異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
貫いた最後のクリティカル。その果てまで描かれた真っ直ぐな炎雷が暗い箱を壊していく。
星がおちていく。この2人の決闘の行く末を見守っていたジグソーパズルの星が、繋がりを失くしばらばらに舞った。虹色の光を失せながら放つでこぼこの綺麗な星屑たちが、海へ、島へ、決した舞台へ────
やがて、降り積もった白の中にうずもれた……翼の折れた黒が立ち上がっていく。
壊れた緋色と翠のショートソード、その点滅する残骸の元へと黒い悪魔は歩いていく。ダメージを受け、まだまどろむ黒目を凝らして。
地べたへと寝転がり、もう一歩も動けない運の尽きた剣士の元へと、ふらりふらり……悪魔が穏やかでない吐息を放ちながら見下しつづける。その立ち尽くす影で覆った。
そんないつまでも呑気に寝転んでいた若き剣士と、それを睨みつける翼の折れた悪魔がいる光景の間へと、今、続々と島に乗り上げた奴らは割り込んできた。
ゆっくりと歩み寄り、立ち止まる。頭に傘をさしたプラチナ髪の女は、灰色の瞳と黒い瞳の半々で、黒い悪魔である彼のことを見つめた。
「いやはやここまで、もつれ荒れ尽くすとは。ますます異能とは、可能性に満ちた素晴らしいものだ。フッフッフ────できれば痛み分けのこれで、手打ちとしたいのだが? この後、皆とサンチュを連れて学校の方に急ぎ帰る必要があるのでな。その場合……やはり一度、校長室まで来てもらうことになるとは思うが……もっとも、ふふ、ハイエナのようで申し訳ないが、私は盗られたブックそれも奪い返さねばなるまい」
校長先生はさしていた傘をそのままゆっくりと、彼の方へと伸ばす。悪魔は後ろの縛りがほどけ乱れていた髪を一つかき上げ、──生温い事ばかり言う彼女のことを睨み返した。
「フン、中はともかく、こんな趣味の悪い外観の城は元よりいらねぇ。くれてやるから喋るな」
黒糸で縛り付けられていた赤本は、目の前に居る校長へと投げつけられた。返却された本の縛りを解き中を手早く確認した校長は、今、本と傘を閉じた。そして合わせていた視線を外し、おもむろに、どこともなく歩きだし両腕をひろげ深呼吸をする。
「フフフ、私にわからないキミのわからない悩みはこれで晴れたかな」
「……悩みだと? 勘違いしているな半分女。もう慣れたように突き進むことを悩みとは言わねェ。悪魔にあるのは欲望だ。まだまだこんなもんじゃねぇ、フザけたお前なんかで俺を満たせるものか」
「まったく何に手引きされ何に魅入られたかは知らないが、フッフ、愛しの妹を置いていけるというのか? 半分のワタシに?」
「くだらねぇ事をだらだらと聞くな。うるせぇのが欲しけりゃくれてやる。そんなことで俺を縛りつけられると思うな。家族なんざ弱いヤツについてまわる呪いだ、俺を制限する無駄なモノはいらねぇ。好きにしろ」
「ふふ、それはありがたい。ひとつ、校長としての役目を果たせたものだ」
校長とサンフン、微妙な距離感で交えた久々の会話は互いにそれ以上の言葉はなく──。向けられていたにやけた女の瞳から視線を外したサンフンは、プラチナの髪の後ろでやっと起き上がったヤツへと──
「おい、受け取れ運だけ野郎」
何かを右指から弾き、それはゆるい銀色の放物線を描きながら今起きたピネスの手元へと届いた。
ピネスへとそれだけ言い残した悪魔は、背を向ける。そして、ブク高の生徒たちが集いだした側とは正反対の方向へと歩いていく。
その背の折れた黒の翼は、やがて崩れ落ちていき、辺りに散らばった白いピースの積雪と共に溶けてゆく。
「【スターゲート】フハハハハその時がくればまた会おう、同じ星をもつ者よ! そして悪もまたお疲れだろうッ、こちら・ダ!」
「余計なことをするな伊達男」
「悪魔サンフンさーん、はいチョコっとミロミロココアドリンクです、甘さMAXに調整しました」
「ってちょっと待ちなさーーい! 縛られた女子を置いてくなーー! なぁーにゲテモノを左右に侍らせてんのよ! 傷心のイケメンには慰め役のアタシが要るでしょうに!」
虚空を星型にくり抜き開かれたスターゲートの中へと、再び集った悪魔たちは消えていった……。
じっと地べたで去り行く一人の悪魔の背を、呆然と見つめていたピネスは、何か知らず受け取ったままでいた、握った右手を開いた。
変哲のない銀色のボタンが一つ────
「これってぇ……」
「フッフ、ひとつ認められたということではないかピネスくん? 敵として」
「そうっす……かねぇ? って敵ぃ!?」
「シャイッ……じゃなくて! 浦木幸さん! さっ、最後のあの技は……もしかしてシャイニーサンしゃ」
「あぁーー、いやっ、ちがうけど」
「正解はバスターファイア……バーーーーーーーーンぬ! はは、名付け親として鼻が高いよお弟子くん。でもでもアレを出せちゃうなんて、今回も相当運がよかったねぇ?」
「はは……なんかもうとりあえず叫べたらそれでいいかなって。運は──はい、まぁはい、はは」
「あーん?? とりあえずぅ? 最高だろうがぁーーこのこのーー」
「ピネス、ピーナッツいくつほしい?」
「いててて、え? 今日はいくらでもいいのか? そんじゃぁー……って今はとりあえず、先に水をくれると」
「ハーぬけなんでふつうに負けてんの? は?」
「え??? いやいやいやいや! いやぁ? 負けたか? イヤぎりぎり負けちゃぁーーんーー??」
「勝負に打って出たところ勝負には負けたが、任務の方は成功だ。相手は強かったが、お前の勝ちだ」
「おっ、おぅ……あんがと? そっちもやっぱ無事だったんだな──名前ぇ……なんだっけ?」
「そーそー殴り込みをかけた末、(なぜかちょー一時的にはぐれてはしまったものの)結果、我々ブク高パーティーの大勝利!!! っと言いたいところだが……ごほん! 終わってはいない──任務、まだスペシャルなクエストの続きだぞー。まずは校長として任された1-Aサンチュ生徒を、上で探しだして急ぎトモリーたちの待つ学校へともっどりたまえーーーー!! さぁさぁピネスくん、何をいつまでも遊んでいる地べたをよちよちしてないで、もう一度すくすくと早く立つんだ!」
「はーい、ってぇえ?? なんかちょっとサァ……だいぶハードで死にかけな試合明けだったような、俺ェ? ──しゃーねぇか……よしっ!」
手強かった階層ボスを撃退し、今、島の向こう側に見える海面が二つに裂けるように開かれた。その開かれた海道の中に発見した次への階段のありかへと、生徒たちが走り出した。赤い本の蝶々が先を行く不黒文の手元から離れ、彼の鼻先へとページをバタつかせながらとまる。
浦木幸は校長の命令に従い、温めていた地べたからまだ少し痛むその体で立ち上がった。
宙に開き浮かぶ赤い学習帳の新たなページには、自分の活躍がまた一つ記されている。
そのページを一目、なんとなく目を通し、笑う。
そしてまた彼は、次を目指して走り出す……みんなと共にダンジョンを────────。