異能幸運レアドロップでイキ抜く♡ピネスと校長の不気味なダンジョン冒険記Re: 作:山下敬雄
『ざー、ざー……』シャワー室から水音が流れる。身に溜まった疲れや汚れ、全てを洗い落として、トレーニングルームへとまた2人は戻ってきた。
ニゴゥから水を一つ投げ渡されたピネスは、それをありがたく受け取り、ボトルの口へと乾いた唇をつけた。
今日はもうあの技の鍛錬をすることはないのだろう。そんな静かな雰囲気を、四角い簡易椅子へと腰掛けて剣の手入れをするニゴゥは醸し出していた。
白い像たちがせっせと部屋の後片付けをしている。トレーニングルームで手伝う白いゴーレムたちは、DPの支払い額次第で案山子にもなる。こういった簡易椅子の生成や、壊れた壁や床の補修なども特殊な万能素材ゴーレムセメントを吐き出しながらしてくれるのだ。
ピネスも同じような簡易椅子に腰掛けて、静かに彼女と一つ離れた席で休憩をする。
そんな時、ふとニゴゥは剣を厚手の布で磨き上げながら、ぼーっとしていたピネスへと問いかけた。
「お前は王の何かが盗まれたらどうする。その盗人のアジトへの道に相応の危険を伴うとすれば」
「何か……? それは物によっちゃ取り返そうとすると思いますけど。いったいなにを盗まれたって感じで? お気に入りの眼帯とかなら、ちょっとぉ……躊躇しますね」
何かと問われても答えに困った。ピネスは首を傾げながら彼女の方を見た。
「あぁすまない、やはり漠然としすぎていた。そうだな……それはきっと、〝墓〟だ」
「墓? ……墓って、そもそも盗めるか?」
今度は墓。いきなりつぶやかれた思いもよらぬモノに、ピネスはまたまた困った様子でニゴゥへと訝しむ表情で問い返した。
「あぁ、それは小さくても大きくてもいい」
『ナゾナゾかなにかか?』登別さんのような事を言う……そう思ったピネスは、思い悩みながらもその頂いたヒントから自力で見当を付けた。
「遺品かなんかってことか……うーん、それだと。遺言しだいじゃないすかね」
「遺言か」
剣を磨く手を止めて、ニゴゥはちらりと横顔で彼のことを覗いた。
どうやら全くの見当外れではないらしい。ニゴゥの反応からそう感じ取ったピネスは、考えながらも言葉をつづけた。
「墓ってことでしょ? まぁよっぽどのことがない限りあの校長は死なないと思うんすけど、てかその場合になっても俺の方が早いんじゃね? なんて思ったり、ははは。実際、校庭の石像の前で戻らない俺のことをどっかに予約していたからなあの人……そういう意味じゃ俺はいつ死んでも仕方ないって割り切っている部分もあるっつぅか」
「……?」
つい自分語りをしてしまった。ニゴゥの困った反応を見たピネスは、どうにか脱線した話を元の道へと正そうと試みた。
「あぁ、こっちの話で……初期のしょきの……はは。──だからさ、墓なんていらないんじゃね。つまりそこには盗める墓なんてないと思うぜ。って違うな……仮に超豪華な、そうだなぁ〜……そうっ、黄金とかでつくった立派な墓が盗まれてもさ、今自分たちが生きてるならそれでいいかなって。皆で小さな墓でもまた建て直すかな」
一瞬良い答えを導いたつもりになったが、ピネスは明るくした表情のまま、自分の発言でまた首を傾げた。
「アレ、これって全然答えになってない?」
よくよく思えば、まとめ上げたこれも脱線なのかもしれない。墓がいらないだとか、黄金の墓だとか、話が飛躍しすぎたようにも思えた。
失敗してしまったと感じたピネスは、傾いていた首を正し、ぺこりと役に立てず申し訳なさそうに会釈をした。
「いや、死ぬ前に大層な墓を用意するような王ではないな。ここの王は。そうだな黄金の墓は砕き、それを武具にしたり指輪にしたり皆に分け与えそうだ。そんな姿が私には見える」
「はは……やりそうっすね」
どうやらその思い描くビジョンは共有できていたようだ。穏やかな表情でニゴゥが説く考えに、ピネスはもう一度大きく頷いて見せた。
黄金の墓は望まない、派手に砕いて生徒皆に分け与える。豪華な墓を砕いて、砕かせ、喜んでいるそんな校長の姿は、2人の想像するにたやすかった。