異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
浦木幸はいつものようにパーティーを率いて新たなダンジョンに挑んでいた。と言っても軽いリハビリがてらのもので、今回の冒険の趣旨は本格的な攻略を目的としたものではない。生徒たちにとってジョギングのようなものだった。挑んだのは校長がそのスペシャルな目で看破した、危険度の低いダンジョンであり、見積もり編成したブク高側の人数も必要最低限の少数だ。
此度のパーティーに同行していた1年の女子生徒サンチュはまだどこか元気がない。午前11時52分、水色のダンジョン13階の小部屋での休憩中、分かりやすい溜息がまた一つ聞こえてきた。
それはやはりあの円形校舎での一件で、自分だけ蚊帳の外だったからだろう。全ての事が終わった頃には、彼女が一番会いたい人物がそこにもう影も形もいなくなっていたのだ。
そんな彼女を励ますためか、木浪が他人事のような軽い口調で、いじけるサンチュに向けて言葉を発した。
「もうヒロイン回終わったんだからいいじゃん」
「なんですかそれぇー! 木浪せんぱい!! はぁ……ヒロイン回なんて言ってもそれで寝てるだけなんておかしいじゃないですかー!! それにっ……そうですっ! なんでお兄ちゃんが帰るより早く起こしてくれなかったんですかぁー浦木せんぱーーい!! もうばかばかのぽかぽかーーーー」
サンチュは突然近くに座っていたピネスの左半身をぽかぽかと両手で叩く。しかしサンチュの無茶な注文にピネスは好きなだけ叩かれながら、淡々とした様子で返した。
「起こしてってなぁ……いまさら俺にぽかぽか当たられても、遅くね? それにアイツうるさい妹は邪魔だって、──あ。ミスった、今のなし!」
「じゃじゃまーー!!? う、うるさいっ!??」
つい兄サンフンが戦闘中に言っていたと思われる言葉を漏らしてしまったのはわざとか。ピネスは口元に指で作ったバツ印を寄せ、今言ったことを〝なし〟にするという荒技を披露した。
「てか、どっちも特にそんなこと気にしてない感じだったじゃん? ね、はーぬけ? 馬鹿みたいにずっとあの箱の中で戦ってたし」
「気、気にしてないーー!?」
木浪が追撃する。眠り姫のサンチュのことなど気にせず2人は戦っていたと、その時の映像や光景を思い出しピネスの言葉の後に付け加えた。
「いやぁー……まぁ、なんかさ。悪いけどあの戦いの後じゃ、アイツを呼び止める訳にもいかねぇし、それこそ走って起こしに行く時間なんてなかったんだって。てかそれより俺、けっこう殺されかけてんだけど? そのサンチュ後輩の兄ちゃんに?」
去り際にサンフンから返してもらった戦いの証、銀のボタンを一つおもむろにブレザーのポッケから取り出し、それを手の上に弾いたピネスは冗談めかした言葉を放った。
そんな意地悪な先輩男子の微笑みと思わぬ問いかけに、サンチュは追い詰められたように困惑しながらも……。
「そ、それは……生きてるからいいじゃないですか? せんぱい?」
どちらを立てるともせず、その結論に行き着いた。
「ておい、木浪と変わんねぇこと言ってるぜそれ。はは」
「それに、お兄ちゃんはそんなことっ……! たぶん……ッ」
「うんうん、はーぬけ負けてたしね。一日二回。てことは二回半殺しにあってるってわけじゃん。ださっ」
「一日二回はやかましい! っていやいや、二回目はそこまで負けてねぇだろ? そもそもアレが負けかどうかは個々人の判定によるっつぅか。──なんだよその目……あぁーッ、それこそ三回目! 次やったら、ダサいとまでは言われない的な、そんな感じの戦いにはなんじゃね? はは?」
正確に言えばただの負けではない。ピネスは木浪がジト目で話す内容を訂正しながらも、まるでその木浪のご機嫌を窺うようであったが、サンフンへのリベンジマッチへの意欲を少し仄めかした。
「ふぅーん。あ、じゃあ、今のうちにチュチュに弱点とか聞いておいたら。ほら、また負けそうじゃん、どうせ」
「おっ? どうせと負けそうは余計だが、なるほど一理……。ってなんか、それはそれでどうなんだよ? 仮にも兄贔屓の妹の前だぜ? それに俺も別に今すぐどうしてもとは言ってねぇよ」
「そうだね。敵だしね。敵敵、敵の妹」
木浪がピネスに、兄の弱点のことを妹のサンチュに直接聞いてみることを提案したが、ピネス自身そこまでどうしても今すぐ再戦したいとは言っていない。
それでもピネスはここまでのサンチュの発言と態度からそれを兄贔屓と評し、木浪もその冗談に乗っかるように〝敵〟ときつい一言で表した。
「て、敵って違いますよ!! 何言ってるんですか木浪せんぱい……。え、えーと────お兄ちゃんの弱点? うーん……え、そんなのないですよ? だってお兄ちゃんですし? 料理もスポーツも絵も勉強も、わたしより全然できちゃうし。昔からそれこそなんでも、はいっ?」
「料理までだと……!? またまたそんなさ、あるんじゃね! なんかあるだろ! なっ! 俺だってもう一人で味噌汁だって作れるんだぜ! 知ってるか味噌汁って味噌だけ入れて終わりじゃねぇんだぞ! な! 緒方さんもそう言ってたし! 味噌汁はもう少ししたら任せられるって!」
「な、なんですか??? 浦木せんぱいっ、いきなり変ですよ!? みっ、みそしる?? なんで急に!?」
「なんで味噌汁でマウント取ろうとしてんの……馬鹿ぬけ。じゃ、妹でお兄ちゃん信者のチュチュ後輩に勝ってるとこ挙げてもらったらいいじゃん。そしたら早いでしょ」
最近、料理班の緒方結美から味噌汁の作り方を習ったピネスは、それをさぞ自分の立派なステータスとして誇るが、サンチュが語る偉大な兄の姿に味噌汁一本で対抗するのはあまりに馬鹿げている。
そんな彼の様子を見かねた木浪は溜息をつきながら、ずいずいと前のめりに詰め寄る彼を後輩から引き離す。そして、ピネスがサンフンに勝っている長所を、妹のサンチュに挙げてもらうことを提案した。
「浦木せんぱいが、お兄ちゃんに? うーん……いっ、いきなりそんなこと言われてましてもっ……」
「さすがに一個ぐらいなんかあるでしょ。ほらっ、料理とスポーツと絵と勉強と顔以外で」
「そうだそうだ。ってなんかしれっと最後の方、追加されてるんだが……」
いきなりそんなこと問われても困る。困惑の果てに追い詰められたサンチュは、さっき彼がしたような口元のばってんを真似て、その口をつぐんだ。
後輩や幼馴染との雑談もほどほどに、ピネスはアルミホイルの包みを開き、また一つおにぎりを手に取り食べた。
「──ア、なんだこれ? ……なんかぴりっと辛くて、しゃきっと酸っぱくて、めちゃくちゃうまいこの食感……漬物? 緒方さんの新作か、やべぇなこれ」
「ちょっと何言ってるかわからない」
「分かれよ! とにかく美味いんだって、なんつぅかその……ぅー……結構もうここまで出かかっているんだけどな?」
今食べたおにぎりの味はいつもと違う、食べたことのないものだ。アルミホイルのてっぺんに貼られていた小さな丸のシールは、緑と赤。それが緒方の握る新作のおにぎりだとピネスはすぐに気づいた。
「ちょっとちょーだい。ふんふん……ガチうまっ。むっすーの味付けマジ天才でしょ」
「え!? それって、ひょっとして……ちょちょちょっとセンパイッ! 私もくださいそれ!!」
今木浪がピネスに分けてもらったように、そのおにぎりの余りのひとかけを、サンチュ後輩も彼に分けてもらうよう必死な様子でせがんだ。
「ひょっとしてもなにも高菜じゃん?」
「あぁー、高菜か。それだその味」
「おっ、おっ、お兄ちゃんの味ーーーー!!!
具はちょっとだけ、ほとんど白い米粒であったその最後の一欠片を頬張ったサンチュは、突然叫び出した。
そんなおにぎりを食べて、奇声を発する後輩の様子に先輩の2人は──
「これはちょっと深刻かな。いわゆるブラコンってやつ」
「おふくろの味なら分かるが……大丈夫かサンチュ? 高菜がお兄ちゃんの味って、なんつぅか……すごいぞ? 妄想ってやつが? 高菜なんてどっちかっつぅと、そうっ」
「「おばあちゃんの味」」
茶化すように口を合わせた。
「ちがいますっ、おばあちゃんでもないしっ、妄想じゃないんです!!! お兄ちゃんの味なんです!!! は、こうしてられません! 早くダンジョンから帰らないと!!! お兄ちゃんが!!!」
茶化して欲しいなんて言っていない。サンチュは慌てた様子で、休憩していたビニールシートの上から立ち上がった。
「あぁー……木浪さんや。ちょっとサンチュ後輩をからかいすぎたかな俺。大丈夫?」
「あんたの後輩には強く出るそれなんなの……。うーん、と言っても大丈夫じゃなさそう。激オモ矢印、見てる分にはいいんだけど、向けられてる方はめんどくさいっしょ?」
今の木浪のつぶやいた分析で、サンフンがそそくさとその場を去ったその理由が少し分かった気がしたピネスであった。
「なにやってるんですか浦木せんぱいっ、木浪せんぱいっ! 2人で突っ立ってないで早く来てくださーーい!! 早くしないとお兄ちゃんがまた帰っちゃう!!」
次の階層へとつづく階段の前で、サンチュ後輩は剣を振り回しながら先輩たちを呼んでいる。隣同士、顔を見合わせた木浪とピネスは、同じく悟ったような目で頷き、仕方なく休憩地点を片付け歩き出した。