※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

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40 熱砂と星と校内トラブル

 《17-D階層 星の視聴覚室》にて──。

 

 合わせて全面モニターとでもいうのか。ツギハギされたパネルの数々は、月面のような見知らぬ星上の地と黒い宇宙の空を描写している。

 

 しかし独り迷いこんだ高校生男子には、この辺りを覆う異質なステージの飾りよりももっと、おかしく気になることがある。クエスチョンマークとビックリマークを交互に頭に浮かべながら、遭遇したその宇宙人とも言えない未知の存在と戦わなければならない。

 

 ふと道端、侵入した部屋で出会えば両者は戦闘になる、そんなことはダンジョンでは常識かもしれない。

 

 だが、ピネスにとって考えの読めない敵や理不尽に振り回されることはこれまでの経験上多いものだが、ポケットに両手を突っ込みながら戦うこれほどまでに考えと動きの読めない珍種の敵と出会ったのは、初めてのことである。

 

「なんだ……こいつ……」

 

 星のサングラスをかけた男は足だけで器用に戦っている。しかし繰り出されるその脚技は油断ならない。タガヤや用務員のように、自分にはない熟練のものであると、受けては目の当たりに経験していく。

 

 ピネスは刃で次々に視界に来たる靴底の攻撃を受け止め、退がりながらももう一度態勢を整え、構えた。

 

「星は、────いかがかな?」

 

 前かがみにこちらを覗き込むような姿勢、さらにカウボーイがよく履く黄土色の革製チャップス、そのポッケに手を深く突っ込みながら、ふざけた男は問う。

 

 そう何度もかれこれ、ふざけた男はしつこくも問うもので。もはや構える高校生の剣は無言……切先を向けたまま動じない。

 

 その無言の返答をじっくりとサングラス越しに見たふざけた男は、靴底に星のマークの描かれた自分の右足を、まるで弾丸のように勢いを走らせ飛び出させた。

 

 実物の銃も弾丸もいらない。そんな速さで標的へと一直線に向かい迫った、ウエスタンブーツの靴底の星マークは────

 

 緋色にフラストレーションを爆発させ、もろとも斬り叩き吹き飛ばされた。

 

 失礼に伸び迫った弾丸の星足に対し、剣から突如とした湧き出た爆弾が直撃した。起こる大きな衝撃と爆風に、周囲のモニターがところどころ破壊された。

 

 壊れた天地のモニター、灰色の砂嵐の音色が、足裏と刃を合わせ離れた2人のつくる静寂に流れていく……。

 

「わりぃけど、星も何もいらねぇからヤル気ねぇならそこ、──どいてくれ」

 

 ピネスは吹き飛ばしたソイツを睨んだ。星のサングラスが斜めにズレた男に対して、昂る勢いに任せて言を放った。

 

 まるで自分だけがこの星にいないような軽さ、おどけた薄さ、殺気の薄さ。

 

 ピネスがここまでの戦いを通して感じ取れたことは、人とはどこか違う殺気の淡さと、あまり敵対心を感じない水のような奇妙な魔力、それだけだが、このふざけた男のことをノートに書きまとめるように明確に言い表す必要もない。

 

 遭遇したどこぞの星のミステリーなどにかまけている暇などない。やる気のない敵には付き合わない。この先を急ぐことの方がピネスにとって優先すべき大事なことであった。

 

「ん~~……んっん~~~~? ……ホっ、ホハハハ……そういうわけにも……いーーーーかないっ!! ナラバのナラバ、────星をあ~~げようッ!!!」

 

「……! だからッいらねぇ! っておわっ!??」

 

 星の男はなぜだか若者に冷たく凄まれて、逆に上機嫌に言葉を口ずさんだ。熱い爆風を浴びズレていた目元のサングラスをおもむろに掛け直す──。

 

 すると突っ込んでいたままの両手では失礼だと判断したのか、突如するりと解放したポッケからは──星だらけ。

 

 不思議な男が両手を広げながら、秘めていたその技と魔力を大解放する。ポケットに詰め込めないほどの量の流星群の手裏剣が辺り一面を支配し舞う。

 

 ふざけた言動、ふざけた格好、ふざけた星型のサングラスの男に、勝手にテンションを高め実力を認められてしまったピネス。

 

 剣を構える彼の身を、飛ぶ星々が眩しく瞬きながら破茶滅茶に襲った────勝手な星男が鎮座するこの先を勝手に通ることはできない。

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

 《13-E階層 熱砂のビオトープ》にて──。

 

 ここはダンジョンとは思えない一面の熱砂と、遮る物のない風が吹く、そんな乾いた自然な風景が広がりをみせる不自然な環境。

 

 部屋の明かりとなり、全てを等しく照らしている朱色の疑似太陽の下、白い砂利粒を元気に蹴散らしながら、ジュエルモンスターとシャドウモンスターがぶつかり合う。

 

 主を守るため、主の敵を消すためにモンスターたちは互いを攻撃し消耗し合う。

 

 シャドウゴブリンが掲げたその剣を緑の粘液の急所にブッ刺せば、ダメージ限界を迎えたジュエルスライムは一粒の宝石と化す。「ぽすっ」と無力な音を立て落ち、砂の中に埋もれ還り。

 

 遠方から弓を射ようとすれば、赤いカラスが空から舞い降り接近し、その今にも番えようとしていた矢を啄んだ。そして嘴に咥えた矢を器用にもぐさり、ゴブリンアーチャーの頭に刺して──お陀仏。リサイクル可能な一匹の影は敵にやられ、灰髪の主の足元に戻れずにその場で失せてしまった。

 

 そんな黒と鮮やかな宝石が入り乱れる混戦の最中、密命を受けたシャドウゴブリン出席番号❹は、敵モンスター軍の主である白いミイラ男の背後にぬるり……影に身を忍ばせて。

 

 今、携えていた激レア刀を高速抜刀し、静かな居合斬撃を放った。

 

 隠密行動から鋭く放たれた一閃は、十分チェックメイトに足ると思われた。だがしかし、標的が全身に巻き付け纏う包帯衣装の隙間から、今のっそりと、愛らしく首を出して現れたのは謎の子亀。ミイラ男の背を狙い飛んだ危うい魔法の斬撃を、小亀はその背負うダイヤモンドの甲羅の盾を向けタイミングよく防いだ。

 

「おっと気づかなかったァ、そんな所に居たかぁー! よちよちズルかちこくて珍しいモンスターだな、えへ、えへへ。【キャプチャーぁぁぁリネンんん】!!!」

 

 背中を打たれたミイラ男は振り返る。すぐさま影に溶け、潜伏して逃げようとしたがかなわず。出席番号❹は、そのミイラ男の身からいきなり放射線状に伸びて集束した包帯の軌道にグルグル巻きにされ、捕らえられた。

 

 しかしこれは異能と装備を合わせた末に生まれたスペシャルなモンスター、残念ながら敵の主のモンスターを捕らえることはできない。魔力を帯びた包帯に絞めつけられた影は、そのゴブリンの造形を保てずに、やがて内在していた魔力を霧散させ失せた。

 

「影はつきまとえどつかまえられない。フッフ、私の生徒でもある。困るものだ」

 

「へへっへへっならオマエをキャプチャーぁぁリネン!!! へへへ、オマエの毛並みも、色も、なかなかレアだぁーー嗅がせろーー吸わせろーーなでさせろーーーー!!! 首輪をつけてお散歩だァーーーーへへ、へ……」

 

「フッフ……」

 

 腹にしがみついた子亀の頭をよちよちと撫でる。動物モンスター愛に溢れるミイラ男と出くわしたのは、生徒たちを愛する眼帯の校長先生、不黒文。

 

 熱砂のモンスターバトルは、愛が故に歪め極めた狂気と、美しいプラチナ髪に潜む妖しげな笑みを浮かべながら────。

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

 円形校舎の各階層で予定にないトラブルと闘いが勃発する中────

 

 その円形校舎ダンジョンの中で、今もなお懸命に動いているであろうサンチュ奪還パーティーを信じて送り出した者たちも、何もせずにじっとしてはいない。

 

 命運を決する見えない戦いはもう既に始まっていると言える。帰るべきホームである校長先生不在の不黒高等学校の校舎、その防衛指揮を任された風紀委員部の部員である登別海。彼女の考え打ち出した割り当てに基づき、早急に人員は整備された。そして全校生徒の協力を持ってして、これまでより校内の警備体制が一層引き締められ強化された。

 

 ダンジョンへのダイブ経験があり貴重な上級生戦力でもある3-C榎田椎名もまた、大事な大事なきのこ園を荒らされないためにその手に斧を持つ。七輪で焼いたきのこを頬張りながら、周辺のパトロールを強化していた。

 

 そして、そのパトロールの成果もあってか、既にブク校の生徒とは思われぬ不審者らしき怪しい人影を発見。

 

 ゆっくりとこれに接近し職務質問をかけた榎田椎名は、その結果──既にその者との間に険悪なるムードを引き起こし、避けられない交戦状態に移っていた。

 

 

 

「おい立ちやがれクソ挑発シスター。まだ一発しか、くれてねぇ」

 

 不審者の放つ石のように硬い拳のストレートが、榎田が咄嗟に盾にするよう構えた厚い斧の刃ごと打ち抜いた。

 

 オシャレで着てきたオーバーサイズのトレーナーの袖を捲り上げながら、不審者のボクサーは怒りの形相を深めた。さらに今その拳で武器ごと吹き飛ばした相手を、地べたに寝ていないでさっさと立つように、くいくいと指を動かし挑発し返した。

 

 一発の拳の威力に吹き飛ばされ、校舎裏に建つきのこハウスの壁にもたれながら、茶色のシスター服は起き上がる。そしておもむろに乱れていた自慢の白いマッシュヘアーをゆっくりと整え、笑った。

 

「……ふふふ、────元気なげんきなきのこなかまのお相手は、武力をもってお焼きします!」

 

「だから……〝きのこ〟じゃねぇ!! 〝オシャレ〟だ!!! 何度も言わせやがって、イカれたきのこ女めッぶち殺す!!!」

 

 校舎裏のフェンスと茂みを乗り越えてこっそりとやってきた不審者に、先にご挨拶し挑発したのは白きのこの榎田椎名、それに対し硬すぎる石拳のご挨拶を繰り出したのはブラウンきのこ。

 

 ゆるふわなホワイトマッシュボブと、クールなブラウン刈り上げマッシュ。なんの因縁か巡り合った似たようで違ったきのこ型のヘアー、その美的感覚と共通項をめぐって……。

 

 校舎裏で突然勃発したタイマン模様は、ひっそりと雲行き怪しく流れ出す。再び対峙し構える──斧を握る手と、硬く握り込む拳が、汗でじんわりと湿り始めた。

 

 

 

 

⬜︎校舎裏きのこ園での決闘

榎田椎名:

メイン武器 斧

異能【きのこレーダー】

技・魔法

【笠割】

【胞子変換】

【風のマナ胞子】

【受け継いだきのこベレー帽】

【きのこアイテム各種】

髪型

ホワイトマッシュボブ、ゆるふわで

 

 

謎の女子ボクサー:

メイン武器 ンなもんねぇ!

異能【地蔵菩薩の呪い】

技・魔法

【石拳】

【石鎧】

【お辞儀ボディー】

【悪霊祓い】

【オン・カカカビサンマエイ・ソワカ】

髪型

ブラウン刈り上げマッシュ、前髪は長めで

⬜︎

 

 

 

 

 道端の地蔵をも砕くほど、硬く呪われた石拳を持つ女子ボクサーに、ダンジョン冒険者としての素養はあれど、シスター服を着込んだきのこ好きの女子高生が勝てるのか。答えは否────

 

 

 防御行動を取り構えた斧の武器は、高速ジャブと織り交ぜる石拳ストレートに保たず……砕けた。

 

 ペースを乱された榎田椎名の戦い方はその後、冷静に切り替えたように様変わりを見せるも、相手はボクサー、その俊敏なステップワークを素人が捉えて崩すことは中々難しい。

 

「斧が当たらないからって爆弾が当たるかよ! そんなの当たるのッ地蔵だけじゃ!」

 

 起爆茸の柄をかじって投げつけるも、ブラウンマッシュヘアーの素速さには、そのふざけた天然の手榴弾は当たらず。あっという間に緑のフェンスに追い詰められていったのは、片刃が壊れた頼りないレア斧を握る榎田椎名。

 

 もはやノックダウンは必至。するとその事を悟ったのか、役に立たない壊れかけの斧を高々と上へ放り投げる。ズレ落ちていく頭のきのこベレー帽に、榎田椎名は覚悟を決める。

 

 そして、フェンス際へと追い詰めた白髪のきのこ女へと、ブラウンマッシュのボクサーが硬い石拳のストレートを放つ。一発でKOもあり得るそんな硬い硬い拳を容赦なく、落ちてゆくベレー帽の上から叩き込んだ。

 

「──!? 石のサンドバッグだと。チっ! ひびわれやがった縁起の悪ィ! (これ以上変なのに呪われてたまるか!)」

 

 決定打を打ち込むボクサーの眼前にパッと広がり咲いたのは、榎田の前方を覆う石色のきのこの盾。ただのベレー帽が石の盾に化けるとは攻撃した方も思わなかった。そして「ぴしっ……」とひび割れていく縁起の悪い音に、攻勢だったボクサーが次の拳を一瞬ためらったその瞬間──。

 

 投げ捨て手放していた斧が2人の背後にある土壌に刺さる。さらに、ひび割れた石きのこ盾から密かに散布していた周囲の風のマナが一気に爆発し、刺さった後方の斧から不思議なかまいたち現象がおきた。

 

 ボクサー女子は不吉な殺気と鋭い風切り音に振り返った。

 

「──野郎!??」

 

 押し寄せる風圧と魔法の風の刃に、強化フェンスに押し付けられたボクサーは、石のようにガードを咄嗟に固めた。石のようにというよりは石、身体の前面を石にし、吹き続ける風の切れ味に己の身を削られながらも耐え凌いだ。

 

 そして今吹き止んだそよ風に転じて反撃しようと、怒りの拳を溜め、憎きあの白きのこを探すが──いない。

 

 追い込んだはずが一杯食わされたボクサーは、その体を前へと動かそうとした瞬間にさらなる異常に気づく。

 

 びくともしない接地する両脚の底と、粘つき離れようとしない背にしたフェンスにボクサーは悟る。

 

 ボクサーの持つ常人離れしたその素速いフットワークを崩すためには、フェンスと靴底に接着材を使えばいい。榎田椎名は【接着茸】の透明粘液を、あの激しく吹いた風のマジックに乗じて、辺りかしこに撒き散らし仕掛け、消えていた。

 

 一体どこへ消えたかというと──

 

 必死に鬱陶しい接着剤を引き剥がそうとしながら、ボクサーが今見上げたのは天。

 

 それはまるでプロレスラーが弱った相手へのトドメを刺すために、コーナーポストを登る天への道。きのこ栽培に用いていた浮かぶウッドキューブの数々を足場にし飛び移りながら、ホワイトボブの女が高々と登っていく。

 

「ちっ、野郎! トドメのつもりか、がめやがって!!!」

 

 一度リングに上がったボクサーがその靴を脱ぐことはない。背に引っ付く邪魔なフェンスを裏拳で吹き飛ばし、お洒落で着てきたその邪魔なトレーナーを引き千切り脱いだ。

 

「【オン・カカカビサンマエイ・ソワカ】【オン・カカカビサンマエイ・ソワカ】【オン・カカカビサンマエイ・ソワカ】……来やがれ!!! 悪霊でも、道端の不良でも、きのこでもなんでも滅し返しちゃる!!!」

 

 身軽な赤いノースリーブ姿になった女は、その呪いじみた異能を、おまじないのように幾度も繰り返し唱え発揮する。やがて、地蔵のように全身石色と成り、相手がリング外にいようともファイティングポーズは崩さない──硬い首で見上げる天を睨み待った。

 

 

「武力、女子力、【メテオ茸】!」

 

 

 異能【きのこレーダー】で感知するだけではなく操作した足場のウッドキューブから、採れたてのきのこをありったけ回収しつつ。特殊なベレー帽を芳しく成長させ放ったのは、特大きのこ魔法、【メテオ茸】。

 

 膨大に膨らんだ魔力を燃やし落ちてくる巨大なきのこ笠に、一時のプライドと菩薩の心で逃げずに固まっていたその地蔵は、本当は後悔していたのかもしれない。不吉な影が天を蓋するように覆っている。

 

「お焼きぃぃぃい!!!」

 

 魔力と胞子に赤熱する隕石は、地で歯をぐっと食いしばり待つ女の地蔵へと、バチ当たりにも────

 

 

 

「じょしりょく……おそろです……」

「おしゃれじゃ……ぼけぇ……」

 

 

 

 天から地へと衝突した轟音は過ぎ去った────。

 

 固まっていた石色の肌は元の肌艶へと戻り、小さなベレー帽がふらふらと風に揺られながら、静かに窪地の中心へと舞い落ちていく。

 

 最後の言葉まで互いのそりが合わず、やがて沈黙したその身が重なり合う。結末は、まさかのダブルノックアウト。

 

 白と茶のマッシュヘアーは痛々しく乱れ、お揃いのような荒れ模様をなす。

 

 落石でできた大きなクレーター、まだ熱い温もりの残るその中で寝転がる2人の周りには、急発生した色鮮やかなきのこの群れが、びっしりと供えられた────。

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

「どらぁこらぁーーーー!!!」

 

 大きなひよこのモンスターは、オレンジの鳥脚をバタつかせ、あせあせと逃げてゆく。背負ういっぱいの風呂敷から商品を撒き散らしながら、鬼のような形相で迫る電磁ハリセンを手にした小さな店主に追われるも、大きなひよこたちは廊下をどうにか走り切り逃げおおせた。

 

 くろまねき商店の店主ちひろちゃんは息を「ゼェハァ……」と切らしながら、疲れた様子で一旦その場に立ち止まった。

 

 やはりここも狙われてしまった。店の防犯対策を強化したものの、来店した愛らしい大きなひよこがまさか商品を盗みだすとは露ほども思わず、対応が遅れてしまった。

 

 丁度そんな黄色い犯人の逃亡シーンを目撃した絶賛パトロール中であった登別は、店主に落ちていたレモンスカッシュのペットボトルを手渡して尋ねた。

 

「さっきのはひよこ? モンスター? 他の侵入者はどこかしら、心当たりはある?」

 

「ぷはぁーーーーーーっ……それならわかんで! 待ってな! えーーと……ぴよぴよ走ってんのがそこらにいっぱいおるわ。たぶん盗人ひよこの一味やろ! ちひろちゃんの【絶対的金銭感覚】からは、ひよこも、あほぅも、コケコッコーも逃れられへんで! あーーーーむかつく!! もふもふしててかわいいからって、盗みは許さんで!!!」

 

 【絶対的金銭感覚】どうやらそれは、くろまねき商店の店主ちひろちゃんの異能である……らしい。価値のある全てのモノは、彼女の有するこの第六感から逃れることはできない。

 

「あと……なんやこれ」

 

「どうしたの?」

 

「どうしたもなんもアッチの上におんのは、すんごい価値やで。なんの卵やわからんけど、絶対ヤバイわ?」

 

 ちひろちゃんは自分のスマホを見せながら、そのビリビリする感覚を、校舎フロアマップにマークし示し登別に見せた。3Dマップには、依然ぴよぴよ慌ただしく走る黄色い複数のマークと、動かずに上でじっとしている赤いマークが一つある。

 

「そう。分かったわ、とりあえずそこね」

 

「っておーい! ほんまに行くんかー!! きっと危ないでぇ!!」

 

 ちひろちゃんの呼びかけに、既に動き出していた登別はパっと背を振り返った。

 

「えぇ、ひよこの泥棒はどうでもいいわ。盗みですむのなら安いわ」

 

「そりゃぁ……せやな? っておい! どうでもいいことあらへん! うちのしょーーひーーーーん!!! あとうちのスマホーーーーーー」

 

 状況を把握した登別海はひよこの盗人たちを放置する判断をし、上階に向かい走り出した。

 

 防犯用に装備していた電磁ハリセンで、廊下にきつくツッコむが、颯爽と遠くへと駆ける緑髪の背には届かない……。ちひろ店主は仕方なく、黒い前掛けの内から取り出したサブのスマホを操作する。そして皆のスマホに、ひよこ泥棒の逃亡するリアルタイムのマップ位置を共有し届けた。

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 浮遊する4つの小玉から雲雀笛(ひばりぶえ)の鳴らす遠隔合図で【カロリービーム】は発射され、〝投石ぴよこ〟を四方八方から成敗。

 

 ハープから奏でる【ネムリの歌】、バラード調のメロディーですやすやと……。羽帽子の生徒に襲いかかろうとした〝ぴよこナイト〟はやすらかに眠り。

 

 燃えるお魚、朱文金が遊ぶようにぐるぐると追い回して〝生ぴよこ〟の尻を焼いた。

 

 

 ブク校校舎の防衛にあたっていた小角灯、紫紫檀、モミジ、ちひろちゃんの4人は共有したマップを通して協力連携した。盗みを働いたぴよこたちの逃走ルートを塞ぎ一箇所へと誘導し、ついに真っ白な《トレーニングルーム》の中へと一味丸ごと追い詰めた。

 

 生徒たちの繰り出す様々な攻撃にさらされたひよこのモンスターたちは、まん丸な鳥目を×印に変えダウンし、「ぽんっ──」と不思議にも煙になり消えていった。

 

 そしてそんなひよこに似た召喚獣、ぴよこたちを指揮していた悪の大元は、杖を強く握に締め、黄色いトンガリ帽子を被った、いかにも魔術師らしき1人の女であった。

 

「泥棒のはじまりは泥棒です!!! ブク校の風紀を乱すものは何人たりとも何匹のひよこたりとも許しません!!!」

 

「せやせやぁー!!! よぉ言った、よぉやったで!!!」

 

 風紀委員部部長の小角の言い放つ、威勢の良いブレない信念のお言葉に、被害者の店主ちひろちゃんは同調した。

 

「つぴーーーー! なんなのよこいつら! もぬけの殻って聞かされた話が違うじゃない!」

 

「まぬけの阿保はそっちや、覚悟するんや! これでお縄やで! 料金分きっちりサービスして、シバいたる!」

 

 盗人相手に容赦はいらない。取り巻きのぴよこたちをきっちり片付け、勢いに乗るちひろちゃんは、スイッチをオンにした「ばちばち」と唸る電磁ハリセンを片手に、店主直々に盗人の親玉を成敗しにいった。

 

 

 

 

「きぴぃーーーー覚悟するのはーーッ、アンタたちよ!!」

 

 高く飛び上がって舞い降りた、ちひろちゃんの必殺【ジャンピング電磁ハリセン】。黄色いとんがり帽子へと天誅が下る。

 

 だが、それでも懲りず悪びれず認めない。抗う盗人魔術師は、天へと向かい歯を食いしばりフルスイング──。

 

「んきゃーーー!!! ナッ、なんやいきなし凶暴なったで!?」

 

 トドメのツッコミを刺しにいったはずのちひろちゃんが、バットで打ち返すように振られた木の杖に、返り討ちにされ今強烈に吹き飛ばされた。

 

 部屋の角に追い詰めた悪の親玉が、まだ観念せずに暴れ出した。盗みだけでは飽き足らず今度は店主にまで手を出した、ともすればこれは戦争である。

 

 シタンは右腰にぶらさげていた激レア装備の巾着袋を開けた。そして巾着袋内で魔力を再チャージされた、うずらの卵ぐらいの大きさの白い小玉を放出。宙に浮かべ配置した4つの白玉から回避困難な【カロリービーム】が時間差で照射された。

 

「当たるかぁ!!! んなろぉぉぴーーーーぴぴっぴーーーー!!!」

 

「えぇーー!? あたらないのーー!?」

 

 ぴーぴーと鳴きながら、ピーピーと照射されたビームを躱す。真っ直ぐ複雑に合わさった4つの魔力線の軌跡を、黄色いトンガリ女が上手く反応し避けていく。

 

 魔術師とは思えない反射神経と運動神経でかいくぐり、己を取り囲む白玉を置き去りにする程のスピードで、包囲網を敷く敵パーティーへと女魔術師は仕掛けた。

 

「止まるのです!!!」

 

「犬じゃないのよッ、鳴いてなんぼのぴよこが止まるかァーーー!!!」

 

 小角の手持つランタンから放たれた炎のバルカンの威嚇射撃も、窮地に立たされ戦闘のボルテージを上げたぴよこ魔導士の足を止められない。

 

「たぁーーーー!!! おっとっとったっほっやっはっぴっ!? ぴぴぴぃーーーー!??」

 

 モミジのハープから奏でられ、密かに床に録音され仕込まれていた【ツチの歌】が起動──演奏。獰猛と化した女魔術師の駆けるオレンジブーツの底が、床を踏むたびに、地が嬉しく音を響かせ弾んだ。

 

 突っ込んできた敵魔術師に、前のめりの危険なぴよこダンスを躍らせ──『ドレミファソラシぴぃー』でずっこけた。

 

 そんな痛々しくもファニーな音を踏み鳴らしながら、踊りきれず派手に前に転んでしまった女魔術師、彼女の今起こした顔の上。とんがった黄色いコーンの周りをぐるぐると回りながら、やがてぶつけた鼻を抑える彼女の顔の前へと、いないいないばぁっ! ──燃える赤い魚が、眼前にいきなり明るく元気に現れた。

 

 朱文金が遊びに来たのだ。なにやら目の前に留まるやけに暑苦しい魚が口をパクパクしている。まさか餌を求めているのか、いや──。眼前にメラメラと灯り映るそんなお魚さんの仕草に……ぴよこ魔導士の顔面が青ざめていく。

 

 汗染みる黄色い帽子の中から取り出したのは【ぴよこクッキー】。甘いお菓子の賄賂を手渡そうとするも──即黒い焦げと化す。焼き加減はこちらの方がお好みのようだ。

 

 そして次々と無邪気に吐かれたお魚さんの炎を、避ける避ける避ける避けなければ燃える。そんな必死の一心でゴロゴロと床を倒れたまま転がりながら──辛くも冗談で済まない火遊びから逃げおおせた。

 

「ハァハァ、捕まるかーーっ、魔道歴30……じゃなかった数年!!! こっ、こんなヤバイやつらに捕まってなるものかーーーー!!! ハァハァ………ハん? ────!? あちちちちちちぴぃーーーーーーちっちっちぴーーーー!??」

 

 鼻に感じた焦げ臭いニオイに見上げると、お気に入りのトンガリ魔術帽子の先端に、赤く煙る小火がついていた。

 

 慌てたぴよこステップで、反復横跳びしながら頭上の熱に悶えた魔術師。やがて、「ふぅーふぅー……」息を大げさに吹きかけ、しまいに地に叩きつけるように投げ捨てたトンガリ帽子を、そのトンガリが無くなるほどにブーツで踏みつけ──やっとのことで火が消える。滝のように流れる汗を拭いながら、魔術師の女は一安心した。

 

「ボケもリアクション芸も凶暴な女や気をつけぇ! それと当店特製【黒肉まん】や嬢ちゃん食べぇ!」

 

「うん、ありがと。なんかたのしくて、ちょうど小腹すいちゃってた。あははは──はむっ……!!」

 

「フフ、さわがしい牧場だね。じゃもう一曲」

 

「こらっ朱文金! 盗人でもあんまり燃やしちゃダメなのです!!」

 

 

 真っ白いトレーニングルームに閉じ込めて逃がさない、逃げたくて抗い、白熱する。

 

 防衛側の生徒たち4人と、歯ぎしりをしながらまだ杖を構え直す盗人ぴよこ魔導士。

 

 不法侵入、それに学校での窃盗行為は厳禁。羽帽子の生徒がハープを陽気にかき鳴らし、もう一曲奏でる。大きなひよこの飼い主はもっとタフで凶暴だ。風紀を正し盗品を取り戻すための戦いはつづく────。

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