異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
黒く彩られた赤空は────
紅黒く、もう一度汚く咲いた。そして、もくもくと煙る下降線を描きながらやがて地へと舞い落ちた。
「んなろぅ……いてぇ……な!」
高笑いを浮かべていた悪魔は笑うのをやめた。
高々と打ち上げた黒い花火から舞い落ちた、痛々しいツギハギの背がゆっくりと立ち上がる。
悪魔を自称する黒服の男は、まだ痛がる余裕がある不思議なヤツを、少し興味を持ち凝視した。
(コイツが俺に見せた剣は、火と雷の2種。咄嗟に自分の技を出して、属性の似た剣で俺の黒不知火のダメージを単純に緩和したか? ……イヤ、──)
手応えは悪くはなかった。本来なら起きていられないほどの直撃のはずだ。何かを思考し悟った黒服の男は、その面にまたイヤな笑みを作り始めた。
「馬鹿そうな面でよくやるな。どういう手癖だ?」
「ラグビーボールみたいに蹴っておいて、いきなりバカはねぇだろ……で、あんた結局なんなんだよ。ほんとにサンチュの兄ちゃんなのか!? サンチュをどうしたんだよ!? 明らかにゼンブやる事がおかしいだろ? こんな朝っぱらに!」
兄と話してからというもの、何故かグラウンドにべたっと力なく倒れている。そんな無気力で無機質になったサンチュに、空まで蹴り上げ堂々と爆破する過剰な演出と攻撃。
その学校の風紀を無視した黒シャツのやる事なす事に、ピネスはやはり違和感しか抱かない。
それにサンチュに兄はいないと、ピネスはサンチュとの過去の雑談の記憶から思い出した。
突如しれっと現れたこの黒尽くめの兄に派手にやられたピネスは、すっかり寝ぼけていた目が覚めた。改めて強い口調で、ソイツに心と頭に溜め込んでいた疑念をゼンブぶつけた。
「お前ごときに答える必要はねぇ。しかしそうだな、俺に一発でもまともにお前の技を当てれたら──教えてやろうか?」
まだ遊ぶつもりなのか。サンチュの兄と名乗る者は、ピネスを軽く笑いながらどういうつもりか挑発を再開した。自分の頭を指差しながら、当ててみろと言わんばかりだ。
校長から下される無茶なイベントはこれまで星の数ほどあれど、ここまで訳の分からない喧嘩かどうかも分からないものを、ふっかけられたことはない。そしてこれほど嫌な笑い方をする奴は初めてだと、ピネスは思ってしまった。
忽然と学校のグラウンドに現れた男、異能も魔法も何を考え何をしでかすかもピネスにはその男のことが分からない。
だが、その実力は────まるで得体の知れないモノを目の当たりにしてしまったような、渋い表情に染まっていく。
「なんだ……」
(まじでコイツなんなんだ……。サンチュや校長の用意したサプライズのラジオ体操って感じじゃ……ねぇな? それにこの感じ、まだやるつもりなのか……。さっきのでもうシールド値がやべぇ感じだが……【技】……今の魔力じゃバーンファイアを至近のクリティカルでぶち込むぐらいしか、大したダメージにならねぇ。それかもう一回、さっき浴びたあの黒いのをどうにか逆にブッ刺して使ってカウン────)
「お前、馬鹿だろ」
ピネスは、今あるあの手この手を深く思考しながらも、対峙する敵を睨んでいた。しかし、その遠くのポジションに居たはずの敵がいつの間にかいなくなっていた。
目も見失う爆発的な加速から、一度ならず三度もピネスに急速接近した笑う黒尽くめは、そのまま勢いに乗った後ろ蹴りを繰り出した。
腹の真ん中を槍で貫くような鋭い蹴りを、遅れて反応したピネスは、咄嗟に間にかませた刃に受けた。
しかし前方から伸びる後ろ蹴りの次は、蹴りの衝撃で吹き飛んだピネスの背後へと黒尽くめは一瞬で回り込み、また容赦のない蹴りを放つ。
急加速した戦闘スピードに呑まれ、ピネスはまたもお手玉するように空へと蹴飛ばされた。
「弱者が頭でやる勝算ってのはナァ! いつも薄っぺらくて甘っちょろいんだよ! 絵に描いた餅ごとッ焼かれながら死んどけっ!!」
蜻蛉返りし打ち上げるサマーソルトキックからの、脚技【
天に打ち上げ、地に打ち付ける。蹴り飛ばし、蹴り飛ばす。ピネスの
振り抜く足に弾き飛ばされ、地に激突した不黒高校の制服姿は──やがて、激しく爆発した鮮やかで熱いオレンジ色の魔法に埋め尽くされた。
「ガハッ!!?」
黒の次はオレンジ、彩る暴力的な魔力が虚飾に満ちた弱い敵を飾る。
再び地に叩きつけられた。ピネスの眠気は一度目に味わった黒い花火の災難で既に吹き飛んでいる。だが、まともに受けてしまった今度の攻撃はもはや、起き上がれない。
肉体に叩き込まれた容赦と無駄のない連撃に、焼かれたピネスは地に伏したまま、立ち上がることができなかった。
模擬戦の域を超えている。力の差を誇示し見せつけるようなド派手な攻撃が、早朝のグラウンドの静けさを殺し、ざらつく砂を焼き焦がした。
その平伏した男子生徒の姿が満足いくデキであったのか。突風のように暴れた黒服の兄はニヤリと笑い、どこからか取り出した赤い本を、悠然と開き読み出した。
「フッ、まさに絵に描いたような面白いもんがココにもあったな。丁度いい。半分どころじゃねぇ全てを奪ってやる、悪魔的にな」
焦げた地に情けなくへばりつくピネスのことを一瞥し、黒い男の魔力が、目に見えて高まっていく。
宙に浮かべた赤い本のページが、狂ったようにぺらぺらと、横に激しく流れ開かれていく。
いつまでも終わらずにいた紙の狂い擦れる音は、やがて地を鳴らす轟音へと変わった。
そして突如、学校、その敷地外に出現したのは、
「なんだ…………ありゃ!?」
へばりつきながらも見上げたのは、校舎の屋上をも優に超す…………円柱、巨大建造物。
ピネスの見たこともないシンプルながら不思議な形状の建物が、突然、学校の囲いの外の其処に聳え立ち、大きな影を落とした。
ピネスは唖然と口を開けたまま、今姿を現した天まで連なりそうな特大の建造物を、その目に見上げるしかなかった。
「じゃあな間抜け、今日でこのフザけた学校はおしまいだ。最後に学べてよかったな? この俺の強さを。お前の弱さを。今の位置を、砂でも噛みながら覚えておけ。これが新しく描かれた世界の理だ」
「はははは、せいぜい終わるまで這いつくばって見上げてろ。これからは人間でも神でもねぇ。〝
眠る姫を担ぎ連れ去る悪魔のように、
高笑いする悪魔的な存在は、糸の切れたように動かないサンチュを担ぎ上げた。そして、見知った薄い赤本がまた狂ったように、吹く突風に捲られながら────共に消えていった……悪魔も姫も。
「き、きえた……サンチュもアイツも……どこに……!?」
身を焦がす熱いダメージを引きずりながらも、よろよろと、やっとの思いでピネスは立ち上がった。
制服を裂かれ、みすぼらしく砂にまみれたピネスは、澱んだ赤空を貫く白い塔を、ただただ愕然と見上げた。
グラウンドに独り取り残された彼の元に、派手な騒ぎに目覚めたブク校の仲間たちが急ぎ駆け寄っていく。
連れ去られた後輩に、迎えた破壊的な早朝、そしていつまでも図々しく聳え立つ太く巨大な円柱の建造物。
通いなれた校舎、通いなれたダンジョンよりも、現れたそれは衝撃的だった。
ブク校を揺るがす始まりの地鳴りと共に、天に届く大きな悪魔の影が、地で見上げてばかりいるピネスたちを覆った。
次々と起こる置き去りのイベントに、訳が分からずとも……彼には今なんとなく分かったことがある。
立ち尽くしただただ握る砂まみれのその剣は、ピネスにとって初めての敗北の色にみえた。
▼
▽
冷たい朝の空気と、不穏な空気の充満した校長室にて。
事件のあった早朝のグラウンド。そこで見たもの、気付いたこと、体験したものを、ピネスはありのまま包み隠さず校長へと報告した。
ある種、この場で殴られても仕方がないそんな覚悟をもって、校長室の机の前で彼はいつもより神妙な様子で告げたが──
「すまない、これは私のミスだ。実は知らぬ間に【タコイカの本体】を奪われた。それに」
「あたしのミスだねぇー。校内に侵入した暴漢を制圧するのが用務員の勤めだからねぇ。蔓延していた呑気が祟ったかな」
大人の女たちは次々と続きそう言い、責任は誰のものなのか分からなくなっていた。
ピネスは自分が厳しく想定していた2人の反応との落差に思わず面を食らってしまった。だが、誰が何割を分割し負うか分からない責任の所在を決めるよりも、聳え立つあの大きな大きな疑問の方を先ずは解消したかった。
「それよりッ、アレは……なんなんすか? 外に立ってるあの円柱は……?」
「アレは、円形校舎だ」
「えんけーこうしゃ?」
「昔なつかしの学校の校舎のことね。形状が円柱だから狭いところに建てるのに効率のいい校舎よ。今の時代は残っている方が珍しいけど。しゃれていると思うわ」
ピネスのおうむ返しに問うたその言葉を、校長室に居合わせていた登別海が軽く説明した。
「ぅーー、なるほど。それが……一体?」
「簡潔に言うと完成間近の計画を逆手に取られたということだ。つまりアレは……我々ブク高の私有する味方陣地のダンジョンだ」
「しゆうする……ダンジョン?? 味方陣地?」
「ごほんっ────実はピネスくんとダンジョンを攻略し始めた初期の初期の方からコツコツと、その日を夢見て推し進めていたプロジェクトなのだが……まさかこういう不名誉な形で、皆に発表することになるとはな。というのも、順調に仲間のモンスターが増えてきたからな、いずれを見越して広い牧場が必要だと思っていた。そして精を出し片っ端からモンスターたちの移住登録作業をタコイカに記入し整頓していたところ、あと寸前のところで、私のスペシャルな目の入らぬところでその計画を横からかっさらわれたみたいだな……。ともかくっ! アレは私の建造しようと学習帳に描いていた、自家製のダンジョンの完成品、ほぼそのものだ!!」
またおうむ返しをした男子生徒の質問は、茶化さずに校長に詳らかに説明されていく。
そして話し合う内に、校長室に集まったブク高のブレインたちは、あの塀の向こうに聳え立つ円形校舎が本来私有するはずだった自分たちのダンジョンであり、校舎中に増えてきていた仲間モンスターたちを収容するための大きな入れ物であるのだと、おおまかに理解した。
生徒たちの暮らす既存の学校の校舎をちまちま改築していくより、外付けし明確にダンジョン性を高めた建造物を別に作る方が、いずれ様々な面で役に立つという、不黒文校長の綿密に練り上げていた判断でもあった。
そして、ある程度解消された皆の疑問は、次なる重大な疑問へと移り────
「ふむ────……いないというよりは、いなくなったが、正しい」
「いなくなった? それが帰ってきた?」
「そうだ。信じ難いが妹を迎えにといったところだろう。だが、サンチュのあ」
「どうすりゃ、ソイツのとこに行けますか校長先生」
「ん?」
「あぁー……まだ俺全然、全力じゃないんすよ。さっき朝飯食べた分、魔力が全快した分、それにサンチュの分、ぅー……はぁ……よく分かんねぇけどもっかい! まだこうして運よく生きてる分ッ、サンチュの兄ちゃんだっていう〝アイツ〟と戦って俺確かめてきます!!」
「へー、なかなか」
「ほぉ……」
ピネスからそんな前のめりな言葉と決意が出てくるとは思わず、用務員と校長は今放たれた彼の強い言葉に感嘆したような相槌を打った。
「なーに、アレはダンジョンだ。それも私のダンジョン、ならば檻に入れたも同然! いくら勝手に拝借されようが、日照権を奪われようが、その事に変わりはない。フッフ、こんなこともあろうかと用意していた私だけが知る裏技を、ちょちょいと入力すれば上までひとっ飛びだろう! つまりは、このスペシャルな校長先生に万事任せるがいい! それともちろん──可愛い生徒、一人では行かせないぞ!」
すらすらと響き流れる彼女の明朗な声が、白い風を流し込むように、室内に篭っていたどんよりとした空気を吹き飛ばす。
校長はいつも通りの笑みを浮かべる。居合わせたブク校のブレインたちの決意は、ひとつの熱意の元に固まった。
▼
▽
「ということで最後の作戦会議だ」
空腹と装備を整え、冷水に浸けゆっくりと抽出した秘蔵の【ドピンク茸のポーション】で、失われた魔力を万全に満たす。
午前9時45分。朝礼台にお立ちになった校長先生の号令の元、皆が集められたのは、まだ痛々しい焦げ跡の残る広いグラウンドの中であった。
「うちの最高戦力の寝ぼけたピネスくんをボッコボコにしたサンチュのお兄ちゃんは、決して侮れない。よってこれからブク校の全戦力で突っ込む!!! と言いたいところだが」
「あのぉ! おれ、ボッコボコってわけでは!!」
「黒い花火がきれ~~~~にお空に爆発した後から見てたけど、ボッコボコだったよ。あと最高戦力は、まだあたしだね校長様、ははっ」
「ってなんで見てて来ないんだ! その最高戦力が!」
「そりゃ昨日、トレーニングに張り切りすぎてちょっと腰の辺りが、ねっ? いやー、その分じっくり観察してたけど、お相手は侮れないよっ。ありゃプロかじってんね、あの蹴りのキレは上澄みの上澄みよ、あたしの目から見てもね。(あたしも朝弱いのよ)」
「まじか……(朝は俺もだけど……)」
「ごほんっ! まぁまぁ、過ぎたことは仕方がない。事態は過去が起こした今と未来だ、それにかかっている、いいか?」
「そーそー、はーぬけは戦ったけどダサくて弱くてまんまとサンチュ後輩ちゃんを連れ去られただけだし、うん、ダサいだけ」
「そうだな。ってぇ……なんも言い返せねぇが……」
「そんなことより急ぐべきなのです!! お兄さんとはいえ不法侵入の不良なのですよっ! 誘拐されたサンチュさんの身がもしかすると危ないのです!!」
「わたしもそう思うけど。けど、兄って言うなら妹を殺したりはしないでしょ。テンション下がるし」
「そうね、ここで慌てては手のひらの上ね。希望的観測だけど、最悪を想定するのは少し早いわ」
「這いつくばって見上げてろ、ってまで言われたんだ。わざわざ妹迎えに来て見下げたことはしねぇって俺も思う。連れ去るってことは……少なくともそれぐらいに大事だってことだよ……な?」
「はーぬけ頭いいじゃん、そーそー、それだから悪人にも家族はいるでしょ。徹底的にヤルなら、虫の息のはーぬけから片付けてるし」
「虫の息の片付けって……確かにそうだな……?」
「くぬぬぅー……それでも不良なのですよ! とにもかくにもッ、サンチュさんのことが第一ですっ!」
「妹をかわいがりたいのか。それか誘っているのか、な?」
「フッ、そうだな。そこで全力でサンチュ救出に向かいたい!! とはさっき言ったが。────こちらにも守るべきものは、他にもある。等しく守るべきものがな。校長としてそれを疎かにはできない」
「くぬぬぅー……学校の風紀なのです……」
「そうださすが風紀委員部部長。察するようにここからは安全と冒険のバランスを踏まえて、そのギリギリを見極め、現有する戦力をしぶしぶ分けねばなるまい」
「いつもの校内の風紀を守る側と、この先の円形校舎のダンジョンの風紀を正す側の二手ね? よくある手として、派手に動き回った方が釣りだす囮役を兼ねてる可能性もあるわ。それで妹さんを連れ去ったとも考えられるわね」
「ふむふむ、そうだ! ふふふ、つい30分前の私もその可能性は考えた。これまでと同じように、いやすっかり侵入されてしまった今は、様々な悪意や悪戯が向けられる可能性が考えられる。これまで以上にやはり、学校側にも戦える者を残さねばなるまい。そしてそれは風紀委員部、主にキミたちに全体の指揮を任せたい」
「くぬぬぅー、もちろんそれも風紀委員部の大事な仕事なのです!!!」
「ふっふ話が早くて助かる。そこでッ! こうなる未来を事前に読んだ私の考えた!! 最強最高の布陣がこれだ────!!!」
皆で会議と熟考を長々と重ねる内に、良質なプランは既にまとまり、答えは導き出された。
不黒文校長は、「バンッ」と白扉を叩いた。バトラーバトラーのキャラクター、シャイニーを模したマグネットの下に、一枚の紙が冷蔵庫へと貼り付けられた。
⬜︎
【サンチュ奪還・円形校舎ダンジョン攻略パーティー】
【不黒高校風紀防衛パーティー】
モミジ
⬜︎
各々は群れたひよこのように密集した体と体の隙間から顔を出し合い、紙に書かれていた自分の名前とその役割を確認した。
「先生、なんで冷蔵庫に……」
「ちょうどいいからな。スペシャルな主婦の知恵だ。教育者とあるものグラウンドに黒板を持ってくるわけにはいかん」
「そんな矜持ははじめて聞くんだけど、冷蔵庫もってくんのもどうなの。まあ、むっすーの冷蔵庫、便利で勝手に動くけど」
「まっ、戦力のバランスは良いかな。はは、いつもより火力強めだけど」
「それではさっき言ったように風紀委員部の2人は協力手分けし、そちらで不在の私、校長の代わりを勤めたまえ、ふっふ」
「
「もちろん生徒たちのことは等しく任せるのです!! 不審者は見かけしだい、シュブンキンといっしょに正しますっ!!」
「校内のパトロールと訳あって動けない生徒の補助、それに高所からの監視役、いろいろと異能のない生徒たちも交えて協力をうながし、それぞれに割り当てる必要があるわね。うん、そっちは私が早急に考えておくわ部長」
「もちろん了解したのです!! 登別さん!」
「ここでやらなきゃ、プロじゃないからねー。弟子がボコボコに失点した分は取り返すか。とすると君の出番、ないかもよぉー? ははっ」
「弟子とかアシスタントとかクリティカルなんとかとか……俺のことなんてなんでもいいけど……あぁっ! 別に出番はなくたっていい、とにかくサンチュがッ! あぁーっとなんだ……」
「サンチュちゃんお腹空かせてると思う、浦木くん。これ!」
「そそ、それだ緒方さんっ! そうだな……きっとサンチュは朝飯も食ってねぇーッ、さんきゅっ! ────とにかくんなわけで……ブク高、いくぞーーーー!!!」
「ピネスくん!? それは私の大事にとっていたショートケーキの上の苺だが!??」
「若いねぇっ」
「声でかっ……ま、いこっ!!」
「ハイッ、ブク高いきます!!!」
「うーーー、ならばァ! スペシャルブク高パーティー出撃だ!!!」
「だからもう言ってんじゃん、ならばもなにも」
「美しいもの、汚される前に取りにいきますわ」
「うおおおいくぞーー!!!」
「ふっふぅーー! さぁ乗り込むぞ、取り返すぞ、私の愛する生徒とダンジョンを!!! 余さず全てな!!!」
託し託され、互いの熱を灯し合う。
防衛パーティーの生徒たちは残されたグラウンドから、声を張り上げ出撃する彼らの勇ましい背を見送っていく。
目覚めたシタンお嬢様は窓から顔を出し手を振り、気づいた執事が手を振り返し、深々とお辞儀をする。
おにぎりに、特別な薬草茶に、役立つ武器に厳選きのこ、茶人とコックとシスターは便利な異能冷蔵庫に、かき集めた万全をつめこんだ。
屋上からハープの音が流れる。皆の耳に聞こえてくるのは、冒険心をかきたてる勇ましいカリブの海の音だ。
皆を送りだす、校舎にかかった元気な垂れ幕だけが今はない────
サンチュ奪還パーティーを組んだ6人と1台は、学校の塀の向こうに聳え立つ円形校舎のダンジョンを目指して、今、覚悟をあらたに見上げる先へと、地を踏み締め歩み始めた。
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「ナニこの……個包装のバームクーヘンみたいな中途半端な教室? 落ち着かなくてきもちわるいんだけど」
「チョコっとおもしろいですね?」
「ここから一目で全体を見渡せるな。指揮官が前に立ち衛兵たちをブリーフィングするには良さそうだ。よく考えられている」
「よちよちよち、四角い餌が好きなのかおめぇ?」
「んっん~城の形状とは星型以外もありですねぇ、ホッホ」
ゴシックな衣装の小悪魔女子は軽く不平を垂れる。ギンギラのスパンコール衣装を纏ったチョコ色肌の女は居合わせた部屋の構造に興味ありげに頷き、黒のスーツを着た鉄兜の男は黒板を背にした壇上から扇状の景色を一望した。
白い包帯で全身をオシャレしたミイラ男は珍しいキューブモンスターたちに接し餌をやり、星のサングラスをした怪しげな男は上機嫌に鼻唄を口ずさんだ。
てんでタイプとまとまりがバラバラな悪魔たちは、自由に用意されていた教室内の席に着席した。
しかし時がただ過ぎ、最初は物色していたこの部屋もそろそろ目新しい驚きや発見もなくなった頃合い。手に取るデコられた天使色の拡声器を用い、小悪魔女子はこの場に呼びつけた張本人の男へと大きな声を発した。
「ちょっとカッコつけてないで説明しなさいよ! 何? 今とさっきからずっと足が長い自慢でもしてたわけぇ??」
「……」
黒尽くめのファッションの男は、机の上に己の脚を組み乗せたまま、悠然とした態度で無視を決め込んでいる。かれこれずっとそんな静かな調子であった。
「へへ、なんでも食べるか? よちよち、へへ」
「んっん~~見事な静けさは、余計な争いを生みませーん★」
「悪魔サンフンさん! そのバランス見事なしなやかな体を、チョコっとトレーナーの私に調整させてもらえないでしょうか?」
「だまれギラチョコ野郎」
脚や体に触ろうと近付いてきたギラチョコ女に、悪魔サンフンは椅子に掛けたまま、女の顎先へとナイフのように鋭く向けた足先の捌きを披露した。
「かかっ? なんというシャープな柔軟性! ですがっ、そんなに冷たいとチョコ体質の私もカチっと固まってしまいます? ──ナラ、そこのあなたは調整? チョコっといかがです?」
「【ヤよ】!!!」
向けられた天使の拡声器から飛んでいった【ヤ】と【よ】の魔力文字の塊の隙間をぬるり──柔軟な銀色とチョコ色がポーズを決めながら抜けていった。怒りに染まった赤い文字が砕け散り、教室を汚した塵ゴミは内包していた魔力が失せると同時に消えていった。
しかしそんな女どもの小競り合いも気にせず、悪魔サンフンは淡々と告げた。
「勝手にやれ。俺はオマケのお前らのことは信用していない。純粋な強さだけが俺の城での理だ」
「は? これがあんたの城? アタシがオマケぇ??」
「つまり、ポイントは今後の信用を得る働きしだい。なるほど先程からカチっと冷たいワケです、まだかかっと味見の段階であると」
「なーによ、ツンデレイケメンねぇ! そうならそうと言いなさいよ! このワタシの魅力、存分に見せてやんよ!(って、しれっと近付くなギラチョコ!)」
「白星、黒星……。ホッホ、いつの世いつの時代も傾き自転する星の上でのバランスを求めるもの、こればかりは避けられないものですねー☆★」
「なるほどこの城では強さこそが……か────。舞台の下見をさせてくれ。良い闘いにしたい」
「フッ────」
「ちょっとおすかしッ、アンタどこいくのよ! わざわざ敵が来るからって、このHIGH小悪魔GEMを、こんな寂れた遊園地メンツと一緒くたに呼んでおいて、責任持って一番ガツっとバえる目立てるステージに案内しなさいよ!」
「どうでもいい、言っただろ勝手にしろと。気に食わねぇなら失せろケバオンナ、責任転嫁する弱いヤツに席はねぇ」
「け、けばっ!? だぁれが責任転嫁のよわよわヨッ、ちょっと待ちなさッ──どへぇっ!?」
突如、座っていた椅子がバラバラと崩れ落ちる。HIGH小悪魔GEMは、黒フリルのスカート尻からどしんと痛々しく転んでしまった。
何をすればそのようになるのだろうか、椅子がまるで玩具のパズルのように分解されている。今、床に散らばった残骸へと、室内の皆は驚き視線を集めた。
情けなく転んだ尻を抑え、怒りを思い出したGEMが突っかかろうとするも、既に悪魔サンフンの姿はそこになく、前方の教室のドアだけがぽっかりと開いたままであった。
「かかっ? 黒板にいつの間にか、ABCDEFGの配置図……クラス分けですか? なるほど、ここはチョコっと即席くじで行先を決めましょうー!」
「くじ? なんだそれは?」
「ホッホきいたことがあーーる。★を高めるおまじない♡」
「はい、三振でもヒットでもデッドボールでも恨みっこはなしです! くじ結果の良かった順に好きなアルファベットを選びましょう。あまった特製のチョコっとバットはそのまま食べてもOKです♪」
「さんしん……ヒット……? 分かった、そちらのやり方に任せる。これを一つ選び取ればいいのか?」
「痛ったーーい……ちょちょっと待ちなさい! 残り物には福がないっってぇ相場が決まってんのよ!! アタシが絶対一番! 先頭打者ホームランよ!!!」
気づけば前方の大きな黒板には、ABCDEFG──それぞれの配置に対応した見取り図が、リアルタイムで勝手に詳細にチョーク文字で描かれていく。
温めていた席から立ち上がった悪魔たちは集い、ギラチョコ女に即席で用意されたチョコ色の棒くじを引いていく。
強さだけが理、それだけを言い残し城主の悪魔サンフンは彼らに関与しない。高く高く聳え立つ城へと招き入れた、信念も志も違う自由な悪魔たちが、侵入者を迎え撃つためそれぞれのクラスへと羽ばたいた。
▼
▽
校外へと繰り出したピネス一行は、聳え立つ円形校舎ダンジョンの外壁、辿り着いたその建造物の入口付近を調査観察、分析を開始──。
悪魔サンフンに盗まれたオリジナルのタコイカ学習帳、それ本体とリンクする盗まれずにいた予備のタコイカサブノートを校長は開く。そして書かれた2冊に共通し重複する断片情報を魔力の流れから検索し、開いていった予備ノートのページのはざまに目論み通り、キーとなる主要な情報を見つけ出すことに成功した。
そして頂いた情報から構造をさらに精密に読み取り、目を凝らした校長は特別な魔力を支払いながら手動記入でロックされた内容を改変していく…………。
不黒文が事前に自信満々に告げていた裏技を用いて、ちょちょいと入場手続きを済ませる。段階、階層を飛ばし、テッペンまで一気にひとっ飛びする案は難なく決行された。
巻き起こり激しく吹く風に、ページの開かれる忙しい音とともに、ダンジョンの門前に集ったサンチュ奪還パーティーは眩い光となり今天へと飛び立った。
▼
▽
──────はずが。
「どうしてこうなった……ってんだ……」
意気揚々と入場するやいなや……結束を固めたはずの奪還パーティーの面々は、さっそく離れ離れになったようだ。
開幕早々、独りになってしまったピネスはそれでも悔やまずに割り切った。
ただ先へと進んでいく。【6-D】と書かれた表札の扉から扉へと、次々と駆け抜けくぐっていった。
未知の扉から未知の扉、走り渡る暗い廊下から照らされた教室の中へ。
学習机の上や下に、おのおの正座や鎮座していた四角いモンスターたちは、今扉を開けた気配と音に振り返り────侵入者のピネスへと一斉に襲い掛かった。
向かってきた。空泳ぐ四角いお玉杓子型のモンスターは──
「すまねぇ!」
謝罪の言葉を叫び添えて、抜き出した翠の剣で斬り裂いた。
『もしかするとダンジョンに憩う【ふぅーちゃん魔獣軍団】がとち狂い襲ってくるかもしれん? だが、遠慮はいらん。ダンジョンに登録されたモンスターは復活するからな。焼いても刺してもきっと大丈夫だぞ! 再び入ったダンジョンでモンスターが復活しているのと同じ原理だ! むしろド派手に天に召して、滅して! 主人を勘違いしたヤツらを正気に戻してやれ♡』
飛び立つ前校長先生から聞かされていた危惧は、絵空事ではなく今現実に起こっている。
ピネスは四角い生物を仕方なしに剣で裁断し、滅したモンスターのマナ粒子が、扇状の戦場へと広がっていく。
「ぅーー……理屈は分かるけどっ!! 理屈じゃねぇ!! 理屈を固めるより、殺気が先ってか!! よーし、ジャレてくるってなら食ってやる!! 来いっ!! なんか四角くてかわいくて狂暴なヤツら!!!」
背の黒板に宙に浮いたチョークがひとりでに走り、先をすり減らしながら自動で挑発の台詞が書かれていく。
教卓に立ち乗りながら、扇状の教室内に認識した敵を見渡す──。男子生徒は堂々と抜いた二刀を光らせ、構えた。
殺気に合わないコミカルなフォルムと危ない動きで襲い来た【ダークキューブモンスターず】を、勇んで相手し斬り伏せた。
ここは、盗まれたブックに描かれた緻密なDplus計画と、盗んだ悪魔の
違法な侵入者を阻み分岐する6-Dクラスのルートを、浦木幸はその剣と魔法と異能で孤軍奮闘。衰えない怒涛の勢いをもって、次への扉をこじ開けていくのであった。
▼
▽
「6-Dのモンスターぁ!! 出席確認を取るぞぉー! えーっと、──全員死亡!!!」
教卓の上で胡座を組んだ男子生徒は、手に取った黒い出席簿を確認する。上から下まで目を凝らしたモンスターリストにチェック漏れはなく、この階層にいるクラスメイトならぬクラスモンスターを全員を斬り伏せたようだ。
物々しく荒れた様相の教室の黒板には、モンスターの引っ掻き傷と100点の数値が刻まれていた。
黒板中央下の小さな引き出しから宙に弾けた赤白黄のチョークが、噴水のように舞う。
教室を埋め尽くしたチョークの海の中、黒い黒板に鮮やかに描かれた次なる階層への星明かりの航路へと、剣を構えた浦木幸は飛び込んだ────。