異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
目的である東館校舎裏のきのこ園へと辿り着いた。浦木幸はこのところ忙しい料理班の緒方に頼まれた校内クエストで、彼女が料理に使いたいという指定のきのこをここで集めて調理室まで届けなければならない。
だが、きのこ園の中に建つ小さなきのこハウスのドアを数度ノックしたものの、そこに住む榎田椎名先輩からの返事はなかった。
きのこの人の不在を確認したピネスは、ドア前に置かれていた木編みのバスケットを一つ見つけ、それを拝借した。
ピネスは仕方なく自分一人の目利きで依頼のきのこをそのバスケットの中に集めることにした。
「バター茸はたしかこれか……。よしっ、こんなもんでいいだろ。待ってろよ晩御飯! ちがった、待ってろよ緒方さん!」
バスケットに依頼のきのこを詰め終わったピネスは、そのまま緒方の待つ調理室へと向かおうとしたが──。
不意に頭上に現れた一体の立方体、ウッドキューブの姿を見つけた。宙をふわふわと浮く独自の生態を持つ真四角なモンスターは、ひとつ、ふたつゆっくりと集い静止する。まるで空中のそこに階段のように並んでいた。
ピネスにもそれが天へとつづき誘う階段のように見えたらしく、寄って来ていた一番近くの一体のウッドキューブの上へと飛び乗ってみた。
いかにも登ってくださいと言わんばかりだったので、遠慮なく踏んづけて危うい宙の足場を遊ぶように次々とリズム良く飛び移っていった。
そしてついに辿り着いたのは──
「ふぃー、頂上」
ウッドキューブたちが身を寄せ合い整列し、まるで空に敷かれた絨毯のように佇んでいる……そんな場所。
何かレアなアイテムがあるのでは淡く期待していたが、そこには地上のきのこ園では見た事もない色や香りのするきのこが沢山自生していた。
これはこれはラッキーだと思い、ピネスは持ってきていたバスケットの中に珍しいきのこたちを採取していく。緒方さんの驚く顔が見られるかもしれない、そんなことを考えながら空の上でのきのこ採りを終えた。
仕事を終えた男はひとり、整列するウッドキューブたちの上に寝転がる。晴天ではないものの本日は赤空。もはや見慣れたこの色に、落ち着いている自分がいる。
空の上ので寝転がる、木や緑の匂いのするこけたベッドの上に寝転がるのも悪くはない。傍に置いたきのこ尽くしのバスケットの匂いを嗅ぎながら、ピネスは目を閉じていく────。
(とは言え、依頼外のきのこ持って来ても緒方さんに迷惑か? ぅー、そうだなこのまま、のこっち先輩が帰って来るまでしばらく待つか────あれ? やけに背中がすーすーと軽い。まるで空をおち……)
背中に冷たい違和感がする。それがゾクゾクと大きくなっていく。気持ち良さそうに目を閉じていたピネスが、その目を開けると──。
「て落ちてるーーーー!!!」
目の前の遠のく赤空には、統率なく散らばったウッドキューブたち。目覚めた時にはベッドは崩壊。
バスケットの中から集めたきのこが、掴まる場のない空へと一緒に放り出されていく。背中に当たる寒風に必死にもがきながら、ピネスはなんとかヘソを天に向けたその体勢を整えようとする。
やがて。フェンスの裏の林の中へと真っ逆様に落ちていった。
「はぁっはぁっ……あぶねぇ……。ダンジョン行ってなきゃ死んでたぞ。──あ痛てっ! あ、やべ……せっかく集めた今晩のきのこが、あぁーあ、こりゃ救済しないと色んな方面に怒られるぜ」
落下する空中でもがいた結果なんとか足から着地することに成功し、後ろへと転がりながら上手く衝撃を分散するような受け身を取れた。
そして遅れて落ちてきたバスケットがピネスに頭上に落ちてきた。頭に被さった木編みの透けた視界を外しながら、ピネスはあちこちに散らばったきのこのことに気づいた。
その身は大したダメージを受けなく助かったものの、集めたきのこの方は無事じゃない。ピネスはすぐに立ち上がり、木々や草の中に散らばったきのこたちの救済活動を開始した。
「おい、勝負じゃ。はよ準備せぇ」
林の中から声がする。ピネスがその声のする方に振り返ると、突然現れた女が拳を構えだした。
どこか榎田椎名先輩に似ている髪型をした女子生徒がそこにいる。たしか彼女も最近ブク校に在することになった転校生の一人であると、校長に軽く知らされたのをピネスは思い出した。
それに「勝負」などと言い出し、拳を構えているが、ピネスにはそんな約束を取り付けた心当たりはない。一度だけダンジョンで共に行動したことはあったが、こうして転校生の彼女と話すのも初めてなものなのだ。
よく見れば周りの木には、四方を囲うようなロープが張り巡らされていた。さながらボクシングのリングと言いたげなんだろう。
しかし、ハプニング続きで情報がまだ整理できないピネスは困った様子で頭を掻いた。
「勝負? あぁー悪いけど、さすがに剣を向けるのはなんつぅか?(誰だっけこの人? やべぇ……えーっと、きのこじゃなくてなんだ? たしか木下、いやこれも違うな)」
「あぁん!? ナメてんじゃねぇ! いいからとっとと剣でもなんでも抜いてからかかってこい! これがウチのスタイルじゃ! 舐めんな!!」
もちろん舐めてなどはいない。硬い拳をぶつけてくる相手のことはピネスもよく知っている、その拳が剣に劣らぬ武器になることを。ブラウンマッシュの髪型の彼女が構える姿に、ピネスはどこかその姿を重ねていく。恐ろしいあの黒髪パッツンの生徒との一戦のことを、思い返す──。
しかし、それでも。ピネスは腰元にさげた剣を抜かなかった。
「んーでも。俺も暇じゃねぇし、なんつぅかいきなりのお誘いだとノらないっつぅか。あ、誘ってくれたところ悪いんだけど明日じゃ無理かな? それ? 今日は予定がかさばってるのもあるし、あそうそうっ、その時はまたこっちも色々準備して来るからさ、どうっ?」
「てめぇ……そりゃ良い女の台詞じゃろ! なんでそっちが気遣って断って勝手にフっちょる! 勝手に一人で気持ち良くなってんじゃねぇぞ馬鹿野郎!! 黙って受けやがれ!! アタシがこうまで言ってんだから拒否権なんてないんだよっ!!」
「ええ!? そうなの? え、なんで?」
「ナメてんのかその口調! あーあー分かった。お前が勝てば一日デートでもなんでも付き合ってしちゃる。それでいいんじゃろ、どうせ」
「で、でーと? どうせの意味はちょっと分かりかねるっつぅか……いやぁーそれも俺にメリットぉ……?」
「殺す!!」
「ぉおっ!? 勝手に来やがった!!」
「試合報酬でこの格上のアタシとデートできるってのにそれすら気に入らないぃ?? はぁ!? ガキがなめてるのぉー! 分かった殺す、すぐ殺す!! そのナメた台詞に見合うイケメンにしちゃる! 歯食いしばりやがれオラァっ!!」
突然キレるように襲いかかったブラウンマッシュの女、夏吉凌は、石のように硬くした拳で連打を叩き込む。慌てて躱し逃げようとする舐めた男を、木の幹のコーナーへと追い込んだ。
硬い硬い石色のストレートが、腹を目掛けて叩き込まれた。
「ふぃー……つい抜いちゃったんだけど。ありかな、次、こっちの番ってヤツ──」
「っ……!! ……来やがれ、へなちょこ!!」
臍を隠した緋色の刃を構え持ち、目つきが鋭く変わった男がいる。
火傷するように熱い、そんな白い煙を流しつづける右の拳を後ろへとゆっくりと下げる。振り抜いた拳へと跳ね返って来た未知の熱い手応えを夏吉凌は、握りしめる。
汗ばむ白肌のうなじを石色へと変貌させる。どこからでもかかって来いと言わんばかりに、左の拳を前に出しファイティングポーズを構えた。
ここは校舎裏フェンスを越えた林の中。小さなちいさな木の蔓のリングの中で、煽り合う熱気にノせられた両者の戦いは、魔力弾ける石と剣のゴングを合わせ、唐突に始まった────。
▼▼
▽▽
南館3階、物置部屋(浦木幸の部屋)にて──。
校長からの粋な計らいにより、DPを支払い改築してもらったこの部屋は以前よりも広くなっている。
以前は布団をそこに一つ敷くのでいっぱいいっぱいのスペースであったが、今は人が3人ほどはくつろいでいても余裕のある広さだ。
ごちゃついていた物置部屋の様相も校長命令により部屋主自らの手で清掃・整頓させ、部屋の中は友達を招いても恥ずかしくないほどの見栄えには整ったようだ。
しかしピネスには、共に遊べるような同学年の男子生徒はいない。唯一仲良くなった副島たちとも今はまだ会えずにいる。彼こそがこの不黒高校に残されたただ一人の男子生徒だ。
数奇な運命だがそれももうピネスにとっては慣れたもの。あの時タコイカ学習帳を通して筆談した副島剣太の言葉を信じるのならば、彼らはどこかで無事でいると言う。
男子生徒の友達はここには残念ながら来ることはできないが、女子生徒の友達と言えるものならばこの学校には沢山いる。部屋に勝手に上がっていたりすることも日常茶飯事だ。そう、丁度今彼の目に映る、このように──
敷布団からグレードアップしたベッドの上に仰向けに寝転がり、どこか見慣れたトレーナーを着た女子が顰めっ面で漫画を読んでいる。
頭の茶色いマッシュヘアーはよく見れば、榎田椎名のようなゆるふわな感じというより、少し爽やかでスポーティさも感じられる。
彼女は【特攻の華】、【超女みがき塾】などこの部屋にある漫画を勝手に読み漁っているようだ。
「おい、なんで黄ばんだヤンキー漫画しかここにはねぇ? お前その歳になってグレてんのか? 中坊までにしとけよ、そういうの」
「え、お好きかと?」
「テメェ!!」
「ちがちが、今のは冗談で! あぁー、ここにあるのだいたい校長から借りたヤツだからラインナップはそんな感じで」
「はぁ? 使えねえな(なんだよこの漫画。灼熱油エステ風呂って……)」
この部屋にある漫画本は、リフォーム記念に譲り受けたものであり、全てが校長の愛読書だと言う。部屋主のピネスもまだその全てを読破してはいない。
過激な表現の多い漫画を読みながら、マッシュヘアーの人、夏吉凌は寝返りを打った。
「てかそれさ、俺の服なんですけど……なんで着てんの?」
やはり彼女の着ているその緑のトレーナーは自分の部屋着だと、勝手に上がった夏吉のことを訝しみ見ていたピネスは気づいた。
「おまけにみみっちぃなあ」
またベッドをごろんと転がり、夏吉は自分の部屋のように勝手をし続けている。
部屋主でありながら一段低い床の上に座るピネスは、仕方なしに、自分もそこらに散らばっていた漫画本を一冊手に取り読み出した。
「あの」
「あん?」
「いつ帰るご予定で」
「チッ」
時刻は午後3時5分、物置部屋へと侵入した女子生徒は、勝手に部屋にあるお菓子まで引っ張りだし食べだした。
調理室にまで依頼のきのこを届けに行ったピネスが帰って来た頃には、林のリングでひと勝負を繰り広げたその時の女子が、既に自分の部屋の中でくつろいでいた。どうやらしばらく、お帰りになるご予定はないようだ。
これじゃあやはり、メリットなんてない。デメリットが部屋に居座っているのと同義ではないのか。ピネスはそんなことを悶々と思いながらも、微妙な沈黙の中……手に取った漫画本を読み進めていく。
そして5分10分と時が経ち────部屋の中は、くすっとした笑い声や、紙のすれる静かな音、沈黙を繰り返す。
「とっとと襲えっつってんだよ童貞!!! アタシにここのクソ漫画ゼンブ読破させる気か!!!」
「わぱっ!?」
急に横から枕が吹っ飛んで来て、ピネスの側頭部を打った。
「え、襲えって……なにが!? もしかしてまた勝負ってやつのこと? はは、やっぱ根に持つタイプなんすね」
「コイツっ!? おい……ちょっとラッキーパンチで勝てたからっていきなり調子づきやがって、随分図太い良い度胸だなてめぇ! あぁーっ分かった、ちょっと殺してヤるからこっち来い!!」
ベッドから素速く飛び退き、直後繰り出された女の拳が突き刺さる。咄嗟に盾にした枕には穴が空き、噴き出た綿埃が辺りに飛び散る。調子に乗り過ぎた男子生徒は、枕を貫通した腕にそのまま襟とネクタイごとを掴まれてしまった。
浦木幸は冷たい石色に染まる彼女の手に「ご冗談を……」と言いつつ苦笑いを浮かべ、その場を取り繕うとするも、時すでに遅く。
白い綿埃が辺りを賑やかに舞う。ブラウンマッシュヘアーがよく似合う夏吉の魅せるその不敵でキュートな笑みの後、ピネスの身は軽々と投げ飛ばされて宙を舞った。