※この作品はR-18です。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re:   作:山下敬雄

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52 成長をつづけて

 杖を突き立て、地に刺した。目を瞑り集中した木浪は、刺していた杖を練り上げた魔力と共に一気に天へと引き抜いた。

 

「天に弾けろ、へそを出せ──【ストーンポップ】!!」

 

 弾けるように地中から飛び出した数多の石礫のトラップが、飛行し前進していた蛾鳥(モスバード)の編隊を真下から打ち、次々と墜とした。

 

 女子生徒はオレンジ髪を靡かせて、汗を拭う。一本の古杖を手元で回し、また地を突いた。晴れたダンジョンの宙を見て、瑠璃色の瞳が堂々と自信げにギラついている。

 

 彼女の名は、木浪智火瑠。杖から発練する地魔法と、そこに組み合わせる彼女の引き寄せの異能、その使い方は柔軟に進化しつづけている。校長の教えの賜物(たまもの)か、機転と応用の利く一人前の魔術師に育ちつつあった。

 

 

 

 白と茶のきのこ頭がふたつ横に並ぶ。シスター服と、少し大きめのトレーナーを着たそれぞれ異なるきのこ頭の2人が今声を掛け合った。

 

「では行きますか。お付き合いを、きのこ同盟!」

 

「きのこじゃなくオシャレじゃっつってんじゃろ!」

 

 似たようで違うマッシュヘアーの女子2人は前へと駆け出した。風を切り振るわれる武骨な斧と、得物要らずに振り抜く鋭く硬い拳が炸裂し、次々とモンスターを倒していく。

 

 しかし、小物連中を片付けて現れた角の生えた大兎ビッグアルミラージは、その自慢の一角から渦巻くように風のマジックを吹かし、狙いを付けて前方へと放った。

 

 角が回転しながら魔力を集め練り上げる。ビッグアルミラージの【角巻風(つのまくかぜ)】に、拳一本で突撃していた茶色いきのこ頭は避けきれず、その身を激しく後方へと吹き飛ばされてしまった。

 

「【クッション茸】! のこっとおまかせ【雷胞子(らいほうし)】!」

 

「ッ──どうにでもなりやがれっっ【雷凛圧倒(ラリアット)】!!」

 

 頭のベレー帽を膨らませた盾へと変え、白いマッシュヘアーの榎田椎名は踏ん張りながらそれを構えた。

 

 【クッション茸】──ベレー帽の盾を介して効果を発揮したきのこアイテムの一つ。傘部分が弾力性のあるゼリーのような透明なクッションとなりながら、今吹き飛ばされてきた茶色いマッシュヘアーの彼女のことを受け止めて助けた。

 

 さらに散布する【雷胞子】が今受け止めた味方の身に、特殊な魔力マナを付着させバフする。

 

 透明なクッションは沈み込んだブラウンマッシュヘアーのボクサーを、リングのロープの役割をするように前方へと弾き返した。

 

 スピード勢いに乗ったボクサーは、駆け出しながら足を止めず、決してスピードを殺さない。そして風を切りながら、一番打ちやすい技を自ずと腕を伸ばし繰り出した。

 

 見事炸裂した超速のラリアットに、痺れるダメージを負ったアルミラージはダウン必至。刹那に角へと降った雷音と共に、焦げたマットの上に白いお腹を見せながら大兎は沈んだ。

 

「っておいこらなにさせてんじゃっ、アタシはレスラーじゃねぇぞ!」

 

「ふふっ。これは男子さんの受け売りですけど『ダンジョンですからっ』、そろそろご集中かご転職をっ提案しまっす♪」

 

「あぁん……だと?」

 

 ダンジョンでの戦いはルール無用。ダンジョンのリングにおいては先輩である榎田椎名は、さらに集中を高めるか、その拘りのボクシングスタイルからの微調整を今睨み寄ってきた彼女に提案する。

 

 即興で放った雷纏う石腕のラリアットで大兎をKOしたものの、レスラーでない彼女は腑に落ちない。

 

 不黒高等学校に3年生として一時在籍扱いとなった夏吉凌(なつよしりょう)。ボクサーと名乗る彼女であるが、ダンジョンに関しては未経験の素人。深い深い理由(わけ)あって、呪われたこの石のように硬い拳と体質で、現れる厄介事を地蔵様にかわり倒しつづけている。

 

 しかし、蹴りやラリアットはあまりしたくないようだ。夏吉は悪態をつきながら乱れていた頭の髪を、石色から肌色に戻ったその手で整えた。

 

 

 

 成長した女子生徒たちや、新戦力が各々の力量をアピールする中──前衛を任された男子生徒もまた独り、モンスターを相手に愚直にも戦いつづけていた。

 

「【V-Pサンダー】!!」

 

 地に刺していた翠の剣が、時間を置いて雷の魔法を成す。今同時に飛び跳ね仕掛けて来他2匹のアルミラージの角を狙い撃った。

 

 V字に放射された二又の雷は宙を走り、風を巻き上げようとしたそれぞれの兎の角へと繋がった。角に溜め込んでいた魔力は雷のマジックの妨害により暴発する。2匹のアルミラージは酷く感電しながら地へと落ち、風を呼ぶ厄介な角が焦げつき砕けていく。

 

「ピネスくんッ! 兎に角が生えたそんなのの相手をしてないで兎に角、早く後ろの階層ボスを仕留めてくるんだ! まったくまったけ何をまったり遊んでいる!!」

 

「まったくもまったりもまったけも何も!! 今終わったとこなんですけどッ!! まったく兎は跳ねずに寝てろよ……!」

 

 ピネスの構えた緋色の剣が、まん丸で可愛いらしく無防備な、その落ちてきた兎の腹を次々と刺した。アルミラージ2匹にトドメを刺したピネス生徒は、校長の呼びかけと命令に生意気にも力強く答えた。

 

「フッフ、ならば! 待ったなし! 行くがいい!!」

 

 不黒文校長は光と闇の魔力を器用に練り上げ、自身が宿し落とすその影を供物としながら、影のモンスター軍団をその場に多数展開する。

 

 これら影の助力を得ながら彼に後方に控えるあのボス級モンスター、くすんだ金色の王冠を長耳に冠する【キングラビット】を仕留めてこいということだ。

 

「敵は待ってくれねぇってのは同意ですけど! ──っし!!」

 

 敵も味方も待ったはなし。2匹のアルミラージを狩った浦木幸は、校長命令に頷き、さらなる大物を目指して影の仲間と共に前へと走り出した。

 

 

 

 魔法を放ち剣が走る、激しさを増す白のダンジョン50階の大部屋、階層ボスモンスター一団との交戦。そんな彼らの戦いぶりを達観した様子で遠くから眺めるのは、戦闘のプロたち。手を出さずに静かにそこに並び立つ、青と緑の作業着を纏う池原叉鬼とニゴゥの姿であった。

 

「初々しさはどこへ置いてきたのやら、あの素人っぽさが遠い昔のように懐かしいね。こうして見ると、みんなだいぶ様になってきたねぇー。──あ、そうそう。ところでカレ、そっちの世界の剣技だと今だいたいどのレベルかなぁ? 器用貧乏のあたしより是非ともご意見求めたいね」

 

 ブク高パーティーの成長ぶりをしみじみと懐かしんだ後、思い出したように池原が彼について問う言葉に、目を合わせたニゴゥは淡々と答えた。

 

「レベルか。そのような分かりやすい指標は、剣を取る相手によって変わるものだ。そして、ここで求められているのは単なる剣技の美しさや型にはまった最もらしさ、優劣ではない。剣も魔法もこのステージに合った運用をしなければならない。実戦の剣に一番近いという意味では、──カレだ。そういう意味ではあの剣士から私もこうして学ばせてもらっている」

 

 淡々とかつ明確にもニゴゥはそう、問われた彼のことを評した。

 

「眠りこけてたブランク明けとは言い張るものの、プロにそこまで言わせるかー。でもねぇ。やっぱり、はいはいと、すんなり納得するにはいかないんだよねぇ。いくら最新のダンジョンで刺激的なトレーニングをその成長期に大きな怪我もなく積めたといっても、彗星の如く現れたそんな突然変異くんのことがさ。もちろんそれは持ち前の異能のラッキーや、自力で習得したあたしの得意なクリティカルのことだけじゃなく、〝あの方の期待に応えつづけてる〟っていう……そっちのメンタルの方ね! その内、腰いわさなきゃいいけど。なんてね」

 

 池原はまたニゴゥに問いかける。実力の方はもう内心認めつつも、今度は彼の持つその特異なメンタルの方についての言及を求めた。

 

「期待……納得か。その精神性に疑問を持つなら、こう考えてみればいい。──優れた王の元には優れた兵士が必要だと。そして、兵士は王が毅然とそこに立つ限り、如何なる時もその剣を間違えることはない。ただ、そう……つづけているだけだ。彼は」

 

「それって例えばさ幸運の白馬に乗ったナイト様が、校長(おう)様のピンチに現れたと? そこからずっと? その目に見えないもののためだけに? クリティカルのコツも知らないし、当然実力もまだ何もない、そんなツギハギの半端だったのに? ただ上に立つ者に応援してもらえただけで、できちゃったってわけ?」

 

「私にはそう見える。彼女が彼の力を必要としたように、彼もまた彼女のよく耳に通るあの檄を必要としている。だからこそあんなにも躊躇いなく剣を振ることができる。おそらくこのダンジョンという魔境ではそのどちらが欠けていても、望んでいたものとはまた違う結果になっていただろう。──私も、こうしてはいない」

 

 語るニゴゥは突然おもむろに、緑の作業着の前のジッパーを下ろしていく。そして、その肌にある雷が走ったような焼けた傷痕を池原へと見せた。

 

 転校生のニゴゥがここでこうして彼らの戦いを眺めているその縁も、実に奇妙なものである。だが、そこには疑いようのない戦いの傷痕が今もしっかりとその胸に刻まれていた。

 

「ふぅーん。どちらが欠けても今と結果は異なるねぇ……そう考えるとアレだね。あながちロマンあるじゃん、そういうの。それに巻き込まれてく周りは……マッ、こうして大変だと思うけど、ねっ!」

 

「あぁ、そうだな。ちなみにさっき言ったことは全てジョーダンというやつだ。そんなに本気に捉えないでほしい」

 

「冗談かいい!! せせせっかく良い事言ってんのに、にゃはは」

 

「間違った。ラーゴムというやつだ。」

 

「ラーゴムかいい! ってなんぞそれ?」

 

「ちょうど良いという意味らしい。茶室という所で先日習った言葉だ。お茶と茶菓子、おにぎりとおかかのように、その組み合わせの妙のことを言うらしい」

 

「へぇー、ちょうど良いねぇ。ま、白馬のなんたらってタイプでもなさそうだし、口に合う茶菓子やおにぎりの具。偶然一致したそっちの方がよっぽどリアルで相応だね。なるほど、それがまさにラーゴム! ま、あたしもこうして一服ほど休む時間を貰えて、ありがたやありがたや!」

 

「池原叉鬼、お前もプロと自負するならば見習うといい。これからもっともっと強くなるカレ、彼らのことを」

 

「にゃはは無茶言うねぇー。走り始めた若さってヤツらは、ちょうどいいとこの限界なんて知らないんだからさ。ほんと……恐ろしいよね!」

 

 風が吹いて来た──。

 

 戦闘のプロの2人が、緋色の爆光を遠くから浴びる。一振りの剣が今生み出した太陽のように咲き誇る炎のマジックが、兎の王のその冠を吹き飛ばし、辺りを赤々と照らした。

 

 ダンジョンに流れる風、心地良い暖かな風が吹いている。目に焼き付く光景に佇むその影が、剣を掲げて誰かにアピールする。

 

 黒髪を広げて待つプラチナ髪の女は、ひらひらと風に舞った赤い蝶々を捕まえた。開かれ覗かれたタコイカ学習帳は、冒険者たちの活躍をその白紙のページへと記した。

 

 白のダンジョンへと乗り込んだブク高パーティーは、また一つ輝かしき勝利をその手に収めた。

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