異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
初顔合わせ初対戦を繰り広げた、トレーニングルーム③にて。
白い箱の中、大の字に天を見上げる──。
月のように美しい、いや冷たいその淡い青の髪が見える。そんな自分のお下がりの緑の作業着を纏う、ダンジョンからふとやって来たという転校生の姿。彼女から漂う歴戦の香りに釣られて、お一つ勝負をと、この学校で働く用務員は頼んでみたものの……。
今、水色の作業着が地にぴったりと背を着け、天に聳え見えるのは、きっと敗北という名の光景。
床に落ちていた茶髪の面に向けられていた冷たい剣の切先が、やがて遠のいていく。
鼻先から床にまで汗を滴り流す。床に磔にされた状態で味わうこの感覚は、どこか最近、すこし味わったような気がする。
髪を掻き上げゆっくりと汗を拭った池原叉鬼は、ふと重ね合わせるように……彼女の中にある敗北の歴史を一つ、なぞり思い返した。
「そういやさ、油断した訳じゃないんだけど、直近の対戦でえらく負け込んじゃってねー。しかも成長に期待されて、本来後はザクっと刈り取るだけで済むお命を、ちょうどこんな感じで主人公補正で見逃されちゃったのよ。うん、なんかそれが腑に落ちない訳でもないんだけど奇妙でさ。そんな死神騎士様の背が歩いて消えるとこまで、じっと低みから眺めてたのよ。ひょっとするとあたしゃ今、未練だらだら垂らした、武闘家の幽霊かもよー?」
「未練……見逃された? それは勝ったというのに珍しいことをする相手だな」
「そーそー、そーなのよ。なんかもう語られた勝者のお話は、満身創痍、ダメージだらけの大の字で全然もう覚えてないんだけど。ソイツ……なんかバケモノを倒したかなんかで不死身っていうらしくてねー。でもねー、兜をパカっととったら首傷の……渋い男なの。こう────ねっ」
池原は自分の首筋から肩口までを片手でなぞり、その男にそのような傷があった事を示した。
転校生は聞かされた情報で考えてみるが────浮かばない。剣と技と魔法と、彼女が覚えているのは身に染みたそんな戦いの知識ばかり。今はまだまっさらな転校生の彼女の頭の中には、そのような特徴を持つ人間に思い当たる節はない。
「首傷の男……。まったく知らないな。だが、ソコをつけば勝機があるんじゃないか。不死身という要素と同時にわざわざ弱点と思われる傷を晒すのは、そこに意識を向けさせる駆け引きの可能性もあるが。──見下ろすこれと同じく、大の字の相手ならば関係はないな。次からはその傷を狙え。確証はないがおそらくソイツは不死身ではない。刃がひとたび通れば、案外脆いものだろう」
「あははは、いやーーーーそうだねー」
「死んでいないのならばいつでも首を取るチャンスは巡って来るものだ。一番簡単なのは、対象の行動パターンを溶け込みながら監視し、寝込みを襲いその傷を一突きにすればいい」
「あははははは、それは物騒! その妙案、残念だけどあたしゃ戦闘のプロで殺しは素人、よっ!!」
「ジョーダンだ」
「ええ、冗談言うの!? ニゴゥ? よよよー!?」
「ここの王に先日習ったことだが? 違ったのか? 使い方が、ジョーダンというやつは?」
「はは、いやー、そりゃ……いいねー! いやー、ははは、はは。本当に冗談?」
「あぁ。
「ははは、そりゃあたしもだ」
深い眠りから覚め、ブク校の生徒となった彼女の名はニゴゥ。戦闘のプロ2号だからと、つけられた仮初の名はニゴゥ。
地から跳ねるように勢いよく立ち上がった元祖戦闘のプロである池原は、銀の刺股を手に取り直し、今ニゴゥに投げられた頭の帽子を受け取った。
さすれば語るよりもう一勝負。再び熱気と魔力の高まったトレーニングルーム③の中、ぶつかり響く音と共に、汗粒は弾けた。
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▽
明日になると彼女にまつわるもののほとんどがリセットをされる、そんな呪いがある。
以前より魔力の高まった灰色の眼を通しても未だ……彼女に纏わりつくその呪いの根源、いやその一端すら検知することはできなかった。
「すまないな。まだキミの呪いの方は私には解けないようだ。うーーむ、昨日の私より自信はあったのだが、完全スペシャルな校長にはまだ遠いか?」
「ううん。解けなくても、忘れる量よりたのしみの方が毎日多いから。でも、一つだけ、この赤空がまだ終わってほしくないと明日も望むのはいけないかな?」
「なるほど青空より赤空か。ふふふ、それは結構。へんな悪魔に魅入られない範囲でな。このところどうも多いらしい?」
屋上から高々と赤空を仰ぎ見上げた。やがて掛けていた黄色いソファーから腰を上げる。いつものようにここで生徒の淹れるハーブティーを半分いただいた校長は、立ち上がる。
そして今一度、生徒である彼女の顔を確認し、その灰と黒の瞳のカメラに記憶し──頷いた。
「──校長。いつも思い出していてくれてありがとう」
「フフ、キミもな」
そんな生徒の言葉に振り返り返事をし、屋上の風に流れたプラチナ髪のお方は去っていく。
思い出すことなど楽なことだ、きっと忘れることよりも。眼帯をするのも忘れるほど満足気な表情で、屋上の扉を閉じた先に────
「アレっ校長。ここで何やってんすか」
「うるさい」
「えぇ……」
「冗談だ、フッフ。キミはなんでここに」
「あぁーー、それがなんか……。なんつぅか、からだが……どうしても上に誘われて?」
校長が階段でばったりと出会ってしまった彼。彼 にはまだ、校内クエストなどは課していない。
(完全なる忘却を凌駕するのは、あやふやに記憶する習慣……かもしれない。ここに2人……実例がいればな? フフ)
「ピネスくん……なんだそれはーーーー!!」
「えっなにが……うおっ!?」
何故階段でいきなりヘッドロックをかけられたのか、生徒は理解できない。階段でそんな締め技をかけるのはすごく危ない。小角がいれば見逃さないだろう。だが、彼が校長にされるこんなことはいつものことの序の口だ。
「幸運なキミならまたもやってくれるかもな、ふふふ。さて──スペシャルな校長は今日も今日とて忙しい~~」
階段の上りと下りの姿勢ですれ違い、手を振りながら振り返らずに、プラチナ髪が颯爽と下方へと消えていく。
首を揉みながらそんなスペシャルさんの去りゆく姿を見届けた男子生徒は、最後の踊り場まで残り数歩のステップに足をかけた。
やがて、ピネスはドアノブの銀に手をかけた。そうするともう聴こえてくる──どこか聴き憶えのあるあのハープの音が彼の頭に、その記憶に、ぼんやりと蘇ってくるようだ。
扉を開き、豊かに香るハーブ園の緑がそこに見える。プランターに飾られたその華やかな顔ぶれの並ぶ道を通る。そして視界先に垂れ下がる緑のカーテンを抜けて行くと──黄色いソファーに優雅に腰掛けた誰かがそこで待っていた。
金色に輝くショートヘアー、同じ黒のブク校の制服を着て、不思議で静かな飴色の眼差しが、いつもより早く約束の場所へと誘われた彼を見つけた。そして今、やって来た彼に向けやわらかく微笑んだ。
「ふふ、待ってた」
すごく綺麗な人に、待たれていた。
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▽▽▽
午前9時45分、不黒高等学校正門前広場、女神石像ガイアの御前にて。
必勝を祈願して、天秤の女神様へと祈りをささげる────。そしてそろそろ頃合いだと校長は女神の御前から立ち上がり後ろへと振り返った。先にここへと招集していた3人の顔を近くに見た。
「さてさてピネスくぅん、今回の冒険のパーティーメンバーは……フッフ、大人の色香に惑わされないようにな? なぁーんて♡」
厳かに祈る姿が一変、いつものおどけた調子に戻った校長にそう言われ……首をひねり左右を確認したピネス生徒の両脇には、──おそろいで色違いの作業着を着た2人の女性の姿があった。
どこか淡く儚げ、落ち着いた水面に映る月のように美しい女性と。
彼の肩に手を置き、くらべて太陽のような笑みで歯を見せる。自分の帽子を無意味に指で回しあそばせ、また頭へと被った茶髪の女性がいる。
謎の星男と戦った円形校舎ダンジョンでも出会った青髪の女剣士、通称戦闘のプロ2号と、表に出て来てからというもの少し目立ち過ぎなあの用務員、自称戦闘のプロ(1号)さんだ。
「あぁ。私は構わない。隊を率いるリーダーなら戦力として存分に使え、ピネス」
「結局戦闘のプロのあたしがいないと、まだまだ締まらないもんだねぇー? にゃははは」
「あぁーどもどもよろしく……って今回、ふたり? 大人のなんたらってことは、校長は?」
「フッフ何を言うかねピネスくん。──校長だぞ? 王だぞ? 我、王だぞ?」
「あぁ、余程のことがない限り王が自ら動く必要は感じないが。何故そんなことを聞くピネス? 王の誇る魔力量の高さと魔術師としての技量や実力は、私の目にも確かだ」
「ええっといやあのその、はは? ノリで? え、王?? それってぇ……もしかして」
「フッフ、なぁに
話をしていた女神石像前の緑の丘に、ブク高に在籍する生徒たちが、彼の見渡すまわりに次々と現れ集った。
「さぁ、レベル上げもそろそろにようやく挑むは不黒ダンジョン(赤)のつづきだ。武器は持ったか? 防具に抜かりはないか? おにぎりは持ったか? 魔力は満タンかぁ? そーかそーか……ではではァ、赤いゲートを目指して、いざ出発!!! したまえーーーー!!! 私の誇るッ、スペシャルで最強なブク高パーティーぃぃフッフッフはっはっはーーーー」
元気な校長先生の発する大声の号令と、掲げた黒傘のタクトが振られ、今、校門がその大口をあけるように開かれた。
動く冷蔵庫に貼られたメンバー表と連絡事項から隊列を確認し整えたパーティーは、赤いゲートを目指していざ進みだす。
校舎から顔を出し、帰りを待つ生徒たちの歓声に手を振り返し、開かれた正門を抜けていく。
始まったばかりの学校生活そして冒険は終わらない。
これからも選ばれた彼、彼女たちは待ち受ける不気味なダンジョンへと冒険の期待感を高め合い、その緊張とその覚悟をともに────まだ暗いミチの先へと、挑むのだろう。
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