異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
「おもしろい子がいないかちょっと見にきたのだけど、何故だか今日はみんな忙しいよう。──キミでもいいわ、この手を取ってみたら」
白い大悪魔は手を差し伸べる。そこに殺気はなく、あるのは僅かな微笑みと、ただ差し伸べているそのしなやかで白い右手だけ。
登別海のことを誘う悪魔の手は、いかに見ても穢れがない。
その手を取ることで、むしろ何か知りたいことを知る事ができ、足りない何かを満たすことができる。まるで永遠に埋まらずにいたジグソーパズルの後ひと欠片が、今、差し伸べられたそこにあるように見えた。
へこんでいるのは自分で、差し伸べているのは彼女。
少女は何故かそう直感した。出会ったばかりの彼女がこの心にぽっかりとある虚空を埋め得る、その重要なピースを持っていると。
存在ごと吸い込まれるような心地だ。灰と青の瞳に見つめられる。その美しくも妖しい眼差しから、比べて贋作にも等しい自分が逃れる術などあるのか……。
希薄にもかがやく藤色の瞳の返答は────
「そんな手で、いいの?」
話す間にも準備していた二つの六芒星と、もしものために携えていたロングソード。
登別の足元の地を一瞬に描き囲む六芒星。そして、胸ポッケから出でてひらりと舞った紙にも小さな六芒星が描かれていた。
今ひとりでに舞ったその秘蔵の魔力紙を、瞬く間にも、銀色の切先が鋭く貫いた。
大悪魔を指したロングソードのその刃が、魔力を増大させどこまでも伸びていく。
澱む空気の中を一瞬に貫く。チョキ属性を纏い襲った、危ない切っ先の返答は────
指先ふたつで受け止める。それ以上に刃は成長することなく、ぴたりと微動だにせず、灰色の瞳の前で凍りついたように止まっている。
やがて、灰色の瞳に見つめられていた切先が腐食していく。剣から錆色の花が咲く。得体の知れない悍ましい魔力が、強く握り込む登別の柄まで伝った。
「ドッペルゲンガーに出会うと、にんげんは死んでしまうらしいの。ふふふふ。──嘘だったみたい、ざんねん」
廊下にはゆっくりと足音が響きわたり────遠ざかる。点滅する電灯はやがて全て、明かりを宿さずに停止する。
「とんだ……あいこ……ね」
去りゆく白い悪魔の背が遠くへと、黒く溶けていく。
汗が流れつづける、息もできないほどのあのプレッシャーが遠のいてもまだ、心臓が激しく音を立て揺れている。
その真っ白な手の先にある答えは、きっと知りすぎない方がいい……。
暗がりに独り残された少女は、錆びついた剣を握りながら、ただただソレがどこかへと去っていくのを見つめていた──────。