※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

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30 不黒文の罪

 グラウンド中央には、風に憩う一本の大きな木。

 

 その傘のように立派に茂る新緑の影の下、ベストポジションに設営された移動式の簡易茶室は、ぽつんと存在する。

 

 とても穏やかに学び舎のグラウンドと木の緑を遮らず、その場に侘びるように溶け合っている。

 

 その茶室から広がるほんのちょっとの和の異世界。見上げれば心地よい緑、木漏れ日、振り向けば広大なグラウンド、厳かに構え見守る学校景色。何にも遮られない調和する憩いの空間で、甘くて渋いFikaの時間がやってきた。

 

 

 

 【セムラ】というお菓子はスウェーデンの伝統菓子だ。シュークリームのような見た目であり、パン生地に生クリームとアーモンドクリームをこんもりと挟んだものである。粉糖を上からかければ見た目にも楽しく茶の席で出すにも適している。カルダモンの風味のするパン生地は少し独特であるが、加減を間違えなければ良いアクセントになる。つまり、シュークリームのような見た目のシャレたクリームパンである。

 

 茶人の出すそんな甘い伝統菓子と、淹れたての熱いお茶の組み合わせを、食欲旺盛にも4度おかわりし楽しむ。

 

 いつも通りの威厳ある黒スーツとタイトなスカートを身に纏い、本日は藍染の眼帯で渋い茶に合うスペシャルなおしゃれをする。プラチナ髪のお偉い人物はこの茶室の畳の上で、客人をただ座して待つのみ──。

 

 

 一本木の下、畳の上に、プラチナの長髪佇む目印と特別な気配が既にある。

 

 遠方よりお越しのその方は慌てず走らず、少しほころんでいた身なりを魔法で整えた。そして歩き辿り着いたこの和の異世界への入口である小さな木枠をくぐろうとするが、通れない……。

 

 近場にいたこの茶室の亭主である金髪の茶人は、くろまねき商店で購入させられたという大量の手荷物を、今やってきた尊き客人から預かった。

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 やっと、ほっと一息────

 

 パッツン頭の黒髪の女が、座布団の上で正座をつくる。彼女の礼儀作法の美しさは、茶人サーガの目からみても完璧で見事なものに見えていた。パッツン頭の女は、出された茶と珍しい菓子のセットを落ち着いた様子でいただいていく。

 

 静かな葉音と、また茶を点てる音だけが聞こえる。そんななごむ和の空間で、勝手に室内へと上がり紛れ込んだ一匹のコカトリスが、その美しき黒髪の女神の膝上に、恐れなくすやすやと羽を休めて眠っている。

 

「やーやー、随分とお帰りが遅かったようでフフフ」

 

 独特のタイミングで切り出したのは、隣の座布団席に悠然と座るプラチナさん、不黒文校長。校長は一息つき茶を楽しんでいた今し方やって来た客人に、眼帯をしていても分かる含み笑いを浮かべた。

 

「さぁ────約束は果たしました。今度はあなたが果たす番です、不黒文」

 

 そのような戯言には付き合わない。黒髪の女神は、ずっと用意していた台詞を突き返すように口にした。ちらりとだけ隣の人物を見た女神は、柄つきのお椀を丁寧な所作で回し、新しく提供された茶をすすった。

 

「と、言われてしまっても。こちらも生徒たちと苦労して漸く手に入れた〝アレ〟を手放すのは惜しいよなぁー。こっこっこっそーかそーか、鶏(けい)ちゃん6号もそうかー。この美味しい謎シュークリームもどきが食べたいのかー?」

 

 コカトリス鶏ちゃん6号、膝元に寄って来たふぅーちゃん魔獣軍団に属する鶏サイズのそのモンスターに、不黒文校長は茶菓子で餌付けをしながら愛でる。

 

「──不黒文」

 

「フフフ、ふぅーちゃんジョーク!!」

 

 飛んできたお隣からの鋭い目線に、ジョークだと不黒文は朗らかに腕を広げアピールした。

 

 何故そのようないらない事をするのか。茶であたたまった女神の喉から、溜息が漏れ出てしまう。

 

「はぁ……あなたは一番手のかかる……」

 

 膝の上に眠るこのモンスターですら羽と嘴をとじて大人しいというのに、大人しくない変わった人間が今、女神の目の前でおかしな笑みを浮かべ存在している。

 

「ふぅーー……。ごほんっ────それはすまない。いや仮にもここのトップであるブク高の校長先生が、舐められる訳にはいかないと思ってな! ある種のパフォーマンス、本気ではないぞー。フッフッフ!」

 

「はぁ……そのような見栄など評価に値しません。本題に移ってください」

 

 黒髪の女神は冷静にも不黒文のペースには流されない。女神は、粉糖のかかったパンを手に取り間に飾られてあった白いクリームを掬いとった。見栄を張るなどもってのほか、中身のない話はいらないのだ。

 

「本題本題、そうだなぁ本題?? おっと──これかな。これから色々調べものをするつもりだったのだが、女神様に求められれば仕方がない」

 

 校長に命令された鶏ちゃん6号は、取り出された【本題】を咥えて、客人である女神の膝元へと鳥足で駆けて運んでいった。

 

 

「これは、たしかに────」

 

「よちよちよちよちこっこっこ、鶏ちゃん6号は賢いなー」

 

「不黒文……チッ」

 

 女神が舌打ちをすることなどあるのだろうか。

 

 ──ある。

 

 戻ってきた鶏ちゃん6号を撫でてまたシュークリームもどきで餌付けをする。そんなふざけた行為にかまける存在を咎めるように、女神はその綺麗なパッツン黒髪に似合う鋭い眼光で、不黒文のことを睨みつけた。

 

「ごほんっ────……失敬失敬。ところでその【みどりの本題】の正体というものを、渡したついでに少し教えてくれてもいいと思うのだが? どうかな? ふっふ」

 

 僅かな殺気を感じ取った不黒文は、おちゃらけ困ったときの伝家の宝刀、校長の咳払いで仕切り直しを図った。そしていらぬ口は転じて上手い具合に、今提出した一冊のみどりの本に関する情報の提供を女神へと求めた。

 

「いいでしょう……隠す必要もないこと」

 

 蔦のからみ巻きついたみどりの本。提出した本題とは一冊の本であり、ブク高の先生、生徒からなる冒険者たちが、みどりのダンジョンへ挑みその78Fで手に入れた特別な一冊のことである。

 

 手に取っていたみどりの一冊を、その神の慧眼で識別していた女神は、これを本物であると認めた。

 

 そして『隠す必要もないこと』だと言い、本を渡した不黒文の要求に応じる姿勢をあっさりとみせた。

 

「おっ太っ腹、よっ神様ふっふぅーー」

 

「余計な嘴はしまっておきなさい」

 

「ごほん──了解した。──して? どこからでも話したまえ?」

 

「いいでしょう……。これは────ブックマスターのブックです」

 

「……なァるほどな。そのなんだ……すごいな、懐かしいゲームの説明書のようだ? 私はそれにどのような効力とメリットがあるのかを知りたいのだが」

 

「あなたが口を挟むからです。ブックマスターのブッ」

 

「ははーん、待て待てのスペシャル待てよー、つまり〝これ〟と同じと言いたいのかな?」

 

 指をパチンと鳴らし何かを閃いた。女神の言葉も幾度も途中で遮った不黒文は、例の赤い本を校舎の方から呼び寄せた。紙を広げてひとりでに飛んできた学習帳を、やがて自身の手元へと留めた。

 

「それは────頭の方は回るようですね……知っているのなら、話は早いです。では、普通のダンジョンには、そのダンジョンの象徴である【ブックマスター】つまり、他の雑兵とは一線を画すとりわけ特別なモンスターが存在することがほとんど。この緑のブックはおそらく、野良のダンジョンをクリアした証ですが、さっき言ったブックマスターを倒したその見返りに手に入れたのでしょう」

 

「ほぉー、言われてみれば確かに、搦手もあり存外力も知恵もあり他のモンスターより手強いキノコ型のモンスターだったな。中途半端な階層の道端で不意にイカした家の中から現れた時は驚きはしたが、まぁウチの生徒と用務員がそれも全部倒してしまったがなー」

 

「そうですか……たいていは、自ら階層を降り動いては来ません。そのようなブックマスターは珍しい方と言えます。しかし知性をもつほど厄介度が上がるのは常、次のダンジョンにおいて、このようなブックを手に入れる際は気をつけるようにしなさい」

 

「ほぉー、初めてがレアケースであったか。確かに言い得てアレは厄介。だが────、次のダンジョン次のブックとは聞かされてはいないぞ、私は。楽しい竹馬遊びとお祭りの次は、このような読書をご所望とはな? ふふふ。少しまたそちらの話を詳しく聞かせてもらう方がお互いスムーズに運びそうだ。私はブク高のトップでありスペシャルな校長、何からでもどこからでも教えてくれたまえ」

 

 次のダンジョンのブックマスターを倒しブックを手に入れる。不黒文は〝次のダンジョン〟その言い方に引っかかった振りをする。そしてまた新たな情報を貪欲にも、ブク高の校長らしいユーモアをまじえつつ隣に座る女神を相手に求めた。ただでその方に従うつもりはないらしい。

 

「なにからでもどこからでも、ですか。……いいでしょう……では、それは簡単なことです」

 

 またもあっさりと要望を受け入れた。隠し事は好まないのか。女神はあっさり目の三杯目のお茶をお椀を傾けゆるり味わう。そして、静かな貫禄と一息の間を入れて──

 

「ほぉ、聞かせてみたまえ。ふっふっ多少難しくてもこのスペシャルなこうちょ」

「不黒文、──あなたには罪がある。あなた自身隠してしまうほどの、拭いきれない罪が」

 

「ん?  ──罪? ……」

 

 

 上蓋のパンで掬い上げていた古き伝統菓子セムラの中のクリーム、その甘いクリームだけを舐めとっていた不黒文校長の手と舌は止まった。

 

 制服姿に扮した女神ガイアが真剣な面持ちで睨むのは、藍色の眼帯の裏。そこに未だ生きている特別な魔力。

 

 神の目には不穏な灰色は透けて視えている。いくら隠していても妖しげな魔力を放ち、特別な何かを惹き寄せつづけているその灰色の眼のことが。

 

 いくら忘却してもいくら時を積み重ね別の晴々しい色に染め上げても、その灰色の眼からは逃れられない。

 

 茶はすすみ、菓子は甘い、舌先を汚したその甘さが作り物じみた味に思えた。

 

 座布団を温めながら語り合った侘びた空間の雲行きは、茶を点てるように渋く濁りゆく。

 

 果たして、女神の打ち明ける不黒文の犯した罪とは────。

 

 

 

 

 

 

「その目。魔のものは魔を引き寄せる。隠しきれないその右目です」

 

 不黒文は藍色の眼帯をなぞる、女神が睨み見透かしたその右目を。

 

「少し便利な程度の目に見えるが? ふふふ、生徒たちもこのスペシャルな姿をイカしていると」

 

「不黒文、これはそういった話ではありません」

 

「ふっふ、分かっている。だが私自身はっきりと分からないことの方が多いとは──いえるな?」

 

 

 もう長年付き合いつづけ、己の一部でないとおかしいほどに染まっているこの目、この色。

 

 その灰色に潜む何が己の罪であるのかを、不黒文は分からない。女神の言う罪がおそらく漠然とは分かっているが、きっとそれを深くは分からないだろう。

 

 記憶の奥底に眠るヤツと自分の犯した罪を知っているが、その罪の名までは知らない。永遠にも思えるほどに長い地下へとつづく階段を下りていった……あの日以来、知ろうとはしなかった。

 

 いたずらに時を重ね生きていても核心になる部分は、この目に何一つ見えて来なかった。とても近くてとても遠い、いつまで経っても誰も迎えには来ない置き去りにされた感覚だった。

 

 彼女は、やがてその右目に蓋をした。青春を穢したその灰色の記憶と決別するように。

 

 

 

 不黒文は手に取っていたパン菓子の蓋を、そっと皿上にある元のクリームの上へとかぶせ、戻した。

 

「灰色の悪魔の目。その目はいわば悪魔の化石」

 

「悪魔の……化石? ふむ、ゴロゴロせず、ちゃんと見えてはいるが」

 

 もはや身につける眼帯には意味がない。この瞳の色を見透かし知る女神には隠す必要のないものであった。

 

 不黒文は藍色の眼帯を外した。解放された灰色の目で眺める世界に狂いはない。幻覚が見えている訳でもない、動かない硬い化石でもなく光はちゃんと宿っている。

 

「今はなき天魔戦乱の時代、イニシエに栄え暴の限りを尽くした強力な大悪魔族はその滅び干からびた体の一部でさえも、底知れない魔力を今もなお秘めていると言われています」

 

「そこまでの圧倒的なチカラは感じないがな。生徒たちと比べると多少魔力がオート回復しやすいらしいが、それが恩恵ということか。それに身につけたこの魔力量は、私の実力の方も少なくとも半分はあることだろう。ふふ」

 

「はい、それは持つものの意志と体質ポテンシャルによって得られる魔力とチカラの限りは違うそんな底知れない代物です。同じくそれを手にした〝クリアクレア〟は、あなたよりもその目を限りなく同化させ使いこなしています。そうでないと考えられない成り上がりの速さ。今は大悪魔と名乗り、魔界のある一帯を支配しているという噂も……遠い遠い私の耳にも届きうるところです。大悪魔──クリアクレアは」

 

「そんな名前をしたヤツはまったく知らないが、どこか似たような語感のヤツならば……埃まみれの卒業アルバムでもめくり返せば、思い出すかもしれないな」

 

「悪魔に魅入られてしまったものはもはや別人です。たとえどれだけ良いように想像と解釈をしても、元のような清い人間ではもうありません。普通のものではない。普通の人間が、大悪魔になるまで適し悪の芽が育つことはありえないのです」

 

「ありえない……そうだな、あの時の私はちょうどそんなことを思っていたな。だがそいつが何者になったとて、やはり私にはあまり関係のないことだ。そんなヤツのことはとうに、顔、カタチ、好きな曲や食べ物まで、忘れてしまったことだからな。お偉い一国の校長先生ともなると、今は生徒たちの世話の方が」

 

「いいえ、あるのです。あなたが忘れようとしても拭いきれないあなたの罪として」

 

「結局この私に何が言いたい?」

 

「ええ、あなたという存在が現世に決していてはいけない明確な理由があります。その悪魔の右目はクリアクレアの左目といくら一方が存在を抹消し忘れていようが、妖しい繋がりをもっている。右目と左目、両目を一人に使わずにわざわざ分けられ置き去りにした──それがどういう意味を持つか分かりますか? 彼女が何を狙っているか、何を考えているのかが……そう、分かるはずがないのです。悪魔の考えることなど」

 

「分かるはずがない……か……確かに私にヤツと共にするこの灰色の青春の繋がりと、存在するだけの罪があるとして、あるとしてもだ。この今の青き尊きを謳歌する不黒の生徒たち、不黒の学校自体が、こんな知らない赤空の下に晒され濁らされ巻き込まれてしまうのは、いただけないぞ? 何らかのそれ以上の意思が介入していようとも、リアクションが大袈裟すぎるというものだ」

 

 見上げる緑の葉は、天に染まる赤を隠しとおせない。ブク高の校舎は相変わらず赤く濁った妖しい色合いの空の下に存在している。もういくら待ってもあの青に晴れることはない。そんな隔離された昼も夜も曖昧な不条理な小さなセカイである。

 

 天を見上げた不黒文は両腕をひろげながら、首を傾げた。いったい誰の仕業であるのかを、隣の黒髪の女神に問いかけるように。

 

「それもあなたが集めてしまったことなのです。やはり魔は魔を惹き寄せる。あなたは知らずその目で多くの子たちの才能を見抜き、この場所に集めた」

 

 問われた女神は毅然としている。いくら話せど最後はやはりその目に帰結する。発端は灰色のその目であるのだというスタンスを崩さない。

 

 そして、不黒文がトップに居座るこの不黒高校そのものが、彼女と同じ罪を背負っているとでも女神は言いたげであった。

 

「集めた……それがどうした。学校は生徒を集める場だ! 私がワタシの人生を好きにやったことだ、あの日出会った悪魔に魅入られてなどはいない! すこし変わった可愛い生徒たちのことをこの灰色の目をもってして、逆に利用してやって、ちゃんと凝らし見ているだけだ! それをなんだっ、慈悲深き神がまとめてくるめて一緒くたに厄介払いと言いたいのか?」

 

 急にトーンを変えた校長の放つ粗暴な言葉遣いにも、聞き通した黒髪の女神は動じない。

 

「ダンジョンのブックを集めることは、唯一残された、現世にとどまることの許されないあなたに課せられた使命です。だが、あなただけでは頼りなく、異能は特別なものであれど何もできない。だからこそ不黒文、あなたに絶対の信頼を寄せあなたをサポートする、そんな者たちが必要であると」

 

「ははははは唯一がこれとは何を勝手なことを言っている。それに細川、中川、三河、副島っっ私の可愛い男子生徒たち4人のことはどうなっている。これは痛い目を見た私の持つ確かな経験則だが、他者に勝手に押し付けるような分からぬ使命ほど呪いじみたものはないといえるぞ!」

 

「……こちらで彼らのことは預かっています。思い出してください、あなたが覚醒したその異能と夢のはざまで会った私の念体に最初に願ったように、彼らの魂はこちらで結んだ契約のもとに無事に保護されています。そちらにあるのは現身であり、魂が無事であればまた不黒文あなたの特別な異能でしっかりととどめた彼ら本来の現身へと……その異能が順調に成長しさえすれば戻すことができるでしょう。あなたが彼らの異能を一部使えるのは、肉体と魂の繋がりが失われていない。そういうことです」

 

「(契約だと……たしかに言われてみれば──)ふっふ、私の異能【ネクロマンシー】がまだまだ彼らを生き返らせ呼び起こすには未熟と言いたいのだな? そして次に、この見知らぬ隔離された異境、それに危険なダンジョンと知らぬ存ぜぬ余裕をかましているそちら側。どちらにも我々ブク高一同は挟まれるようにし、生きようが死のうがその魂を契約と名打ち囚われているということだな?」

 

「それは、──どう考えるかです」

 

「ふっ。なんだとぉ? 『どう考えるかです』……はははは、やはり……どう考えても────運悪く悪魔とダチになった校長、そしてその敬虔なるブク高の生徒たちに、その薄いいかがわしいブックとやらをなんの趣味か命を賭けてかき集めさせるというのは人に、大地に、生命に、信じるものに慈悲深き女神ガイア様のやることではないーー!!! さらによく見ればいつも拝んでいる石像様と、顔もヒップもおっとりさも全然ちがうなーー!!! あまりにも妄想と想像の斜め上、出てきたのはクソパッツンのビジュアル系黒髪日本神話だぁーーっ、一体何者だ! 買い叩く古本屋の店主ならただではレアな古書は売らないぞ! 即興の使命や、伊達や、酔狂や、アソビで世にもあぶないダンジョンの探索ができるか!!! できるというのか!!!」

 

 まるで機関銃。勝手に一人で盛り上がりヒートアップしていった不黒文のおしゃべりな口は、もはやしっちゃかめっちゃか訳が分からず。だが、ひどく失礼なことを怒涛の勢いで吠えるように放ちつづけた。

 

 やっと鳴りやんだ、お隣に座する女神へと向かった失礼な音の弾丸に────

 

「フッ。何者か……先ほどからひどく息巻き勘違いしているようですね。私は悪魔や天使神々、天界や魔界や現世、訳の分からない異境魔境のことなどッ、どうでもいい。常々こう思うのです……ただイチバン強き者が天に近づき勝ち進み天を戴き、弱きものは相応の可愛らしい振る舞いと熱のある声援を精一杯つづければいい。そうしていれば強き者が弱きを時に救い、そしてまた強き者がまた新たな灯に期待を寄せ、あれこれと教え構じるのは当たり前のこと。不黒文──私が興味があるのは、あなたの宣う思想や運の無い天界の定めた罪などではなく、あなたのその大悪魔の誘惑をも挫き、その灰色の瞳を己の一部にし取り込み活かしていくそのっ〝胆力〟です! そして私は特別を自称するそんなあなたに相応しい別の生きる術と、あなたを慕う子たちをその異能の輝ける闘いのステージへと導いたまで……使命などォ、黙ってその薄い嘴をひっこめて受け取っていなさいッッ!!! 我こそが天戴武天(てんたいぶてん)ガイアのヌイ、この世界ガイアに集い争った強き者の頂天にただ独り君臨する真の炎!!! 私に矢をっ、槍をっ、嘴をっ、他愛無い不平不満を雨霰のように突き刺しぶつけ止められるものか!!! 止められるものがあるとするならばそれはさらなる強き炎、この身を焦がしひき裂くほどの異能・魔力・チカラのみ!!!」

 

 美しき女神にこれしきの口撃など効きやしない。対抗して激しく燃え盛る怒れるような炎の気と、勇ましすぎる女神の語気にあてられてしまったスペシャルさんは笑っている。────笑うしかなかった。いきすぎたからかいが引き起こし返ってきた、予想以上の美しきその熱気に。

 

「それが女神の本心とは、ふっふ、強火過ぎて明日に天地が焦げ付きでもしたら、ひっくり返さないとな」

 

「────本心? いいえ違います不黒文。天を知り、己を知り、天になりやっと己になり、見下ろす視野は果てなく広まれど振り下ろすこの拳は……なんとも狭いものです、それもまた真実。そしてまた今日、新たに台頭しつつある強きと闘い自由久々の汗を流しでもすれば、コインの表と裏は行ったり来たりひっくり返りもするのです。今の私の見ているあなたには罪も使命もない。そしてこれは元はカムリ村の闘士、ヌイからの命令です──もっともっとこのふざけたダンジョンとやらに、めげなく挑み、果てなく強くなりなさいッッ、才ある子たちをその優れた目で引き連れて!!!」

 

 立ち上がり、燃えていく。

 

 勇ましき女神の叫びに、起きた茶室のコカトリスはグラウンドへと羽ばたいた。

 

 手をつけるのも忘れられていたセムラの中のクリームは、天へと立ち昇るただならぬ魔力と熱気に溶けていく。

 

 ブク高の校長不黒文とカムリ村の闘士ヌイ、悪魔も女神もそこにはない。ただ強き者が大きな声で命令をした、才ある彼らがめげなくダンジョンに挑み果てなく強くなることを──────。

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