングされていたその角を手慣れたように次々と砕いた。角の内部空洞に溜まっていた酸味の効いたフレーバーソースが外へと流れ出していく。

 

 そして不意打ちで池原のスプーンに運ばれた未知のパフェの一口を、警戒する雛たちの嘴へと押し込んだ。

 

「「ちべたっ!? おっ、────おいしい!?」」

 

 それはよくあるお菓子カントリーパームを用いたアイスパフェ。しかしただのアイスパフェではない。刺さっていた禍々しい角は飽きさせないためのギミック、スプーンで小突き折ればだくだくと流れ出す各種フレーバーソース。

 

 チョコレートやオレンジ、ブラッドオレンジ、ラズベリーにかぼちゃ、etc。悪魔的な見た目とは裏腹に、味のバランスは考えられている。楽しくいつまでも飽きのこないそんな一品としての完成度を誇っていた。

 

「ははははは、あたしゃ戦闘とデカパフェのプロよっ! よっ!」

 

 評価はまさかの『おいしい!?』。学生たち2人の見せたやらせではない初々しい反応に、viewtuber用務員池原のテンションは上がり続け、また嘴を開けた雛たちにスプーンで掬い取った餌を与えていく。

 

 疲れた体に染み渡る冷たさと甘さ。飽きのこない甘さがお気に召したのか、今度はピネスと小角2人自らスプーンを手に取り己の口にそれを運んでいく。

 

 その後あれだけあった巨大パフェは、透明ボウルを銀色のスプーンたちに仲良く掘削探索され尽くし、ついに底まで到達──見事に完食された。

 

 パフェ制作シーンはおまけのダイジェストで済ませ、概要欄にもレシピの詳細を貼り付けた。そしてその完食の始終までちゃんと食べた証拠のようにノーカットで上げられた動画、『★巨大パフェカントリーキャッスルパームⅡをつくって食べてみた!』は、インパクトのある悪魔的ダンジョンパフェとして3日で12万viewを記録した。

 

 鬼叉ちゃんねるの池原が伺い立て、後でされた木浪智火瑠の動画分析の結果によると──新メンバーの学生2人の食べっぷりと、食べ疲れた様子もなくボウルの底のゴールに向かってはしゃぎ協力していく3人の雰囲気も、そこそこの好評と高評価を生み出した要因だったようだ。

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