異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
⬜︎モンスター情報
【ジャイアントロックスパイダー】:
地属性の巨大蜘蛛型モンスター。
通常の蜘蛛型モンスターより硬さと攻撃力ともに高くなっている。
ただし糸を吐く能力は失われている。
そのかわりに地に宿るマナを脚から吸い上げて行う再生能力と、厄介な【ロックスパイダーボム】を召喚する能力をもつ。
【ロックモック】:
地属性の雲型モンスター。
常に浮遊しているが硬い。硬いだけではなくその体は柔軟性や弾力もあり、空を主戦場とする上に動きも素速い。たとえ上手く捉えても生半可な攻撃ではこのモンスターのことを倒しきれないだろう。
雷や雨雹を模した地属性の遠距離魔法に注意。
【ロックスパイダーボム】:
触れると自爆する小型の石蜘蛛。
足元に注意。
⬜︎
やって来た《ちゃいろのダンジョン80階》、上階になるほどにやはり敵は強くなりダンジョンの攻略難易度は厳しさを増す。しかし備えあればそこに恐れと油断はない。階層主であると思われるボスコンビとの戦闘になったブク高パーティーは、閉ざされた石色の大部屋にて蜘蛛型と雲型、2体のボス級モンスターの分断に成功した。
巨大石蜘蛛の相手をすることになったのは、やはりブク高唯一の男子生徒であるピネス。
鋭く長い前爪脚の攻撃は言うまでもなく強烈。八つ脚を操り地を抉りとる攻勢凄まじい巨大蜘蛛に対して、ピネスは赤と緑のSPスニーカーで地を駆け回る。とにかく汗水を垂らし、串刺しにされないように動き回り巨大な敵を翻弄する。
攻守鉄壁の蜘蛛のリーチと殺気をかいくぐり、ピネスが虎視眈々と敵の隙を探そうとしていたその時──
ピネスの残像へと振り下ろされた蜘蛛の脚爪は、地を抉る本来の威力を発揮することはなかった。
巨大蜘蛛のモンスターが今抉ろうとした地が不思議な弾力を帯び、そこを踏みつけた途端何故か軽やかな音色が鳴り響いた。そして、なんとも奇妙にも巨大蜘蛛らその地を踏み抜けず。踏ん張りの利かなくなったその長脚ごと上方へぴょんと跳ね返されてしまった。
「音?? サーチさんか、さんきゅー!」
羽帽子を被るサーチは彼の声を耳にし口角を上げた。さらに練り上げ楽器を満たした魔力と共に、手持ちのハープを厳かに奏でた。
奏でられる【ツチの歌】──届いた音を吸収し魔力を含んだ地面が、不思議に弾む愉快な天然の楽器になり、巨大蜘蛛の持つ敏感な蜘蛛脚があわあわと立つ地にまるで踊らされるように弾かれてしまう。
ただただ手強く冒険者たちの命を狙う、巨大蜘蛛のモンスターの愉快なタップダンスなど滅多に拝めない。
そうそう拝めないそんな踊りつかれたチャンスには──
大きな魔力の刻まれた六芒星のエリア内から繰り出したのは、雷光纏う三日月。必中のタイミングでヒットした【サクイチゲキ】が、踊り明け暮れていた右の蜘蛛脚をまとめて鋭くもいだ。
だが依然、倒しきれず──。はちゃめちゃに踊り動く蜘蛛ボスの胴体を狙いきれなかったようだ。まだまだ精度に課題のある外れたイチゲキでは、蜘蛛ボスの息の根を絶てず。
「やべっ!?」
蜘蛛ボスは、子蜘蛛【ロックスパイダーボム】たちを脅威である剣士へと体内から召喚し急速発進させる。
八つの内の三つ脚をすっぱりもがれたとて、地属性虫型モンスター由来のその生命力は伊達ではない。
大技を放った剣士の隙へとわらわらと送り込まれた増援の子蜘蛛たちは、地を高速で這い進みながら────弾む地面、弾む音色に起爆。
蜘蛛の子が散っていく、逃げる間もない。
断末魔は『ドレミファドドド──』
またしてもサーチが奏で音を地面に記録し仕掛けたトラップにより、ロックスパイダーボムたちを一掃、ピネスへと向かった攻撃を遠隔から援護し防いだ。
「よっしゃー!! 反げ」
子蜘蛛たちをけしかけた間にも、抜け目なく、もがれた脚の再生を始めていたボスモンスターの姿が見える。
そんな悠長をする猶予を許すわけはない。ピネスは意気揚々と前へと駆け出した。彼のその猛る剣がアンバランスな五脚で聳える巨大ターゲットへと向かう。
だが、勇ましき魔力を帯びたその剣の切先が辿り着くよりも速く、────抉り取った。
「やっぱ弾があるといい感じだね。でもでも色んなお膳立てと仕込みありでこれかー。単純威力はそこそこだけど、えらく長い溜めがあるのが難点だねぇ。これだと人型相手のガチの実戦では出す間も────あっ、弟子っちおつかれー」
切先の先を駆け抜けたのは、緑の球体。ターゲットへとぶち当たった球体は岩蜘蛛の胴体をみるみると削り取った。
登別の異能カードで付与されたグー属性と稲妻を纏ったエネルギー球は、敵の後ろまで貫通し、やがて消滅──。
八つ脚の連なる胴体を修復不可能にまでやられ、形を保てなくなったボス級【ジャイアントロックスパイダー】は、ごろごろと石塊を地に落としながら崩れ去った。
突然放たれた緑に光るドッヂボールで弟子の手柄をかっさらった用務員の池原は、顎に手をやりながら、ぶつぶつと何かをぼやいている。どうやら先ほど試射したその技が彼女の中で納得がいかないご様子だ。
「おっ、おつかれ……?? 弟子っちって言われたことねぇが……ってまだ終わってねぇぞモンスっ」
「まま、君の出番はあたし戦闘のプロのアシスタントで終わってなよ。ここはダンジョンっみんなチカラ試ししたいの、よっ!」
納得いかないのはこちら側だと言いたげな消化不良のピネスは、まだ残るモンスターの方へと援護に向かおうとしたが、池原がそんな急く彼のことをやんわりと止めた。
「おっ、おぅ……って俺アシストもタントしたつもりもなくてさ」
「え、そうなの? じゃそりゃ君が下手なだけだぁー。にゃはは」
「ご、ごもっとも……!」
池原の言葉はごもっとも。苦笑しながら受け入れたピネスは、向こう側で奮闘している仲間たちの活躍をここから見守ることにした。
タガヤは、石雲から降り注ぐデフォルメされた雷マークを模った石を、その足で宙に砕いた。
その雷石が砕く処理をする前に地に到達すると、また安くはない雷撃のマジックを地を通して浴びてしまうためだ。
ならば雷の次は雨、高く浮かぶそのボス級の石雲モンスターは、大量の細かな石雨のニードルを地に向けて発射した。横殴りの石雨が怒号のように降り注ぎ、ブク高パーティーの女子たちを襲う。
木浪はこの石雲の発する天候の変化に、魔法杖から練り上げた【ストーンウォール】で対応。
地から勢いよくせりだした石壁は後ろに隠れたタガヤを守り、激しい音色を上げ表面を削られながらも鋭い石雨のマジックを厚みの差で凌いでいく。
さらに木浪は3WAYの石弾を杖を指揮し飛ばしながら、浮かぶ雲型ボスへと牽制射撃を行った。狙いと範囲を変えた激しい雨にさらされても、既にあちこちに用意していた石壁に隠れながら、上手くやりすごし前で戦うタガヤへの援護を怠らない。
降り止まない雨が石壁を削り、織り交ぜ突き刺さる鋭い雷石が地を穿つ。そんな敵味方の魔法が乱れ飛び激しさを増す、石砕、石色、石合戦の戦場を駆け抜けたのは────
やはり、黒いタキシード姿とドレスシューズがよく似合う彼女。木浪の突っつく援護射撃で余裕のできたタガヤが、砂煙を裂き、石壁を大きく飛び越え、鋭い脚技【
砂煙の景色の中から突然超スピードで飛びかかってきた黒い踵に、宙をただよい雷雨を降らすことに夢中になっていた石雲は──回避反応が間に合わず。
ジンガの構えから始動し炸裂したタガヤの空中踵落としが、悠然と浮かんでいたその石雲のターゲットを打ち砕く。
踵がクリーンヒットしたその箇所から魔力が伝い、硬い雲が亀裂を一気に走らせ広げ、ひび割れていく。
だが、ここで石雲のモンスターは驚きの行動に出た。踵落としをまともに受けた箇所からひび割れが全体に行き届く前に、その修復困難な箇所を雲を散らすように躊躇なく切り離した。
結果、反射的にも分裂しながら今受けた致命的なダメージを抑えることに成功した。
一部体を砕かれながらも、逆にもくもくと膨張しカタチを変えていった石雲は、空中にとどまっていた隙だらけのその執事を、殴った。
その硬質の岩石ボディからは考えられない、雲のような変幻自在さで、瞬く間に形を成したグー拳。その怒れるグー拳で、無防備なタガヤへとカウンターのストレートを放った。
鋭い踵落としが炸裂したと思えば、まさかの反撃。宙の敵へと果敢に飛び込んだタガヤもこの展開は読めなかった。
しかし彼女は1人で戦っているわけではない。空中戦の状況を遠目から把握した木浪は援護を再開。木浪は地にまだ残っていた石壁のバリケードを、自身の異能を用いて上空へと杖で引っ張り飛ばした。
殴り吹き飛ばされた空中でなにもできないタガヤへと、気の利いた石の足場を供給したのであった。
「あるでしょっ!」
「ありますっ!! 【
飛ばされ後退していたタガヤはお借りした石の足場を力強く蹴り上げ、前方へと反転し打って出る。
ぶん殴ったフォロースルーで気持ちよくなっていたその巨拳石雲へと、不意打ちの回転後ろ蹴りが真っ直ぐに決まった。
だが鋭い蹴りの反撃をもろに受けた巨拳石雲は、手痛くやられながらも状況を利用する。吹き飛ばされ突き刺さったダンジョン大部屋の石壁から、地のマナを奪い取りながら即座に自己再生を図った。
そして、その動きにくい指の何本か折れた巨拳の姿から、モクモクとまた、元の運動性の高い雲型に変形しようとするが────
「あいこね」
起動した登別の異能【グー】カード。壁から勢いよく隆起した登別の生んだ新たな石拳が、モクモク身じろぎしていた不格好な物体へと衝突した。
今後ろから殴られ出来上がったその姿はパーでもグーでもチョキでも雲でもない。変化しきれていない物体が、自己再生し身だしなみを整え憩っていたその側壁から追い出され、弾き出された。
おめかし中だというのに、不意に突き飛ばされ慌てふためく異形の地属性モンスター。その慌てた石色の表情の中でキラリと一瞬視えた──曇った色合いのつぶらな目を。
見逃さない。しっかりと、石雲の体内に眠るその美しい宝玉を見据えた黄金の瞳は、狙い撃つ──。
番えていた矢が、ブレぬ美しい姿勢で構えるその弓から放たれた。
彼女の誇るその弓矢の命中精度は、運動場で試射したクレー射撃のスコアと同じく上々の極上。曇り輝く丸いコアへと突き刺さった一矢は──迸り溢れだす黄金の魔力と共に、絢爛に彩り爆発した。
目よりも大事な核へと矢の刺さった存在は、めちゃくちゃに姿を汚し怒り変えながら、弓を携えた美しき存在の眼前へと急接近するも間に合わず──。
ボス級モンスター【ロックモック】は自身を射抜いた弓師の彼女の前に跪くように、砕け散った。
やがて天へと飛び散った雲の欠片が、冒険者たちへと七色の石雨を降らす。
決着は狙い澄ましたたった一矢で、余韻美しい、その戦闘の終わりを迎えた────。
「く、クリティカル?」
⬜︎Venus情報
【クリティカルピーナッツオイル】:
CPオイルを矢尻に塗り、放ったクリティカルな一矢。
ピーナッツを譲渡した対象から特別なオイルを抽出できるVenusの異能【コピーナッツ】。
異能や魔法、特性、特技、など物質以外の能力をオイルとしコピーし一時的に保存することが可能である。
だが、そのオイルを使用してもすぐさま最大限の効力を発揮できるとは限らない。
コピーした能力によっては高い実力や技能、使いこなすための相応の努力やセンス、理解力までもを要求されることもある。
そして抽出されたオイルの効果はオリジナルの限りではない。彼女の手にかかれば全てがより美しいものへと変換されるのだ。
ピーナッツの譲渡方法は、受け取る、食す、節分の豆まきのように対象へと一定量ぶつけるなどが確認されている。その場合、それぞれの行為で相手の能力をコピーするために必要とされるピーナッツ数に違いがある。
ちなみに相手に食べさせるのがもっとも効果が高く、オイルの抽出が容易である。
⬜︎
ひらりと宙を舞いやってきたタコイカ学習帳をピネスは手に取り、読み込んでみたものの……。
「ぅーーーー……ダメだ。ぜんぜんこの取説を理解できねぇ……結局なんなんだ、そのクリティカルピーナッツおいるって……」
「ピーナッツ、どうかしら?」
ぼーっと突っ立ち、謎の異能の取説と睨めっこをしながら考え込んでいたピネスへと、ふと、いい香りが近づいてきた。
その鼻をくすぐる甘い匂いに振り向くとそこにはセンター分けの金髪。豊かにウェーブする金髪と、自信あふれる美顔の持ち主がいた。
いつものように、彼女は自らその右手を差し出す。そしてピーナッツをいくつか、友好の握手とともに彼に手渡した。
「おっ……おぅ? どうも? ア、なぁなぁアレってさぁ」
「あなたのキレ味、とくと見させてもらったわ。ピーネス」
「え? あぁー、そうだな俺もー……見させてもらったぜ。ビーナス、のキレ味? ついさっき」
「フフフ」
「ははは」
彼が今握手とともに受け取ったピーナッツは八粒。交わしたその手は少し湿っていた。
上品な仕草で似たように笑い合うピネスとビーナス。2人の間の友好度はまた何粒分か、互いの実力を認め合い上がったようだ。
浦木幸、木浪智火瑠、登別海、紫紫刀、池原叉鬼、Venus、サーチ。
無理のないローテーションを組みながら、此度7人のパーティーでダンジョンへと挑んだ末に────
今ブックマスターと判明したロックモックから、土石に埋もれたお目当てでお宝の【ブック】を回収することに成功した。
こうしてブク高パーティーが挑みつづけた《ちゃいろのダンジョン》は到達80階にして、完全攻略、無事クリアされた。
▽
▽
校舎内はあながち迷宮なのかもしれない。
ダンジョン行けない日はいつも不黒高校の校舎内を巡回、たるまずに風紀の維持に勤めるピンク髪の生徒がいる。
しかし、校内の巡回に慣れた風紀委員部部長の彼女でさえ、時に迷ってしまうほどに、知らぬ部屋や知らぬ雰囲気の廊下が増えていた。
「また勝手な改築をしているのですかぁ!? くぬぬぅー……仮眠室①仮眠室②、さん、しー、ご!? 多すぎなのです!? これじゃ仮眠じゃなくて爆睡のぐーたらなのーー!!?」
また誰かが勝手にこの学校の風紀をいじくったことは明らかである。毎日違う道を歩いているのは気のせいではない。
小角灯は、手製の校内地図を広げながら『くぬぬぬぬ』と唸り睨めっこし、また新たなルートを地図上の余白へと書き加えていく。校内地図作成も風紀委員部の仕事、彼女は部長として確認と訂正を怠ることはなかった。
「まったく誰なのですか! いっ、いかがわしい仮眠室をこんなにつくって! まったく……ぬ?」
見知らぬ廊下をぼやきながら歩いていると、小角は、ふと見つけた。
迷宮と化した学校は魔力宿る異物を感知し、天の電灯がまばらに点いた。
今立ち止まった小角の目に映るのは、スポットライトのようだ。暗がりの廊下の先、そこにいる誰か、何かを照らしつづけている。
廊下を走ってはいけない。だが、誰かが何かが倒れている場合にはそうとは言えない。
探偵帽をとばし、靡くピンク髪が、足音うるさく点滅する暗がりの廊下の先の明かりの元へと駆け寄っていく。
『ぱち、ぱち、ぱち』と音を鳴らし走るピンクの影を追うように点っていく電灯。暗がりの廊下を走り渡り、距離をあっという間に縮めていく。
そしてついに2つの明かりが隣り合った──。
息切らす小角は不思議にも、確かに見つけてしまった。
肌艶、その髪まで、透き通るように淡すぎてまるで幻かのようにも思えたが、確かにその存在は息をしている。
その邂逅は、きっと迷宮ちがい。迷い込んだそれが、不運とも幸運とも小角灯には分からない。
ただ、あの時、挑み激しく交わったそれだけの運命が、小角の見つめるそこに今静かに眠っていた。
寝転ぶそれが、戦う意志を宿しているようにも見えない。
弱々しく点滅していた明かりが、灯されたように濃く重なる。一つになった天のスポットライトは、ただただ静かに、道に迷った2人のことを照らし出す。
廊下に伏す砕けた黒い鎧は見覚えがある、淡く青白い月光のような長髪が微細なマナを纏い煌めいている。
イニシエランタンの灯火からやがて飛び出した赤い魚が、眠る彼女の冷たい肌を温めた────。