※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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龍の誇り

 丘陵地帯へと続く岩場は、風の通りがやけに良かった。木々がまばらになり、視界が開けると同時に、イルルの足取りがわずかに荒くなる。群れの話をしていた直後だったからかもしれない。自分がどこに立ち、何を中心に置くのか。その輪郭を言葉にした直後ほど、外からの刺激には敏感になる。

 

「……嫌な感じがする」

 

 イルルが立ち止まり、周囲を睨む。ナデンも同じ方向を見ていた。

 

「上だな」

 

 その瞬間、熱を帯びた風が吹き下ろされた。岩の頂、太陽を背にする位置に、一人の影が立っている。赤を基調とした装束に、竜の血を感じさせる魔力の揺らぎ。人間でも純血のドラゴンでもない、しかし紛れもなく“竜”の系譜に連なる存在だった。

 

「……見つけたぞ」

 

 声は澄んでいて、迷いがない。

 

「噂通りだな。竜が、人間を中心に群れを作っているというのは」

 

 その視線は、こちらではなく、一直線にイルルへ向けられていた。値踏みするようでもあり、断罪するようでもある。

 

「随分な言い方だな」

 

 イルルが一歩前に出る。空気が張り詰める。

 

「従ってるわけじゃねぇ。ただ、中心にいるだけだ」

 

「同じだ」

 

 影は即答した。

 

「竜が人間の後ろに立つ時点で、誇りは地に落ちている」

 

 その言葉に、イルルの表情が一気に険しくなる。群れという言葉を、侮蔑として投げられた。それは、彼女が今まさに築こうとしているものを、正面から否定する行為だった。

 

「……てめぇ」

 

「名乗るほどの価値があるかは知らんが」

 

 影は岩場から跳び降り、地に立つ。着地の衝撃で、小石が弾けた。

 

「私はステラ・ヴァーミリオン。竜の矜持を守る者だ」

 

「矜持だと?」

 

 イルルが笑う。だが、それは愉快さからではない。

 

「勝手に決めるな。私の誇りを」

 

 ナデンが一歩引き、こちらに視線を送る。これは止めるべきか、それとも見守るべきか。その判断を委ねるような目だった。だが、もう遅い。ステラは既に、剣呑な熱を纏っている。

 

「なら、証明しろ」

 

 ステラが言い放つ。

 

「人間の影に立ちながら、それでも竜だと言い張るなら、その力で示せ」

 

「……は」

 

 イルルの口角が吊り上がる。

 

「言ってくれるじゃねぇか」

 

 彼女は振り返らずに言った。

 

「おい、止めるなよ」

 

「イルル――」

 

「これは私の問題だ」

 

 短く、強い言葉だった。群れの中心にいる人間に対してでさえ、譲らない部分がある。その線を、イルルは今、はっきりと引いた。

 

「……分かった」

 

 そう答えるしかなかった。

 

 ステラはそれを聞き、わずかに頷く。

 

「いい。逃げないのは評価する」

 

「逃げる?」

 

 イルルが肩を鳴らす。

 

「竜が、そんな選択肢を持つと思うなよ」

 

 次の瞬間、二人の魔力がぶつかり合った。空気が震え、地面の砂利が跳ねる。まだ拳も炎も交わしていない。それでも、これは既に戦いだった。

 

「来いよ、矜持野郎」

 

「その減らず口、後悔させてやる」

 

 こうして、戦いは始まった。

 誇りと誇りが、真正面からぶつかる形で。

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