※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

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41 決闘の島、決別の雨

 ポケットに詰まっている星は無限か、剣で砕けど砕けど、モニターパネルが舞台の擬似宇宙の黒を駆ける流星群は止まらない。

 

 帽子被りの薄ピンクの長髪を揺らし、ポケットに潜ませた無限の手裏剣を放つ。まるでその動きは星属性の忍者か、その割には西部劇のような恰好に、ふざけたパーティーグッズのような星型サングラスをかけている。

 

 しかしそんな敵の男のおどけた恰好やルーツなどはどうでもよく、この奇妙な星の魔術を飽きることなく貰い続けるピネスは、戦闘に集中していた。

 

 これまでポケットに手を突っ込み見せていた足技の縛りが、この男のハンデだったのか遊びだったのかは知らない。とにかく熱心にこちらに向かってくる星は要らない。おびただしく押し寄せるこの奇妙な術をその剣で砕く、それだけに集中し、やがて宙を舞い落ち積もる星屑の塵に……ピネスのその身と剣先に宿す魔力は、不思議と馴染みかつ昂っていた。

 

 しかし何かに集中すると逆に視野が狭くなることもあるもので。星を供給し続けていたサングラスの男が重いものを両手ではたき落とす、そんなジェスチャーをいきなり披露すると、突如、謎の仕草にリンクするように天から少年へと降り注いだ【特大の星】。

 

 真上に堂々と掲げるは、緋色のショートソード。天に忍び練り上げられ、真下へと向かい重く降り注いだ特大の星が、脆いクッキーのように砕けた。

 

 粉々にされた熱い星の欠片が、辺りに激しく散らばる──。さらに緋色に熱く爆ぜる景色の中から、斜め下へとゆっくりと弧を描き光る、翠の切っ先。

 

 もたれかかった大星を【バーンファイア】で打ち砕き、それだけでは終わらない、その若き剣士は相手の大技すらも利用する。そして、切先を下方へと向け留めていた翠剣を、一気に上へと振り抜き黄色い三日月を放った。

 

 星男は慌てて星のマシンガンを魔法のポッケから吐き出し、一点集中で高速連射するも、ひび割れた三日月の勢いはそれでも止まらない。

 

 「ナラバのナラバ」と、特大の星を3つ三日月の進路に浮かべて盾を成す。これで勝負と言わんばかりにご丁寧に並べるも────並べられた星型の的は、鋭く飛び迫る三日月に裂かれて砕けた。

 

 念入りに用意した三重の星の壁、その最後の砦がゆっくりと音を立てて、上半分を斜めに滑らせ──崩れ落ちていく。

 

 止まらぬ三日月の切れ味がたどり着いたのは、掛けていた星のサングラスのフレーム、男の鼻先の寸前。

 

 色眼鏡を通して見ていた星男の淡いその視界が、真っ二つになる────。

 

 鼻先からじんわりと汗が集い溜まる……。

 

 届いた美しい三日月の魔法剣の威力は、まさかの四つ目の星までを断ち切った。

 

 役に立たなくなったサングラスが、男の浮かべた深い微笑みと共に、ゆっくりと静寂の地へと落ちていく。

 

 

 

 

 そのご尊顔が露わになる。しかし星男のスタンスはサングラスのフィルターひとつを排除しただけでは変わらない。だが口調は、少し冷静でまともな雰囲気になった。

 

「もっともっと……君に彼女の星をあげよう!! まだ足りていないだろう!! ホハハハ」

 

「くれてもいいけど、俺は壊すぞ! あぁー……。この後も、きっと上のほうに予定があるからサァ! 悪ぃけど、星はもうそろそろいいかなって!」

 

 飽きずに付き合ってくれた目の先にいる少年に敬意を表してか、素顔を見せた星男は緋色と翠色の特大の星のマジックを左右に侍らせるように並べた。

 

 そしてピネスもいつまでも遊んでいるわけにはいかない。この星男の背を越え次へと続く、あの螺旋階段を突き進まなければならない。しかし一筋縄ではいかないジレンマがあるのも事実。やはり通せん坊する目の前の頑なな星を砕いて、知らない惑星の故郷へと満足しお帰りになってもらうしかない。

 

「そう予定通りにはいーーーーッかない、予定にない出会い……それは果たして幸か不幸かどのホシかァ? その魔力その剣その理解ッ、どれほどのものを扱えるのか、君が教え示す番だ! 慌てるな慌てるなこの星のバランスは、まだ崩れるほどじゃないーーッ。んっん~~? ──そんな顔をするなっ、そう何が言いたいかというと、つまりは!! 私の心にすむ彼女の星がッ、君の手を欲しているのだよ!! ナラバのナラバッ、じっくりみきっ」

 

 それまでのようにおどけているだけではない、星男は感情豊かに饒舌に語り出した。だが、長々と分からぬ事を熱く少年に語りかけていると、突然──。

 

 星男の両サイドで魔力をうずうずと煌めかせ待機していた緋色と翠の輝ける特大の星が、散り散りに────砕けた。

 

 2つの三日月が今確かに、剣を構えていた少年の背を越え、警戒の意識の彼方遠方から煌めき、星男の両隣に鋭利な爪痕を描いた。

 

 破壊されて飛び散り舞うスターダストの煌めき。勝手に大きな星が2つ砕けた──その光景に驚いた少年の目の前に現れたのは、淡い青髪の……パジャマ姿。

 

 切っ先から水滴がぽつぽつと静寂に音を鳴らし滴る……。装備した【ふつうの亀のショートソード】を払い、その淡く美しい存在はピネスへと振り向いた。

 

「な……んだ?」

 

「いけっ」

 

「え?」

 

 戸惑うピネスに、今振り返ったその端正な女性の横顔が言う。どこか見覚えのある剣を握り、とても見覚えのある柄の緑の布で縛った淡い青髪が、静かに揺れている。

 

「パン屋の娘に手伝えと依頼された」

 

 振り向いた謎の女剣士は、緑の髪飾りをさりげなく見せ、味方であるとアピールしている。ピネスは確かにそんな柄のものを普段、緒方がよく身に付けているのを知っていた。

 

 パン屋の娘ではなくおにぎり屋の娘だが、目に入った剣の形状も緒方がずっと使っている物であることをピネスは思い出した。しかし、それよりも先程飛んで来たモノは何なのか。戦いを通して倣ったことがあるような三日月、そしてどこか異質のその静かな佇まい……。

 

「行け。私にはないが、お前には大事な任務があるのだろう」

 

 見つめてくる知らない淡い瞳、そこに宿る彼女の考えなど、ピネスにははっきりとは分からない。だが、彼女から溢れ出るその魔力は────きっとヤル気だ。

 

 そんな彼女の輪郭を包むヤル気の塊が、次第に炎のように濃ゆく染まり、揺れている。凝らす必要もなく、ピネスの目にはそのように映っていた。

 

 そして見せつけられたその青く揺らぐ質の良い魔力が、出会ったばかりのピネスへと、不思議と強制力を生み出すように────

 

 

「なんか分かんねぇけど……行ってくる!!」

 

 

 彼は迷いながらも彼女の醸し出す強い炎にあてられ、決心した。

 

 一度だけ深く彼女へと頷き走り出したピネスは、呆然と立つ星男の横顔を一瞥し合い、通り過ぎる。

 

 そしてパネルモニター上の壊れた宇宙を堂々と駆け、次へと続く階段を駆け上る。静かに染まった星の視聴覚室へと響く急ぐ靴音が、遠く小さくなっていく────。

 

 

 星男はゆっくりとポッケから取り出したサブのサングラスを掛ける。そして先ほどまであった全ての熱をリセットしたかのように、また、前屈みのおどけた仕草で出会ったばかりの彼女に問う。

 

「んっんー? 別の運命がワタシの邪魔をするかァー? ……ナラバのナッラバァァー、────星はいかがかな?」

 

「────水面にうつる月の方がよく似合う。貴様はどうだ」

 

 

 この砂嵐に覆われつつある壊れかけの偽星にも水はある。モニターに映る水たまりから浮き上がった小さな三日月が、注意散漫なおどけた星男を包囲する。

 

 男はかけたばかりの色眼鏡をゆっくりと外しながら……。浮かぶ冷たい殺気をおびた水属性の三日月に、試されているのは既にワタシの方であったと、悟る。悟らざるを得ない。

 

 おどけている暇はないようだ。早くも引き出された星男の真顔から、流れた一筋の汗が水面にぽつり……滴り落ちた。

 

 星と三日月と少年、唐突にも絡まり合う偶然の運命は、少年が星の元を過ぎ去り、すげ替えられた。

 

 ここは何が起こり、何と出会い、いつ如何なるバトルが勃発するのか分からないダンジョンの中。

 

 たとえ異なる世界の戦士たちが出会い、異なる思想と美学を持ち寄り語れど、互いを相容れぬと認めたならばその瞬間──。

 

 水面へと滴りゆくたった一粒の合図を境に、互いの体に向け合っていた闘争の熱と魔力を今、激しくぶつけ合った────────。

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 三日月と星を飛び越えて螺旋階段を駆け上がり、聞こえて来る静かな波の音と共に辿り着いたのは────

 

 

 《20階層……?》にて──。

 

 

 紫色の灯がふたつ、暗闇と水に妖しく映えている。それ以外の光源はない……とても暗い、だが足元にある草地のような感触を踏み締め、おそるおそる進んだそこに独り、黒い椅子に佇み座る男がいる。

 

 男は手ごろな木を小刀で削りながら木像を彫り出していく。それは暇つぶしなのか、それとも精神統一する為の作業なのかは分からない。

 

 ただ、敵を倒し敵をすり抜け上へと登り続け、やっと一つの目的へと辿り着いた。ピネスは確信していた訳ではないが、その男が区切りのいい階層のそこで誰かを待ち構えているように見えた。つい今日の朝、グラウンドで見た忘れもしないあの黒い装いの男〝サンフン〟が。

 

 ピネスは今目が合った、その暗がりに悠然と黙りながら木像を彫りおこし続ける男に、左右周囲を見渡し確認しながら先ずはこう尋ねた。

 

「サンチュは?」

 

「期待外れだな」

 

「……?」

 

「邪魔なミーハー妹なんざいるか。ずっと寝ていた方がマシだろう」

 

「……!」

 

 その返答はどういう意味か。サンフンはまだ木像を小刀で彫りながら、続けた。

 

「乗り込んできた馬鹿どもの中でお前が一番乗りとはな。遠慮なく席につけ」

 

「何がだ」

 

「言ったろ全てを奪う────俺の城では強さだけが正義だ。そこに着け」

 

 気づけば辺りに用意された椅子が一つある。サンフンにそこに掛けろと促されるも、ピネスはしばらく何も言わぬままその場に突っ立ち、己の髪をかいた。

 

「城…………あぁー……わりぃけど、俺、それならたぶん途中でテストをズルしてここに来てっから座れねぇ。だからなんとなく」

 

 サンフンの言うことが全てなら、ピネスの通って来た道のりは全てが100点とはいかないだろう。ピネスはその席に着くことを拒み、さらにここまで円形校舎のダンジョンを駆け抜け、温めて来た自分の言葉を続けた。

 

「────あんたの事、確かめてやる。あいにく朝はめっぽう弱いからさ、今度はここまであったまってきた全力でな」

 

「……全力だと? 弱っちぃ情けで生かされて、わざわざ俺にもう一回殺されたいか? お前──変わってるな」

 

 サンフンは下方を見ながら木を削ることをやめた。そして気に召さなかったのか未完のその作品を、後ろへと投げ捨てた。

 

「相当に馬鹿だろ」

 

「かもな」

 

 

 静まり、暗がりに嗤う黒い悪魔と、見返すボタンの一つ欠けたままのツギハギブレザーのナイト。

 

 2人の呼吸がイヤに重なった時……水面に何かが投げ入れられた音を聞き────瞬く間に、黒と緋色の火花が散った。

 

 ぶつかり合った剣と剣、はじまりの一合の合図に、次々とひとりでに燭台の火が灯り、用意されていた豪華な舞台の全貌が明るく露わになる。

 

 木像はぷかぷかと浮かび、鬼角のついた女神が憎たらしく微笑んでいる。

 

 

 決する闘いは20F頂上、暗黒巌流島で────

 

 

「命が惜しくなったか?」

 

「そんなの惜しいならぁ……たぶんッダンジョンなんてこねぇよ!」

 

「フッ、じゃぁ死ねッ悪魔的にナ!」

 

 緋色と翠のショートソードは臆さない、ピネスは魔力に色づいた二刀を勇ましく構え直し、当たり前の返事をする。

 

 黒い悪魔サンフンは、発色し威嚇するその懲りぬ蛮勇を鼻で嗤う。魔力を流し倍ほどに伸びゆく……悪魔の黒く鋭い刃が、のこのこと挑んできた冒険者に今、襲い掛かった────。

 

 

 

 

 

 

▼

▽

 

 

 

 

 

 

 影の軍団は宝石の獣たちの輝きに蹂躙され、失せた。そして防衛の手薄となったプラチナ髪の術師に向かい、宝石の獣たちは襲い掛かった。

 

 シャドウモンスター対ジュエルモンスター。その雌雄を光鮮やかに決し、モンスターの練度でまさに勝り優勢となったミイラ男。ミイラ男の指揮で、宝石獣の数々がプラチナ髪へと一斉に群がっていく。

 

 モンスターブリーダーとネクロマンサー、どちらの方が優れているのか。今その答えが絢爛豪華に塗り潰され、明かされようと──。

 

 しかし、それはあくまで影。不黒文の異能と影魔法の見せる姿の一部にすぎない。そして円形校舎ダンジョンに挑むにあたって準備は万全、引っ提げてきた新要素が銀と緑の指輪から鋭い輝きを放ち、解き放たれた。

 

 斉射され飛んできた宝石獣たちの放つ宝石の弾丸は、急成長したメタルジャガーが壁となりその超硬質の鉄色の毛皮で全て受け止める。

 

 ならばと飛び付いてきた一角の蛙は、緑の獣ジャカジャカジャングルジャガーが、横からかっさらうように噛みつき、地へと今跳ねた獲物を押さえつけ倒した。

 

「めったるぅぅぅ!??? じゃがーーー!?? へへ、へへ?? へへへ……?」

 

 空へと一発撃ち上がった──。閉じた傘の先端から放たれた魔力弾は、空から風音を潜め滑空して来た赤い烏を射抜く。烏は間抜けな返事をしながら、赤いルビーを一つ、砂地にぽとりと落とした。

 

 すりすりと体をなすりつけるように擦り合わせてくる、主を守ってみせた大きな鉄色のネコ頭をそっと撫でながら、不黒文は笑う。

 

「ちょうどモンスター使い同士の戦いを経験しておきたかったのでな。それに今年の運動会で執り行う予定のモンスターレースの予行演習もいいものだが、今頃離れた生徒たちがこのスペシャルな校長のかわいい陰口を叩いているかもしれん、フッフ……。モンスターの育成及び合成はなにぶん手探り、鑑賞の時間がすぐ終わるともったいないと思ったが、遊びはここまでだ」

 

 右目を覆っていた黒い眼帯を解放し、灰色の眼が妖しく灯り、プラチナ髪の纏う魔力が火柱のように迸り跳ね上がる。

 

「異能解放────」

 

 不死身の影のゴブリン衆は元通りに復活し、更に影のキューブ、影のイワマジロ、影のドクターコウモリなどの隠して飼っていた新手が続々と現れた。

 

 そして黒傘の華をぱっと咲かせて、頭上に差す。悠然と微笑うその女、その魔力、その瞳──これは虚仮威(こけおど)しではない。

 

 影の軍団を従えるスペシャルな校長先生、不黒文、彼女の差す黒傘の影がじわり……不吉に広がり蠢いた。

 

 

 

 

【禁じられし書、血で燃え染めて、眠れし悪魔をも懐柔する】

【盗り分かち合うは悪魔の片眼、くだり誘われるは死神の青】

【我が慧眼に映るは真理成熟の色のみ、対なす追憶の空よ忘却の哀願に染まれ】

 

 それは虚仮威しではない。モンスターを使役するほどに、不思議なことに主の魔力が高まっている。無尽蔵にも等しく思える程の内在魔力、その上限値がゾクゾクと終わりなく膨らみ続けている。

 

「まっりょっくううううううとめろーーーー!!! プラチナをかめーーーー!!!」

 

 ミイラ男は訳の分からない念仏を聞きながらも理解した。自分のコレクションを全開放しないと、もはやいけないことに。

 

 全員で突撃、全員で斉射。包帯のナカに隠されたジュエルモンスターたちを宝石の檻から呼び起こす。ビオトープ内にある疑似太陽を覆い曇りゆく不吉な空の下、敵の手下として増え続ける影の軍団をその輝きで消し去らんとけしかけた。

 

 再び衝突し合うモンスターたち。膨らみ続けいつ破裂するかも分からないとてもイヤな予感のするプラチナ髪の術師、その者の企みを即刻止めるために、あるいは守るために。

 

 三つ丸まり並走していた影のイワマジロたちは転がり……やがて合わさり、巨大な一つの黒岩と化す。その黒岩と興奮気味に相撲を取ろうとしたモンスター、フンコロガシオパールを轢き潰し砕いた。

 

 浮かぶ影のキューブに逆さ吊りに留まっていたドクターコウモリは怪音波を発し、空から抜こうとするストロベリークォーツバメの編隊の飛行感覚を奪い、ふらふらと酔わせたように墜落させた。

 

 もはやジュエルモンスターに任せているだけでは足りない。包帯のリネンを乱舞させながら怒涛の勢いを見せる。冷たく染まる不穏な砂地を蹴散らし、行手を阻み纏わりつく影のモンスターを蹴散らし、痺れを切らしたミイラ男が猛進を始めた。

 

 そして悠長に傘を差したまま佇むその危険なプラチナ髪の術師へと、今にも噛み付かんばかりの怒涛の勢いで肉薄しようとする、だが──。

 

 

 ────────カラダがぷかぷかと浮いている。

 

 宙に、浮いている。

 

「【キャプチャーぁあぁりねっ!?】 あぁっ……???」

 

 ダイヤモンドの甲羅を背負う子亀が、のっそりと眠っていた包帯の隙間から首を出した。そして主と同じように首を傾げている。

 

 蠢きながら広がっていたのは、差していた傘が落とす黒影。その桁外れの魔力を含有する黒のエリアに迂闊に侵入しようものなら、発揮する異能【浮遊】の影響で、小亀を抱えた包帯男が間抜けに浮かばされても不思議ではない。

 

 足をばたつかせてそれでも前へと泳ぐ。そんな風に宙を必死に漂い始めた包帯男へと、はたき落とすように猫パンチをお見舞いする。ネコ科のモンスター2体が近づく珍妙な輩へとその素速い前足のジャブを浴びせ、プラチナ髪の主から遠ざけた。

 

 

異能

【波動】

【浮遊】

【カリスマ】

【書記】

そして【ネクロマンシー】と、右目に有する灰色の悪魔の眼。

 

 それら今持ち得る全ての技とチカラを合わせ──彼女にとって一番強く一番呪われし〝灰色の過去〟を今一度呼び起こし、この膨れ上がった膨大な魔力と共に唱えれば一体どうなるのか。

 

 

【曇天より来たれ灰色の青春、麗麗と降り注げ幻想の雨】

 

 

 深きより誘い導き出す答えは、太陽を消し熱砂を冷やし、灰色に曇りゆく天の下、傘を浮かばせ両手を広げワラい口ずさむ──その妖艶な唇の裏にあり。

 

 

「フッフ────【クラウディシャドウレイン】……」

 

 

 美しき悪魔の微笑みと共に、避けられない雨は降り注ぐ。

 

 アメンボサファイアは差すそのエメラルドのハスの葉の傘で凌ぐも、凌やしない。穴が開き黒く枯れ果ててしまう。雨宿りしていた青いアメンボはその細身長足ごと穿たれて尽きる。

 

 次々とカラフルに散乱する虹色の宝石が地に煌めき、激しく打ちつける雨粒の波紋が重なり、地に染みることなくその魔力と威力は果てなく広がっていく。

 

 にわかに降り頻るその爽やかな雨音に、もう──振り返ることはない。されど差す黒い雨傘は打たれて、今日も迷うことなく一歩一歩、先へと歩む。

 

 黒い傘を差した女は、青い波紋を追いかけて灰色に染まる砂漠をゆく。散らばった虹色の宝は、かき集めない。地に寝そべる狂愛のミイラ男への手向(たむけ)とした────。

 

 

 この程度の必然、刹那的な勝利に酔いしれることはない。前へ前へと、成長をするのは青春のアオに溺れる生徒たちだけではない。

 

 プラチナ髪を靡かせ、灰色の瞳に眼帯を覆い直す。常に圧倒たるそのカリスマを放ち、トップに君臨し続け、迷える彼彼女らを導いていく。

 

 スペシャルな校長、不黒文。その秘められし底知れない魔力とチカラは、今もなお果てのない成長を続けている。

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