異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
これ以上テスト用紙を食べさせては疑われる。何事も適当適量が肝心だ。
ピネスは木浪にねだられ、自習室の前の廊下でたまたま出会ったくろまねき商店店主のちひろちゃんから、赤い首輪とリードを買った。そして、木浪に勝手に【ドツジ】と命名されたその羊の散歩をはじめた。
四角くカドのいっぱいある羊であるから、ドツジということらしい。そんなドツジの散歩がてら廊下を渡り校舎外に出てみるも、出会うモンスターすべてがなんだか四角いものが多い。ブク高に存在するモンスターたちは卵から孵ったコカトリスたちと同じように敵意はない、ただしドツジのように皆どこか四角い体をしているのだ。
ピネスは再度目につく所に現れたくろまねき商店のちひろから、校内新聞を勧められポケットに入れていた黒の指輪の決済でそれを購入した。
⬜︎ブク校TOPニュース
四角い【キューブモンスターず】をなかまにして、広いグラウンドで遊ぼう。
新装オープンしたくろまねき商店DP!のひみつを取材。商品はどこから仕入れている??
キミもダンジョンにいこう! 今なら便利な多機能指輪を無料プレゼント!(白色も選べるようになったぞ)
学校のプールがまるで水中リゾート?? そのタネ、仕掛けは??
あらたなモンスター食の可能性!? あなたもお肉をお安く食べれる日が来るかも!?
おにぎりの具ランキング調査結果発表!! 栄えある第1位に輝いたおにぎりは!?
奉仕活動し溜めたDPで自分好みの部屋を買おう。詳しくは校長室まで
《週刊PR》やめよう、早歩き。守ろう、風紀
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「ぅーー……なんだこれ……」
「毎日数学の刑で自習室で監禁されてた間に、玉手箱でも開けたんじゃない?」
「玉手箱の中身が数学の小テストとかどこの竜宮城だよ……そんで羊のおむかえ? 亀じゃなくて?」
「ドツジだけど」
「ヒツジでもドナタでもドツジでも三文字で言いやすいからいいけどさぁ、ってなにやってんだ」
「エサ」
「エサだったのかよ……はは」
購入した校内新聞は斜め読みした末に、木浪の手で共に散歩していたドツジのエサとされた。
おにぎりの具ランキングを見そびれたピネスはすこしその事を残念に思ったが、ドツジの愛らしい食いっぷりを見られた分のプラスの方が上回った。
「なぁこれ、数学の小テストとどっちが美味いのかな。飼ってるならちょっと聞いてみてくれよ」
「三文字仲間だから自分で聞いてみたら」
「おぅ。ってなんでだよ。それを言うなら木浪のちかる、お前もだろ、はは」
「そうとも言うかもねー。てか竜宮城知ってたり案外賢いじゃん浦木のぴねすのはーぬけくん。木浪のちかると会話できてるじゃん」
「どんな舐められ方だ……それに誰でも知ってることで褒められてもな、幼稚園児じゃあるまいし」
「え、そうなの」
「こんな大きい園児がいるか!」
「言われてみればたしかに?」
「言われないとかよ……はは」
「「おっ、完食──夕飯ならぬ夕刊、ふふふ」」
斜め読みした新聞の見出しにあった通りに、キューブモンスターずの仲間と考えられるドツジを連れて、校舎外のグラウンドへとピネスと木浪は共にやってきた。
確かにいろんなモンスターたちが、グラウンドでブク校の生徒たちと走り回り遊んでいる。
遠目からそんな賑やかな光景を並び立ち止まり観察していたピネスと木浪は、この牧歌的かつファンタジーじみた光景を、まずはどこから攻めようかと考えたが──。
ひとり、いやひとりと2匹。大衆の中でも目立つモンスターの飼い主がいることにすぐに気づいた。
『jjj、メタルj~! こっちだこっちー、ふっふーー!』
本当によく通る声だ、ひどく耳に馴染むそんな声の持ち主は一人しかいない。頷いたピネスと木浪の2人は、モンスターたちと遊ぶそのプラチナ髪のお方の元へと駆け寄った。
校長が緑と銀色の子猫と遊んでいた。ピネスがみどりのダンジョン70Fの階層主として倒した、いつぞやの【ジャカジャカジャングルジャガー】と【ジャカジャカメタルジャガー】の小さい版が、校長に餌付けされながらまた遠くへお投げられたフリスビーを元気に追っている。
フリスビーをえらく遠くまで投げ終えた不黒文は、近寄ってくるピネスたちの姿に気付いたようだ。
不黒文校長は、木浪に特上キャットフード(うなぎ味)をつめた餌袋を預けた。
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▽
「やはりこの辺でそろそろシステムをフル活用し、ふぅーちゃん魔獣軍団をパワーアップさせる必要があってだな。天の許しを得て一旦このようになった次第だ」
「あのぉ……正直言ってまったく分からないんすけど……。あぁー。まずなんで羊が四角い次第なのかを??」
「フッフ、【合成魔獣】という言葉を知っているか」
「ごうせいまじゅー……なんすかそれ?」
「2体のモンスター同士を合成し、新たな1体を生み出すあの魅力あるシステムのことだ。キミも少しはゲームをするのならそれぐらいは知っているだろう?」
「え、モンスターを……ごうせいってなに? そんなの、え? 知らないっすけど? モンスターを……そんなことしたら勇者が困るんじゃ……?」
「このたわけ、やはりキミはパラクエ1と2あたりで知識が止まっているのか? ──分かった、どうやらキミのゲームの成績が限りなく〝1か2〟どまりのようだとな。はっはっは」
「ゲームの成績が1か2って……別にその成績は低くてもいんすけど、で結局〝ごうせい〟って一体全体どういうことウをっっ!??」
ピネスが【合成魔獣】なる自分の知らないシステムについて、校長に詳しく話を聞き出そうとしていたところ──突如、尻にひやっとする違和感が走った。
ピネスが腰掛けていた石の立方体の簡易椅子が、勝手に宙へとゆっくり、浮き上がり出した。
「これはロックキューブ、キミも《ちゃいろのダンジョン》でよく見かけたろ? そしてこっちが鶏ちゃん6号」
ピネスと同種の四角い簡易椅子に座る不黒文の膝上へと、羽ばたきやってきたコカトリス。その鳥は鶏ちゃん6号という名前らしいが、残る1~5号の見分けはピネスにはつかないみたいだ。
「【ロックキューブ】たす【コカトリス】、イコール?」
「え?? ぅーー……まず邪魔なロックキューブを先にたおしてぇうわっっ!?」
「たわけ、いつの時代の経験値にしか目がない勇者だ。まだモンスターの合成、そしてお仲間機能が、キミの頭にはインプットされていないようだな、ははは。つまりこれだ──」
人間の言葉が分かったとでもいうのか、怒ったロックキューブがいきなり回転運動を始めた。失礼な尻を乗せていたピネスは、宙から地へと落とされた。
そして、情けなく転げながらもピネスが見上げると、校長先生の両手には四角い白いものが乗せられていた。
されど、落下し、くらくらした頭のピネスにはまだ鈍感にも分からないようだ。その四角い白に、一体なんの意味があるのかを。
「これはコカトリスの卵だ」
「あぁーコカトリスの……え、これが!? た・ま・ご……? なんか、だからさァ、しかくく……ねっ?(この台詞今日二回目のような?)」
「ふっふ、あぁ。そこでさっき言った数学の問題の復習だ。【ロックキューブ】+【コカトリス】=!!!」
「しっ、しかくい……コカトリス?」
「大正解だ!! ピネスくんはかしこいなぁーーはっはっは」
校長の高笑いとともに羽ばたいた一羽のコカトリスは、空いていた宙に浮くロックキューブの上に羽を休める。そして見事正解したご褒美に、ピネスは四角い卵を校長からその転んだ両手に預けられた。
⬜︎キューブモンスターず(略称CM)情報
ロックキューブ+コカトリス=CMコカトリス
全てはここからはじまった。
ロックキューブの平らですべすべな上面がすっかりお気に入りのポジションであった鶏ちゃん6号。
そんな魔力の波長の合うロックキューブの上で、すやすやと羽を休めながら、ある日ぽろっと産み落としたその卵は四角かった。
当然四角い卵から生まれきたモンスターも、校長の目論見どおり、四角い。
さっそく生まれてきたその四角いコカトリスを足がかりに、次々と四角いコカトリスと他のモンスター同士の友好度を上げ、異なる魔力を混ぜ合わせた合成卵を産ませつづけた。
ふぅーちゃん魔獣軍団に属する中で、最も主の不黒文に対して、温厚で従順な鶏ちゃん6号。
その6号の血をひく合成卵から孵化したモンスターたちは皆、とても賢く、大人しく、可愛く四角く育ったのであった。
これら四角い形をした種の特別なモンスターたちは、【キューブモンスターず(CM)】と、この合成魔獣プロジェクトの企画者の校長により、センスよく名付けられた。
⬜︎
「これが合成……マちょっ!? くっ、くるなーー!!」
倒れたピネスの背中には、さっき怒ったロックキューブがどすりと落ち腰を掛け返す。さらにその上にはコカトリスが乗り、まるで組体操をしているようにも見える。
そしてさらに、地に這いつくばるそんな下敷きにされた男の顔を目掛けて、とことこ駆け寄り舐めにきた2匹の子猫と1匹の子羊。
ピネスの持つ魔力と顔面がそんなに美味しいのか、集ったモンスターたちはじゃれることをなかなかやめない。
始まった騒がしいモンスターのマーチ。その頂点でコカトリスが美しい白翼を広げた。『コッコッコ、にゃーにゃー、どすんどすん』と奏でるとても賑やかな鳴き声の合唱に────
「ハッハッハ、いつの時代も勇者はモンスターになつかれるものだな。──ところでさっきから、この仔ヤギはなにを言っているんだ??」
『さジぃ~~ゴっ、ゴじ~~さァァっ♪』
ヤギなのか羊なのか、そんなことよりも──なんだかおかしい……。その白いモンスターの変わった鳴き方に、校長が不思議そうに疑問を呈した。
「おいこれ……」
「はーぬけなにやってんの」
「おいっ、俺が50なんてとれるか!」
「だから何いってんの」
「あっ! おまっ、おれをっ!!」
「はっっはーーーーん、なるほどなるほど……。これはあ・と・で、詳しく話のほどを聞かせてもらうことになるな。ふっふ、つづきはその厚いツラを綺麗に舐め終わりしだい、校長室でなピネスくぅん♡?」
ヤギか羊か半分か。ドツジにむしゃむしゃと食わせた小テストは、しっかりとその素晴らしい点数までも残さず栄養となり、愛らしい変わった鳴き声で飼い主のことを呼んでいる。
このあと校長室に連行されたピネスと木浪の2人は、まとめて通常の3倍の量の数学の小テストを受けるはめになった。
⬜︎ブク高TOPニュース
★ヤギヒツジモンスターの【ドツジ】には、大事な情報や恥ずかしい秘密を書かれた餌を、シュレッダー代わりに食べさせることはやめよう♡
完全犯罪はおろか、完全お見通しであるめぇ~~♪
★モンスター食に進展!? その四角い秘密とは!?
《週刊PR》やめよう、ズル。学ぼう、数学。
⬜︎
『こらこら待つのです! 廊下をそんなに転がってはいけないのーー!!!』
イワマジロたちが学校の廊下を転がっている。
「あぁー…………気のせいか? ほわぁー……」
そんなわけはない。廊下を丸まり転がるアルマジロのモンスターを追うピンクの風、やはりそんなもの、あるまじき光景だ。
きっと寝ぼけているに違いない。
ゴロゴロと通り過ぎていく廊下のレースを見送りながら、浦木幸、二度寝明けの朝はゆるり愉快に始まった。
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なぜか飼うと言っていないペットの世話をしなければならなくなった事情もあり。
南館の自室、物置部屋からとりあえず預かっていたドツジを連れて、ピネスは西館にある風紀委員部の部室へとやってきた。
ピネスはまだ半分寝ぼけているのか、〝羊とヤギのちがい〟そんなことが何故か頭の中でぼやっと気になりだし、今しがたふらりとここにヒントを貰いに立ち寄ったしだいだ。
「────登別さんなら知ってたり? っていうのもこいつが羊かヤギかちょっとした小競り合いが勃発しててだな。俺も、あぁー、なんか知りたくてさ」
「おもしろそうね。……そうね────」
⬜︎ヤギとヒツジの見分け方
左ヤギ 右ヒツジ
角 うしろに少しカーブ 螺旋状
尻尾 短く上に真っ直ぐ 垂れ・長く成長(断尾する)
毛質 真っ直ぐ ごわごわもこもこ多い
顎髭 ある ない
肉髯 ある ない
なつき度 好奇心旺盛 おとなしい
鳴き声 高い やや低い
乳 あっさり 濃厚
⬜︎
登別海がそのへんのノートに書き上げた──開いた左ページに見えるのがヤギの特徴、右ページがヒツジの特徴を表して比較しているという。
ピネスと登別はここに連れて来た問題の実物を見て触りながら、一つ一つどちらの特徴に当てはまるかを確認していった。子どものドツジであるからか、角や髭などはまだ無かったが、一つ一つの項目をじっくりと2人の目と手でチェックとクリアを重ねていく内に、ある程度ヤギかヒツジ、ドツジがそのどちら側に属するのか、あたりはついた。
「え、ホームセンターってヤギ……売ってるの?」
「たまに売っているわ。ミニヤギだけど、ペットとしてもなつくから飼いやすいとおもうわ」
「まじか、ミニヤギ?」
ピネスが感心と当たり前のように信頼する彼女の出典は、わりと身近にあり豊富である。登別海のホームセンターで仕入れたという知識雑学の数々は、手広く、ヤギや羊にまでも及ぶらしい。
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▽
ヤギ羊トークでなんと45分。1コマ分の学校の授業ほどの時間を使い、先生役の登別海と質問者の浦木幸の2人により広く楽しく語られた。
世話になった風紀委員部の部室からやがて再び廊下へと繰り出したピネスは、すぐそこで見慣れた格好をした別の女子にばったりと遭遇した。
「これはお嬢様の朝のカロリーなのであげられ……って、ひ、ひつじ!?? ぬへぇっ!?? ずみません羊はわたしダメで!? だからこれはお嬢様のアサのッッ!!!」
「あぁー、訂正ってわけじゃないが、こいつどうやらヤギっぽいらしい。登別さんが言うには好奇心旺盛なのがヤギで、確かひかえめなのが羊らしい」
「そ、そんな問題では……ヤギも羊もすこしダメなんですよぉー!!?」
「え? なんでだ? はは」
⬜︎羊と山羊とヤギと執事
羊は英語でシープ
ひつじ、シつじってことだと思うわ
そして羊とヤギはおなじ牛のなかまよ。
ほら一対の角が生えて反芻するから。
つまり、羊とヤギはきわめて近しい種ということね。
これだと一見、縁があるようにも見えるけど、何か執事界に出回る厄介な噂話でもあるんじゃないかしら?
そういうことを執事さんは言いたいのだと思うわ。
⬜︎
部室のすぐそこで起こった廊下途中の騒ぎに歩き近寄った登別は、ノートに字を書き状況を推測した上で、ピネスへと、どうして彼女が羊もしくはヤギを嫌うのかを説明した。
「なるほど、ってタガヤさんがダジャレ……? 縁に噂に────あ、ひょっとしてゲン担ぎか!」
「そうね? これも験担ぎと言えるとおもうわ。おそらく執事が羊それに近しいヤギを触ったりたべ──」
「私はそんなことは言っ……だいたいそれで合ってますが……できればこの子をなんとかっ、していただけると……!」
「思い出したわ、ヤギは羊より高い場所が好きよ。すぐ何かの上に登りたがるわ。跳躍力にも長けているから、パーツごとよりそちらの動きを注視した方が見分けやすいかもしれないわ」
「じゃー、やっぱヤギか?」
「私の上じゃなくても……」
その元気さと初対面での謎の人懐っこさに気圧され倒れた執事のタガヤの体の上で、その生物は跳ねたり足踏みを繰り返す。
登別海と浦木幸はまた一つ、うなずく。
高い声をあげて嬉しそうに鳴くドツジへの理解度が、また深まった。
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▽
スペシャル仮眠室にて──。
旅は道連れ。道端で出会ったついでということで、行く先行く先で仲間を増やしたピネスは、執事のタガヤに案内され、彼女の仕えるお嬢様のいる部屋まで遊びに来ていた。
長めの水色髪の頭上には相変わらず白いコカトリスのティアラを装備したままではあるものの、体調に問題はない。
シタンお嬢様の寝癖のついた髪を、執事のタガヤが手慣れたように霧吹きと櫛を用い、丁寧に手入れしお直ししていく。
そして絶賛執事に自身の毛の手入れをされているシタンもまた、櫛を手に持ち、部屋へと連れ込んだドツジの白い毛をブラッシングしてあげている。
さらにドツジはシタンの朝食の余りをもらいながら、お嬢様以上の待遇を受けている。よく分からない2人と1匹が列を成し並ぶ光景が完成していた。
午前10時15分すこし遅めの穏やかな朝に、和やかな雰囲気。部屋に1匹動物がいるとまた、人間たちの関係性や雰囲気は少々微笑ましく変わるものであった。
大人しくなったドツジが足をたたみ休める。お嬢様のする心地いいブラッシングを目を閉じ、甘んじて受けていた、その時────
ぽろっと、何かがお嬢様のベッドの上へと転がった。──四角い形状の何かだ。
突然の事態に静まり返る一同、ドツジの角ばっていた体の一部が不意に外れた……。そんなありえないことが今まさに起こった。
「羊がバラバラに!? お嬢様! 見てはいけません!?」
「あぁー……戻してなおるか……?」
「トカゲの尻尾切りのようなものかしら? 目を閉じて気持ち良さそうだから、とくにピンチではないと思うけど」
「羊のっ……ニクっっ!!!♡♡」
「めぇ~~♪」
4人と1匹の反応・鳴き声がバラバラに響く。
ベッド上にぽろりと落ちた四角いブロック。水色髪のお嬢様は口内に分泌する涎を増やしそれを手に取った。そして手元で美しく輝く四角い未知の正体に、その目を輝かせた。
上からなにかゴロゴロと音がする────。そんな腹の虫が天のおへそから鳴るほどの期待感に、笑いながら4人と1匹のパーティーは廊下を進んだ。
るんるんの足取りで調理室まで辿り着いたお嬢様らの一行は、保冷バッグに詰めた白いキューブ状のものを三角頭巾を被った食事班の女子生徒へと預けた。
ブラッシングをしていたドツジの体からぽろっと手に入れた未知の食材はやはり、未知のきのこと同じように〝お焼き〟にしてみることにした。
執事のタガヤを助手にした食事班の緒方が調理場を主導する。塩胡椒で下味をつけた薄切り肉をフライパンでしっかりと焼き、さっそく試食した。
一切れいただき……もう一切れ……。
味わう舌の上と飲み込んだ胃の底で考えた末に、試食役を買って出た男は親指を立てた。
そんな男子につづいてか、毒見しようとした執事よりも早く、待ちきれないシタンお嬢様も──。
一切れいただき……もう一切れ……。
もう一切れの一切れ………。
シタンはピネスと同じくサムズアップする。そんな試食役の2人は、親指を立て合い、もぐもぐ、うんうんと、咀嚼しながら頷き合っている。
淡泊でやわらかく、脂ののったコクもある、それでいて甘くていい香草のかおりがする。
食に関して信頼のおける緒方とタガヤ2人も次いで試食をし、そのように未知の食材【ドツジの肉】の肉質を分析した。
その精緻な分析結果を耳に聞き、もう一度試食をしたピネス、シタン、登別の3人は、親指をまた黙ってサムズアップし応えた。
持つ舌はそれぞれ、うまく言語化できなくても、良いお肉だということが数回の試食でも存分に分かった。
臭みを消す必要もなく肉はかなり上質。さすれば焼肉にするだけでも十分なご馳走である。後は火の通し方と調味料しだいだと、これまでの結果をまとめた緒方の意見にタガヤは同意するように頷いた。
栄養バランスとカロリーを考え、ハーブとほうれん草とドライフルーツを混ぜ合わせた餌、それとミルクを注いだ深皿を別々にドツジに与える。
肉の提供者のドツジにも神獣のごとき扱いでお供物を奮発しながら、ニンゲンたちの試食会は始まっていた。
どんな焼き加減、何の調味料が一番このお肉に合うのか、何かまずい食い合わせがあるのか。ブク校の皆にこの食材を使った料理を提供する前に、ぜひとも確かめなければならない大事な0ステップ目がある。
そのためにもここに居合わせた5人でアンケートを取りながら、このまま残りのドツジの肉1ブロックごと試食する。そんな独占欲と罪悪感を感じさせない登別の考案した提案に、反対意見は微塵も出てこなかった。4人が同時に頷き始まったスペシャルな事前試食会。
その各々の舌に責任感を持ち、いい焼け音に涎をぐっと飲み込む。
お好みは色々あれど、焼き加減はまずはミディアムで。5人が囲うホットプレート上にあるのは幻ではない、脂を光らせ滴らせ良い焼き目のついた良いお肉。
震える箸使いで一枚ずつそっとつまみ、今、5人一斉に第1のタレをからめた。