※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

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32 それぞれのエピソード

《調査、堕天使》

 

 オレンジ髪がひとり椅子に座り、光る目の前の画面に目を凝らす──撮影室②にて。

 

 viewtube投稿動画の編集作業を請け負いその他もろもろの細かいアドバイスなどをし、今上り調子のviewtuber鬼叉ちゃんねるのことを精力的に手伝っていた木浪智火瑠。

 

 彼女は鬼叉ちゃんねるが今日投稿した動画に寄せられたコメントを、ノートパソコンで巡回中に目撃した。

 

 

⬜︎コメント199件

カシオ:風紀ってなんだっけ?

モチカスタム:風紀のゲシュタルト崩壊

ルルル:ひよこの餌やりかよ

ry:ひよこ系男子かわいい

ハーレム王:男を混ぜるな!!!

まさむね:ハーレム王(血涙)

JKⅢ:女子校じゃぬかったのかよぉーーー!!!

ラフレシア:亡者どもの叫びがすんごいぞぉ!

片栗粉兄さん:アレ、俺の弟

テスト中:俺のかも

ドスケのべべん:俺も爆散四散した弟がいたわ

ダイナミックな鯉のぼり:弟ならばしかたない

チヂミ:急に兄弟増えてて草

田中:この現実逃避のしかたよ

ドア:てか食い過ぎだろ

飯を食う:倍速逆再生でみるとおもろい

テンション:食いっぷり!

なぁなぁまん:なぁなぁなんでこいつ左右違う靴はいてんの?

ベスタミ:ガチで草

申し訳ありません。:これなんのちゃんねるだっけ?

wing:戦闘術デザインアドバイザー

空猫:イニシエのビュアーだけどこいつのちゃんねるマジでその辺は見境ない

どこどこ工場:うさんくせぇ肩書きだな

★チョコっトレーナーかかおら:ナイスウィートカロリー。鬼叉ちゃんねるさん、食後にチョコっと私と調整コラボしませんか?

でみお:わけわからないのにコラボをもちかけられるまで成長しましたなー

堕天使:中身がない

堕天使:華がない

堕天使:編集がしょぼくて雑

堕天使:この動画のパフェのパクリviewtube45632111osyare.ice

キシ:まぁ似てはいる

かかと:言うほどか?

ffg:探せばそりゃ似たのひとつぐらいはあるだろ。てかパフェ作りが売りじゃねぇし

堕天使:丸っきりパクリの劣化版だから、カントリーパームをアイスにしただけだしそんなの既出だし、あの飴細工のフレーバーソースの角はさっきの動画のユニコーンデビルパフェのやつと作り方いっしょ

ななし:堕天使うぜぇ…

ささみ:viewtube警察に目をつけられたか

デッカちゃん:まーパフェはほとんどパクリだな。だからなんだって話だが

堕天使:あとノーカットがあざとくて鼻につく。このちゃんねるのビュアーとの信頼がない証拠。過去動画も色んなことに手出してるけどview数しょぼいしどれも地味で雑だった。ここ最近ちょっと伸びたのはあの竹馬の女神のおかげ、完全におこぼれでガツったのはこの動画の実力じゃないし

★ハイナミTV:ぶひぶひうっさ

堕天使:は?

★ハイナミTV:お、どした?

堕天使:ハイエナTVがうるさいんだけど

★ハイナミTV:あながちハイエナ? 残飯あさりにきた豚天使に噛みついた

なかにし:ハイナミきてて草

おじさん:コメ欄で争うな

ボロリッチ:コメ欄で争うなおじさんきた

胸肉:こんでいい

たれ帽子:だれだよハイナミ

母丸:北風系viewtuberばっか紹介してるのでちょっとアングラで有名なヤツ。コイツが紹介した中でプチ有名になったヤツもいる

アナベル:最近更新してなかったじゃん。おひさーハイナミ

ノーネーム:誰と誰が誰のちゃんねるで誰してんだよ

亀吉:なんかわからんがいいぞーもっとやれ

堕天使:ハイナミTV? あーあー、view数すくないviewtuberの動画みながら小馬鹿にしてじぶんのview数と小銭稼ぐviewtuberもどきじゃん。ゴミみたいなふざけたピンクサングラスつけた腐ったオレンジ髪女、viewtuberたちの生き血すすってポイ捨てしてあんたとわたしのやってること何がちがうの?? 感想を動画化するかどうか??

出っ歯:これはクリティカルヒット

マイナミTV:これにはハイナミストの俺もなにも言い返せず。ぐぬぬ

天体観測:標的かわってねぇか…?

★ハイナミTV:お、ワタシのことよく知ってんじゃんコイツ、さては元北風かぁ?

堕天使:あんたなんか無名知らないし

★ハイナミTV:あんたなんか無名知らないし(歓喜)

堕天使:は?

★ハイナミTV:は?(照れ)

堕天使:関係ないとこにしゃしゃり出て首突っ込まないでくれる? クソオレンジ⭐︎

★ハイナミTV:は? オッケー、じゃあワタシの個チャで首ひっこめて待ってるから逃げんなよ⭐︎堕天使

メッセンジャー:どうしてこうなった、場外乱闘

てりやりバーガー:鮮やかな誘導劇、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

まさる@銀の小鬼:近頃態度の悪い新参が多すぎる! まったくここを誰のちゃんねるだと思っている!

jackとパめの木@金の小鬼:ふふっみんなブク高ちゃんねるから来てくれた若いのだから大目に見てやって、まさるちゃん

でんぐり返しできたよっ!@銅の小鬼:推しのview数が俺の幸せ

⬜︎

 

 

「は? さっそく予想通りイカしたコメントきてんじゃん。いかにも有名税ってかんじ、きょうもそよ風がびゅーview吹いてんじゃんねぇ! ────堕天使コイツぼこるわ」

 

 ふざけたピンクのサングラスをかける、ふざけている訳ではない。オレンジ髪をうしろに縛り、気合いを入れ直す。手元にあるノートパソコンのキーを鮮やかなブラインドタッチで、ジト目冷静に連打する。

 

 売れないviewtuberこと北風たちの投稿動画を見て腹を抱えて笑う者がいる、人はそんな彼女のことをこう呼ぶだろう。

 

 北風動画紹介系viewtuber、ハイナミTVと──。

 

 パソコンのモニターに目を凝らす。自分の持つ個人チャットへと誘い込んだハイナミTVは、そのみえない大敵、ユーザー名〝堕天使〟の調査に動いた。

 

 

 

 

 

 

 

《頁の海、天界のいろいろ》

 

 トップ同士、ブク高の校長不黒文と一本木の下の茶室での秘密の会談と交渉を終えた女神ガイアは、回収した【みどりのブック】と土産菓子を手にし、天界の石羽にある《カブト石山》の館へと帰った。

 

 

 

⬜︎

※《石羽(せっぱ)》とは石ノ仏区(ぶっく)と呼ばれる広大な世界の名であり、その広大な石羽の中のさらに細かい区分、第467S頁区(ぺいじく)の名は《カブト石山》である。

 

 天界を属性を分けるように区切る仏区には、他にも上位神たちの住む《天峰(てんほう)》こと天ノ仏区、海神や水神たちの好んで住む《波文(はもん)》こと水ノ仏区、主に下位神、神格を持たない者たちの住む《茎(なかご)》こと白手ノ仏区などがある。

 

 天界は多様な環境に、様々な神々がそれぞれのポリシーを持ち住む……あるいは潜む、数えきれないほどのページで構成されている世界なのである。

⬜︎

 

 

 

 

 白く霞む景色と一本の長い橋を見下ろせる石色の頂、神秘厳かなるカブト石山に立派に構える和の館へと────

 

 今、黒い羽衣を被った貴き存在が舞いもどった。

 

「遅いお帰りでしたね武天様。ちなみに再度釘を刺しておきますが、下界でそのチカラと魔力を好き勝手に行使することは許されていませんよ。何を考えているのですか、頭が割れそうです。(その恰好はなんですか?)」

 

 降り立った美しき黒を迎えたのは、淡々とよく喋る黒い唇のピンク髪。ピンク髪を威厳ある宝髻(ほうけい)に結った側近の天女であった。

 

 歴代の天戴武天(てんたいぶてん)ガイアの教育係でもある古参の彼女、黒天女(くろてんにょ)は厳しい面持ちで、館の門前でガイアのことを待ち構えていた。

 

「少しトラブルがあっただけよ、それも既に受け取り解決したわ。この焼け焦げた輪をまた作れば【天能システム】は勝手に許してくれると思うわ。頭を割る必要はなかったわね。(これはじぇーけー戦闘着よ)」

 

 持ち帰られたたくさんの土産の品は、駆け寄ってきた動く石犬の式神に元気に咥えられ好きに持ち運ばれていく。その中のひとつ、【焼け焦げた輪】を咥えた石犬から回収した黒天女は、眉間にえらく皺を寄せながら誰にも聞こえるような溜息をついた。

 

「じぇーけ? なんですかそれは…………はぁ……だから贖罪中の問題の罪人の元には私が赴くと言ったのです! 輪が焦げるぅ!? 何があったというのですか!? 普通の神々はどれだけチカラを振り絞ってもそうはなりません! 訳を詳しく聞かせてもらいますからねっ、これはひょっとすれば天峰会議ものですよ! それに輪の報告をそう何度も下界への降臨時のエラー報告という体で偽ることは、さすがにおかしいことに気付く者もでてきます! この腕の【天の輪】は天能システムにより正しく管理されているのです。神聖なる歴代神々の意志の結集である天能システムに、神格と天性と性分を不適格と判断されれば〝天戴武天ガイア〟の名と手にした神力の大部分を今すぐにでも取り上げられてしまいますよ! これは由々しき……」

 

「炎神(えんじん)はもっと自由だったわ。天界の誰も彼からは何も取り上げることはできなかった、取り上げられることの方が多かったものよ」

 

「天の輪を幾度も焼き尽くし『俺を制御したいならもっといい首輪を焼いて持ってこい』などと宣い……あまつさえ天能システムを野蛮にも燃やし壊し、一時機能停止に陥らせるまで……そして略奪した天戴武天ガイアの名を、暴にまかせた腕試しで天界中に賭けるような真似をする自由奔放なあの例外を出すのはやめてください! 前前任が問題外のアレで、前任が色ぼけたお花畑の女神だったからこそ、炎神様の後を継いだガイア様は腕っぷしだけではない、知恵と慈愛ある歴代でもバランスのとれた人格者と評価されて、元の天界の秩序を取り戻しつつあり皆にこうして愛されているのですよ! あなたの心根は勝手気ままに姿をくらました奔放な炎神様などとはまったく違います。くれぐれもそのはばたく偉大なる聖なる道の先を、見誤らないでいただきたいのです! まったく幾度思い返してもまるで鍋の底に焦げついた黒歴史です……姿をくらます前に後継探しをちゃんとした分には評価しますがね……。噂ではまた火の立つところにずけずけとあらわ」

 

「────よく分かったわ、準備をしなさい黒天女」

 

「はい? このためた訴状や書類の束のことですか! それよりも先に新しい最高グレードの天の輪を用意する必要があると思われます。失礼ながら天戴武天ガイア様といえど、アレが以前暴れた一件のせいで、天の輪の認証なしでは危ういと判断され、天峰には入れませんがそこはまた私がなんとかし」

 

「私が何者であったかを思い出したわ。いくら座学にふけり勤しみ書物を漁ろうとも、質(たち)は変わらない。しょせん武天、カビ臭い訳の分からない本を読むばかりでいらぬ賢しさを増すばかり……。いつしか拳を握りしめたまま仕舞い、他の者へとばかり目を向け、だらけた神々の要望を満たそうと知らぬ頁から頁へ奔走する日々に本題を見失っていました。そして理解しました、この天戴武天をさしおき天峰で優雅に遊んでばかりいるお花畑な連中のことなど、〝知ったことではない〟何百年いくらと学ぼうがあの者たちとは属性が違うのだと、たった今その薄っぺらい紙屑の山を再度拝み見て、己の心に深く学びました」

 

「な、なにを……? 武天様は確実に立派になら」

 

「準備をしなさい黒天女、第四回天戴武闘市(てんたいぶとういち)の!!! 天能システムも再び燃えろとこのヌイに味方をし言っているわ。台頭する灯火たちを、冷たい場所で燻らせるわけにはいきません。武天とは一番強き者の称号、ぬくぬくと本や紙束をこの手で受け取り過ごすことなどあってなるものか!! 試しの時は今、この拳が唸るのは今、今をおいてありません!!!」

 

 

 ふらふらと風に散る白い紙を、天を見つめ握り締めた神の拳が燃やし尽くした。

 

 主神の豹変に、呆気にとられた黒天女は館の門を過ぎゆくその堂々たる背と熱く天にまで迸る赤き神力の威厳に────何も言えず。いつの日か見た炎神の背姿と彼女のことを重ね合わせた。

 

〝第四回天戴武闘市〟

 

 天戴武天ガイアの抱き掴んだ新たな野望は、メラメラと燻りつづけていた迷いを今全て燃やし、その勇ましき瞳の奥に新たな火が勢いよく灯り宿った。

 

 

 

 

 

 

《忘却宣言》

 

 本校舎屋上ハーブ園にて。

 

 いつもよりソファーに座り待つその男の姿はお疲れのようだ。様々なレアな生地を手触りを確かめながらツギハギにし────男子生徒のブレザー背は、まるでそこだけステンドグラスのようにおしゃれに縫い上げられた。

 

 いつものように出来立てのブレザーを袖に通し、彼はその背にかける。初めて出会った時より、少し逞しくなってきた。そんな彼の背はなんだかおかしい──。

 

 ぼーっと赤空の果てを眺めていた彼は、いつものように屋上の彼女に礼を言う。

 

「あっさんきゅー、えっと……そだ、コスモスさん!」

 

「そうだね、礼は忘れずに。ふふ」

 

 それからは彼女はいつものように彼に適当につけたその日限りの名で自分のことを偽ったり、ふと本音を織り交ぜ唐突に告げてみたりすると、その度に彼は同じようなリアクションを見せる。

 

「絶対忘れてしまうか……ぅーー……あ。ならこのスマホでさぁ、『あーあー、俺浦木幸、屋上でえーと……コスモスさん、金髪ショートの学年不明女子にぼろぼろのブレザーをまたいい感じに直してもらったぜ! ────雑談①終わり!』────あぁー、こんな風にさ録音するのってどうかな? あとは……そーだな、あ。歌にするとか! それならずっと覚えてるかもしれないし、忘れた頃にまた廊下や風呂場とかで口ずさみながら思い出すかもしんねぇ、はは! 俺ってなんか最近どうやら……〝馬鹿〟ってことで通ってるらしいんだけどさ、歌の歌詞を覚えるのって、たぶんそれ数学よりできるぜ! だってさ、どんなに古い流行の歌だって学校の成績なんて関係なく、そうそう皆忘れないだろ? どう? 正解っ??」

 

 無邪気に彼は笑う、いつもと変わらぬ彼なりの答えを見つけ出して。

 

 なにを録音しても明日にはまた不思議とまっしろに消えているのかもしれない。

 

「ふふ────じゃ、歌って?」

 

 驚かされた顔をした彼女の方は、彼にその答えを聞かされるのはもう何度も慣れっこだ。でも、たとえ答えを知っていても何度も繰り返してしまう。それは悪いことなのだろうか。

 

 彼女はいつものハープを抱えてきて、また同じように言う。

 

 彼女もおぼえている。彼が好きだと言う〝めぐるトキの歌〟をいっしょに──

 

 

 

 

 

 この世には悪魔がいる。色んな悪魔がひそんでいる。悪魔たちの考えることなど分からない。忘却の悪魔が何故、屋上の彼女に干渉し目をつけたのか、そんなことは誰にも知る由もない。記憶の輪の外にある誰も知り得ないことだ。

 

 だがしかし、たった2人の人間たちの考えることもまた輪の外にいるその悪魔には分からない。ただ、愉快な歌声と疾走感のあるメロディーが2人の間で渦巻くように繰り返し流れつづけている。

 

 

 

「やっぱこの曲さ。ずっとサビみたいで、なんかいいよな?」

 

「ふふ、それ、もう何度もきいたよ」

 

「ええ!? あぁー、おれもそれ……何度かきいた! ……気がする? はは」

 

 

 

 

 

 

 

 

《不思議な彼女と不思議なピース》

 

 不黒高等学校、東の図書館にて。

 

 

 登別海は不思議な人だ。学校の通信簿の成績はいつの頃からかいつもALL4を取るようになり、普通の生徒より全てをそつなくこなすことが得意であり、だが取り立てて賢すぎるというわけではない。途中で勉学に飽きてしまうのか、いつもALL4。そちらの数値を揃えるように目指す方が難しいものだ。

 

 高校生にしてはどこか物事を一歩後ろから達観しているが、それでいて自分の持つ知識を披露し賢ぶるだけではとどまらない。その知識の先で得られる面白いことが彼女は好きなのだと言う。

 

 ただ彼女の言うその面白さはすこし特殊である。追加ルールといい、既存の遊びに手を加えてまた新しい遊びを生み出すなど変わったことをする。特にカードゲーム、ボードゲーム、じゃんけん、竹馬、お手玉、昔の遊びなどにも興味があるらしい。

 

 近所のホームセンターで仕入れたという雑学の数々は嘘か真かよく分からないが、するすると彼女の口から発せられてゆき、落ち着いた理知的な雰囲気もあいまって皆の耳にはもっともらしくも聞こえる。

 

 ダンジョンにおける戦闘の面でも冷静沈着。強敵であった黒騎士相手にも皆の異能の使いどころを思案しながら結果、勝利へと正しく導いた。

 

 ピネスにとっては同じ高校の女子ながら校長並、用務員以上の大人びた信頼感がある。また校長にとっても彼女をブク高の秘密兵器と称するほどに、普段は秘めし彼女のその能力を買っている。

 

 風紀委員部の部員でもある登別海は、小角灯部長と主に部室で行動を共にし、さらに校内の巡回、一部生徒の風紀を正すなどの仕事を日頃から快く手伝っている。

 

 

 

 ピネスは目に見えた恐竜図鑑を何の気なしに本棚から取った。そして今できた本棚の隙間から、向こう側に映るミントグリーン髪の生徒の姿をじっと眺めていた。

 

 これといって悪気はない、ただすらりと背の高いその人のことを、本を片手に考え読む仕草を、彼はこっそりと覗き見る。

 

 しばらくそうしていると、本棚に空いた不自然な穴に突然暗幕がかかる。そして、また塞がれていた本棚の視界が明け光が差し込むと──

 

 不意に目と目が合う。見つめ合ってしまった藤色の瞳、その突然差し込んだ眼光に、覗き行為に耽っていたピネスは驚き後ろに跳ね飛んだ。

 

 やがて、何かただならぬ衝突音が響く。登別海は覗いていた向こう側のトラブルへと駆けつけた。

 

「図書館は静かにつかわないと小角部長がとんでくるわ、浦木くん」

 

「いててて……あぁーすまねぇ……ってさすがのコズミも、シュブンキン案件以外ではそんなすぐにはとんでは来ねぇだろうけど……。言われた通り静かにつかおうとは思う、いてて……」

 

 後ろに尻餅をつき転んだピネスへと、背を打った本棚からさらに、本の雨が降り注ぎ山のように堆積した。

 

 静かとはほど遠い光景なのは確かだが、このタイミングで彼女のその台詞は違うのではないかとピネスは思わずにはいられない。全国の図書館利用における普遍的なルール、『図書館は静かにつかいましょう』などという当たり前のことをこのタイミングで言われても──ピネスはただ頭や体が痛い。間抜けにもダメージを負った彼が、駆けつけた彼女にやさしい言葉の一つを期待していたのは悪いことだろうか。

 

 冗談か、からかったつもりなのか。さっきのが登別なりのユーモアかどうかは分からないが、ピネスは今後学校の図書館を利用の際は『静かにつかおう』と、災難が降り注いだこの体の痛みに軽く誓ったようだ。

 

「ん、浦木くん──それは?」

 

「え? いてっ──……あぁー、コイツか。んーっと……アレ、アレだ、ちんしゅつきばつっていうのかな? とにかくアレだ! えーっと、なんだっけ……?」

 

 彼の頭上にちょうど乗りぐらついていた本が一冊落ちてきた。

 

 しかしそれは本ではなかった。何故ならばピネスは今落ちてきたそれを目にし手で触れた時には、それが何か思い出したように分かっていたからだ。

 

 だが、それが何であるかはもう喉元まで言葉に出かかってはいるものの……何故か上手く言い表すことはできなかった。不思議な感覚に囚われもやもやしたピネスはとりあえず、【白いそれ】を気になっていそうな登別へと手渡した。

 

「うん、珍出奇抜でも合っていそうだけど神出鬼没(しんしゅつきぼつ)だと思うわ。──いいの? ありがと。これは、────……黒い……ジグソーピース?」

 

 ピネスから受け取った一冊の本ほどの大きさの白。登別はさっそく興味心から色々と触り探っていくものの、しかしどうやっても開かない。

 

 どこを探しても真っ白。ボタンも、切れ目も、ページもしおりもタイトルもない。何の変哲もなさそうなないそれに、思い立った登別が手に込めた魔力を流してみると────

 

 ひっそりと音を鳴らし、今不思議と開かれた四角い白箱の中には、絵柄もなにもない〝黒いジグソーピース〟が無造作に詰め込まれていた。

 

 

 

 

▼▼

▽▽

 

 

 

 

「不思議ね、魔力を上手く使わないと解けないジグソーパズル。作られた絵を完成させるというより自分で次々と練り出して繋げてゆく。白い箱を開けた時に最初に一つだけあった色付いたピースの情報とヒントから、未知のつづきを推測して作る。そんな不思議な感覚だったわ」

 

「あぁー、ぅー……そうだなやっぱ不思議だ。しかしなんか今回はいつもより上手くいった感じがするな? これって、女子の顔? 茶髪の……なんだろうな? まさか用務員のあの方ではねぇよなこれ……?」

 

「そうね、用務員さんかどうかは分からないけど。格好や髪型は現代……ブク高の生徒なのかも?」

 

「ブク高の生徒? あぁー、そうか……もな。でもなんだろうな、なんかちょっと怖い物を見たって感じの顔だぜ?」

 

 黒いジグソーピースに魔力を込め色付けながら作られた絵は、茶髪の女子生徒の顔であった。しかし完成したそのジグソーパズルの絵の女性は、少し不安げな表情をしているようにピネスには思えた。登別もピネスの言ったことに同調し、その絵の女性があまりいい表情をしているようには思えなかった。

 

「そう、私も明るいものではないとおもうわ。──浦木くんはこの女性の絵を他にも作ったことはある?」

 

「え? このたまに遊べるジグソーでか? いや……確かないとは思うけど? 俺の時は確かそうだな……なんかえーっと……そうだ! 荒野っぽい所で、竜巻に飲まれた鎧兜の男たちのいかにも痛そうな光景だったり、あぁー、あとなんだ? なんか馬みたいな生き物と男がいて、その男が赤い熱いのをハンマーで熱心に叩いていたっけ」

 

「鍛冶師ね。きっとその荒野を行軍中に竜巻の災厄に見舞われた鎧兜の兵士たち、そしてその後に鍛冶師が……あ、壊れた馬の蹄鉄を作っているんじゃないかしら? なにかしら? 何か一連の戦いの歴史を意図しているのかもしれないわ。浦木くんの作ったそっちの方がファンタジー要素が豊かで、紐解いていく分には面白そうね」

 

「まったく俺の願ったものでもなんでもないから、それが面白いかどうかは分かんねぇけど……これってもしかして、アレか? 見えてくる光景や情報が、人によって違うのか?」

 

「そうね、きっと最初に白い箱を開けたときの性別や遊ぶ人数、魔力の具合なんかで出来上がる絵の系統が違うのかも。まだ私は一度目だから推測するのは早いけど、そんな気がするわ」

 

「そうだとすれば、かなりすごいなこのジグソー……。でもまぁ、絵はなんにしろ、学校でえっと……シンシュツキボツ! にも、見つけたらラッキーって感じのヤツなんだよな」

 

「そうね、神出鬼没。繋いで遊んでいただけでも内在魔力が底から鍛えられていくのが分かるわ。──うん。面白かったわ。もし良かったらまたこれを見つけたら誘ってくれる? 続けてピースを解いていけば、この茶髪の女子生徒のことも何か分かるかもしれないわ」

 

「あぁー、いいぜ? って消えてる!? ……まぁまた見つかったら、あぁー、PINEするぜ!!」

 

「ええ、たのしみにしてるわ浦木くん」

 

 ピネスが登別と熱心に話し込んでいると、そこにあったはずのジグソーパズルはいつの間にか忽然と姿を消していた。

 

 浦木幸は登別海とまた一緒に、このミステリアスなジグソーパズルで遊ぶことを約束したのであった。

 

 ジグソーパズルを完成させた浦木幸と登別海の内在魔力量が、すこし上がった。

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