※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

40 / 60
39 エメラルドに眩しく、チョコ色に激しく

「あ痛たたた………………うわー、頭も腰も腹も武器も入念に準備(ストレッチ)して来たもののこのレベルかぁ。いやはや新環境──バグってんねぇ。神様に、悪魔に、ラッキーボーイ、出会う相手出会う相手押し付けるように無理難題をおっしゃることで。はぁ……もう少し同レベ帯とやらせてもらう訳にはいかないの? あたしゃね、いちいち少年漫画の主人公みたいに格上に躓(つまず)き負けるのが、趣味なわけじゃねぇのよ」

 

「どうした、来い」

 

 黒いスーツを着た鉄兜。単純だが斬新なファッションをしたその騎士は、水色作業着の用務員をその何倍にも勝る膂力で吹き飛ばした。

 

 メタル色のハルバードの切っ先が起き上がった用務員を遠くから刺し示し、淡々と、鉄兜にこもった声で挑発をしている。女のわめく情けない戯言を聞きたい訳ではないようだ。

 

 素の池原叉鬼のままでは到底敵わない。灰色の柱に弾かれ打ち付けられた用務員は、この鉄兜の男との実力差を肌で体で思い知った。

 

「あーはは、の前に────そこのお兄さん、一つ聞いていい? これは刺又、暴漢を制圧するための護身用武器なんだけど、そのおたくさんのかっちょいい武器は何かな? さっきから気になっちゃって、集中できないのさ」

 

「【メタルツール】と言うらしい。硬質化しどんな武器にも化けられる武器だ。その分魔力を使うが、相手と状況に応じて自由に選択できる点と持ち運びが容易な点は優れていると思っている。手入れは難しいがな」

 

「へぇー(ま、当然魔力は使うか。あたしも欲しいと思ったけど、ハンデにしかならないね)」

 

「あまり敵と話すのはおすすめしない」

 

「はは……じゃじゃ最後にもう一つだけ」

 

 池原は人差し指を立てて、もう一つだけ質問させてほしいとお願いした。鉄兜のナイトはただただ何も言わずに黙る。

 

「このナイトってさぁ、この中で1番強い?」

 

 このナイト──立てていた人差し指を倒し鉄兜のことを指差した。そして、両手をひろびろと広げて池原はそう、男へと問う。

 

 水色服の女はその口角をじわりとあげながらニヤついている。鉄兜を被る黒スーツのナイトは、まだ話そうとする敵の女に向けていた銀色のハルバードの穂先を下げた。

 

 そして石突を強く地に打ち付けると同時に、手にしていたハルバードの形が崩れていく。やがて粘性化した異色の武器メタルツールに、鉄兜のナイトは己の魔力と記憶を注ぎ込んでいく。

 

「あぁ、──俺がこの目この肌でその実力を測れなかったのは4人。興味が湧いてきたのは3人ほどだ。おどけた星の男と黒い剣士、そして今目の前で俺を睨んでいる──。闘いは簡単じゃない、油断と慢心が命取りになることを俺は知っている。それと同時に闘いは簡単だ、どんな手段を用いても相手を倒せれば、それでいい」

 

 鉄兜の男の矜持など知りはしない、だが池原にはその男の言いたいことが分かった。一切の隙を見せようとしない男の立ち方が物語っている。

 

「最後に聞きたいのはそれだけか? なら、俺からも問わせてもらう。この世は不完全で完全だ、お前はそれで────完全か?」

 

 銀色の異色の武器メタルツールは形を成して、地に突き刺さる。鉄兜が今手にした剣幅の広い大きな剣が、敵に────問う。

 

 

「異能解放。────【鬼-ism】」

 

 汗染みた水色の作業着は紫に染まっていき、今、完全に染まり切った。

 

 切先を向けられた相手は見るも分かりやすく変化を出してきた。ニューカラーの衣と特別な魔力をその身に纏い出した池原叉鬼が、鉄兜の視界に、その覚悟ごと塗り替えるように登場した。

 

 そして、妖しい魔力を放つ紫色の戦士が銀色の刺又を勇ましく構えた。

 

「あちゃぁー、他にもいるか……なら道草は食わず、ちゃっちゃと完全(ぜんりょく)で行かせてもらうよ。用務員(プロ)なんで、ねっ!!!」

 

 言葉で確かめ合う強がりや化かし合いはもう要らない。ここから先は完全と完全で、ぶつけ合うだけ。

 

 闘いの舞台に選ばれたのは、石柱が幾本も立つ、その影に隠れるもたたかうも自由な限りなくシンプルかつフェアなステージ。

 

 用務員池原叉鬼は惜しみなくその異能を解放した。

 

 特殊な紫の魔力を纏い、秘された願を手持つ相棒の刺股へと乗せる。重厚な大剣を担ぎ構える格上のナイトへと、テンションとスピードを上げ────今、躊躇うことなく襲い掛かった。

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

 用務員(プロ)と騎士(プロ)がギアを上げた闘いを始めた一方で────

 

 この円形校舎ダンジョンに乗り込んだブク高の生徒たちも、既にチョコっとハードな戦闘の真っ最中であった。

 

 冷蔵庫は開き、弓手のしなやかに指先に保管していた冷えた矢を供給する。

 

 用務員から倣った美しい所作で、ヴィーナス生徒が次々と放った連続矢は、大きな板チョコの壁に突き刺さり防がれる。さらにチョコ色の体の柔軟性と、逐一繰り出す謎の美しいポーズを捉えきれず、なかなかその珍妙な標的に当たらない。

 

 踊りながら避けていたチョコ肌の敵も反撃を開始する。苺味のパポロチョコを矢じりにしたお菓子な矢が、プレッツェルで作った短弓から同じくらい素速く放たれた。

 

 ピンク色の矢の雨が、2人と1台の生徒パーティーへと目掛けて飛んできた。

 

 ヴィーナスは華麗に飛んできた矢を避け、時には冷蔵庫を壁がわりにする。さらに、冷蔵庫が拾い集めた敵のお菓子な矢を逆に利用し、射返した。

 

 遠距離中距離戦はヴィーナスの弓の腕で、便利な冷蔵庫は状況に応じた矢の補給やアイテムを駆使したサポートを継続する。

 

 そして近接戦闘は──

 

 ヴィーナスからの援護射撃を受けつつ、板チョコの床を駆けながら、タガヤが敵へと詰める。

 

 拍手をしながら矢を避ける銀色衣装のギラチョコ女に、蹴り技を浴びせていく。

 

 すばしっこく、しつこく避けるギラチョコを、それでもタガヤは接近戦を仕掛け続け追い込んでいった。

 

「ナっ!?」

 

「なんという脚の柔軟性。ですが、まだチョコっと調整の余地がおありです、ギラっと!」

 

 チョコ色女が身に纏っていた銀紙の衣装にくるみ受け止められたタガヤの左脚は、そのまま突き出した脚ごとぐるぐるとスピンさせられ後ろに遠ざけられていく。

 

 不思議な魔力とパワーを宿した左脚に巻きつく銀紙。タガヤは無理に回転に抗わずそのまま高くジャンプをした。やがて斜めに回転しながら着地し、左脚を包んでいた銀紙が破ける。チョコ色のトレーナーから受け取ったレッスンを見事その足と体捌きで踊りこなしてみせた。

 

「チョコぐぅレートッ、素晴らしい! お2人さんとも、かかかかかかっとこれから調整するに値します! そして、そこの走る冷蔵庫さん! 私のジムに来て、手作りスタミナプロテインチョコの保冷・販売係などいかがでしょうか?」

 

「美しいものにかぎりはないと言うけれど、チョコ人間は初めてね。──矢をプリーズ、ふふ、ありがと。保冷するのは勝利のフルーツ盛りとワタシの矢で十分ね」

「ハァハァ……ただのフィットネス運動じゃありません、あの動き……異国の忍者執事ドロン・ドロシーのような……つよい!!!」

 

 「調整するに値する」それはきっと誉め言葉であるが、その風変わりな女のジムに入会手続きをした覚えはない。

 

 銀紙のギラギラ衣装にくるまれたスタイルの良い女、全身チョコ人間〝チョコっトレーナーかかおら〟の御眼鏡にかなった、2人と1台。

 

 紫紫刀、Venus、異能冷蔵庫、分断された小隊が遭遇したおかしなチョコ色の敵を倒すために力を合わせていく。

 

 《12-C階層 板チョコのジム(仮)》にて、甘いあまい匂いのただよう油断できない闘いが、ここでも始まってしまった。

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

 折れた柱はもう何本目だろうか。整えられていた闘いの舞台は壊れゆき、灰色に煙りながら不完全さを徐々に増していく。

 

「何を狙っているのかは知らないが、そのままつづけるのは勧めはしない。命の使い方は、拘りに足を取られるより常に見返りの大きい方が良い」

 

「はは、そうだね」

 

 その身が軽々と柱に打ち返された、デジャブかと思えるほどに無謀に見えただろう。妖しい紫の魔力のインクを全身に被ったからといって、その騎士との単純な力の差は埋めようがない。

 

 むしろ反撃を受ければ自分にもデメリットもある、この特殊魔力を纏ったスタイル。魔力暴走(マジッククラッシュ)を引き起こすことに特化したこの紫鬼のスタイルは、諸刃の剣。自分にもその願(ルール)は適応される。

 

 大剣を操るナイトに接近戦ではかなわず、魔力暴走を引き起こされ池原自身の魔力総量が逆に減らされてしまった結果は明らかだ。

 

 鉄兜の男もわざわざ忠告をする程に、これ以上打ち込んでも蒔いた種子で花が咲くことはなく意味がない……単調かつ稚拙な攻めに見えたということだ。

 

「じゃあこんなのは、どうかな────【愛-ism】」

 

 そんな鉄兜の男のご要望に応えてか、池原は息を吐き、考えを変えた。

 

 まだまだ終わりじゃない……帽子を上に飛ばしてまた深くかぶった。すると池原は紫のスタイルを諦めたのか、身にする作業着が今度はファンシーな桜色に染まっていった。

 

 変わり種にも思えるこの奇抜なカラーは、女神戦でしれっとピネスに協力した時のような遠隔操作に長けたスタイル、すなわち────

 

「あたしが好きなキャラはあたしと限らないの、よっ!」

 

 鉄兜のお相手へと真っ直ぐに向けた刺又はそのU字の先から魔力のマナ粒子を集約し、いきなり桜色の弾を発射した。

 

 しかし不意打ち気味に打ち出されたその二連弾は、一つは地にボールのように叩きつけられ、一つは大剣にタイミングよく両断された。

 

 その瞬間、桜の花がパッと一面に咲く。サプライズのくす玉が割られたように散りゆき、迂闊に大剣で斬り裂いでしまった鉄兜の視界を覆う。

 

 その鮮やかな目くらましに乗じて、鉄兜の裏に回った本体本命が仕掛けた。

 

 しかし、鉄兜の扱う変幻自在の武器をこの奇策の成功を持ってしてもまだ足りず、攻略できない。

 

 【メタルツール】は魔力を流され状況に応じた形を即座に成した。それは柄を中央に配置した双頭剣、【リブラソード】である。両刃仕様になり天秤のようにバランスの取れたそのソードに、間に合わない死角はない。またも池原のアタックは通じず、強襲し刺股の武器を叩き込んだ彼女の軽い体が、いとも容易く鉄兜の膂力に吹き飛ばされる。

 

 メタルツールは使いよう。池原の見せた後ろからの強襲も鉄兜の男による完全なる対策と反応により、収穫はゼロに──。

 

「そういった魔法の類も想定してこの武器にした。武器にくらべて派手なものはそれだけ消耗する。へばった魔術師ほどてご──」

 

 ご高説を垂れようとした鉄兜の首を下から打ったのは、────地に眠っていたもう一つのサプライズのくす玉。

 

「パラレル異能解放────【鬼愛(きあい)-ism】……悪いけどあたしゃ魔王を倒すような天才魔術師じゃないのよ。馬鹿みたいな拳を振り翳す女神に負けて、ぽっと出の年下に負けて、あげく雇われ主にも負けちゃって、あたしの強みは何なのか一晩じっくり考えたから、ぜひともマァマァ味わって、ねっ!!」

 

 この機を待っていたとばかりに、池原は新しい情報を次々に投入。身に纏う作業着は桜色を維持しつつ、そこに新たに以前見せた紫を混ぜたマーブル状に混沌と染まった。ブク校に在籍する魔術師たちと訓練を重ねた巧みな魔力コントロールで、規則なく澱んでいたマーブル状の絵はやがて、はっきりと半々に分つ鮮やかなツートンカラーに整理された。

 

 池原叉鬼は諦めが悪い。斬新かつ鮮烈な異能を呼び覚まし、ようやく良い一発を浴びせた鉄兜の男に、一気に仕掛けた。

 

 

 

「意志を持つ攻撃……精霊術か!」

 

「ざーんねんっ、そんなに澄み切った女の子じゃございません! しみったれた武闘家は、ねっ!」

 

 今の池原は【鬼-ism】と【愛-ism】どちらの尖った性能も並列して引き出す、いわばパラレル接続をしている。今までのただのルール分けた異能を一つずつ確かに発揮する一本線のシリアル接続とはちがい、パラレル接続は二本を同時に扱う。

 

 これをちなんで《パラレル異能》と名付けた。しかしその分、この二つの異能の混在する状態を維持する難易度は一本の異能を用いていた時よりも段違いに跳ね上がる。登別海が以前、黒騎士相手に見せた【チョキ×パー】の合体じゃんけん魔法のように、複数のルールを同時に扱い掛け合わせる高等技術を、池原叉鬼も学び今成し遂げたのであった。

 

 精霊術と見紛うほどに意志を持つように柱を跳ねる桜餅弾と、隙を突いた刺又武器による接近戦。ギアを上げた用務員のそのコンビネーションに打って変わって手を焼くのは、これまで完全に近い処理をしてきた鉄兜のナイト。

 

 そして敵である池原叉鬼の完全は〝これ〟だと……弾と刺又の2人がかりに打たれ襲われながら、鉄兜は理解(わか)らざるを得ない。そんな自分を倒すために取っておいたと言わんばかりの怒涛の攻めを見せつけられている。

 

 しかし紫とピンク、このような二種の力を使っているであろう高度な芸当、長く続ければ魔力が保たない。いずれ尽きて消える切り札であるとも同時に悟る。ダメージをもらいながらも鉄兜の男が選んだ選択肢は────

 

「受けきる、────来いっどこからでも」

 

 勢いを増した彼女の全力……その完全なる力を完全に受けきることであった。そして手に取る武器【メタルツール】も、今度は天秤剣を崩し──防御に優れた大きな銀色の【ラウンドシールド】に変形させた。

 

 当然これだけではないとも鉄兜の男は見越した。これだけでは命を刈り取るには不十分。チェックメイトのイチゲキがどこかで来る……そう確信と期待をする。

 

 跳弾していた桜色の魔法はやはり内蔵する魔力が失せ消えた。どちらともの計算通りに、今、妖しく燃えたぎる紫と燦々と光る桜色の魔力を纏うツートンカラーの戦士が、正面から突っ込んで行く。

 

 これが最後の攻防ならば、最後に相応しい勇ましき小細工なしの正面突破。

 

 触れ合う瞬間にどのような衝撃が、どんな反応が起こるのか、常人より優れたその肉体で堂々たるナイトは盾を構える。

 

 だが鉄兜の視界から彼女を覗くナイトはぶつかった瞬間まで気付かない、これはチェックメイトではない、布石の何手目かにすぎないことに。

 

 

《魔力暴走(マジッククラッシュ)》

 

 

 一定以上の打撃を与え発動する【鬼-ism】の特性であり、内在魔力が爆ぜる現象。積もり積もっていたカウントダウンは今ここでゼロを迎えた──しかしその未知の現象の餌食になったのは、屈強なナイトの肉体の方ではなく〝武器〟の方である。

 

 狙っていたのは武器。池原はあの女神ガイア同様にいくら打っても魔力量の底の見えない不死身のナイトの方ではなく、ナイトの扱うその武器の方が脆弱であることに気付いた。さらに、その武器は魔力伝導率の良い変幻自在の武器メタルツール、ならば打ち続け打たれ続け、先に崩れるのは──その特殊武器である。

 

「──!?」

 

「【怒-ism】アッタマってきたぜぇ、はは、いく、ゾっ!!!」

 

 マジッククラッシュしたメタルツールの銀は、魔力コントロールが著しく乱れた末に、成していたその盾の形を保てず、沸騰した液体のように周囲に飛び散り爆ぜた。

 

 そしてまさかの方法で盾を突破した、諦めの悪い用務員の打ち出す次の一手は────真っ赤に染まる、怒りのスタイル。小細工不要の人間に備わる一番強い感情を今、形相を深め露わにし、策も何も投げ捨てたパワースタイルで突き抜ける。

 

 武器を失った角落ちのナイトに怒りパワーを上げた用務員、本気に染まる戦闘のプロが負けるはずがない。テンション高ぶる足技と、合わせて放つ刺又棒術の荒ぶる連打が決まり、そのまま上空へと体躯に勝る騎士を打ち上げていく。

 

「【楽隕(らくいん)】!!! ゾっと!!!」

 

 そして魔力で編んだ赤い紐に繋げて、一気に打ちつけるは投げ技の【楽隕】。空から地へと騎士は落ち、怒りのテンションそのままに池原は刺又を天から槍のように投げ捨てた。

 

 さらに念を入れて地へとしっかり今投げ捨てた敵を拘束する。刺又本来の得意とする使い方が、轟音の後に突き刺さった。

 

 鉄兜の騎士の首を、突き刺さるU字部と接する地で首輪をした。さらにその赤熱する刺股から、赤い魔力糸が繭の糸を吐くようにしゅるしゅると展開される。鉄兜の男の黒いスーツ姿が見えなくなるほどに、何重にも赤く赤く巻き付け敵を拘束した。

 

 そして拘束したからには、──攻撃しなければならない。敵はその程度の縛りで根を上げる弱者ではない。

 

「異能全開! 【幸(クリティカル)-ism】……よォォおおおおおおおお!!!」

 

 叫ぶ腹、突き出す臍から捻りだすように生み出したのは、特大の弾。

 

 激しい連撃ショーの終わり、それを彩る最後のカラーチェンジは、深緑に光り輝くエメラルドグリーン。真っ赤な作業着を塗り替え、溢れる魔力に染まっていく。

 

 そして今、宙からボレーで捉え蹴りだすのは、己と相手の感情にびしばし伝う──確信の弾、己の血肉に宿るありったけの魔力を注ぎ込んだクリティカルボール。

 

 

「これが完全なるアタシの────────【エメラルド:エクスプロージョン】……なんて、ねっ」

 

 

【鬼-ism】

【愛-ism】

【鬼愛-ism】

【怒-ism】

そして

数多の願と感情を経て導き生み出された【幸-ism】

 

 狙いは格上の相手をチェックメイトへと誘う特大のクリティカル。その大技を料理(つく)るための丹念な全ての下準備は済んだ。

 

 荒ぶる感情と整然とした願の塊は、地にへばりつく鉄兜のターゲットへと向かい蹴り落とされた。

 

 二つの魔力、陰気と陽気、厳しい戦闘を通し密かに塩梅良くブレンド配合されたそれらの気は、宙から術者に蹴り出されながら、しっかりこねられ混ざり合い互いを利用し合う。

 

 そして互いのパワーを譲り合うことなく反応と変化をつづけ、熱され燃え上がり膨張する。

 

 着弾した瞬間からやがて次第に、巨大な魔力ドームを形成し爆発する。

 

 いつまでもつづく翠の閃光は、全力でひねりだした勝利の輝き。

 

 完全なる用務員、池原叉鬼、ここにあり!

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

 騎士と用務員が熱い闘いに決着をつけた一方────別のお菓子な舞台で熱を上げたこちらもそろそろ、甘いあまい危険な香りが充満しつつあった。

 

 

 もはや避けるというよりは溶ける、体が溶けて消え、またべつの板チョコブロックからおかしくその存在は現れた。

 

 もはや相手は人間じゃなくてチョコ人間、今までダンジョンで日々たたかってきた彼女らの常識が通じない、お菓子に人間の説法が通じないように。

 

 狙い澄ました矢はいい手応えで当たらず、蹴りはまともに当たらず。気合を入れた戦闘服のタキシードが段々とチョコ色に染まるだけ。馬鹿げているがそれでもいずれ、チャンスが来るのだろうとブク校パーティーの2人と1台は力を合わせて闘いつづけた。

 

「チョコぐぅレートッ、期待以上の伸びです! ですがですがーーかかっとハイ、この辺りでそろそろ最終調整といきましょーー」

 

 倒されないが倒すことができない、そんなお互いの決定打にかける膠着状態を打ち破るのは、若さにあてられた火照ったチョコ色の汗をかきご満悦のトレーナーによる〝最終調整〟。

 

 

「それでは【チョコっとダイダル(ぜんしんをほぐす波の調整)】」

 

 

 敷いたカーペットを巻き剥がしていくように、このステージの床である板チョコを大胆広々に持ち上げていく。そして高々と固めたダイナミックなチョコ景色は、荒々しい波模様を描き、やがて一気に溶けだして動き出す。

 

 この攻撃の規模は今までのようなウォーミングアップのチョコっとどころではない。サーフボード代わりのバニラクリームをサンドしたココアクッキーに、トレーナーは姿勢よく片足で立ち乗りながら。

 

 この有利フィールドを存分に使った一面チョコ色の大規模攻撃が、海鳴りのような壮大な音を立て近づく、近づく……。唖然と見上げるブク校パーティーの2人と1台を、とどまることなく勢いを増し進み襲った────────

 

 

▼

▽

 

 

 チョコ色の大波は全てを呑み込み、全てをその色にコーティングし染めきった。

 

 見下ろす景色の全てを、甘くおかしく調整完了。かのように思われたが────波上のサーフボードから地を見下ろしたチョコっトレーナーかかおらが、最初に目についたのは、〝卵〟。

 

 かかおらはそのお菓子の名を知っているが、どうしてあるのかを知らない。脈絡がない大きな卵が中央にぽつんとあるのは、おかしい。驚いたかかおらは、イチゴチョコ色のクエスチョンマークを頭上に浮かべる。

 

「おや? おチョコの……たまご?? はてはて懐かしの思い出補正とやらでチョコっと大きく見えているのでしょうか? とすれば? 気になる中身のおまッ──!?」

 

 不意に砕かれ、砕かれ生まれた。ナカから殻を破り飛ばし、大きなチョコ卵菓子の破片が辺りに勢いよく飛び散り乱れる。チョコ色にコーティングされていた卵の殻に覆われていた未知のおまけの中身は、登場間も無く、既に番えていた矢を射った。

 

 真っ直ぐ天を目掛けて飛んだ矢は、チョコ人間が乗りこなす宙を滑るココアクッキーを射抜き砕いた。

 

 奇抜な登場シーンからの美しい奇襲劇、懐かしのお菓子【おチョコのたまご】に見とれていたトレーナーのかかおらを撃ち落としていく。

 

 頼りにしていたココア味の足場が不意に崩れる。ビッグウェーブさえ乗りこなした曲者のチョコ人間といえど、全ての物体に影響を及ぼす重力の流れには抗えない。一枚の焼き菓子の上に美しく保っていたその美しいバランスを崩し、真っ逆さまに落ちていく。

 

「かかっ!? 威力・速度・漂うこの魔力の匂いッ生まれ変わった?? ナンノ調整!??」

 

 「ナンノ調整」かと問われればそれは、女子高生たちが使っている香油が今度は違う。

 

 冷蔵庫に秘めストックされていたヴィーナスの異能をさらに応用したコピー作戦は、闘いの中でじっくりと冷やされ、敵の目の入らぬ所で調合され、決行された。

 

⬜︎調合(異能冷蔵庫)

【クリティカルPオイル】

×

【冷蔵庫Pオイル】

=

【クリティカル冷蔵庫Pオイル】

⬜︎

 

 異能冷蔵庫の中で調合され出来上がったその冷たい妖気を含有した香油を塗るのは、さっき鋭く飛ばした弓手の矢じりだけにではない。試着室の殻の中で履き替えた新品の紫のスニーカーにオイルを塗り、執事として最後のツヤ仕上げを行う。

 

 そして急ぎ落下点に靴音を立て向かい、天から滴るチョコ色の落下物を拾い披露するのは……タガヤの愛するバトラーバトラーの推しキャラである〝溜息の執事シャイニー〟を見習った、とっておきのくだけた技を。

 

「かっかかかっかっっ!?? ナントぉ踊り足りないとっっおっしゃるのべっべべべべべ────────!!!??」

 

 姿勢を崩したチョコ人間が落っこちたその地に回り続ける穴は、落下する空中でいくら体を柔軟にひねろうが吸い寄せられ、引き寄せられる、決して避けられない。

 

 ブレイクダンスのように激しく、相手を回転する脚技の渦に誘い込み、砕く。とにかく派手でダイナミックな技。

 

 踊るほどに冷たさを増す。特殊な香油を塗り紫の冷気を帯びた止まらない靴の連撃に、溶けて溶けて汗をかき、必死に逃れようとする異能【チョコレート】も通じやしない。

 

 コピー×コピー……選択され冷やされた特別なピーナッツオイルの効能は、柔軟すぎる対チョコレート女特効のオイル。

 

 ヴィーナスの異能【コピーナッツ】が状況に応じたスキルを抽出した香油に閉じ込め、異能【冷蔵庫】が保冷・調合し導き出された結論。

 

 相手の長所で弱点、その甘くておかしい美しさの根源まで射抜き見抜いたとっておきの作戦が、執事タガヤのその両足へと施された。

 

 蹴るたびにそこから急速に固められて料理されていく。まるで寒い寒いボウルの内側に入ってしまった喋るチョコは、激しくかき混ぜられ続け、決してその攻撃から逃げることはできない。

 

「【シャイニー……ブレイキンブレイクホール】!!! ────たぁっっ!!!」

 

 最後はシックスパックに固め調整されたお相手ご自慢のチョコ色の腹筋を、勢いよく蹴り上げて、

 

 今────高々と上空。

 

 若く激しい踊りの勢いについて来れずホワイトチョコの白目を剥いても、自称するトレーナーのプライドがあるのならば、ちゃんと諦めずに最後まで調整(トレーニング)をしよう。

 

 これは要冷蔵のお菓子の宿命──刮目して受け取らなければならない。またチョコが不味く溶けて逃げ出してしまわないように。

 

 

「「【フリーズ】!!!」」

 

 

 ビタりフリーズするのは、逆さにポーズを決める執事の長く美しい脚。覚悟を決めて履き込んだ大事な紫のスーパースニーカーを、高々と天へと見せつけて。

 

 上空に飛ばされた標的へと一矢でドンピシャに合わせた。放った弓の残心に、汗に煌めく黄金の髪をかきあげる美しいブク校のマドンナの微笑みを添えて。

 

 そして蹴り上げ射抜かれ……カチコチにフリーズするのは────

 

「人は勝手に成長するものだから一番肌に合ったものを常に選ぶの。ただ闇雲に追い込むだけでは届かない。よく見て真似してセンスよく調整すれば、磨き上げるそのひとりの美しさと強さに限りはないわ。ふふふ、今回は総計……そうね、ピーナッツ2.5個分といったところかしら? ──勝てたわね」

 

「ハァハァ…………ッ勝ちましたーーーー!!!」

 

『かかっ……かっちーーん……と……チョ』

 

 トレーナーによる身勝手でハードなトレーニングの末に、生まれてきたのはチョコ色にコーティングされた殻をやぶって成長した生徒たちの姿。

 

 異能【たまご?】の紫紫刀、異能【コピーナッツ】のヴィーナス、異能【冷蔵庫】の緒方結美の冷蔵庫。

 

 ブク校小パーティーはそれぞれの異能チカラを上手く掛け算し、チョコっと厄介な異能【チョコレート】の持ち主チョコっトレーナーかかおらを、容赦のない氷漬けにし見事な勝利を掴んだ。

 

 

 

 

 

『かかっ……かぜ……ひきそ……へっ…へっ…へくちょこん……』

 

「脱ぎ捨てられたこの銀紙のお衣装はかぶせるべきでしょうか……。それともこのまま湯煎が最優先でしょうか? チョコの看病は何分はじめてなもので……」

 

「そうね? 分からないけど熱いお茶でも頭に注げばきっと抹茶チョコじゃない、ふふふふ、────お茶にしましょ」

 

 問う執事は、気品あふれるマドンナの悠然と出した答えに『ハイっ!』と返事した。とりあえず茶人の水野サーガが冷蔵庫に入れてくれていた冷えたお茶を、沸かし返すことにした。

 

『おいしく……ちょー…せい……を…』

 

 くろまねき商店オリジナル商品【キャンプ用のコンパクトガスコンロ】を引っ張り出し、茶を入れたやかんに火をかけてゆく。

 

 冷やしすぎたチョコを今度はほどよく溶かすまで……。戦闘を終えた2人と1台と1個は、激しい踊りの跡がまだ固まり残るお菓子なエリアで小休憩を取ることにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。