「ほ、本当にするの?」
思わず出た声は緊張で随分と上擦ったものだった。一通りの業務が終わり、当番の生徒もいなくなり静まり返ったシャーレにすっと音が溶けていく。
そんな私の反応が面白かったのかこっそりとシャーレにやってきたノアは薄く喉を震わせる。
「もちろんです。言いましたよね? しっかり管理してあげますって」
身を固くする私をよそに、ノアは生徒用の椅子を私のデスクチェアにくっつけ、腰を下ろす。ちょうど私のデスクの前で、横並びに座る形だ。
そして身を乗り出して例のフォルダを開こうとする。相当に深い階層にあるフォルダだが、彼女の記憶力を持ってすれば最早勝手知ったる庭も同然。流れるように目的のフォルダにたどり着き、泣く泣く教えたパスワードで中身を表示させる。この間と同じく、大量の生徒たちの写真がサムネイルで表示された。
同時に黒い画面のウインドウ――CUIというらしい――を開いて英語の文字列を入力すると、一枚の写真をクリックした。
「この写真……制服からしてSRTの生徒さんでしょうか。かなりの回数開いているみたいですね」
「ど、どうしてそれを……」
まさか、さっきので調べたのだろうか。パソコンってそんなこともできるの!? 書類作成とゲームくらいにしか使ってないからまるで意味がわからない……。
表示されたのはノアが指摘した通りSRT特殊学園の生徒、サキ。彼女がフリーマーケットで買ってきたシャベル付き迫撃砲を整備している写真だった。
「これは装備の整備中のようですね。けど、どうして彼女は怒っているんでしょうか」
迫撃砲の砲身を整備している、一見普通の写真。しかし、整備中のサキはカメラ、つまりは私を顔を真っ赤にして睨みつけている。
なぜそんな顔をさせてしまったのかと言えば――
「サキの手の動きが、その……」
「……ふーん、なるほど」
曖昧に濁した私に双眸を細めたノアは、写真をギリギリまで大きく表示すると席に戻り、こちらにしなだれかかってくる。膝の上に手を添えられて、ぴくりと身体が跳ねた。
「つまり先生は砲身を整備する動きがえっちだと思って、それを口に出しちゃった、ということですね」
「う……」
「このSRTの子におちんちんシコシコ、ってしてもらいたかったってことですね?」
「そ、そこまでは思ってないよ!?」
上下する手の動きがいやらしく見えたことは事実だけど、後半は完全な言いがかりだ。自分でもちょいちょい「これはセクハラでは?」と思うことはあるけれど、そこまで露骨な思考を生徒の前でしたことはない……多分。
「けど、この写真を見てこの間みたいに自慰行為はしていたんですよね?」
「それは……」
「それも何度も」
「うぅ……はい」
それは紛れもない事実。じゃあさっきのは言いがかりではないのでは? いや、少なくともあの場ではそんなことは思っていなかったのだから、言いがかりで間違いない。そういうことにしてほしい。
まあ、そんな逃げ道を用意したところで大人の尊厳が保たれるはずもなく、項垂れるしかない。
「はあ。本当に、しょうがない人ですね、先生は」
「っ!! ノア……っ」
そんな私に幾分芝居がかった調子でため息を漏らすと、膝に置いた手をゆっくりと滑らせる。
方向は、足の付根へ向かって。
それが意味するところを想像して、思わずこきゅりと喉が鳴った。
自分のそれとは違う柔らかく細い手指が内ももをなぞり、既に甘くテントを張っている股間に触れる。ズボン越しのかすかな刺激。だというのに背筋にゾクリと震えが走った。
「先生が生徒さんに『おちんちんシコシコして』ってお願いしちゃわないように、私の手で、気持ちよくしてあげますね」
じじ、とチャックが下ろされ、できた隙間からズルリと肉竿がまろび出る。外気に晒され、ノアに見られたそれは見る見るうちに固く膨張し、すぐに勃起と呼んで差し支えない姿で天井を向いて起立した。ここまで来ると、もうどう制止したところで説得力は皆無だろう。
「それじゃあ……いきます、ね?」
この間自慰行為を目撃したとはいえ、流石に触れるのはノアにとって未だ無知。幾分声色を固くした彼女は一度だけ小さく喉を震わせると、幹の中程に触れる。
「く……っ」
「話には聞いていましたが、本当に、固い……ですね」
まるで綿雪を掬うような力加減。しかし観察するような手つきは動きが予測できない。指先が竿をなで、カリ首をさすり、亀頭をつつく。その度に喉から熱い息が漏れてしまう。
「このおちんちんの下についているのが睾丸、ですか」
陰嚢に伸びた手が、シワの形を覚えるように表面を這い回る。男の急所とも呼ばれる場所に触れられて思わず身を強張らせるが、普段ほとんど触れない部分への指の感触はこそばゆいような気持ちいいような不思議な心地で、すぐに力が抜けてしまう。
「ぅ……」
「あら。ここ、気持ちよかったですか?」
「あ、ちょっと……!」
睾丸を掬い上げられた際に指先が会陰部を掠め、身体が跳ねる。それを見逃さなかったノアはやわやわと優しく二つの玉を転がしながら、中指で何度も細い筋をくすぐってきた。
奥まった場所にある繋ぎ目のような筋をなぞられる刺激に身体が震えるが、それ以上にその更に先、窄まった肛門に指先が届きそうで、たまらず制止の声が出た。人並みの性知識でそこが性感帯たり得ることは知っているが、もし自分がそこに快感を見出してしまえば、それを今のノアに気づかれたらどうなってしまうか……少し怖かったのだ。
「……まあ、あまり別のところばかり触って脱線してしまうのも良くないですね」
そんな私の心情を知ってか知らずか、しばらく私の顔をじっと見つめていたノアは手を再び肉棒へと持ってくる。今度は手全体で包み込むようにしっかりと。
そして、ゆっくりとその手が上下に動き出す。幹の根元からカリ首近くまでを力加減を変えながら何度も。
「あっ、それ……っ」
「ふふっ、今くらいの力加減が気持ちいいんですね。記憶しました」
やがて最善を、私が普段自分で慰めるときの加減を反応から読み取った彼女は探るような動きをやめ、きゅっと握ったまま腕の上下運動を繰り返してくる。
すべすべした手が限界まで海綿体を膨張させた幹を滑り、表面の皮を何度も引っ張る。その刺激を受けて、先端には透明な液が滲み出る。
「ん、はぁ……ノア……」
「んー? どうしたんですか、先生?」
気持ちいい。それは間違いない。
けれど、刺激が幹の部分にしか与えられていないからだろうか。同時に物足りない。もどかしい。快感と同時にそんなもやもやが溜まっていく。
思ったことを口にしようとして、理性が言葉を奪う。結果ただパクパクさせるだけになった口から荒い息が漏れる。これも十分情けない姿だが、もしも今思っていることを言葉にしてしまえば、最早かけらほどしかない大人の尊厳など完全になくなってしまう。故に言葉にできない。
そんな私にふっと笑いかけたノアは、さらに身体を密着させてくる。服越しでも確かに感じる女の子らしい柔らかさとシトラスの香りに気を取られていると、耳元を吐息が掠めて肩が跳ねた。
「なにか、私にしてほしいことがあるんでしょうか。それなら言ってください、先生?」
「ぁ……」
「先生がしてほしいこと、私が、恋人の私がしてあげますよ?」
ああ、これはダメだ。言葉をせき止めていた理性が溶かされていく。大人としての尊厳など、バカバカしいとすら思えてしまう。
耳元にふーっと熱を帯びた呼気を浴びてしまえば、意識が撹拌されたように曖昧になる。背もたれに身体を預けて座っているはずなのにひどく心許なくて、ノアの背に腕を回した。
「ノア……」
こんな状態で、理性が本能に勝てるはずがない。
「もっと先の方とか……いろいろ触ってほしい……」
「わかりました。いいですよ」
その言葉を待っていたと言わんばかりにそれまで幹に収まっていたノアの手がするりと上に伸び、先走りで汚れることも厭わずに亀頭全体を包みこむ。それまで乾いた音だけだった空間にくちゅりと水音が響いた。
「見た目からもそうでしたけど、下の方とは触り心地が違いますね」
「ぅあ……っ」
「あ、やっぱりここ、カリ首、敏感なんですね。こちょこちょ~ってすると、ビクビク反応してかわいいです」
手のひらで先走りを塗り広げながら、五指を使ってくすぐるようにカリの出っ張りを甘く引っかかれると、それまで焦らされた分余計に快感が響いてくる。視界がチカチカとスパークを起こし、奥歯が口内でカチカチと擦れ合う。
「気持ちよさそうな顔。けど、これだけっていうのもそれはそれで物足りないんじゃないですか?」
私の反応をじっと観察しながら追加で溢れ出した先走りを亀頭に広げていたノアからそんな提案をされて、反射的に首肯してしまう。それに微笑んだノアは手を滑らせると、再び筒状に握り込む。
そして再度始まる上下運動。けれど、さっきまでとはぜんぜん違う。男根の付け根まで下ろされた手が、カリの段差を弾くようにしながら亀頭の先まで上がってくるし、ノアの手が先走りでべったりと濡れている影響で、往復の度にぐちゅぐちゅといやらしい水音がオフィスに響いていた。
「シコシコ、シーコシコ。どうですか先生。シコシコ、気持ちいいですか?」
その上、耳元で囁かれるノアの声が脳を震わせるようで、思考が煩雑になっていく。快感になる情報しか入ってこないようにすら思えてくる。
声に合わせて肉棒がしごかれる。声の調子がそのまま動きの緩急になり、聴覚と触覚がリンクする。
「はあ……はあ――っ」
「先生、息荒くなってますね。興奮している証拠でしょうか。シコシコ、シーコシーコ……なんだかかわいいです」
「あんまり、言わないで……」
「ダメですか? でも先生、すっごく気持ちよさそうですよ? それに、私がおちんちん気持ちよくして、先生はなにもしていないのに汗もかいて……れろっ」
「の、ノア!?」
急に頬を舐められ、快楽の海を揺蕩っていた意識が不意に覚醒する。なぜ舐められたのか一瞬わからず、顔に浮かんだ汗を舐め取られたのだと気づいて、余計に混乱してしまう。
「な、なんで急に……」
「なぜでしょう。なんとなく美味しそうに見えたと言いますか。実際、美味しかったですし……ぺろ」
尻すぼみに言葉を途切れさせながら、また頬からこめかみにかけて柔らかい舌を這わせてくる。
理由を聞いても納得はできなかった。けれど、そもそも自分の体液を舐められ、味わわれるという行為がひどくエロティカルに感じられて、せっかく覚醒した意識がまた揺蕩いだしてしまう。そうなってしまえば、そのまま流されるだけだ。
「ちゅ、ちゅむ、れ、れりゅ……」
ピチャピチャと猫がミルクを飲むように顔を舐められる。その上で手コキも継続される。慣れてきたのか、時折捻るような動きを加えたり、鈴口を手のひらでぐりぐり刺激したりと責めのバリエーションがどんどん増えてきていた。
「ぴちゃ、はむ……シコシコ、シーコシコシコ……」
「あ、あぁっ、んん……っ」
閉じきることのできない口から、自分のものとは思えない情けない声が漏れ出る。ノアの手の動きに追随するように、腰がカクカクと小刻みに動いてしまう。
それは、限界が近い証。それを察したのだろう。顔舐め行為を中断したノアは耳に密着するくらい口を近づけて囁いてくる。
「先生、もう、出そうですか。おちんちんバッキバキに張っていて、爆発しちゃいそうですもんね」
「うぅ、ノア……ッ」
「ふふっ。かわいいですよ、先生。大丈夫です。私が先生の精液、えっちなミルク、私がコキ出してあげますから……シコシコシコシコ、シコシコシコシコ!」
手の動きがまた変化する。それまでの多様な快楽を与える動きとは違い、正しく精液を絞り出すための激しい上下運動。限界間近の男根は何度もビクビクと跳ね、睾丸が精液を捻り出すべくドクドクと脈動しているのを感じる。
「ああぁ、んっ! ぐ、ぁっ、ぅンッ」
散々快楽を与えられ、理性をドロドロに溶かされてからの激しい責め。とてもではないが堪えることなど出来はしない。
そもそもの話、相手が堪えることを許しはしないのだ。
「シコシコシコシコっ、シコシコシコシコッ! あ、おちんちん、また膨らんで……出そうなんですね? いいですよ。出してください。
「っ――!!」
――どぷっ、どぷぷっ、びゅるるるっ!
至近距離で鼓膜を震わせる命令を与えられ、ダムが決壊するように尿道を精液が駆け出る。垂直に飛び出した白濁の塊は、その勢いを示すように中を舞い、ノアの手に、私のズボンに、床に落ちていく。
「はぁ……はぁ……っ」
「相変わらず、すごい勢いですね……シコシコ、シコシコ」
「ぅあっ!? い、今は敏感だから……ッ」
尿道に残った液の残りを絞り出すように竿を刺激されて、思わず声が出る。その時、とぷりと最後の塊が吐き出され、幹を伝ってノアの手を汚した。
それを彼女を少しの間じっと見つめたかと思うと――
「はむっ」
「ノア!?」
自分の口へと運んでしまったのだ。驚いた私をよそに飴を転がすように口の中をもごもごを動かした彼女は、こきゅ、とかわいらしい音を立ててそれを飲み下す。
「なるほど。これが先生の精液の味、なんですね。イカ臭いとか栗の花の匂いがするとは聞いていましたが、確かにその通りですね。記憶しました」
少し頬を赤らめてそんなことを口にするノア。その口元から目を離すことができない。自分の吐き出した欲望の液を飲み込んだその綺麗な口を。
傷一つない、可愛らしくて綺麗な口。それなのに、つい先程精飲をしたという事実がそこをとんでもなくいやらしいものに見せてしまう。
「あら……?」
「あ、こ、これは……」
気がつけば、出し切って満足したはずの肉棒は再び天井へ向けてそそり立ってしまっていた。
そんな節操なしの様子に目を丸くしたノアは、しかしすぐに楽しそうに双眸を細めると、再び手を怒張に添わせる。
「の、ノア……?」
「大丈夫ですよ、先生。先生のおちんちんが満足するまで、全部出してあげますから……シーコシーコ」
「あぁぁっ!」
結局その後、文字通り搾り取られた私は、しかし次の日はすこぶる調子が良くてあっという間に仕事を終わらせてしまうのだった。