だがある日、美津が図書室のいつもの席で読書していたところに佐和がやって来る。
そして告げられたのは「付き合え」という端的な言葉。
私には彼女さんがいます。
その、女の子同士ではありますが、お付き合い、してる人がいます。
金髪に桃色のエクステをつけてる、首から上のインパクトがすごい女の子。
スタイルがすごく良くって、だいぶ目付きとかガラが悪いけど、
……そう、ある事情。
佐和さんは素行不良、いわゆるヤンキーさんなんです。
成績は低いし、宿題なんてやる筈もない。それに加えて夜遊びして補導されるなんてしょっちゅう。先生と喧嘩してるのは何度見たか分かりません。
そんな彼女ですから、友達も居ないようでした。孤高の一匹狼、と言えば聞こえは良いですが、その実は狂犬と言った方が適切かもしれません。
だから彼女に抱いていた感情なんて、怖い、以外にありませんでした。
出来るだけ私と関わらないで欲しい。目を合わせないで欲しい。こちらを認識しないで欲しい。
……まぁ、認識されるほど私の存在感があった訳ではありませんが。私も友達いませんでしたし。
私はいわゆる根暗、陰キャです。
読書が好きで、いつも図書室にこもって一人で文字の世界に没入しています。
その日も彼女は先生と喧嘩してました。
朝、校門前。
髪が校則違反だ、スカート丈が短過ぎる、ネイルが、キーホルダーが。ありとあらゆるダメ出しを受けて、彼女は口角飛ばす勢いで先生に噛みついていました。
関わりたくない。そう思いながら横を通り過ぎようとした時です。
彼女からの、視線を、感じました。
……ゾッとしました。
私という存在が認識されてしまった、と恐怖を覚えました。
だから足早に立ち去り、震える体と跳ねる心臓を落ち着かせるように教室へと向かいました。
怖い。その一言で感情が支配され、文字の世界に没入しようとしてもうまくいきません。
ですがその日、彼女は出席しませんでした。だから、私は内心ホッと溜息を吐きました。
そんな出来事があったという事すら忘れかけていたある日。
私はいつものように、図書室の奥まったスペースで本を読んでいました。
「なぁ」
そんな私に、誰かが声をかけてきました。
誰だろう、なんて、思う筈がありません。
一言聞くだけでガラが悪いと断言出来るような声の持ち主なんて、一人しか知りません。
「なぁってば」
顔を上げれませんでした。
視線を本に落として、私と関わらないで、と願っていました。
「おい、こっち向け」
「っ!」
ですが、彼女は私の傍まで来て、机にダンッと手をつきました。
もう、逃げられません。
恐る恐る顔を上げると、そこにはやはり素行不良のあの人がいました。
目を合わせるなんて事が出来る筈がありません。なのに、彼女は私の事を真っ直ぐに見詰めてきました。
「お前、名前は」
「ぇ……」
彼女に認識された。それだけですくみ上がるのに、名前まで認知されてしまったら、私はどうなってしまうのか。
「名前はって聞いてんだろ」
だけど、そんな私に構わず彼女は重ねて問い掛けてきました。
ワントーン低い声。苛立ちを抱いているかのような声。
「ふ、
だから、それ以上の怒りを買いたくなかったから、声を震わせながら小さく答えました。
「深沢……名前は」
けれど、彼女はそれで満足してくれませんでした。
フルネームを知ってどうするのか、私はどうされてしまうのか。意図が全く読めなくて、読みたくなくて、恐怖で感情が支配されます。
「深沢、
だから、その恐怖を一刻も早く終わらせたくて、自然と答えていました。
もう絶望しかありません。私という存在が完全に認識されて、これからどうされてしまうのか、でもそんな恐ろしい事を想像すらしたくなくて、ただただ震える事しか出来ません。
「深沢美津……おい、美津」
「……は、ぃ」
名前を呼ばれるのがこんなにも怖いだなんて、思いもしませんでした。
この場から全力で逃げたい。そう思っても体が動きません。彼女から見詰められて、全身が石のように硬直してしまったかのよう。
「付き合え」
世界が、灰色に染まっていきます。
いったい何に付き合わされるのか。金銭を要求されるのだろうか。暴力を振るわれるのだろうか。
……陰ながら品行方正に生きてきたつもりだったのに、いったい私が何をしたというのでしょうか。
「……い、ぃや、です……」
だけど、何で、こんな事を言えたのか、分かりません。自然とそう口に出してしまっていました。
自分でも驚愕しました。あまりにびっくりし過ぎて、彼女と目を合わせてしまった程です。
彼女は、ガラの悪そうな目をまん丸に見開いていました。
「ぁ……ぁ……ごめ、ごめんなさい……っ!」
だから、謝罪しました。どうか許して欲しいのだと請いました。
「…………そうか」
ですが、彼女はそう言って、立ち去っていきました。
残されたのは、座りながら腰を抜かしている私と一冊の本だけ。
いっぱいいっぱいだった感情が遅れてやってきて、涙が勝手に出てきました。
だから、彼女が何かの間違いで戻ってくる前に、震える脚を無理矢理動かしてなんとか下校しました。
きっと何かの間違い。今日なんとかやり過ごしたんだから、明日からまた平和な日常が戻ってくる。
「おい美津」
「ひっ」
そう思っていたのに、次の日も彼女は私の下へとやってきました。
「……何、読んでんだ」
ですが、投げられた言葉はよく分からないもの。
「ぇ……」
「昨日も読んでたろ。何読んでんだよ」
昨日のは何かの間違いなんかじゃありませんでした。彼女は確実に私を認識していて、恐ろしい事に、私という個人に興味を抱いているのだと宣言してきました。
「ぁ……ぅ……」
だから、恐怖で声を出せませんでした。
答えなければ何をされるか分からない。だけど、震えながら本のタイトルを思い出そうとしても思考が凍結して、その問いに答えることが出来ません。
「……難しそうな本なんだな」
硬直する私をよそに、彼女は表紙を覗き込みました。
その瞬間空気が動いて、ふわっ、と嫌じゃない香りがしました。
……彼女の、香り?
「……じゃあな」
思考が脱線していると、彼女は昨日と同じように、呆気なく去っていきました。
「帰るのか」
「ぅ……」
次の日。
図書室に居たらまた彼女と会ってしまう。そう思ったからこそすぐ帰ろうとしたのに、下駄箱のところで声をかけられました。
「……今日は図書室じゃねぇんだな」
はい、貴方が怖くて行けませんでした、なんて言える筈がありません。
だから私は、ぎゅっと鞄を抱き締めながら、顔を俯かせる事しか出来ませんでした。
「……そうか」
なのに、彼女はそのまま靴を履いて、アッサリと帰っていきました。
……きっと、きっともう大丈夫。もう彼女から見放された。解放された。もう私から興味を無くした。だから、大丈夫。
そう思っていたのに。
「おい美津」
「っ!」
今日は用事があるから早く帰らなければならない。なのに、その声に、体が勝手に硬直します。
「……そんなに急いでどこ行くんだ」
また、彼女でした。
「……逃げんなよ」
そう言って、彼女は近付いてきます。
そのまま手を伸ばしてきて、まるで、私の腕を掴むような仕草。
「か、買い物が、あるんです……!」
だけど、だから、怖くて、一歩退いて、そう叫んでいました。
目をぎゅっと瞑って、もう近付いてこないでください、そう言外に伝えます。
「……買い物?」
腕は、掴まれませんでした。その代わりに投げかけられたのは疑問。
「ぉ、お夕飯で、それで、買い物で……っ!」
だからその隙に私は踵を返して、その場を立ち去りました。
「おい美津」
「……はぃ」
もう、諦めの境地だったのかもしれません。だから今日もこうして、図書室で文字の世界に旅立とうとしていました。
そして案の定、彼女は現れました。
「……飯、何だったんだ」
「……ぇ?」
投げかけられたのは意味のよく分からない言葉。
「昨日、飯の買い物するっつってたろ」
「ぁ……」
「だから昨日、何食ったんだ」
よくある世間話の筈なのに、彼女が言うとプライバシーに探りを入れてきているとしか思えません。
そんなにも私の事を知って、いったいどうするというのでしょう。
「…………」
「…………」
それ以上、何も言ってきません。
でも彼女が私を見詰めてきている、というのは分かります。
「……里芋の煮物、とか、です」
だから、その沈黙に耐えきれなくて、正直に告白していました。
「……料理、得意なのか」
「……得意というほどでは」
実際は少し得意です。お弁当は自分で作っていますし、家族の帰りが遅い日は私が代わりに作ったりしています。
だけど、正直に個人情報を伝える、というのがどうにも怖くて、そんな返しになってしまいました。
「……なら」
「今日はっ! もう……帰ります……」
また何か聞かれる。そう思った瞬間、私は立ち上がって、その場を後にしました。
……最後まで目線は合わせませんでした。彼女が何をもって私に話しかけてくるのか、本当に分かりません。
「おい美津」
「……はい」
毎日、彼女は私の下へやってきます。
そして交わされるのは短いやり取り。彼女か私が立ち去ればそこで終わりの、本当に短いやり取り。
いくら怖くても人間は慣れるもので。相変わらず目線は合わせられませんが、体が竦むような感覚はようやく無くなってきました。
「付き合え」
それは、初めて言葉を交わした時の台詞でした。
「……何に、ですか」
あの時は嫌だと言った筈ですが、今となってはアレを言えたのが不思議でなりません。絶対無理です。
なので、再度その言葉を言いたいという欲求を抱えたまま、尋ねました。
「……? あたしと付き合え」
ですが返ってきたのは同じ言葉。意味が分かりません。
「……で、ですから何に……」
付き合え、という言葉だけでは分かりません。
彼女の言葉は本当に端的で、校舎裏に付き合えばいいのか、暴力沙汰に付き合えばいいのか、それとも学校外のガラの悪い連中と一緒に何かをするのに付き合えばいいのか、嫌な想像ばかりが膨らんでいきます。
「あ?」
「ご、ごめんなさい……っ!」
短い声。怒らせてしまった、反感を買った。だから即座に謝りました。これ以上立腹させてはならないと、許しを請いました。
「……あぁ、なるほどな」
……なのに、続いたのは納得の声。
「あたしの恋人になれ」
なのに、続けられたのは、意味が、全く、分からない、もの、でした。
「……? おい美津。聞いてんのか」
ひらひらと、目の前で手が振られます。映像は、認識出来ています。
ですが感情が、思考が認識出来ていません。
「あ、いや違うな。恋人になってください、か」
言い方が変わりました、が、よく、分かりません。
手の平が視界から消えました。そうすると必然、彼女の顔が目の前に現れます。
初めて、彼女の顔をまともに見たかもしれません。
金髪で、桃色のエクステで、ガラの悪い目付きをしていて、でも、どことなく恥ずかしそうで、瞳の奥に何か不安定な光を灯していて、よく見れば綺麗な顔立ち。
「……前は断られたけど、少しは仲良くなっただろ。だから、いいだろ」
仲良く、なったんでしょうか。確かにここ最近ずっと放課後少しだけ話したりしてますが、距離感の捉え方が分かりません。
というか、
「……恋、人?」
何を言われているのか認識出来ましたが、何を言われているのか分かりませんでした。
「……あぁ。あたしと、付き合ってください」
付き合う。その意味がようやく追い付いてきました。
つまり、最初に声をかけられた時、既にそう言われていたという事で。
面識も何も無かった筈なのに、その理由が全く分からなくて。
「……やっぱり、ダメか?」
なのに、こっちがいっぱいいっぱいになっているというのに、彼女は凄く悲しそうな顔をしました。
……あぁ、もしかして、あの時も、あの時も、あの時も悲しい表情をしていたんでしょうか。
「……女の子、同士、です、よ?」
だから、なんだか彼女のそんな表情を見ているとむずむずしてきて、そんな声が自然と出ていました。
「んなもん知るか」
けれど返って来たのは断定の言葉。
「好きなもんは好きだから、いいだろ」
好き。それが私に向けられているのが、違和感しかなくて、彼女の言葉がどこか遠くの出来事のように聞こえます。
「……だから。なぁ、付き合えよ」
再度繰り返される最初の言葉。
「どう、して……?」
その言葉に何か応えなければならない、と妙な焦燥感に駆られて出てきたのは、疑問でした。
「好きだからに決まってんだろ」
好き。最初に話した時から、きっと、ずっと。
だけど、だからこそ、その最初を思い出します。
「名前も、知りませんでした……」
第一声。それは名前の問い掛け。
名前も知らなかったのに、好きだなんて、信じられる筈がない。
「……一目惚れだったんだよ」
なのに、彼女はそう言ってそっぽを向きました。……照れてる、って事なんでしょうか。
一目惚れ、私に、いつ、なんで。
そう考えて思い至ったのは、あの視線を感じた時。ゾッとするような悪寒を感じた時。
「……美津を見た時。一瞬で惚れた」
私はそんな悪感情しか抱いていなかったのに、彼女は真逆の感情を抱いていただなんて、想像出来る筈がありません。
「……だから、付き合え」
だから彼女は、あれから私に会いに来て、距離感の分からない会話をして、仲良くなったと思って、また、告白。
私の感情なんか無視して、自分の感情ばかり優先して、そのくせ今も私の様子を窺ってきて、その瞳の奥に……あぁ、これは不安だ……不安を宿して、ヤンキーのくせに、なんにでも噛み付くくせに、私にだけそんな、そんな感情を向けるだなんて。
「……よく、分かりません」
だから、面と向き合って、真摯に言葉を紡ぎました。
承諾する、拒否する。どっちも私には判断できない。そもそも女の子同士だし。
「……そうか」
だけど、彼女はそんな返答でも満足したらしく、
「……諦めねぇから」
そう言って、立ち去っていきました。
残された私の心臓は、妙にドキドキしていて、本をどこまで読んだかなんて、忘れてしまっていました。
「おい美津」
それからも、彼女はやってきました。
「なぁ美津」
相変わらず端的な、よく分からない距離感での会話。
「美津」
でも毎日話している中で、少しずつ彼女の感情が読み取れるようになってきました。
「美津」
彼女は自分の感情に素直です。
怒りも、切なさも、悲しみも、全部が全部直球。
「美津」
だから、私に向ける恋情も、ものすごく直球。
「美津」
少しずつ会話に慣れて、彼女と過ごすのが普通になっていきました。
「美津」
そのせいか知らないけれど、最近先生からやたら心配されます。何か困っている事はないか? 相談したい事はないか?
困っているけど相談出来ません。あのヤンキーから告白されている、なんて言える筈がありません。
「美津」
女の子同士、という壁もだんだん崩れていきました。だって彼女から毎日のように迫られて……あれ、言うほど迫られてないかも。なんか、私の嫌がる距離まで踏み行って来ない。
普段やってるみたいに、乱暴に距離を詰めてきてもおかしくないのに、それをしません。
……遠慮している? 彼女が?
「美津」
だけど、少しずつ分かってきました。
この距離が、たぶん彼女なりの精一杯の誠意。私が怖がらないよう、近付きたいけど近付かない、だから交際を考えて欲しいという不器用な誠意。
「美津」
その中で、いろんな事を知りました。
メタルバンドとかロックバンドが好きって事。両親とは仲が悪くて、歳の離れたお兄さんとは仲が良い事。学校で禁止されている筈のバイトをしている事。学校外には友人がそれなりにいるらしいって事。
……それらを知るまでだいぶ時間がかかりましたけど。彼女の言葉は端的に過ぎます。
「美津」
次の日も、その次の日も、またその次の日も彼女はやってきて、口数は少なく端的で、だから言葉足らずで、でもだんだんそれがイヤじゃなくなっていって……。
「……あの」
「っ! なんだ」
彼女は私から話しかけるとすごく嬉しそうにします。ちょっと可愛いって最近思うようになりました。なんだろう、野良犬が尻尾振ってる感じでしょうか。本人には怖くて絶対言えませんけど。
でも、いいかげん聞かなければいけません。
「私の、その、どこが、す、好き……なんです、か……?」
一目惚れした、というのは聞きました。
でもその後いろいろ話したりして、私に魅力なんてものは無いと気付いた筈です。
だから、そう、聞きました。
「……顔?」
顔て。わりと平凡な顔だと思うんですけど。というか一番に出てくるのが顔って、いや確かに一目惚れって言ってたし。
でもなんか……もにょもにょします。
「……あ、いや、違う」
そんな思考が、それこそ顔に出ていたんでしょう。彼女は少し慌てた様子で否定しました。
「…………全部」
全部て。悩んだ上で全部て。顔って言われた時よりもにょもにょします。もっとこう、具体的なサムシングを言って欲しかったです。
「……だから、付き合え」
だから、じゃありません。いつもながら端的に過ぎます。
もっとこう、ムードとか、情緒とか、そういう、の……。
私は、そういうのを、求めているの?
顔が熱くなるのを感じます。
汗が、妙に吹き出るのを感じます。
だって、だってだってだって!
それって、私が、それを求めているって、つまりそれは彼女を、
「……おい美津」
「っ⁉︎」
「……どうした」
だから、
「きょ、今日は帰ります……っ!」
「……そうか」
たぶん赤くなっているであろう、彼女曰く好きな顔を隠しながら、図書室を後にしました。
「美津」
「ごっ、ごめんなさいっ!」
それから、彼女から逃げる日々が続きました。
「おい美」
「今日は夕飯の日なのでっ!」
放課後になるたびに逃げました。
「おい」
「用事があるのでっ!」
罪悪感が無いと言えば嘘になります。
でも、今彼女と目を合わせるなんて事、絶対に出来ない。
「なあっ!」
「ひっ」
ですが、そんな日々は早々に終わりました。
今目の前で、彼女が怒っています。
「あたしから逃げてんだろ」
壁ドンされています。全然心ときめきません。普通に怖いです。
「何でだ」
何でか、なんて絶対に言えません。
だから私は目を逸らす事しか出来ません。
「……なあ、何でだ」
けど、彼女の怖い口調が、いつもの端的な口調に変わりました。
正面を向けばガラの悪い目付きと、揺れる瞳。
……あぁ、彼女は今、傷付いている。傷付けてしまった。
「ちが……違うんです……」
悲しそうな彼女を見ていられなくて、いつの間にか口を開いていました。
「顔を、見られたく、なくて……」
あぁ、彼女の口調をバカに出来ない。あまりにも端的過ぎる。
「……なあ、それって」
……けれど、彼女にはそれで充分だったようです。
揺れていた瞳が、私を一直線に射抜いてきます。綺麗な顔が、僅かに紅潮していきます。
もう逃げられません。彼女の腕の中から、彼女の視線から逃げる事が出来ません。
顔が熱い。きっと今、彼女の好きな顔が真っ赤に染まっている。
壁際まで追い込まれて、顔の側に腕を突き立てられて、至近距離で彼女は私を見詰めてくる。
まるで、それはまるで、少女漫画の世界のような。
「おい、美津」
だから、今、言われたら、きっと、私は。
「付き合え」
それまでも大変でしたが、それからも大変でした。
なにせ佐和さん、ヤンキーです。私と付き合う事になったからって素行は変わりません。
今日も先生から怒られて、怒鳴り返して、授業をサボる。
そんな彼女と……そう、彼女……と一緒に過ごす事が多くなって、そりゃもう注目の的です。もちろん先生からも嫌な意味で注目されました。
優等生のお前がどうした。何か弱みでも握られているのか。いつでも相談にのるからな。
ある意味弱みを握られたに等しいです。なんせ、その、どうやら私も惚れてしまったようですから。
……何がきっかけで、というのは思い返しても分かりません。たぶん、好意を向けられている、というのが大きな何かだったんだと思います。
それはともかく、そうなるといくら陰キャの私でも佐和さんに近付きたいと思っちゃいます。自分にそんな欲があっただなんて、思いもしませんでした。しかも相手は女の子。普通、という道からガンガン外れていきます。
ですが、趣味が合いません。
私は本を読むのが好き。佐和さんはライブ巡りが好き。
音楽でもそう。私は静かなインストの曲が好きです。佐和さんはガチャガチャした激しい曲が好きです。
一回ライブに連れていかれた事もありましたが、どうにも私には合いません。クラクラしてしまいました。
一回本屋とか図書館巡りに誘いましたが、佐和さんは早々にギブアップしました。
そんな中で佐和さん、私との距離感がバグりました。
どこでもくっついてきます。手を握るなんて日常茶飯事です。事あるごとに腕を組もうとしたり、抱き締めようとしたりしてきます。
私としてはもうちょっと人目というものを気にしてほしいのですが、
「……イヤか?」
なんて、あの不安そうな瞳で窺ってくるからもう、もう、何も言えなくなります。……えぇまぁ、私も私で、イヤじゃないので困ったものです。
というか寧ろ、誰かに見せつけるようにしてくっついてきている節があります。
まるでその、コレは私の女だ、とでも言うように。
イヤじゃ、イヤじゃないんです。イヤじゃないんですけど、その、場所を考えて欲しいというか。
って事をなんとか伝えたら、おうちデートが増えました。
佐和さんのおうちも私のうちも両親は共働きで、学校が終わっても家に誰もいません。
で、趣味が合いません。映画とかを見るにしても好きなジャンルが違い過ぎます。ホラーとか超苦手です。
かと言って宿題を始めとした勉強をしようとしても、佐和さんはイヤだ、と。
つまり、家でする事が早々に無くなっていきました。
世のカップル達は何をしているというのでしょう。いえ、そもそもここまで趣味が合わないカップルもそうそう居ないのではないでしょうか。
互いに歩み寄って、とかは私達には合いません。なんというか、初めて知ったのですが私も私で変に頑固なところがあるみたいです。佐和さんが私の趣味に歩み寄るべきです。ロックとか分かりません。
それはともかく。
付き合っているのに、付き合う事が大変なんです。
……ですが、不思議とイヤではありませんでした。自然消滅や別れ話といったものは出てきませんでした。
なんというか……佐和さんと一緒にいるだけで楽しい、というか……すごく振り回されるのも、ちょっと振り回すのも楽しいというか……。
けど、本当に大変なのはそこからです。
外ならともかく、家でする事がなくなったカップル。
つまり、その、そういう事になったら、その、する事なんて、一つしかありません。
初めてのキスは、苦い味がしました。
「……佐和さん」
「……なんだ、美津」
「タバコ臭いです」
「…………あ、あぁ」
あの時の佐和さんは面白かったです。見るからに動揺していました。
「隠れて吸っていましたね」
「……あ、あぁ」
「やめましょうって言いましたよね」
「……そう、だな」
そう、佐和さん、未成年のくせに喫煙者だったんです。
今までは軽く、やめましょうよ、って言ってたんですが、私は怒りました。
「初めてだったのに」
「……そうか」
「嬉しそうにしないでください。初めてがタバコの味って、最悪です」
「う……」
本気で怒っているのが伝わったんでしょう。説教を続ける内に、佐和さんはみるみる小さくなっていきました。
「やり直しを要求します」
「……やり直し?」
「という訳で、タバコ辞めてください」
「……うっ」
「辞めてくれなければもうキスしません」
「わ、分かった!」
そう強く言うと、佐和さんは隠し持っていたタバコをゴミ箱に慌てて捨てました。
……潔くて、ちょっとだけびっくりしました。
だから、そんな簡単に辞めれるものなのか、と聞いてみたんですが、
「……美津とキス、したいから」
なんて、なんて言われたら、もう、顔が熱くなって仕方ありませんでした。
ホントもう、大変です。
「はむ……ちゅ……ちゅぷ……んっ……」
ホント大変です。
あれからタバコの匂いが消えるまでずっとキス禁止令を出して……口臭ケアとかめっちゃしてました……いざリターンマッチ、となったら佐和さんはもう止まりませんでした。
「んぅ……ちゅむ……は、ぁ……」
毎日毎日キスの嵐です。ちゅちゅちゅのちゅーです。
無論、その、年若い私達ですから、それだけで止まる筈がありません。
「佐和さ、んっ……んっ、ちゅぅ……」
強く抱き締められて、でも優しくキスをされて、私も、どんどんその気になって。
キスだけで満足するのなんて、ホント最初の数日だけでした。
「ん、は……んちゅ……ちゅぷ……」
髪を撫でられて、背中を撫でられて、肩を、腕を、そして、胸に手をあてられて、
「……良いか?」
なんて、あの揺れる瞳で見詰められながら問われたら、こくん、と頷くしかなくて。
「ぁっ……ん……ん……ちゅ……」
優しいキスはそのままに、緩やかに胸を揉まれると、身体が勝手に緊張します。
……最初の頃なんてもっと緊張していました。ガッチガチです。
「……美津。触りにくい」
けれど、今となってはその緊張なんて一瞬の事。佐和さんの首に腕を回して、もっと、もっとしてほしいってしちゃいます。
「んっ……は、ぁ……はぷ……んぅ……」
「……仕方ねぇな」
でもそうすると、佐和さんは嬉しそうにします。
互いの身体が重なり合ったところに手を潜り込ませ、やわやわと私の胸を揉みながら、やっぱり優しく深いキスをしてくれます。
「んぅっ……はぷ、ちゅ……ん、んっ……」
舌が、頭が蕩けそう。
女の子同士でこんなの絶対ダメなのに、すごく気持ちよくて、もっと、もっと欲しくなる。
「ちゅぷ……は……佐和さん……」
だから、おねだり。
至近距離から瞳を覗き込んで、こんなイケナイ遊びを教えた責任を取って欲しいとお願いします。
だから佐和さんは少しだけ身体を離して、シュル、と私の制服のリボンを解きました。私も一緒に、佐和さんのものを解きます。
「ちゅ……」
でも離れたのが切なくて、もう一度キス。
でももっと触れて欲しいから、我慢。
そのまま制服を脱がされて、脱がして、キャミソールも脱がされて、お互い上半身が下着だけになります。
「んっ……ちゅ、ん……ちゅっ……」
だから、我慢したからもう一度。お互いを抱きしめ合って、もう一度深いキス。
唇を触れ合わせて、舌を絡め合わせて、頭がぽーっとなるような感覚の中、背中に手を伸ばします。
「ぁ……」
ぷつん、と下着のホックが外されました。この瞬間だけは、どうしても小さく声を出してしまします。
でもその声は、再開された口付けで掻き消えていきます。それは佐和さんなりの催促。
「……ん」
だから私も、留め具を外しました。
お互い下着の拘束が無くなって、より相手の柔らかさが伝わってきます。
「ちゅっ……」
もう一度、最後にもう一度だけキスをして、互いの身体が離れました。
……この瞬間だけはどうしても慣れなくて、目線を逸らしてしまいます。
ですが、佐和さんはそんな私を見詰めながら、ゆっくりと、私の肩紐を外しました。
佐和さんよりも少しだけ大きな胸、それが晒されます。
恥ずかしくて、恥ずかしくてたまらない。佐和さんに見られている、という事実が私をカァッと熱くさせて、顔がもっと真っ赤になっている気がします。
「……綺麗だ」
そこに加えられる佐和さんの囁き。
何度も、何度も見ているのに佐和さんは毎回それを口にします。
だからもう、恥ずかしさが抑えきれなくて、仕返しをするようにして佐和さんの肩紐も外しました。
本当に佐和さんはスタイルが良いです。
くびれた腰から上に目線をずらしていけば、お椀型の標準的な大きさの胸。いやらしさなんて全然無くて、薄い桃色の先端も含めて、全部綺麗。
「佐和さんだって……綺麗……」
「……美津の方が綺麗だ」
言い返しても、倍になって返ってきます。本当に、顔が熱くてどうにかなってしまいそう。
「ぁっ……」
そんな、佐和さんの顔と、胸と、明後日の方と視線を彷徨わせていると、とすん、とベッドに優しく押し倒されました。
心臓が早鐘を打ちます。これからされる事を予測して、期待して、心臓が張り裂けそうになります。
正面には少し紅潮した顔の佐和さん。ひどく興奮していて、今にも捕食されそう。
「……良いか?」
だけど、佐和さんは乱暴になんてしません。毎回端的に確認してきて、私が頷くのを待ってくれます。
「……はい」
だから、もう佐和さんを信じている私は、頷きました。
「ぁっ……」
佐和さんの手が、私の胸に触れてきます。
その今にも暴走しそうな目付きと違って、慈愛すら感じ取れるような手付き。
「ん……は……んぅ……」
胸を下から持ち上げるようにして、ふにゅり、と揉まれた瞬間、淡い感覚の何かが発生します。
思わず吐息が漏れて、最初の内はそれに対してビクッとしていた佐和さんですが、今となっては慣れたもの。私の反応を真剣に見詰めながら、優しく、ゆっくりと揉んできます。
「ぁ……んっ……んっ……」
形を確かめるように、付け根の部分に手を当てたままふよふよと揉まれると、恥ずかしいのと一緒に何かが込み上げてきて、思わず逃げてしまいそうになります。
「ふぁ、ぁぁぁ……っ」
そんな私に対して、こっちを見ろ、とばかりに佐和さんは手付きを変えました。
揉む動きから、撫でる動きへ。表面を触れるか触れないかのギリギリのところで乳房を撫でられて、ゾクゾクが一気に溢れて思わず背を反らせてしまいます。
「は、ぁぁ……ん……ぁ……んぅぅ……っ」
それが、交互に繰り返されます。
撫でられてゾクゾクが増えていって、揉まれてそれが明確な快感に変換されて、またゾクゾクを増やされて、また気持ちよくなって。
胸の奥に、気持ちいい、が溜まっていきます。えっちな触り方をされて、先っぽが少しだけ熱くなっていきます。
「ぁっ」
もちろん、そんなの佐和さんはお見通しでした。
充血してきていた突起に、ちょん、と指を乗せられて、そのまま私を見詰めてきます。
「……良いか?」
こんな時まで、佐和さんは律儀に聞いてきます。
ここまで来たんだから、一々聞かないでほしい、恥ずかしくさせないでほしい。
だから私は、目を逸らしたままに、こくん、と頷きました。
「ぁ……んぅぅ……は、ぁ……っ」
そこが捉えられたままに、乳房が少しだけ強めに揉まれます。
凝縮していた気持ちいいが解放されていくような感覚。なのに先端には指が添えられたままで、じくじくするような感覚がずっと続きます。
「んっ……ぁ……ぁっ……ふ、ぅ……っ」
勝手に吐息が濃くなっていくのが分かります。勝手にそこがもっと硬くなっていくのが分かります。
びっくりするような事をされない、優しいえっち。だけど、焦らされているとさえ思ってしまうようなそれはもどかしくて、もっと、もう少し強くしてほしい、と身体が勝手に揺れてしまいます。
「ぁんっ」
だから佐和さんは、応えてくれました。
硬くなっていた先っぽを、くにゅ、くにゅ、とゆっくり捏ね回してくれて、明確な、でも切なくなるような気持ちよさが広がっていきます。
「んっ……ぁっ……んっんっ……ぁ……っ」
人差し指だけを使った、単純な愛撫。根本からくりくりと押し倒し回すような、そんな動き。
だけど、そんな動きでも充分に気持ちよくって、思わずぴくん、ぴくん、って身体が反応してしまいます。
「ふぁぁ……んっ、んっぁっ……は、ぁ……っ」
それと一緒に胸を揉みしだかれて、どんどん気持ちいいが溜まっていきます。
ジンジンするような感覚。もう先っぽは完全に硬くなってしまいました。
「んぅっ!」
そんなコリコリになった部分を、佐和さんはついに摘みました。
「ぁっ……んぅぅっ……は、ぁんっ……!」
しゅに、しゅに、とそこの形が変わらない程度の強さで優しく扱かれて、思わず声が少し大きくなってしまいます。
さっきまでとは段違いの気持ちよさ。身体が勝手に揺れて、もっと、もっとしてほしいって浅ましくおねだりしてしまいます。
「ぁんっ!」
だから、佐和さんはほんの少しだけ力を込めてくれました。
先っぽの形が少し変わる程度の弱い力でしたけど、敏感な場所が優しく潰されるのがすごく、気持ちいい。
「ふあっ……んっぁっんぅっ……んんっ……!」
コリッ、コリッ、と左右に少しだけ捻られながら優しく愛されます。
それがたまらなく気持ちよくて、嬉しくて、お腹が熱くなっていくのが分かります。
「んぅぅっ……ぁっ、んっぁっ……あっ……!」
蕩けそう。頭が、気持ちいいで支配されて溶けてしまいそう。
そんな中、佐和さんの方へ視線をおろすと真剣な瞳とぶつかり合いました。
どれがいい。合ってるか。……もう何回も身体を重ねているのに、佐和さんは毎回真剣に向き合ってくれます。
だから、もっと胸が熱くなってしまって、佐和さんの頭をきゅっと引き寄せました。
これは私なりの合図。もっとしてほしいって懇願。
「んんっ!」
だから、もちろん応えてくれました。
「はぁぅっ……あっ、んっ、ぁぁっ……!」
佐和さんの口の中に、先っぽが消えました。
そして聞こえてくる湿った音。ちゅぷ、ちゅぷ、れろ、れろ。見えないところで、もっと私を気持ちよくするために、また愛撫を変えてくれます。
「ふぁあっ……んっ……あっ、あんっ……!」
思わず引き寄せている手に力がこもってしまいます。
そんな私をやっぱり佐和さんは真剣に見詰めてきて、気持ちいいか、なんて心の声を伝えてきます。
「んあっ……は、ぁぁ……んぅっ……!」
もちろん、気持ちいい以外にありえません。
ねっとりとしたものが先っぽを包んで、くるりと輪郭を確かめられたり、ちろちろと先っぽの先っぽだけを愛されたり、かと思えばちょっと強めに吸ったり、全部が全部、私に気持ちいいをくれます。
「あっ! はぁ……ん……あっ!」
ちゅぽんっ、と離された時の衝撃がたまりません。
胸の奥にあった気持ちいいのが全部吸い出されるような感じがして、でも解放されるとさっきよりもジンジンするのが強くなって、もっと、もっとして欲しい、そう思うとまた吸ってくれて、もっと佐和さんを求めてしまいます。
「ぁあっ……! ぁ……佐和、さん……んっ……」
だけど、それも終わり。
佐和さんが身を起こして、優しくキスを落としてきました。
「ちゅむ……んっ、はむ……ちゅっ……」
もっとして欲しかったけれど、唇を合わせるのも気持ちよくって、切なくて涙がこぼれてしまいそうになります。
だけど、佐和さんはそんな私の涙を拭ってくれて……あぁ、そんな事をされてしまったら、胸が張り裂けそうになるほどダメになってしまう。もっと、もっと佐和さんが欲しくなってしまう。
「ぁ……」
だから、佐和さんは私のスカートに手を伸ばしました。
ファスナーが下ろされます。
留め具も外されて、ゆっくり、ゆっくりと脱がされます。
「……っ」
だから私は、お尻を少しだけ浮かせて、佐和さんのサポート。
でもこの瞬間は、これからもっとえっちな事をする事に対して同意しているかのようで、上を脱がされる時よりもっと恥ずかしくてたまりません。
「……良いか」
……聞かないでください。
良いか悪いかなんて、もう決まっているのに、佐和さんはいつまで経ってもそれを聞いてきます。
だから私は、思わず顔を覆って、また、お尻を少しだけ浮かせました。
これで私を守るものは何もありません。佐和さんと違って、何も身に纏っていません。
ですけど、私に佐和さんを脱がせるなんて余裕はもう無くて、この羞恥に染まった顔を見られたくない一心です。……私も私で、いつまで経っても変わっていないのかもしれません。
「……触るぞ」
でもここまで来ると、佐和さんは決まって聞く事をやめます。これからの行動を端的に断言して、それをしてきます。
もしかしたら、佐和さんも余裕がないのかもしれません。
……だけど、優しい。どこまでも優しい。いつも甘く蕩かすような愛撫だけを私にくれます。
だから私は、脚を軽く開きました。
「あっ……!」
触れられたのは、私の一番敏感な場所。
そこに触れられた瞬間、ビリっとした何かが身体中を駆け巡りました。
「んっ……! あっ、あっ……! んぅっ……!」
けどそれは拒否反応を起こすようなものじゃなくて、明確な気持ちよさ。胸の時と桁違いの快感。
「ふぁあっ……! あんっ! んっんっんっ……!」
今まで幸せにされていたがために、もうそこは硬くなっていて、すぐに気持ちよくなれる準備が済んでいました。
「んぅぅっ……! あっ……! ん、ぁあっ……!」
佐和さんはまた、いや、今まで以上に優しくそこを転がしてきます。
顔を覆っている手の隙間から佐和さんを伺えば、また真剣な顔。もう何をされても気持ちいいのに、もっと気持ちよくさせようとしている、どこまでも真剣な顔。
「ああっ……! んっ、んぅぅっ……!」
だから、心が高鳴って、お腹の奥も熱くなってしまいます。
そんな私の反応を読み取って、佐和さんはもっと気持ちよくしてくれました。
ゆっくり撫でていた動きが、優しく捏ねるような動きに、敏感な場所をかき混ぜるような動きに変わって、私は思わず腰を、くんっ、って跳ねさせてしまいました。
「はぁうっ……! あっ! あぁっ……!」
そうなったらもう止まれません。
気持ちいいです、もっとしてほしいです、とでも言うように身体が勝手にぴくぴく反応してしまって、いやらしくおねだりしてしまいます。
「んあっ……! は、ぁあっ……! んんっ……!」
だから、佐和さんはしてくれます。
もう限界まで硬くなっているそこを優しくかき回してくれて、それがあまりにも気持ちよすぎて、思わずそばにあった枕をギュッと掴んでしまいます。
「……可愛いぞ」
「やぁ……あっ! んっんっんっあっ……!」
相変わらず私を真剣に見詰めながら、佐和さんはそんな言葉を呟きました。
短く、端的な言葉。だけどそれに込められた愛情を知っているからこそ、身体がもっと熱くなって、頭がどうにかなってしまいそう。
「ぁ……っ」
だから、そんな私だからもう大丈夫と判断されて、敏感な場所を愛してくれていた指が、もっと下の方へと動きました。
「んっ……ゃ……んぅ……」
くちゅ、くちゅ、という水音が鳴ります。
さっきからずっと気付いていました。佐和さんの指が気持ちよくって、恥ずかしい場所から恥ずかしいものが溢れているって感覚がずっとありました。
「ん……んっ……ぁ……」
そのままいやらしい水音を鳴らされますが、これは私を辱めようとか、そういう意図は全くありません。
ただ、これからスる事への準備に過ぎません。真剣な佐和さんが、私を傷付けないようにするための、大事な儀式。
……なのは分かってるんですけど、あまりにも恥ずかしくて、目をぎゅっと瞑ってしまいます。
「んっ」
それが、終わりました。
ぬるぬるになったであろう佐和さんの指先が、ぴとっ、と私の大事な場所にあてられて、
「ん、ぁぁぁぁ……!」
入って、きました。
「は、ぁ……ふ……ん……」
あそこの中に異物を感じます。あそこが勝手に動くのが分かります。きゅぅきゅぅとそれの形が分かるほど締め付けて、佐和さんを受け入れた、と明確に感じます。
「……大丈夫か?」
繰り返される確認の言葉。
もう、大丈夫なのに、気持ちよくされて、準備なんか万全なのに、そこはもうとろとろになっているのを感じている筈なのに、佐和さんは相変わらず。
「大丈夫ですから……動かしてください……」
「っ! ……ああ」
だから、私は答えたのに、佐和さんは一瞬苦しそうな顔をして頷きました。
……喜んでくれそうな言葉をチョイスしたのに、その反応は心外です。我慢なんて、しなくていいのに。もっと私を素直に求めてほしいのに。
「んぅぅ……っ!」
だけど、そんな事を考えられたのは少しの間だけでした。
「ふぁあ……んんっ……んっ……!」
くちっ、くちっ、と小さな水音をたてながら佐和さんの指が動き始めて、あそこの中から気持ちいいのが溢れ始めました。
「ぁっ……んっ……は、ぁ……!」
入っているのは佐和さんの細くて綺麗な指一本だけ。
……私と付き合い始めて、佐和さんはネイルをやめました。それだけじゃなく、いつも爪を短く切って、綺麗に整えています。私を、絶対に傷付けないように。
「んぅっ……ぁっ……あっ……ん……!」
そんな指だから、私は気持ちよくなってしまいます。
今まで何度も何度もあそこを差し出したので、初めは気持ちよさが分かりませんでしたけど、今ではちゃんと気持ちよくなれます。それどころか、弱い場所が全部分かられてしまっています。
「さわ、さんっ……!」
……ですが、
だから、堪え性のない私は早々にそこを求めてしまいます。
「んんんんぅっ!」
だから、優しい佐和さんはそこを捉えてくれました。
「んっぁあ……! あっ……! んんぅぅっ……!」
あそこの中で、一番気持ちいい場所。佐和さん曰く、少しザラザラした場所。
そこを撫でられた瞬間、一瞬でお腹の奥が熱くなりました。
「ふぁあっ……! んんんっ……! んぁっ……!」
くちゅくちゅくちゅ。そんな音が気にならないくらいの気持ちよさ。
弾けるような、切なくなるような、そんな気持ちよさと違って、甘々な気持ちよさ。ずっとそれをしててほしい、そう思ってしまうような気持ちよさ。
「んぅぅぅっ……! あんっ! ああっ……!」
腰が、浮きます。勝手に浮いてしまいます。佐和さんの手に押し付けるようにして、くいっ、くいって、もっとしてください、と懇願してしまいます。
「んっあっぁっあっあっ!」
中で、動きが変わったのが分かりました。
撫でられていたものが、掻くような動きに。けれど、どこまでも優しいその動きは私に気持ちいいのしか与えなくて、掻かれる度に恥ずかしい声をあげてしまいます。
「あぁっ! んっんっんっんっんあっ! あんっ!」
そうなったらもうダメです。気持ちいいと主張するのを止められません。
枕をぎゅっと握って、足先が勝手にピンッと張って、腰がかくんかくんって上下してしまいます。
「ふぁあっ! ああっ! んっんんぅぅっ!」
あそこから気持ちいいのが全身に広がっていきます。全身が、頭が蕩けるような感覚。
だから、そんな気持ちいいをくれる佐和さんを逃したくなくて、私を優しくいじめてくれている腕をひしっと掴んでしまいました。
「……美津」
「さわ、さんっ! あっ! んんんんっ!」
呼びかけられると、心が温かくなります。
「……好きだ」
「んぁあっ! んぅぅっ! あぁっ!」
そんな事を言われると、心が熱くなります。
「ああっ! さわさんっ! んんんんぅっ! わたし、もうっ!」
だから、一気に気持ちいいが破裂しそうになって、
「……分かった」
「ひぁああああああっ!」
ちゅぽ、と指があそこから引き抜かれた次の瞬間、一番敏感な場所が激しくかき回され始めました。
「あああぁあっ! んんんぁあああっ!」
たっぷりのお汁がついた指先。そんな指でそこをされてしまったら、もう耐えられません。
「んぁああっ! ああっ! はぁあぅううっ!」
くちくちくちっ、と粘ついた音が止まりません。その音が鳴るたびに、あそこが爆発したかのような気持ちよさが全身を駆け巡ります。
優しいのは変わりません。だけど、優しくて激しくて、頭がどうにかなってしまうほどに気持ちいい。
「ああっ! さわさっ! さわさんっんんぅぅっ!」
だから、どうにかなってしまいそうだったから、佐和さんを引き寄せて、口付けしてもらいました。
「んむぅぅっ! んんっ! っは、ああぁあっ!」
けど、うまくいきません。
声が勝手に漏れて、身体が暴れて、気持ちよくなる事しか出来ません。
「はぁあぅぅっ! んちゅぅっ! んっんんっ!」
だから、佐和さんに愛してもらいました。
あそこへの愛撫はそのままに、唇を強引に奪ってもらって、そのまま激しく舌を絡め合わせます。
「んんんんあっ! はんんんっ! んんっ!」
超至近距離で見詰め合います。どこまでも真剣な表情。私を、私だけを見詰めてくれている。
心が、とくん、と脈打ちました。
「っぷあっ! さわさんっ! すきぃっ!」
だから、もう、止められません。
「さわさんっ! だいすきぃっ! もっとぉっ!」
佐和さんを、好きな人を抱きしめながら、気持ちいいのを全部受け入れます。
身体中が染まっていきます。佐和さんに、全部染められていきます。
「ああぁあぅっ! ああっ! もうっ! もうっ!」
もっと、と言った瞬間から、あそこへの愛撫が激しさを増していました。
だからすぐに耐えられなくなって、だからもっとしてほしいのだと訴えます。
「ひぁあああっ! ああっ! んんんんああっ!」
だから佐和さんは応えてくれました。
今まで以上にあそこを激しくかき回してくれて、電撃のような気持ちよさが全身を駆け巡ります。
脳が、幸福と快感に染まって、もう目の前の人の事しか考えられません。
キスをしようにも、いやらしい声のせいでなかなかうまく出来ません。
だから抱き締めます。愛する人を抱き締めます。
触れ合っている肌が熱い。佐和さんも熱くなっているのが嬉しくて、もっと熱くなっていきます。
頭がもう滅茶苦茶です。身体も勝手に動き回って、腰がどんどん浮いていきます。
止まりません。好きが止まりません。
でも気持ちいいのも止まらなくて、もう、もう何も考えられません。
だから目の前で揺れる瞳を真っ直ぐに見詰め返して、もう、もうダメだって伝えます。
「……愛してる」
だから、そんな事を言われたら、もう。
「んぁああっ! さわさんっ! んっんぅうっ! っはぁああぅんんっ! すきっ! だいすきぃっ! ああっ! あああっ! もう! もうだめでっ、んんんんっ! ああぁぁぁぁああっ! んっ! んぅぅうううううっ……‼︎」
頭が、真っ白になりました。
ぎゅぅぅって全力で大好きな人を抱き寄せます。
身体がびくんっ!びくんっ!って跳ねて、一番恥ずかしい瞬間を佐和さんに見られてしまいます。
全身が熱くて熱くて、でも感覚が不鮮明で、どこまでも浮いていきそうな不思議な感覚。
その中で、あそこだけの感覚が強く残っていて、そんな場所をぎゅぅぅって押さえつけてくれて、弾けて無くなりそうな私を強く現世へ引き留めてくれます。
そんな場所からどくん!どくん!って自分の鼓動が返ってきて、それが更に私を高みに連れていって、どこかへ行っているのか帰ってきているのか、分からなくなります。
「ちゅむっ! はあっ! ちゅぷ、んんっ!」
だから強く唇を求めました。
だから佐和さんは応えてくれて、激しく口の中を愛してくれます。
「はあっ! さわさんっ! はぷっ! んぅっ!」
いつの間にか、あそこへの感覚は無くなっていました。
今はただ、強く抱き締められていて、強く求めてくれていて、幸せという事しか分かりません。
「っぷあ! 佐和さん……好き……好きぃ……!」
「……あたしも、好きだ」
だから、何度も何度も口付け合って、鼓動を交換し合って、一緒に、最後まで一緒に、愛し合いました。
「佐和さん」
「……んだよ」
「なんですかこの点数」
今日はおうちデート……じゃありません。
「……知らねぇ」
「知らない、じゃありません」
勉強道具を机に広げて、話し合いです。
「このままだと留年しますよ」
「……別にいいだろ」
「よくありませんっ!」
最近は真面目に授業を受けるようになった佐和さんですが、このテスト結果はいただけません。
だから端的に伝える必要があります。
「一緒に卒業したいんですけど」
「うっ」
効きました。なので追い打ちます。
「そして私は大学に行って、佐和さんは働いて」
「……おう」
「一緒に住もうって言ったの佐和さんですよね」
「…………おう」
そう。あやふやだった卒業後のビジョンが明確化してきた今日この頃。
私は近くの大学に進学する事を決めて、今受験勉強の真っ最中です。
それとは反対に、佐和さんは進学せず、地元の企業に就職する事に決めました。
だから、道は違えど一緒に居たい、という想いから同棲を提案してきたのは佐和さんなのに……!
「タバコはやめてくれました」
「……? おう」
「暴力沙汰も控えてくれています」
「……おう」
「喧嘩も少なくなってきました」
「……そうだな」
「これ以上求めるのは心苦しいです」
「……おう」
けど、けど!
「でも一緒に卒業したいです」
「うっ」
「一緒に住みたいです」
「うっ」
「だから勉強してください」
「……うぅ」
そう伝えると、佐和さんは項垂れました。
「とりあえずテスト対策だけで良いですから」
「……うぐ」
「全部理解しろなんて言いません」
「……おう」
「ヤマは私が張ります」
「……おう」
「ですので、そこを徹底的にやりますよ」
「………………おう」
……けっこう間がありました。
もー、仕方ないんだから。
「……勉強終わったら、ご褒美をあげます」
「……あ?」
「えっちしましょう」
「…………あ?」
「逆に言うと、勉強しないとえっちしません」
「なっ⁉︎」
「だから勉強しましょうね」
「……する」
そう言って、佐和さんはようやく教科書に向き合いました。
ヤンキーだった佐和さんは、今ではマイルドヤンキーくらいになりました。
それは私のために変わってくれたという事なので、嬉しくない筈がありません。
もっと変わって欲しい、とは思いません。佐和さんは佐和さんのままが一番良いです。
が、それとこれとは別。
「……おい美津」
「なんですか?」
「……わっかんねぇ」
「はいはい」
だから、本当に申し訳ないんですが、少しだけ、もう少しだけ変わってもらいますよ、佐和さん。