※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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リンクトラブル

 戦いは、拮抗していた。いや、正確に言えば、噛み合っていなかった。イルルの一撃は致命であり、ステラの回避は完璧だった。その均衡は、力と技が正面からぶつかる限界点で保たれている。どちらかが一歩踏み違えれば、即座に崩れる。だからこそ、戦場は張り詰め、空気は息苦しいほどに濃くなっていた。

 

 イルルの拳が唸りを上げる。今までより速い。軌道も浅い。学習した動きだ。ステラは避けるが、その足取りがわずかに遅れる。疲労ではない。集中の質が変わっただけだ。攻撃を“見てから避ける”段階から、“予測して動く”段階に移っている。その分、判断の負荷が増している。

 

 僕はそれを、見てしまった。

 

 いや、見ようとしたわけじゃない。戦場に立つ二人を、少しでも理解しようとしただけだ。イルルの踏み込み、ステラの重心移動、その間にある一瞬のズレ。戦えない自分が出来ることは、それを読み、声を掛けることだと思っていた。

 

 その瞬間、感覚が滑った。

 

 視界が増える。視覚ではない。身体感覚だ。呼吸の深さ、筋肉の緊張、心拍の跳ね方。自分のものではない情報が、一気に流れ込んでくる。イルルではない。ナデンでもない。これは――。

 

「……っ」

 

 ステラの身体が、ほんの僅かに硬直した。

 

 踏み込みの角度が狂う。足裏の接地が遅れる。致命的ではない。だが、彼女自身が一番分かっている。今、自分の内側に“他者”が触れたことを。

 

 戦士にとって、身体は最後の領域だ。誰にも侵されない場所。そこに、理由もなく踏み込まれた。その感覚を、ステラは即座に“屈辱”として認識した。

 

「……なにを、した」

 

 声が低くなる。怒りではない。まず困惑があった。その直後に、理解が追いつく。

 

「貴様……見たな」

 

「違――」

 

 否定しようとしたが、言葉が追いつかない。説明する前に、感情が爆発した。

 

「見るな!」

 

 叫びと同時に、拳が振るわれる。型はない。今まで積み上げてきた制御が、感情に押し流される。冷静さを失った攻撃は、鋭さを欠くが、重い。拒絶そのものが、力になっている。

 

「触るな、人間!」

 

 その言葉が、イルルの耳に届いた瞬間、空気が変わった。殺気が跳ねる。今までの苛立ちとは、明確に質が違う。群れの中心に向けられた敵意。それを向けられた存在を、イルルは許容しない。

 

「……あ?」

 

 低い声。感情が底に沈んでいる時の、危険な兆候だった。

 

「てめぇ、何をした」

 

 ステラの視線が、初めてこちらに向く。その目には、怒りと羞恥と、理解できない何かが混ざっている。

 

「卑劣だ……戦場で、誇りの内側に踏み込むなど」

 

「違う!」

 

 叫ぶ。今度は、はっきりと声を張った。

 

「僕の能力が、勝手に繋がっただけだ! 見るつもりなんて――」

 

 言葉の途中で、イルルが踏み出す。速い。今までで一番速い一歩だった。理屈を挟まない、純粋な排除の動き。

 

「……殺す」

 

 短い宣告。理由の説明はない。必要もない。

 

「イルル、待って!」

 

 身体が前に出る。怖くないわけじゃない。だが、ここで止めなければ、全てが壊れると分かっていた。

 

「誤解だ! 僕が未熟なだけだ! ステラのせいじゃない!」

 

 名前を呼んだ。そのことに、自分でも驚く。だが、名前を呼ばれた瞬間、ステラの動きが止まった。ほんの一瞬だが、確かに止まった。

 

「……未熟?」

 

 問い返す声は、怒りよりも困惑に近い。

 

「能力の制御が出来てない。だから、勝手に繋がった」

 

 息を整えながら、続ける。

 

「侵すつもりも、覗くつもりもなかった。だから……戦いを、そんな理由で壊したくない」

 

 イルルの足が、止まる。殺気は消えていない。ただ、向きが揺らいだ。

 

「……チッ」

 

 舌打ち。完全な納得ではない。だが、主人公の言葉が“群れの中心としての判断”であることを、イルルは理解している。

 

 ステラは距離を取り、荒い呼吸のままこちらを睨んでいた。誇りを踏みにじられたという感覚は消えていない。だが同時に、それが意図的でなかった可能性も、否定しきれなくなっていた。

 

 戦いは、続けられない。

 だが、終わってもいない。

 

 ここから先は、力ではなく、選択の問題だった。

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