※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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本日から始まる新連載ですが、本作は複数の作品と世界観を共有しています。興味がありましたら、過去作品の確認をぜひ。
さらに、新しい募集も行っていますので、興味がありましたら、ぜひ。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=334365&uid=45956


むにっとねっとりドラゴン独占生活

「……は?」

 

 目を開けた瞬間、まず出てきたのは感嘆でも悲鳴でもなく、間抜けな一言だった。

 人間という生き物は、理解できない状況に置かれると、とりあえず疑問符を吐き出すらしい。

 

 天井が石だった。

 それも、いかにも「城です」と主張してくるような、無駄に分厚くて装飾過多な石天井。

 照明は松明。電気じゃない。LEDでも蛍光灯でもない。

 

「……どこだ、ここ」

 

 声に出してみる。ちゃんと声は出た。夢じゃない。

 起き上がろうとして、ガシャリと嫌な音がした。

 

「……あ?」

 

 両手首に、鎖。

 それも飾り気ゼロの、実用一点張りの鉄鎖。

 

 ――拘束。

 ――拉致。

 ――異世界転移。

 

 脳内で、ネット小説で見慣れた単語が、嫌な順番で整列していく。

 

「おい、こいつ起きたぞ」

「早いな。さすが“素材”か」

「確認しろ。心臓は正常か?」

 

 聞き慣れない言語なのに、不思議と意味が分かる。

 分かってしまうのが、逆に怖かった。

 

 視線を向けると、甲冑を着た男たちが数人、こちらを囲んでいた。

 その目は、人を見る目じゃない。

 牛や豚を解体する前に眺める、あの目だ。

 

「……素材?」

 

 思わず呟くと、男の一人が鼻で笑った。

 

「安心しろ。痛みは最小限にしてやる」

「いや、今回は急げ。外が騒がしい」

 

 外?

 そう思った瞬間、地面が揺れた。

 

 ドン、という低音。

 次の瞬間、城全体が悲鳴を上げた。

 

「な、なんだ!?」

「警報を鳴らせ!」

「竜だ! 破壊の竜が来たぞ!!」

 

 ――竜。

 

 その単語が出た瞬間、全身の血が冷えた。

 比喩じゃない。物語的な表現でもない。

 “竜”という存在が、この世界では現実なのだと、理解してしまった。

 

 天井が、崩れた。

 

「伏せろおおお!!」

 

 怒号と共に、熱風が吹き荒れる。

 壁が溶け、兵士が炎に飲み込まれ、悲鳴が途中で途切れる。

 

 見えた。

 巨大な影。

 鱗に覆われた身体。

 黄金色の瞳。

 

「……ドラゴン……」

 

 声が震えた。

 あれは、勝てる存在じゃない。

 理屈じゃない。生物としての格が違う。

 

「人間……また……!」

 

 轟くような、しかし確かに“少女の声”だった。

 怒りと憎悪が、そのまま音になった声。

 

「また私を使おうとしたな!!」

 

 炎が城を包む。

 人がゴミみたいに吹き飛んでいく。

 

 そして、その黄金の瞳が――

 こちらを見た。

 

「……召喚された人間か」

 

 殺意が、はっきりと伝わってくる。

 

「……またか。……本当に……うんざりだ」

 

 巨大な爪が、こちらに伸びる。

 逃げられない。鎖がある。

 助けも来ない。

 

「ま、待って――!」

 

 情けない声が出た。

 言葉になっていない。命乞いですらない。

 

「黙れ。人間」

 

 冷たい声だった。

 理屈じゃない。感情じゃない。

 “処理”する声。

 

 爪が、振り下ろされる。

 

 ――その瞬間だった。

 

「……ッ!?」

 

 胸が、熱い。

 

 いや、違う。

 痛い。

 心臓が、他人のリズムで打っている。

 

「な、なんだ……これ……!」

 

 ドラゴンが、動きを止めた。

 

 巨大な身体が、硬直する。

 黄金の瞳が揺れる。

 

「……なんで……殺せない……?」

 

 困惑。

 混乱。

 怒り。

 

「人間のくせに……私に……何をした……!」

 

 彼女が苦しそうに胸を押さえる。

 その仕草が、人間と同じで――妙に現実的だった。

 

「ち、違う……僕は……何も……」

 

 言い訳にもならない言葉。

 でも、確かに何もしていない。

 

 鼓動が、重なる。

 彼女の怒りと孤独が、胸に流れ込んでくる。

 

「……気持ち悪い……」

 

 ドラゴンが呻く。

 

「近寄るな……! 人間……!」

 

 次の瞬間、彼女の身体が光に包まれ――

 巨大な竜の姿が、人の形へと変わった。

 

 赤い髪。

 角。

 そして、人間離れした体躯。

 

「……なんで……」

 

 目の前に立つ少女――いや、竜が、睨みつけてくる。

 

「……殺せねぇんだよ……」

 

 その声は、怒りと戸惑いで震えていた。

 

「説明しろ、人間……!!」

 

 鎖に繋がれたままの僕に、彼女は叫ぶ。

 

「私の心臓が……お前を拒んでる……!

 こんなこと……ありえねぇんだよ!!」

 

 答えられるはずがなかった。

 でも、分かったことは一つだけ。

 

 僕は、殺されなかった。

 そして彼女は、理由もなく、僕を殺せなくなった。

 

 ――世界は、ここで完全に壊れた。

 

 殺すはずだった竜と、殺されるはずだった人間。

 最悪の出会いは、最悪だからこそ、逃げ場がない。

 

「……覚悟しろよ、人間」

 

 彼女はそう言って、僕の襟首を掴む。

 

「この気持ち悪い繋がり……

 切れるまで、離さねぇからな」

 

 怒っている。

 でも、その手は、震えていた。

 

「えっと、君の名前は」

 

「はぁイルル」

 

そう、イルルは呆れながら言う。

 

「イルル?」

 

「人間にいちいち、変な名前を言われるよりもマシだと考えただけだ」

 

そう言ったイルルに対して、僕は頷く。

 

「そっか、よろしく、イルル」

 

「ふんっ」

 

「……歩けるか」

 

 そう聞いたのは、僕の方だった。

 我ながら、場違いにも程がある質問だと思う。

 

「は?」

 

 イルルは振り返り、信じられないものを見る目で僕を睨んだ。

 

「お前……今、自分の状況、分かってんのか?」

「え? うん。すごくまずいよね」

「そういう意味じゃねぇ!!」

 

 怒鳴り声と同時に、城の奥で爆発音がした。

 どうやら、さっきの騒ぎはまだ終わっていないらしい。

 

「……いいか、人間」

 

 イルルは舌打ちしながら、僕の鎖を引きちぎる。

 

「お前が死んだら、どうなると思う?」

「……普通に、死ぬ?」

「私もだ」

 

 即答だった。

 

「は?」

 

「分かんねぇけどな、この気持ち悪い繋がり……

 お前が死ぬと、私の魂核もおかしくなる。

 だから今は――」

 

 彼女は不機嫌そうに顔を背ける。

 

「仕方なく、守る」

 

「……ありがとう?」

 

「礼を言うな! 気持ち悪い!」

 

 怒鳴られた。

 でも、さっきより声が弱い。

 

 僕たちは走った。

 崩れかけた城の廊下を、炎と瓦礫を避けながら。

 

「……ねえ、イルル」

「話しかけるな」

「でも、聞きたいことが――」

「聞くなって言ってんだろ!!」

 

 ……ダメか。

 でも、言わずにはいられなかった。

 

「どうして……そんなに人間が嫌いなの?」

 

 一瞬、イルルの足が止まった。

 

「……」

 

 数秒の沈黙。

 次の瞬間、彼女は吐き捨てるように言った。

 

「嫌いなんじゃねぇ」

 

「え?」

 

「敵なんだよ」

 

 その声は、怒りよりも冷えていた。

 

「この世界の人間はな……

 竜を殺すためなら、なんでもする」

 

 彼女は振り返り、黄金の瞳で僕を見る。

 

「同族の心臓を抉って、武器にするんだぞ」

 

「……心臓?」

 

「そうだ。

 ドラゴンの魂核は心臓に宿る。

 それを加工すりゃ、竜殺しの兵器になる」

 

 吐き気がした。

 

「狂ってる……」

 

「だろ?」

 

 イルルは、どこか誇らしげに笑った。

 

「だから私は、城を焼いた。

 力を見せなきゃ、竜は舐められる」

 

 そう言ってから、彼女は僕を見る。

 

「……お前も最初は、同じだと思った」

 

「え?」

 

「召喚されて、兵器になる人間。

 使われて、殺される側。

 でも結果的には、竜を殺す側に回る」

 

 拳を握る。

 

「だから殺そうとした。

 迷う理由なんて、なかった」

 

 ……でも。

 

 イルルは言葉を切った。

 

「……お前は、違った」

 

 僕は、思わず笑ってしまった。

 

「それ、さ。僕が聞く台詞じゃない気がする」

「うるせぇ」

 

「でも……ありがとう」

 

「だから礼を言うな!」

 

 叫びながら、彼女は僕の手首を掴む。

 

「いいか。

 この世界じゃ、疑わない奴ほど早く死ぬ」

 

「えー……それは困るなぁ」

 

 僕は、わざと明るく言った。

 

「でもさ。

 疑わなきゃ、分からないこともあると思うんだ」

 

「……何言ってんだ、お前」

 

「イルルが、僕を殺さなかった理由とか」

 

 一瞬、彼女が言葉に詰まった。

 

「……」

 

「僕、イルルのこと、怖いけど……

 悪い竜だとは思ってないよ」

 

「……は?」

 

「だって、本当に悪かったら、

 さっき、僕はもう死んでるでしょ?」

 

 沈黙。

 

 その間に、遠くから角笛の音が響いた。

 

「チッ……来たか」

 

「?」

 

「竜殺し部隊だ。

 さっき言った“狂った奴ら”」

 

 彼女は歯噛みする。

 

「今の私じゃ……正面からはキツい」

 

「じゃあ、逃げよう」

 

「……は?」

 

「逃げて、生きて、考えよう」

 

 僕は、笑った。

 

「僕、走るのは得意だからさ」

 

 イルルは、しばらく僕を見つめていた。

 

 そして、ぼそっと言う。

 

「……ほんとに……変な人間だな、お前」

 

 でも、その声は、さっきより柔らかかった。

 

 ――

 逃げる竜と、疑わない人間。

 

 その奇妙な組み合わせは、

 確かに、この世界では異物だった。

 

 でも。

 

 だからこそ、

 イルルは、少しだけ――

 本当に、少しだけ。

 

 僕を、信じ始めていた。

 

「……止まれ」

 

 イルルが低く言った瞬間、僕の足も自然と止まった。

 城の通路。崩れた石柱。焼け焦げた床。

 さっきまでいた兵士たちとは、明らかに違う“気配”があった。

 

「どうしたの?」

「……来る」

 

 イルルの表情が変わる。

 怒りでも苛立ちでもない。

 ――警戒だ。

 

 金属音が響いた。

 

「目標、破壊の竜。擬態状態を確認」

「心臓武装、展開」

「距離、十」

 

 甲冑姿の兵士が三人。

 だが、その装備は明らかに異質だった。

 剣、槍、鎖――どれも魔力が歪んでいる。

 

「……竜殺しだ」

 

 イルルが吐き捨てる。

 

「さっき言ってた……」

「同族の心臓を使った狂った武器だ」

 

 彼女は鼻で笑った。

 

「ふん。雑魚だな。

 こんな数で、私を殺せるわけ――」

 

「イルル!」

 

 叫んだ瞬間、遅かった。

 

 空気が裂けた。

 見えない何かが、イルルの脇腹を抉る。

 

「――ッ!?」

 

 血が飛ぶ。

 赤い。竜の血。

 

「な、何が……」

 

「鎖だ! 竜拘束用!!」

 

 兵士の一人が叫ぶ。

 地面に打ち付けられた鎖が光り、空中で絡み合う。

 

「くそっ……!」

 

 イルルが炎を吐く。

 直撃――した、はずだった。

 

 だが。

 

 炎は、途中で霧散した。

 

「……効かねぇ?」

 

「解析完了。魂核干渉、正常」

「続けろ!」

 

 別の兵士が突っ込む。

 槍が、真っ直ぐイルルの胸を狙う。

 

「イルル!!」

 

 彼女は避けきれない。

 拘束。消耗。判断の遅れ。

 

 ――殺される。

 

 そう思った瞬間、体が勝手に動いていた。

 

「っ!!」

 

 僕は、イルルに飛びついた。

 

「な――!?」

 

 彼女の身体を抱き抱え、そのまま転がる。

 槍が、空を切る。

 

 重い。

 熱い。

 竜の体温。

 

「なに、してんだよ……!!」

 

 イルルが怒鳴る。

 

「死にたいのか、人間!!」

「死にたくない!!」

 

 叫び返した。

 

「でも……イルルもだろ!!」

 

 一瞬、彼女が言葉を失った。

 

「……は?」

 

「イルル、さっき……僕を守ってくれたから!」

 

 必死だった。

 理屈なんてない。

 

「だから、今度は僕の番だ!!」

 

 沈黙。

 

 その間、胸が――

 今までより、強く打った。

 

 ドクン。

 ドクン。

 

「……な、んだ……これ……」

 

 イルルが、目を見開く。

 

「……鼓動が……強く……」

 

 兵士たちがざわめく。

 

「反応値上昇……?」

「魂核出力、想定外だぞ!」

 

「今だ! 殺せ!!」

 

 だが。

 

 イルルは、ゆっくりと立ち上がった。

 

 僕を庇うように、前に出る。

 

「……人間」

 

 背中越しに、声が聞こえた。

 

「さっきの言葉……撤回しろ」

「え?」

 

「お前……

 “普通の人間”じゃねぇ……」

 

 彼女は、振り返らずに言う。

 

「なんで……

 私なんかを……助けた……?」

 

 答えは、簡単だった。

 

「だって……

 イルルが、僕を助けてくれたから」

 

 それだけだ。

 

 でも。

 

 それを聞いた瞬間――

 

「……」

 

 イルルの背中が、微かに震えた。

 

「……狂ってる……」

 

 呟く。

 

「この世界の人間はな……

 そんな理由で、誰かを助けたりしねぇ……」

 

 彼女の周囲に、炎が集まる。

 

「……だから……」

 

 振り返る。

 

 その顔は、驚きと、困惑と、

 ほんの少しの――信頼だった。

 

「お前は……違う……」

 

 炎が、咆哮を上げる。

 

「――消えろ!!」

 

 ブレス。

 

 先程より、明らかに違う。

 圧縮された、純粋な破壊。

 

 竜殺しの兵士たちは、叫ぶ間もなく――

 跡形もなく、消えた。

 

 灰すら残らない。

 

 静寂。

 

「……」

 

 僕とイルルは、互いに顔を見合わせた。

 

「……今の……」

「……私も……分かんねぇ……」

 

 彼女は、自分の手を見る。

 

「……でも……」

 

 そっと、胸に手を当てる。

 

「お前を……信じた瞬間だった……」

 

 照れ隠しのように、そっぽを向く。

 

 焚き火は、思ったよりも静かだった。

 ぱちり、と薪が爆ぜる音だけが、洞窟の奥に反響する。

 

 城を出て、しばらく走って、逃げて、辿り着いた場所。

 岩肌に囲まれた、湿った空間。

 安全とは言い切れないけれど、少なくとも――今は、追手はいない。

 

 それなのに。

 

 胸の奥が、ずっとざわついていた。

 

「……落ち着かねぇ顔だな」

 

 焚き火の向こうで、イルルが言った。

 からかうような口調だけど、目は真剣だった。

 

「うん……ちょっとね。

 知らない場所って、慣れないな」

 

「人間は適応力が高い種族だろ」

「そう言われると、プレッシャー感じるんだけど」

 

 苦笑すると、イルルは小さく鼻を鳴らし、

 そのまま僕の隣に腰を下ろした。

 

 近い。

 

 最初に会った時の、

 “汚いものを見るような目”は、もうなかった。

 

 代わりにあるのは――迷いと、確かめるような視線。

 

「……なあ、人間」

 

「名前で呼んでほしいな」

「調子に乗るな」

 

 即答。

 でも、怒気はほとんどない。

 

「お前、自分がどういう存在か……分かってるか?」

 

「召喚された人間、だよね」

 

「そうだ。

 “他の世界から来た存在”」

 

 イルルは焚き火を見つめながら、低く言う。

 

「この世界じゃ、それはな……

 勇者でも救世主でもねぇ」

 

 指先で地面をなぞる。

 

「兵器だ」

 

 言葉が、胸に落ちた。

 

「各国は、お前たちを“資源”として扱う。

 世界の理から外れた力を持つ存在。

 魔法より不安定で、剣よりも凶悪な――

 使い捨ての切り札だ」

 

「……切り札?」

 

「そうだ」

 

 イルルは、こちらを見る。

 

「竜殺しだけじゃねぇ。

 対国家兵器、対種族兵器、対城塞用の砲。

 全部、“異世界人の心臓”を使って作られてる」

 

 喉が、鳴った。

 

「……そんな……」

 

「事実だ」

 

 淡々とした声。

 

「お前たちの心臓は、

 この世界の魔力系統と相性がいい。

 削って、割って、組み込めば――

 どんな兵器も、桁違いの性能になる」

 

 拳を握り締める。

 

「竜の心臓は、特に価値が高い。

 だから“竜殺し”がある。

 でも、それはほんの一部だ」

 

 イルルは、吐き捨てるように言った。

 

「この世界はな、

 “心臓で戦争する文明”なんだよ」

 

 背筋が寒くなった。

 

「……だから、人間が嫌い?」

 

「ああ」

 

 即答だった。

 

「奪って、砕いて、

 誰かの命を燃料にして戦う。

 それを合理的だと正当化する」

 

 イルルの瞳が、焚き火の光を反射する。

 

「……だから、最初はお前も同じだと思った」

 

「……」

 

「召喚されて、

 そのうち武器にされて、

 最後は竜を殺すために使われる」

 

 視線が、僕に突き刺さる。

 

「だから殺そうとした。

 それが一番、早くて確実だった」

 

 沈黙。

 

 焚き火の音が、やけに大きく聞こえる。

 

「……でもさ」

 

 僕は、思わず口を開いた。

 

「それでも、イルルは僕を殺さなかった」

 

 イルルの肩が、ぴくりと動く。

 

「……殺せなかっただけだ」

「それでも、同じだよ」

 

「違う」

 

 低い声。

 

「……違うんだ」

 

 しばらく黙ってから、彼女は続けた。

 

「お前は……

 私が知ってる人間と、決定的に違う」

 

 そう言って、突然、距離を詰めてくる。

 

「え、ちょ――」

 

 次の瞬間、ぎゅっと抱き締められた。

 

「動くな」

 

 有無を言わせない声。

 でも、その腕はどこか不器用だった。

 

 胸に当たる、柔らかい感触。

 温かくて、弾力があって、

 正直、意識しない方が無理だった。

 

「……い、イルル……」

 

「うるせぇ……」

 

 彼女は、僕の胸に顔を埋める。

 

「……さっきから、鼓動がうるさい」

 

「それ、イルルのせいだと思う……」

 

「黙れ」

 

 でも、腕は緩まない。

 

「……お前はな」

 

 小さな声。

 

「武器にならなかった」

 

「……」

 

「怯えてたのに、

 殺されかけたのに、

 それでも……誰かを助けた」

 

 少し、力が強まる。

 

「この世界じゃ、それは“無価値”だ。

 だからこそ……」

 

 顔を上げ、まっすぐ僕を見る。

 

「お前は、違う」

 

 はっきりと。

 

「私は人間が嫌いだ。

 今も、それは変わらねぇ」

 

 でも。

 

「お前は、武器じゃない。

 竜を殺す力でもない」

 

 胸に手を当てる。

 

「……私を、強くする存在だ」

 

 鼓動が、重なった。

 今までで、一番自然に。

 

「だから――」

 

 少し照れたように、視線を逸らす。

 

「お前を、私の群れにする」

 

「……群れ?」

 

「ああ」

 

 不器用に、でも確かに。

 

「私の一番だ。

 誰にも渡さねぇ」

 

 そして、小さく付け足す。

 

「……取られるの、嫌だからな」

 

 焚き火の炎が、静かに揺れていた。

 

 しばらく、そのまま抱き締められていた。

 焚き火の熱と、イルルの体温と、胸に押し付けられる柔らかさが混ざり合って、正直、落ち着けるはずがなかった。

 

「……イルル」

 

 恐る恐る声をかける。

 

「ん?」

「その……いつまで、こうしてるの?」

 

 聞いた瞬間、少し後悔した。

 彼女の腕が、僅かに強まったからだ。

 

「なんだ? 不満か?」

 

「い、いや……不満っていうか……」

 

 言葉を選んでいる間に、イルルはふっと口元を歪めた。

 にやり、と。

 さっきまでの不器用で照れた表情とは違う、少し意地の悪い笑み。

 

「……人間は、こういうのが好きなんだろ?」

 

「え?」

 

「近い距離。

 柔らかい感触。

 鼓動が聞こえるくらいの密着」

 

 そう言いながら、さらにぎゅっと抱き寄せてくる。

 胸の感触が、はっきりと伝わった。

 温かくて、柔らかくて、逃げ場がない。

 

「い、イルル……!」

「動くなって言っただろ」

 

 低い声。

 でも、どこか楽しそうだ。

 

「安心しろ。

 別に、食ったりはしねぇ」

 

「そういう心配はしてなかったよ……!」

 

 抗議すると、彼女はくすっと笑った。

 

「顔、赤いぞ」

「……誰のせいだと思ってるの」

 

「私だな」

 

 あっさり認めた。

 

「お前、分かりやすい。

 触られると、すぐ反応する」

 

「……それ、からかってる?」

 

「半分はな」

 

 もう半分は?

 そう聞く前に、イルルは僕の耳元で囁いた。

 

「半分は……試してる」

 

「試す……?」

 

「ああ」

 

 焚き火の揺らめきが、彼女の瞳を照らす。

 

「お前が、私を怖がらないかどうか。

 近づいたら、逃げるかどうか」

 

 腕の力は強いまま。

 でも、どこか不安そうでもあった。

 

「……人間は、すぐ欲しがるくせに、

 本気になると、簡単に裏切る」

 

 ぽつりと、そんなことを言う。

 

「だから……こうしても、

 離れないか、見てる」

 

 胸の奥が、きゅっと締め付けられた。

 

「……離れないよ」

 

 小さく、でもはっきり言う。

 

「イルルが嫌なら別だけど、

 そうじゃないなら」

 

 一瞬、彼女が目を見開く。

 

「……ばか」

 

 そう言って、顔を逸らしながら、さらに強く抱き締めてきた。

 

「……調子狂うんだよ。

 そういうところが……」

 

 その先は、聞き取れなかった。

 でも、腕の温もりと、胸の柔らかさと、

 すぐ近くで聞こえる鼓動が、すべてを物語っていた。

 

 誘惑しているのか、

 甘えているのか。

 

 たぶん、イルル自身にも、まだ分かっていない。

 

 でも――

 少なくとも、この距離は、嫌じゃなかった。

 

 焚き火の炎が、静かに揺れていた。

 

焚き火のパチパチという音が、洞窟内に響いていた。イルルは僕に抱きついたまま、しばらく何も言わずに胸に顔を埋めていた。彼女の体温が布越しに伝わり、その柔らかな体は僕の理性をじわじわと侵食していた。

 

「……なぁ」

 

かすかな声。顔を上げたイルルの瞳は濡れていた。黄金色の瞳が揺れていて、その奥に何か獣のようなものが蠢いているのがわかる。

 

「な、何……?」

 

僕は息を詰まらせた。イルルの顔がゆっくりと近づいてくる。彼女の長い睫毛がかすかに震えていて、唇は艶やかに光っていた。

 

「お前……初めてなのか?」

 

「……え?」

 

質問の意味を理解できず戸惑う僕を見て、イルルは薄く笑った。

 

「男として、女と交わるのが初めてかって訊いてんだよ」

 

直接的な問いに顔が熱くなる。確かに僕は誰とも付き合ったことがなく、もちろん女性経験もない。

 

「いっいきなり、なんでそんな事を」

 

「群れとなると、番が必要になるだろ。お前と群れとなるんだったら、これは大事な情報だ」

 

平然と言い放つイルルだが、その頬はかすかに紅潮していた。普段の冷静さの中に秘められた熱が滲み出ているようだった。

 

「で?」

 

「……ああ……」

 

肯定するのが恥ずかしくて曖昧に答えたが、それで十分だったらしい。イルルの瞳がさらに潤んで、口元が妖艶に吊り上がった。

 

「へえ……そうか。そりゃいいや」

 

次の瞬間、彼女の手が僕の頭を鷲掴みにした。驚く間もなく唇が押し当てられる。

 

「んっ……!」

 

呼吸が遮断される。イルルの唇は想像以上に柔らかく、しっとりと湿っていて、すぐに僕の唇を舐め始めた。生暖かくて甘い味がした。

 

くちゅっ……

 

小さな水音が僕の口腔内に響く。イルルの舌が僕の歯列を掻き分けようと何度も往復する。抵抗しようとしても顎に添えられた指の力が強く、閉じることが許されない。

 

「ん……むぅ……」

 

息継ぎの合間にもイルルは容赦なく迫ってきた。熱を持った吐息と一緒に唇の中を暴れ回る舌が僕の思考を麻痺させる。

 

ぷちゅっ……

 

ようやく入ってきたイルルの舌は長く、滑らかでひどく熱かった。その表面はざらつきが少ないのに、とても敏感な部分を探り当てる。触れられた箇所に電流が走るような衝撃を感じる。

 

「はぁっ……!」

 

堪らず声を漏らすと、イルルが喉の奥で笑った。さらに深く差し込まれた舌先が僕の舌の裏側を捉えると、そこから溢れる唾液ごとジュルッと吸い上げてくる。

 

「んっ……ぢゅっ……れろぉ……」

 

淫靡な水音が連続して響き、唾液が泡立つ感触まで鮮明に伝わってくる。その動きはまさに捕食者のようで、僕は為すすべなく身を預けるしかなかった。

 

粘膜同士が擦れ合いながら攪拌される音が体内に木霊する。唾液と舌が絡み合い、一つに溶けてしまうのではないかと思えるほど濃厚なキスだった。

 

「はぁ……っ♡んむっ♡」

 

イルルの吐息はどんどん甘くなり、その温度と湿度が増していくにつれて僕の体も熱を持ち始めてしまう。

 

一方で密着している胸部が意識をさらに乱していた。巨乳といっても差し控えなければならないほどの豊満な乳房が僕の胸板で潰れている。柔らかい果肉のようなそれが体重を乗せており、指一本でも押さえつけたら形が変わってしまいそうなほど繊細なのに、存在感は強烈だった。

 

「……んふ……♡」

 

時折吐き出される短い声に混じる掠れた音色はゾクリとするほど扇情的だった。イルルが僕を求めるあまり腰を震わせていることが判り、余計に股間が疼く。

 

「はむ……っちゅ……♡」

 

再び唇を重ねると今度は角度を変えながら舌で蹂躙してきた。上顎や歯茎など細かな部位まで丹念に舐め取りつつ唾液を送り込んできてそれを受け入れざるを得なくなるほどの圧倒的な量であったため溺れかけそうになり慌てて飲み込んだ拍子にお互いの呼吸パターンすら一致させてゆく錯覚におちいる。

 

イルルが唐突に僕の両肩を掴んだ。その力は尋常ではなく、一気に重心を傾けられる。「えっ!?」驚く間もなく彼女に押し倒されるようにして仰向けになった。洞窟の堅い岩盤に背中が打ち付けられるが痛みよりもイルルが覆いかぶさる重量感の方が圧倒的だった。

 

「はぁ……っ♡」

 

荒い呼吸を漏らしながらイルルは下半身を跨ぐように膝立ちになり、既に準備万端となっている陰部を見せつけながら腰を落としてくる。

 

「お前のこれが……欲しい……」

 

甘く囁きながら彼女は手探りで肉棒を探し当てると指で導き自分の蜜壺へと導いた。「挿れるぞ……」宣言と共に亀頭が膣口に触れると生暖かいヌメリに包まれる。

 

「んっ……!!」

 

一瞬躊躇うような素振りを見せたもののイルルは一気に腰を下ろした。狭く熱い肉道が広がり侵入を許していく。初めて迎え入れる異物に戸惑っているような感覚と共にキツく締め付けてくる内壁。

 

「くっ……イルルッ……!」

 

あまりの狭さと圧迫感で思わず呻き声が出る。対するイルルも眉根を寄せていたが徐々に受け入れていった。結合部から溢れ出る愛液と微量な血液が混じった液体が垂れ落ちていく様子が見える。

 

「ふっ……んぅ♡♡」

 

全て収まったところで息を整えるイルルの双丘が僕の眼前で揺れていた。ピンと勃起した乳首まで丸見えになり視覚的興奮も加速させられる。するとその爆乳がゆっくりと近づき僕の顔面を覆いつくした。

 

「んむっ……!?」

 

呼吸困難になるほどの圧迫感に襲われる。鼻腔いっぱいに広がるイルルの甘酸っぱい匂いと汗の香り。そして柔らかすぎる脂肪組織の質量が顔全体を包み込む。

 

「ふふっ……♡どうだ? 私のおっぱい気持ち良いだろ♡」

 

嬉しそうな声音で笑うイルルは更に乳圧を高めてきた。隙間なく密着し息継ぎすら困難になる程の圧迫感の中で胸越しに伝わってくる激しい心臓音。ドクンドクンと脈打つ生命力を感じながら呼吸は浅く速くなっていった。

 

「あっ……! やばっ……♡」

 

膣内でビクビク震える感覚とともにイルルが痙攣し始める。同時に対面座位故により深く結合していたせいで膣奥がグチャグチュと蠢き抽送動作なしでも搾り取ろうとするかの如き動きを見せていた。

 

「だめっ……我慢できないぃ♡♡」

 

耐え切れなくなったのか彼女は突然上下運動を開始する。バチンッ! バシンッ! 肉と肉が打ち合う激しい音が洞窟内に響き渡った。巨乳によって塞がれた視界で聴覚だけが研ぎ澄まされ卑猥な打擲音ばかり聞こえてくる。

 

「すごっ……こんな気持ちいいの初めてだ♡♡ もっと動いていいか!?」

 

了承を求める声掛けとは裏腹にペースアップしていくピストン。膣ヒダ一枚一枚が絡みつくように竿全体を包み込み扱き上げてくる快感に腰砕けになりそうになるも対面座位という体位故に逃げ場など無い。

 

「ふあぁん♡♡ 中でビクビクしてるぅ〜♡ 俺もイキそうになってるのか!? 一緒に行くぞ!!」

 

ラストスパートをかけるべくさらに速度を上げるイルル。ズボッ♡グチョッ♡淫靡極まりない水音とともに膨張するペニスに追い討ちを掛ける。

 

「出すぞっ……イルルッ!」

 

「来てっ♡ 全部注いでくれぇ〜〜〜♡♡♡」

 

限界を超えた瞬間尿道を通って精液が駆け上がる感覚に身悶えしながら彼女の中で盛大に爆ぜた。ビュルルルーーッ!!

 

勢いよく噴出した白濁液が膣奥へ叩き付けられると同時に全身が激しく跳ね上がり絶頂を迎える二人。波打つようなオーガズムとともに大量の熱い子種が逆流しながら溢れ出ていった。

 

「ふーっ♡ 凄い量だな……♡♡ 孕んじゃったら責任取れよぉ〜?」

 

荒い吐息混じりで悪戯っぽく微笑むイルルだが依然として乳圧は保ったまま解放してくれないどころかより一層力を込めてくる。「んぐっ……!」窮屈さの中で肺活量ギリギリまで呼吸しようとすれば鼻腔内へ直接入り込んでくる母性フェロモンに眩暈がした。

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