※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

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51 《EDEN:空》

 星のゲートは開かれた。天井に空いた眩き星型をくぐりぬけ、地へと降り立った男は、サングラスを掛け直し目の前にある水晶の玉座へと近づいた。

 

「あれ、あの子たちは?」

 

「彼の名は悪、輝く正義に立ち向かう悪。軌道に乗った星と星は反発しあうもいずれ交わり惹かれ合う……。お日様を目指すものを、淵から手を伸ばし誘うそちらが懐柔できることはあるまいよ。悪と悪はまた相容れぬもの、今はそう考えるのが妥当かねっ、ホハハハ」

 

 雪のように白い素肌、透き通る白髪の悪魔に問われた星の男は、そうなんとも抽象的な言葉で返した。

 

 星のゲートを通りその美しい悪魔の元へと帰って来たのは、星型のサングラスをつけた大人の男、一人であった。

 

 期待とは違った返答に、白い悪魔は自らの顎に手をやる。

 

「そうっ、彼には私の膝元にいることを期待していたのだけど。ざんねん。あなたは何故?」

 

「私は正義や悪や信念ではなく、常にそこにある星のバランスを追っているのである! ナラバのナラバッ、暗い場所ほど観測するその星々は輝いて見えるのは当然なのだ、ホハハハ」

 

「そうっ。なら見つかるといいわね、お互いの──ラグランジュポイント」

 

 笑う星男は目を細めた。サングラス越しに映る、冷たくも蠱惑的なその白い悪魔の瞳の色は、灰と青。どちらとも測れない色、カタチ、それぞれに染まっている。

 

(大悪魔クリアクレアぁ……どういう星の元に生まれた存在か。熱き星々、悪魔サンフンやピネス・ウラキ、彼らにはない一層のカリスマと冷たい魔力を放つ。そして、その目の輝きはやはり……彼女もまた求めているということか、虚空のポケットに呑まれたその失われし──とある星のバランスを)

 

 目を通しても互いの心情は読めない。しかし悪魔クリアクレアと星の男、今その視線が交わるようにどちらにも利害が交差するポイントはあった。

 

 

「ガキの尻拭いをさせるために、まさかこうして集めたわけじゃねぇよな。クリクレの大悪魔さんよ」

 

 背を刺した希薄な殺気に星の男が振り返ると──現れたのは、黒いスーツの男。蓄えた顎髭をなぞりながら玉座にかける大悪魔へと気怠げな態度で話しかけた。

 

「子供だから甘く見るのね、寺原」

 

 大悪魔クリアクレアは、今話しかけてきたその男、寺原へとそう一言つぶやいた。

 

「プロだからネェ。お生憎様、コイツであやすのは、ちと弾の無駄だろ? だが────、一発100万からだ。いくら用意した?」

 

 取り出した煙草に火をつけ、咥える。どこからか銃を手に取った男は取り回しの悪い旧式のシリンダーを横に外し、その六つ空いた穴の中へ、ゆっくりと弾薬を一つ一つ詰めだした。

 

『フフフ、そんなに可愛いなら盗んでこようかしら?』

 

 星の男の右肩がいつの間にか紫に濡れている。何かに掴まれたような跡が、羽織っていたカーキのジャケットに残る。さらに、左の頬にも冷たい違和感を感じた星の男は、ゆっくりとその頬をなぞった。

 

 ──なぞった指先が同じような紫に濡れていることに、星の男は、今ピンクのもやが晴れた視界にようやく気づいた。

 

 忽然と宙を浮くシャンデリアにぶら下がり現れたのは、怪盗女、藍紫(アイム)。今盗った星型のふざけたサングラスを耳にかける。左手に払いひと撫で靡かせたアイボリーの髪が、裸眼で見上げ睨む星の男と同じピンクの色に染まっていく。

 

 彼女が興味を示したのは何か。シャンデリアに蝙蝠のようにぶら下がったその逆さ吊りの姿勢から、カーペットの上へと音もなく着地した。

 

 

 ここは、雷雨の止まない魔界、その一帯に聳え立つ黒い校舎。校内に散りばめられた鏡の間を抜け、さらに地下へと続く螺旋にめぐる階段を降りた淵にある……悪の隠れ家──《EDEN:空》。

 

 怪盗、殺し屋、次々と潜んでいた悪と影が水晶の玉座の元へと集う。

 

 大悪魔クリアクレアの率いる曲者集団が、錆びぬ武器を手に取り、未知の魔力を疼かせ動き出した────。

 

 

 

 

 

「──動くな、腐れ外道ども」

 

 しかし、今動き出そうとした輩たちの背後へと、突然立ち塞がるように現れた、一人の剣士。剣士は並び立つ盗人と殺し屋に対して、その鋭い真剣の切先を静かに向けつづけた。

 

 怪盗藍紫は足元の緑のカーペットが何かに切られ、捲り上がっていたことに気づき仰々しく驚いた。さらにかけていたサングラスを上へと投げ捨て、可笑しな星型の花吹雪を散らす。藍紫は向けられた刃を躱すようにその場から横に逸れ、両手を挙げながらお茶目な仕草で離れていった。

 

 ワインのように深みのある臙脂色の道着を身に纏う、黒髪の剣士。赤牙(せきが)流道場に在する剣士、名は石黒美玲(いしぐろみれい)。今抜いた彼女の剣は、良からぬ事を宣う連中を黙って見逃す訳にはいかなかったようだ。

 

 しかし、さっさとそこを退いた怪盗に比べて殺し屋の寺原は、足元のカーペットを切られたぐらいで物怖じした様子はない。煙草をふかしながら悠然と、旧式のリボルバーへの面倒臭い装填作業を続けた。

 

「おやおやこわいこわい。さすが、雰囲気だけはあるねぇー。食えない技を無意味な汗でカビたその床で、せっせと磨く時代錯誤のチンピラは、見栄やハッタリの利かせ方をよぉ~くご存知で」

 

 不届き者が柔い口調で放った戯言が、耳を通ったその瞬間、冷静だった剣士の表情が一気に見開き変わった。

 

 駆ける足音は顎髭の男の元へと肉薄し、その五月蝿い口先を瞬く間に斬った。

 

 しかし今、右から左へ水平に薙いだ刃の上に乗っていたのは、小さな灰塵。

 

 寺原は膝を柔軟に折り後ろへと倒れながら、今走った石黒美玲の危うい剣を避けていた。

 

「おっとぉー! ちゃんと目ん玉洗ったかァ吊り目の嬢ちゃん」

 

「ぬかせッ……!!」

 

「そんじゃぁ~、自分の血で洗いなッ! 【Zapping trigger79:愚者】」

 

 咥えていた火の無い煙草を薬莢代わりに吐き捨てて、寺原が倒れたその無理な体勢から相手を睨み放ったリボルバー。その弾丸は鉄色の銃口を飛び出て、吊り目のあいだにある女剣士の眉間に向けて速射された。

 

 致命的な箇所を狙った一発の銃声が、唸りを上げる────。

 

 

 屑の吐く弾丸など、この真剣で受ける必要はない。額に添えた左手の鞘が、その凶弾を受け止めた。

 

 細い鞘にめり込み回転を続けていた弾丸の威力が止まる。やがて、あやしい妖気に包まれた豆粒が、緑のカーペットの上へと燃え落ちていく。

 

「……屑が!! 殺す!!」

 

「おやおや……悪魔の次は鬼退治かい、俺の人生っ、エライことになったねぇ」

 

 ひび割れた鞘の目隠しがゆっくりと握るその手にどかされると、鬼神の如き怒りの形相に変わった剣士が、玩具の銃口を向け続ける屑を、天に吊り上がるその眼で睨んでいた。

 

 この刀を振り回す鬼娘は、時代遅れのリボルバーその一発の弾丸程度では死にたくはないようだ。次に放つ一発の価値は重い──殺し屋寺原は抜け目なくハンマーを下ろし、握る骨董品のトリガーを魔力の宿る指にかけ絞った。

 

 

 

 

 剣士と殺し屋、握る得物も染まった信念もまるで違う。そんな2人は、やはり相容れぬもの。

 

 繰り広げた刹那の攻防は、敵を睨み次へと向かい動き出す。魔力と殺気はより高まり、もはや喧嘩の範疇では止まらぬほどにエスカレートする。

 

 しかし、次の一太刀が出る前に──。

 

 銃口と切先を向け合う2人を覆うほどの巨大な影が不意に差す。やがて天から地に下る巨足が、歪み合う魔力を放つその場を踏んづけた。

 

 

 【エグニ】:ララシアの異能【心身配線(マインドワイア)】により管理されている巨大な素体。安全上の問題で卵の殻のヘルメットを頭部に被っている。現在は4号まで試作製造されており、まだまだ調整の段階だ。

 

「なんだ、このデカブツ……」

 

「おぉとととぉ~? とっ! 飾りじゃないのかいこのヒヨコは、はっは~」

 

「そこ、とおる……」

 

 青肌の娘が、黄色い眼の下にクマをつくり、コントローラーを握り締めている。

 

 ララシアは素体エグニを操作し、試験中のためお構いなく、女剣士と殺し屋の男の喧嘩現場を踏んづけて横切った。

 

 緑のカーペットを地響きを上げて横断したエグニは、向こう側に置かれていたサラマンダーの生卵を一つそっと指先に摘む。だが、持ち上げた時には力の加減が上手くいかず小さな卵の殻は割れてしまった。

 

 水晶の玉座に腰掛け微笑うクリアクレアは、通信簿にペンを走らせ試験中のエグニ4号の評価を書き込む。黒い紙の蝶々が宙を優雅に飛び立っていく。

 

 水を差されたどころか地まで揺れている……。これには寺原もお手上げの様子で、リボルバーのシリンダーを外し込めていた弾を地にばら撒き落とした。石黒美玲へと胸ポッケから取り出した煙草を差し出す素振りを見せた。

 

 石黒は、忍び寄って来ていた怪盗藍紫から何故か新品になっていた鞘を受け取り、冷静に目を閉じ──抜身の刃をそこにゆっくりと納めた。

 

 

「ところでその箱なんダァ。クレアっ、開けていいノカ?」

 

 ようやく騒ぎが治まったようだ。水晶の玉座の後ろに隠れていた〝知りすぎた悪魔ノカ〟は今ひょっこりと顔を出し、大悪魔クリアクレアへと問うた。

 

 彼女の膝下に置かれていた銀の宝箱を、長い指爪や尻尾で突っついたり、怯え離れたり、悪魔ノカはその中身に興味津々の様子だ。

 

 滅紫(けしむらさき)色の体表のその細くて見窄らしい悪魔に、大悪魔クリアクレアは答えた。

 

 

 

「これはね、────ばくだん」

 

 

 

 口角をじわりと上げ呟いた……透き通る彼女の一声に、悪魔のパーティーに集った面々が振り返り注目する。

 

 

 彼女が手を翳すと鼓動し始めた宝の中身が、皆の心音、その異なり鳴るリズムまでもを一つに支配する。

 

 窮屈な銀色の箱を赤く染めながら、凍てつく魔力を地に流す。

 

 眠り踊り続ける一つだけの秘宝が、ゆっくりと今そこに開かれた──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

第一部 『灰色の瞳と幸運の剣』 -完-






いつもお読みいただきありがとうございます。これにて第一部-完-とさせていただきます。この小説を楽しめたって方は、評価感想お気に入り登録などなど、ぜひともよろしくお願いします。第二部もッ、やる気が……出ます!
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